運命の番は姉の婚約者

第四章 揺れる心

38 自分の心 ※

　
　隆二に対する自分の気持ちがわからない。俺のアルファは、運命のあの男だけのはずなのに、隆二がアルファだってわかっているのに、結局まだ一緒にいる。妊娠していると言っているから、あれから体を交えていないし、騙すために抑制剤も欠かさずに飲んでいる。

　俺は隆二を騙している罪悪感から、食欲がなくなり、抑制剤の常用のしすぎで気持ち悪くなり、嘔吐を繰り返していた。

　それを見た隆二は、つわりだと思ったらしく、かいがいしく世話をしてくれた。

　次の診察の時に追加の抑制剤を貰って対処するか、それとも隆二から離れるか。医者からはもしかしたら抑制剤の使用を中止しろと言われるかもしれない。運命に出会ってから、俺の体はもう限界だと思う……自分を騙すことに。抑制剤は所詮まやかし。その場しのぎであり、本質を変えられるわけではない。

　どちらにしても妊娠などしていないのだから、診察時に隆二を騙していたことがばれてしまう。その時、隆二はどう行動をするのだろう。いい加減、こんな面倒くさいオメガ要らないとなるか、それとも俺のことを手に入れるために発情期に番つがいにでもするのだろうか。

　俺はどうしたいのだろう。

　このまま隆二の子供をまた妊娠するために頑張る？　それとも隆二とは付き合えないと言って、ベータの子種を探し歩く日々に戻るのか。自分がしたいこともわからない。

　でも、もう男漁りはしたくないのが現実。すっかり隆二との交わりが心地よく、妊娠していると言った手前、体を交えられないのが辛いくらいだった。

「爽、愛してる」
「……隆二」

　その言葉にはいつも答えられない。

「いいよ、返してくれなくても。でも抱きしめて、キスをするのは許して」
「う、ん」

　隆二は俺にキスをすると、優しく抱きしめて、おやすみを言う。隆二は会社役員ということで、平日は精力的に仕事をこなしていた。いつも帰りが遅い。先に寝ててと言われるので、寝ていると隆二が寝室に入ってきて、まずは俺を抱きしめて、キスをする。起きていても寝ていてもこの行動は変わらないらしい。一度寝たフリをしていたら、隆二は俺にキスをして愛していると言っていたから、その行動を知ったけど。

　起きているときは、とても恥ずかしい。それに毎回愛していると言われても、俺は答えられない。答えがわからない。いつもこんな甘い夜を過ごしている。体を交えなくても、とても甘い。そんなぬくもりに包まれて、朝も隆二に抱きしめられて目が覚める。

「爽、おはよう、愛してる」
「おはよ、ってか、それやめろよぉ」

　眠い目を開けて、朝一番に眩しいくらいのイケメンの顔を拝む。これだけでも目に悪いのに、耳まで侵食される。

「それって？」
「ん、んん、朝から濃厚なんだよ！」

　隆二は俺を抱きしめながらキスを仕掛けてくる。目が覚めて、眩しい男を見て目が潰れ、耳には低くて男らしい声で俺に愛を囁き、耳が性器かと思うくらい感じてしまう。さらには隆二の柔らかい唇で俺の息子は完全オッキするわけだ。

「いいよ、前だけでも吐き出そう」
「や、やめろよ」
「でも、爽、ここキツそうだよ、ほら僕もずっと爽を抱けてなくて辛いんだ。一緒に、ね？」
「一緒にって、俺は朝からこんな行為するような不良じゃないんだよ。毎朝毎朝、お前のその性欲なんなんだよ」
「不良じゃなくてもこういうこと、するよ？　あぁ、ほんと可愛いな」

　隆二が俺のズボンを降ろして、触ってくる。俺は隆二の手に従順で腰が揺れる。その言葉とは裏腹な態度に隆二は楽しそうに笑って、自分の欲望も取り出し俺の手で握らせる。

　お互いに握って、擦って、吐き出す。もっと濃厚な日は一緒に合わせたり、もっとの日は、スマタという行為に発展する。

「あッ、隆二、イクっ」
「爽、可愛い。うっ、僕も、爽の手で」

　お互いにお互いのモノをしごく。隆二の熱を手に持っているだけで、何とも言えない気持ちになる。どうして俺はこんな傲慢なモノを握って、愛おしい気持ちになっているのだろう。そんな不思議な感覚を持ちつつも、自分の欲望がどんどんと昇りつめる。そして隆二が俺のモノを最後まで導いた。俺は吐き出し、その俺の顔を見て隆二も吐き出した。

「あああ！」
「ふっ、う、爽」
「はぁ、はぁ、はぁ、りゅうじ」

　今日は一番軽いタイプの日だった。それでも俺は毎朝、この行為に喜びを感じている。そして俺がぐったりしているとキスをしてから隆二は起きて、俺の出した後の世話をする。余韻に浸っていると、いつの間にか隆二は朝食まで完璧に仕上げて呼びにくる。

　これ、もう結婚なんじゃねぇ？

　そんなことを考えながら、隆二と朝食を食べて、隆二を見送る。

　隆二は、抑制剤の使用をやめたと言った。だから俺さえ抑制剤を飲まなくなったら、きっとすぐに隆二本来の香りを知ることになる。知りたい気持ちと、知りたくない気持ち。

　結局、俺はセフレのときから変わらない。自分の野望だけが明確で、心がわかっていない。そして、隆二の優しさに甘えている。

　子供を孕むこと、それが野望なのに隆二と番つがいになることも、少し頭によぎる。妊娠していないのなら、次の発情期で番つがいになる、という選択肢もあるとは思うが、妊娠以上にオメガにとっては番つがいとは人生を揺るがすイベント。まだ心が揺さぶられているのなら、やはり妊娠の方がリスクとしては軽減される気がする。

　こんな浅はかな自分が苦しい。

　どうしてこんな俺に、隆二は惚れたのだろう。どこにもそんな要素なんてないのに。俺は姉の婚約者に欲情する醜いオメガ。本能に逆らえない悲しい人種。

　それなのに、この心は認めたくないけれど隆二に惹かれ始めている。