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第三章 仮初の関係
35 紹介
しおりを挟む隆二が丁寧に挨拶をした後、戸惑う両親。もっと戸惑う俺。
空気感がやばい。両親が何から話していいかわからずにいるのも、わかる。だから当事者である自分がなんとかしなければと思った。せっかく隆二が遅れて登場してきてくれたのに、何も説明せずに終わってしまった。
両親が唖然としたまま、座っている。焦る俺は、立ち上がり隆二の腕に縋った。
「ちょ、ちょっと、待って。俺、まだ何もっ!」
「爽、とりあえず座ろうね」
隆二がスマートに俺の手を引き、席に座らせた。
「私も爽君の隣に、失礼してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
父が隆二に問われて、そう答えた。そして両親の向かいの席に俺と隆二。和室で掘りごたつなので、正座なら俺も両親も慣れていないから辛いところだけど、一応足が延ばせて良かったと素直に助かった。
隆二がそっと、テーブルの下で手を握ってきた。
「私は、爽君を愛しています」
「あ、愛⁉」
父が水を飲んでいたところ、ど直球な言葉を隆二は恥ずかしげもなく話した。もちろん父は驚く。そんな父の背中を、母はさすっていた。俺はもう、遠い目。
「あの、あなたは爽の会社の社長さんですか? 以前にテレビでお見かけしたことがある方に凄く似ていらっしゃるので……でも、その時見た方よりもお若いような?」
もしかして、それは、この間実家に帰った時に言っていた話だろうか。
テレビでイケメン社長を見たという。それで母は隆二を見た途端、驚いたのだろう。あの時は、イケメンイケメンと煩かったし、なんならテレビに出る人を俳優かなにかと間違えている可能性さえもある。そして社長といったら隆二の兄だったはず。兄弟で似ているから、母は間違えたのかもしれないと思ったら、やはりそうだった。
「きっとそれは、兄だと思います。私と兄はよく似ていると言われていますので。兄が社長をしていて、私は爽君の働いてくれている会社の副社長をしております」
「なるほど、って、ええ、大物……! でも、婚約ってどういうことですか? 私たち親は息子から何一つ聞かされておりませんし、失礼ですが息子があなたのような方を選ぶとも到底思えません」
母はキツイ一言を隆二に言った「あなたのような方」それはつまりアルファということ。俺がアルファの男を選ぶ、それはまずありえない。両親も、過去の事件のトラウマを持っている息子と思い込んでいるから、それだけは絶対の自信があり、隆二のことを疑った。
「それはアルファ男性という意味ですよね?」
「え、ええ」
母が申し訳なさそうに頷いた。一応、それは性差別になるから。そして隆二はそんなこと気にしていないかのように、応えた。
「爽君と初めて会ったとき、ベータのフリをしました」
「なんで、そんなことを?」
母が冷静に聞き返した。そして隆二が答える。
「友人が爽君と知り合いで、友人からアルファが苦手という情報を聞いていたので」
ん、なんかおかしい。
「え? 出会いから? 俺のこと、知ってたの?」
思わず俺は隣を向いて、隆二に聞いた。
「ごめん。相原が君を助けた日、僕も一緒にいたんだ。それで爽を知った」
「ええ! じゃあ、初めから相原さんと仕組んだの?」
「そうじゃない。相原から御影を紹介したと聞いたから、それであそこに行ったんだ。ごめん、それが僕たちのきっかけ。でも相原からアルファが苦手ということは聞いていたから、抑制剤を飲んで行った。それでその先は爽の知っている通り、爽に惚れた」
「そんなこと……」
そこで思わず父が話に割って入ってきた。
「ちょっと待ってください。爽、助けられたとは、いったい何があった?」
父が隆二を止めて、俺に真剣な顔で聞いてきた。前科があるから、きっとオメガの息子のことが心配なのだと思う。
「あ、それは……ちょっと人と揉めていたところを、お巡りさんに助けてもらって、それが後でわかったんだけど、隆二の、えっと榊さんのお友達だったみたいで、えっと」
俺はしどろもどろ。父は警察と聞いて大きな声を出した。
「お前は、何を! 警察の厄介になったのか? 無事だったのか?」
「だ、大丈夫。う、ご、ごめんなさい」
確かに厄介になった。警察の、というか警察官の相原に、だけど。
「三上さん、爽君はタチの悪い相手にたまたま絡まれただけです。運よくその場にいた警察官の友人が助けてくれたので、何ともありませんでした」
「そ、そうですか」
隆二の言葉にほっとする父。俺、何も説明できずに、他人に親への言葉を任せているって……。そして隆二は続けた。
「爽君はそのとき、少しフェロモンのバランスが崩れていたので、警察官であり番持ちの彼に、不安定の状態の爽君のことを頼みました。まずは安全が先だと思って。その時絡んできた相手は、僕がもう二度と爽君に絡まないようにと、きつくお願いしたので安心してください」
「それは、重ね重ね。本当に息子がお世話になりました」
父が隆二にお礼を言った。というかあの時、あの場所に、隆二がいた? しかも絡んできた酒を飲ませたベータ男を追い払ったのが、隆二だった? 相原は逃げたと言っていたけれど……わからない。
「はじめから、隆二は俺を知ってて近づいたの?」
隆二は最初から嘘ばかりだ。ベータだったり、たまたまバーで初めて会った感じにしたり、会社の役員だったり。俺の身分証を見た時に、会社名も見てわかったはずなのに、知らないふりして楽しんでいた。
「きっかけはそうだけど、でも僕は君に惚れた。どんな手を使っても爽を手に入れたかった」
「そんなこと、酷い。俺を騙した!」
「それは悪かったと思うけれど、でも結果、爽は僕を受け入れてくれた」
「それはっ」
両親の前で揉め事は嫌だったから、フェロモンがどうとかそんな下世話な話はできなかった。
「あの、榊さん。失礼ですが、爽とあなたは今お付き合いをしているんですか? それともあなたの片思い?」
父がぶっこんだことを聞いてきた。たしかに、こんな話聞こえてきたら、俺が隆二を好きだとは思わないはず。
「お付き合いしていますが、僕の想いの方が強いです。爽君は、まだそこまでではないかもしれません」
隆二は握っている俺の手をぎゅっと力を込めた。そこは、真摯に両親に伝えてくれた。俺の手に、汗がでてくる。お付き合いしていると報告した後は、やはり妊娠している、嫁にする、そう言うのだろうか。
ついに両親に、俺のことを情けない息子だと知られてしまう時がきてしまった。
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