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第三章 仮初の関係
33 嘘と真実
しおりを挟むこれ以上アルファである隆二を騙せるとは思えなかった。だから事実を織り交ぜながら、話した。
高校生の時、アルファに襲われたこと。薬で意識がなくなって、気づいたら病院で助けられた後で、結局最後まで奪われなかったけれど、あの欲望に満ちた目を思い出すのも嫌だったこと。
アルファが本格的にダメになって、それからは自分に欲情するフェロモンを出されるのも吐き気がする。だからベータとしか関係を持てないとわかった。
だけど今度アルファと絶対に会わなければいけない状況になった。それは絶対に失敗できない。自分の感情が不安になったら、自分のフェロモンを抑えられる気がしない。だからアルファのフェロモンを感知しない方法を探した。それは妊娠することだったと。
妊娠中は発情期が来ないと知ったので、その一生に一度のアルファと対面する時だけフェロモンを感じなければそれでいい。だから誰の子でもいいから孕みたかった。
俺は隆二にそう言った。
「そんな事情があったんだ……でもそのアルファが自分に欲情するとでも思うの? 普通はオメガ見ただけで節操なくラット起こさないよ」
「うん、別にラット起こされるとかじゃなくても、同じ部屋でアルファと過ごすだけで俺は耐えられないかも。隆二は抑制剤完璧だったね、見事に騙されたよ」
「薬は効く方なんだ。それにアルファらしさを消す努力凄くしたから」
俺に気に入ってもらいたくて、頑張ったんだと笑って言った。そもそもなんで俺に惚れるのかが不思議すぎる。
「俺以外ともたくさん関係持っているんでしょ? なんで俺なの? 俺なんの特徴もない、引きこもりオメガだよ?」
「心外だな、爽と出会ってからは誰とも寝てない」
「この間の人は? 俺に隆二がアルファだって教えてくれた男は?」
そうだ、俺にアルファだと教えてくれたあの人、隆二と何度も寝たような感じだった。
「誰だかわからないけど、全部体だけの関係だった子だよ。生でもやらないし、孕ませたいとも思わない。この子がほしいって思ったのは爽が初めてだったんだ」
「……な、んで」
「なんでだろう、凄く好き。爽の好きなところたくさん言える。でも決め手は、一生懸命だったところかな」
「俺、必死だったよね、男漁り。そんなオメガがいいの?」
隆二は俺の唇を指で沿って、ちゅっとキスをした。
「なにっ?」
「ふふ、可愛い。僕は人を見る目はあるんだよ。こんなウブな子がなんで必死に体の関係だけを求めるんだろうって、はじめは面白くてそこに惹かれたんだ。でも、きっと事情があると思ってそばにいる事にした」
隆二にキスされて、またびっくりしてしまったら、隆二は微笑みながら俺のことを抱き寄せて隆二の胸に頭を預けることになった。ウブな子って言われた。はじめからビッチ設定には無理がありすぎた。
「でもどんな事情も関係ないくらい、どんどん爽に惹かれていったんだ。可愛くて一生懸命で、素直で、今時こんな良い子いないって思った。だからどうしても僕のものにしたかった。好きになって欲しかったんだ」
「隆二……」
「子供にこだわる理由はそういうことだったんだね。その会わなくちゃいけないアルファって誰? どうして爽の感情が揺さぶられるの?」
「そ、それは」
あっ、こんな話ししたら、俺の全てがバレる。俯いて黙っていると隆二が続けた。
「今度、爽のお姉さんが結婚するよね。相手は……有名なアルファだ」
顔を上げて隆二を見上げた。あっ、アルファだ。だから自分の関係の持っているオメガを調べるくらいする。俺は踊らされていただけだったんだ。
「ごめんね。爽の全てが知りたくて、色々調べた」
「ううん。隆二は偉い人だもん、こんな不審オメガ、調べるのが当たり前だ」
「はぁ、爽は優しすぎて心配だよ。そこ怒るところだよ?」
「そうなの?」
隆二は申し訳なさそうに言って、俺の頭を撫でた。
「調べたならわかるだろう? 姉の婚約者は典型的な支配階級のアルファ。古いタイプのアルファ家系で、家柄とかいろんなものを重んじる俺が最も苦手とする人種。だから会ったら緊張してどうにかなるかもしれない」
「ああ、確かに彼の家はそういう重い家柄だったね」
さすが隆二はアルファだ。世間のことを良く知っている。それもそのはず、隆二の会社も老舗だし、姉の婚約者の家もそれなりの家だ。
「俺、アルファを前にすると、自分が恐怖で震えそうで怖いんだ。相原さんはみかげさんっていう番がいるから大丈夫だったけど、隆二はベータだと思っていたから別として、他にアルファと同じ部屋で過ごした経験ないからわからないんだ。過去の強姦未遂のことを思い出して、どうにかなったら怖い。でも俺のせいで姉に恥をかかせるわけにいかないから、これが俺の計画の全て」
ううん、全てじゃない。彼は俺の運命の相手。絶対に会ってはいけない人。隆二は聞き返してきた。
「爽、本当にそれだけ?」
「……そうだよ。だから、アルファはダメ。そんで姉さんのアルファも無理。でも親族として紹介されないわけにはいかないから一度だけその人に会うために、妊娠してフェロモンを遮断する」
まだ納得いかないみたいだけど、そんなのどうでもいい。
「だから、隆二とはこれきりにしたい」
「無理なお願いだ。僕は爽を離せない」
「……隆二」
隆二は、好きだと囁いてくる。俺を大事そうに抱きしめて、そして体のいろんなところにキスをしてくる。とても大事にしてくれているのを感じてしまい、そんな隆二にもうこれ以上なにかを言うのを躊躇ってしまった。
「今日は寝ていい? 俺ちょっと疲れちゃった。また明日話そう」
「そうだね。妊娠してるのに、気を遣えなくてごめん。休もう」
ソファにもたれかかり、そのまま眠る事にした。妊娠しているって思っているから、隆二もこれ以上は無理をさせるつもりもないみたいだ。俺を抱きかかえベッドに運び、布団をかけてくれた。そのまま俺を抱き込んで隆二もおやすみと言い、布団に入ってきた。
体を交えないで、一緒に寝るのは初めてだった。俺をギュって抱き寄せる。その温もりに、なんだか安心する自分がいる。
病院はまだ先で良いと言って、少し先延ばしにしてもらおう。それで数日過ごして買い物でも出た時に行方をくらませればいいか。そんな簡単に考えていた。
そうしたら翌朝、朝食を食べている時に、隆二はとんでもないことを言ってきた。
「な、んで?」
「だって、爽のお腹には僕の子供もいるし、結婚はまだ爽の許しがないにしてもご両親には挨拶しないと」
「だから、俺シングルマザーになるのに、なんであえてそこ言うの? 父親のことは誰にも言うつもりないって」
両親まで巻き込んだら、本気で隆二と付き合って子供を作ったと誤解される。いや、アルファがダメだと知っている両親にも姉にも、どう思われるかわからない。今まで付き合っている人がいるとも言ったことがないのに、いきなり妊娠だなんて、きっとヒート事故にでもあって、無理やり体を交えたくらいにしか思われないと思う。
「そういうわけにはいかないよ。どこかで漏れて責任問題に問われたら会社の株価に影響でるから。僕のことに関してはきちんとしておきたいんだ」
もうこれ、子供いないって言った方がいいのか? 仮に子供がいないと知ったら、今の隆二ならどういう行動に出る? 考えるんだ! 俺。
「そんな顔しないで? ご両親の納得いく説明するから、爽は不安のない妊婦生活を送ってくれることだけ考えて」
考えなんてまとまるわけがなかった。一つの嘘がとんでもない方向へと向かっていく。隆二を前になすすべのない俺は、家に電話をした。父の仕事後に近くで一緒に食事がしたいと言ったら、珍しいこともあるものだと、父も母も時間を作ってくれることになった。
もちろん両親に、隆二を紹介するつもりもないし、子供がいるなんてことも言えない。だって、子供なんていないから。だけど隆二は電話を聞いていたし、両親との約束も取ってしまった。
電話を切った後、隆二はどこかへ連絡を入れていた。そして俺のスマホに料亭のURLを送付してきた。
「ここに予約しておいた。ここならお父さんの会社からも近いだろう? 来られる時間だけ聞いておいて? 三上の名前で予約はしておいたから。爽のことはまたその時間に家に迎えをやるから、今日はどこにも行かずにここで大人しくしていてね?」
「……」
まさかの父の会社まで調査済みだった。俺はすでに、アルファに囲われたオメガになっている気がする。
「わかった?」
「わかった」
もう逃げられない。父に先ほど隆二が予約した店をメッセージした。
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