運命の番は姉の婚約者

riiko

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第三章 仮初の関係

37 愛の告白

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 両親と別れて、家に帰った。結局あの料亭は隆二が支払いをした。父は、食事は親が出すものだと言うと、隆二が本当の息子になった時、良かったらご馳走してくださいと言った。その言葉に、なぜか母が喜んでいた。そんな感じであそこの食事代は隆二持ちだった。

 榊家が行く料亭なんて、いくらだったのか想像もつかない。きっと俺だったら五回払いくらいにしなくちゃ払えない気がした。それほどまでに豪華な食事を食べてしまった。両親にそんな大金払わせられないし、素直に隆二の気持ちがありがたかった。って、そもそもそんな高級なところに一般市民を招待するなよって話だ。

 夜、ソファでくつろいでいるとき隆二に聞いた。

「ねぇ、なんで子供のこと言わなかったの?」
「言って欲しかった?」

 隆二は座ると頬を撫でてきた。俺の体のどこかしら触っていないと落ち着かない病気なんだと思う。頬を撫でながら、優しい顔でそう言った。優しく触るその手を掴んだ。

「違うけど。でも隆二、親と会うのはそれが目的だったんじゃないの?」
「一応、妊娠は病院でちゃんと検査してもらってからの方がいいと思って。それにいきなり妊娠したよりも、交際報告が先でしょ?」
「そうかも、しれないけど」
「明日こそ、病院へ行こうね」

 隆二のその言葉に戸惑った。明日、俺はどうなるのかわからない。嘘をついていたと、素直に謝るべき?

 妊娠していないことを知った隆二はどうするのだろう。いや、そんなことは考える必要もない。隆二は俺が好きだと両親にも言っていた。いつの間にか、ターゲットのはずの男になぜか惚れられていた。俺が隆二を捕獲したはずなのに、実際は捕獲されたみたい。

 ということは妊娠しなくても、恋人になることは変わらない? 

 だったらそれでいいんじゃないか? 次の発情期ですれば確実に孕む。それなら、まだ結婚式には間に合う。でも、隆二は俺と添い遂げるという意味で俺を好きだから、妊娠させるよりもまずはつがい契約を先に済ますはず。オメガを囲うにはうなじを早く噛むのが一番確実だから。

 誰かとつがいになれる日がくるなんて、運命を知ってから考えたこともない。いや、考えても絶対無理だと思っていた。たとえ隆二だとしても、つがいになることは、妊娠よりもハードルが高い。

「次のオメガ検診がもうすぐあるから、妊娠検査はその時でもいいよ。別に今調べても、その時調べても同じだし。主治医に見てもらいたいから、予約した日に行く」
「そう? まぁそんな先じゃないなら、それでもいいか」

 そう言って隆二は屈み、俺の腹に服の上からキスをした。

「な、なに?」
「ここに僕の子供がいるのかぁ! 爽とのラブラブ新婚生活を楽しんでからと思ったけれど、爽に似た子供に会えるのも楽しみだな」
「……」

 少し、いや、かなり罪悪感でいっぱいになった。それをごまかすかのように、俺の膝に頭を乗せてくつろいでいだ姿勢を取った隆二の髪の毛をくしゃっと触り、いつもやってくれるように、頭を撫でた。

「いいね、こういうの」
「どういうのだよ」
「ラブラブな恋人って感じ? やっと爽とこんな甘い雰囲気が出せる」
「今まで出していなかったのかよ」
「抑えていたよ?」

 そうなのか。恋人がいたことのない自分にはわからないけれど、セフレのときはやはりセフレ対応? これが恋人対応? 隆二の態度は常に甘いから、違いがわからない。

「爽」
「ん?」

 隆二の頭を撫でているのが、なんとなく心地良かった。隆二も別に俺の方を向いているわけじゃなく話しかけるから、俺も外を見て返事をした。

「愛している」
「え?」

 今度は隆二が下から俺を見上げていた。俺もおもわず隆二を見下ろした。隆二は手を伸ばし、俺の頬をさする。

「僕は出会った頃から、爽が好きだよ。セフレって契約をしたけど、ずっと好きだった。会う度にどんどん惹かれて、気づけば愛していた」
「隆二……」
「爽は? 僕が急いでコトを進めているのは自覚しているけど、爽も流されてくれているよね? そこに僕への愛情は含まれている?」

 隆二はわかっている。俺が子供だけを欲しくて近づいたことも、アルファと知ったから見限ったことも。それでもずっと一緒にいるから、少なからず俺の気持ちが隆二へと傾いていることも。ただ俺に「運命のつがい」がいることを知らないアルファだから、そんな風にまっすぐと向かってこられる。

 もし相手に「運命のつがい」がいると知ったら、それには敵うことがないと、普通のアルファならそう思うはず。そしてそんな意味のないオメガに付き合うことをやめてしまう。でも隆二が俺の家庭事情を知ってしまった今、もはや下手なことを言えなくなった。

 察しのいい隆二なら、姉の婚約者側の誰かが運命のつがいだと気づくはず。だって、妊娠の目的が姉の結婚式だから。絶対に発情してはいけない相手が、そこに来るなんてすぐに推測がつく。

「爽、ごめんね」
「え?」

 隆二の質問に答えられずにいると、隆二の何とも言えない表情を見て、少し辛くなった。

「爽は今、大事な時期だから元気な子供を産むことだけを考えて。僕の愛情はいつの日か受け入れてもらえればいいから。今はもう悩まないで」
「隆二……」

 隆二が起き上がり、隣に座る。今度は俺を見下ろす形になった。そして、そっと唇が落ちてくる。俺は瞳を閉じて、隆二のキスを自然と待っていた。

「好きだよ、爽」
「おれはっ、んんんっ」

 唇を塞がれた。俺は……その先をなんと言おうとしたのだろう。

「何もいわなくていい、ただ側にいて」

 キスの合間にそう言って、また俺の唇を甘く塞いだ。

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