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第三章 仮初の関係
25 セフレ関係 ※
しおりを挟むそれから俺と隆二の関係は始まった。
といっても、平日は仕事だし、会社と寮の往復しかしたくない。俺にとって隆二とのエッチは、それなりに体力を使うから、翌日仕事の日にはできないと言ったら、隆二もそれでいいと言ってくれた。
そして初めての週末、隆二の提案で金曜の仕事終わりから、日曜までの時間を一緒に過ごそうと言われた。そんなに、俺、できるのか不安だったけど、でも週末に沢山して子種を漏らさず貰って、早く妊娠しなければいけない。だからそれでいいと言った。
「爽、早かったね」
「おう、お待たせ」
バー御影で待ち合わせ。まさかの隆二の方が先についていた。いつも通りのラフな格好。ただのシャツとパンツというスタイルなのに、とてつもなくセレブ感がでている。きっと身に着けている服は安物ではないはず。そして隆二の隣には、綺麗な女性がいた。その女性は俺をひと睨みしてから、隆二に話しかけた。
「本当に待ち合わせだったんだ?」
「だから言ったでしょ、君はお友達のところに戻りなよ」
「わかったわよ、オメガの男の子が好きだったのね。それじゃあ私は敵いませんもんね」
少し怒り気味な女性は、席を立って、数人座っているテーブルに行った。
「ナンパ?」
「どうだろう、声かけられていたけど。爽が来てくれて助かったよぉ」
「何、情けない声だして。むしろかわいい子だから、お持ち帰りすればいいのに」
「それこそ何を言いだすの? 僕には爽がいるでしょ。僕がこの日を一週間どんなに待ち望んだか、爽はこれから知ることになるよ」
なぜかその言葉に、体の奥がぞくっとした。どうしてこの男といると、オメガ性に触れるなにかを感じるのだろうか。隆二はそう言ったけれど、俺との体だけの関係のために、隆二の隣にいることになるだろう人を遠ざけるなど、おこがましいことだと思った。
「隆二が他の人のところに行きたければ、それで俺たちの関係は終了でも……」
「はぁ、またそこからなの?」
隆二が呆れた声をだした。そこでみかげがきた。
「ああ、爽君、いらっしゃい。隆二さん、ごめんねぇ、あの子。前に隆二さんのこと見て気に入っちゃって、爽君が来たら諦めると思ったんだ」
「みかげ君、僕のこと売ったね?」
「だって、隆二さんに合わせてくれたら、幻の焼酎譲ってくれるって言うんだもん。それに、隆二さんならかわせると思ったし」
「まったく。そのせいで、爽の機嫌が急降下だよ」
「えええ! ごめんね、爽君。僕がけしかけただけど、隆二さんは爽君一筋だよ」
別に急降下もしていないし、俺一筋でも困る。みかげの中では、もしかしたら付き合い始めたとでも思っているのだろうか。だからといって、否定してセフレですとも言えないので、曖昧に笑った。
「今日は忙しそうだね。爽も来たし、僕たちはもう出るよ」
「そうなの? 熱い二人の邪魔をしちゃ悪いもんね。楽しんできて」
「そうするよ」
スマートに会計をして、隆二は俺の手を握る。
「あ、あの、何も飲まずに、すいません」
「え? ああ、いいんだよ、ただの待ち合わせでしょ。また今度ゆっくりしてってね」
「はい」
みかげに挨拶して、バーを出た。
そしてタクシーを止めようとする隆二を止めた。
「ねえ、どこに行くの?」
「うん? 僕の家」
「ホテルじゃダメなの? セフレなんだし、その辺のラブホとかでよくない?」
「僕、潔癖だから、行為だけの場所はちょっと。それにこれから日曜まで過ごすんだよ、ゆっくりできる場所がいいでしょ」
「じゃ、じゃあ、隆二のいつものホテルは? ここから近いし、そこがいい。まだ借りている?」
「え、ああ、それは大丈夫。でも、うちじゃ嫌?」
「嫌。ホテルがいい」
隆二は俺の言葉に何かを察したのか、しつこく家に誘うことはなく、そのままホテルまで手を繋いで徒歩で行った。
やはり手を繋ぐことに抵抗はない。それは当たり前だ。それ以上のことをしているんだから。でも、なんだか手を繋いでいる自分にそわそわする。これっていったい何なのだろうか。
***
「う、んん、アッ、あ、まって、俺、今イッタばかりっ、あああ」
「だめ。爽、妊娠したいんでしょう。だったら、このまました方がいいよ」
「でも、もう、あああ!」
ホテルについてすぐに隆二に抱かれた。今は、何回戦目?
初心者に辛いことをこの男はしている。でも、言葉ではそう言っても、オメガの体は目の前のベータ男が織りなす行為に喜んでいる。
オメガなら誰でもいいのだろうか? アルファじゃなくてもこんなに感じる。アルファとヤッたら自分はどうなってしまうのだろう。隆二が、安全なベータで良かった。この最中にアルファのフェロモンを感知したら、オメガの俺はどうなるか想像もつかない。好きでもない運命相手に、ヤッてもいないときに、発情する。だったらヤッてる最中に、たとえ運命じゃなくてもアルファのフェロモンを嗅いだら……。
そう思うと怖い。
どうしてだか、いまだに俺は直接会ってもいない「運命の男」に執着しているようだった。運命のアルファ以外のアルファに、自分がなびくはずはないと思っているのに、もし隆二がアルファだったら、俺は運命以外の男を受け入れていることになる。そうなったら、自分の中の何かが壊れてしまいそうだった。
あんなに運命から逃れたいと思っていたのに、いざ自分が運命以外のアルファを受け入れてしまったら、裏切り行為のような気がしてきた。少しおかしい思考なのはわかる。あの「運命の男」は、俺なんか知らないのだから、裏切られたとかそんな感情になるはずないのに、どうして俺は彼を裏切ったことになると思うのだろう。
それが、運命の作用? 心がもうそこに引っ張られている。まるで自分のなにもかもが自分の思考ではなく、支配されている感覚。運命に忠実なオメガの宿命?
運命を求めている自分、運命以外のアルファを求めたときに受け入れてしまった自分、どちらも罪悪感に繋がる。どちらの自分も絶対に嫌だった。だから、隆二がベータで安心している。それって、つまり、俺は隆二に特別な何かを感じ始めているということなのだろうか。自分の心が本当にわからない。
途方もない思考のせいで、体が震えた。隆二の首に回している手に力が入ってしまった。
「爽? やっぱり辛い? ごめん、すぐ抜く」
「え、あ、違うっそうじゃなくて、あんっ」
隆二が気を遣う言葉を言う、それだけで体の奥が疼いてまた感じてしまった。
「感じて震えただけ?」
「そ、そう。気持ち良すぎておかしくなる」
「可愛いこと言うね」
隆二は俺の体調確認に安心したのか、ゆっくりとまだ動き出す。
「かわいく、なんか、あああ、ンッ、ない!」
「そこが可愛いんだよ、強がっても、感じてる」
熱い欲望を抜き差しをしながら語る隆二は、やはり上級者だ。俺はそのたびに、奥を突かれて……鳴く。隆二は俺を抱くとき、吐息と会話を織りなし、最後の吐き出す時に、気持ちよさそうな声をだす。その感じる声を聞くのが俺は好きだ。
しかしフィニッシュ前は、冷静に俺を高みに昇らしてくれている。なんていう男だ。
「ん? どうしたの、そんな可愛い目で見つめてきて」
「う、んん、あああ」
睨んでいるんだよ。
そう思うも、喘ぎ声しか出てこない。揺さぶりすぎ。でも、気持ちいい。そして隆二は、最中に何度も首筋を舐めては吸って、見えるところに跡を残した。セフレと言っていたけれど、これはセフレの領域を超えてきている気がするのに、跡を残されたことでまた、感じてしまう。
俺はいったい。
「隆二っ! あッ」
「爽、爽ッ、大切にするからっ!」
「あ、ひゃあっ、あっン!」
そこで、隆二が俺の中ではじけた。最後になにか聞いてはいけない言葉を聞いた気がしたが、俺はもうそれどころではなく、すでに何度目かの交わりで感じ過ぎておかしくなっていた。なんども胎に隆二の子種が積み重なっていくうちに、幸福度が増している気がした。
俺の野望は、胎に確実に溜まっていった。
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