運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

22 真実

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 行くところは、やっぱりいつものホテルなのだろうか。

「爽、話をしよう」
「……俺、もう帰るから」
「爽、それはないんじゃない?」
「どうして? 俺、なんか疲れちゃったし帰りたい」

 するといきなり抱きしめられた。

「どうして今日、会いに来てくれなかったの。どうして、あんなところにいたの?」
「そ、それは……」
「とにかく、ちゃんと話したい」
「俺は、話はないし、はっきり言うけど、俺もう隆二と会わない」
「なんで?」
「若いから、いろんな人と試したいの。だから今日も男をひっかけるつもりでバーに行った」

 曖昧に会う約束なんかして、卑怯だったかもしれない。なんとなく、隆二が俺と向き合おうとしているのは感じていたのに、はぐらかしていた。だから、目的を言うべきだと思った。

「へぇ、一度寝たら、もうそんな覚めた態度になるんだ? あっ、一度じゃないか」

 ぞくっとした、その声、その顔、もしかしたら怒らせたかもしれない。少し怖くなって黙ってしまったら、隆二がいきなりキスをした。

「ちょ、やめっ、んんん、離せよっ!」
「だーめ」

 そう言われて、店の前の路駐に止めてあっんた車に乗せられた。助手席に座らされ、器用に人のシートベルトを閉める隆二。カチャっと音を確認すると扉を閉めて、自分は運転席に乗り込んだ。あまりの早業すぎて驚く。

「拉致、手慣れてるね?」
「拉致って……。でも、好きな子を助手席に縛り付けるのは手慣れているかもね」
「好きな子って……隆二酒飲んだだろう、運転は」
「ああ、車だから、ノンアルにしてた」
「そう」

 そしてどこへ行くのかわからない車は、夜の街並みを走り出した。拉致と自分で言っておきながら、別に怖くもなんともなかった。さきほどの威圧には少し驚いたが、寝た相手だからか、車の中にいても安心しきっている自分に驚く。

「あのね、はっきり言うけど。俺は他の男とも経験したいから寝た人とはもうしないよ。だから降ろしてよ」
「どういう事? 爽は処女喪失したばかりで、もうそんなビッチ発言なの?」
「関係ないだろう、そういうわけだから」

 信号が止まったときに降りようとしたけど、鍵のロックは開かなかった。隆二は相当遊んでそうだし、じゃあって言うと思ったのに、予想とは裏腹に運転席から俺の手を握ってきた。

「あんなセックスで、他の男を満足させられると思っているの?」
「えっ」

 その言葉に驚いた。

 そして青信号で車はまた進む。隆二はまっすぐ前を向きながら話す言葉。あんなって、他に比べようもないからわからないけど、そんなに嫌だったのか。自分ばかりが満足してしまったのは申し訳ない。急に恥ずかしくなってきた。あれから隆二の行為を思い出して自分を慰めていたことが、途端に後ろめたく感じた。

「爽は何回もイってたけど、僕はあんな行為じゃ満足してない」
「あっごめん、俺ばかり気持ち良くなって……無駄に時間使わせちゃったね、次は満足できる人見つけて?」

 しゅんってなってしまった。

「あっ、いや、そういうわけじゃない、爽の中は最高だった」

 その言葉を聞いてホッとしたのと同時に、恥ずかしくて俯いてしまった。じゃあ何がいけなかったのか? 言いたいことわからないけど、なら良くないだろうか。

「それは良かった? えっと、じゃあ、もういい?」
「そんなウブな反応する爽が心配なんだよ、下手したら犯罪に巻き込まれることもある」

 なんだ、隆二、ただのいい人か!?

「犯罪って、ただ寝るだけだし」
「オメガは売り飛ばされる心配も、別の男なら病気の心配もあるよ。それでも他の男とも寝たいの?」
「……それは気をつける。次はもうバーでひっかけないから大丈夫、会社の人紹介してもらうから安心して? 心配してくれてありがとう」

 それでも納得しない顔をしている。何が言いたいのだろう。

「じゃなくて、セックスしたいんでしょ? だったら僕で良いでしょ?」
「えっと、だから一度した相手とはしたくない」
「だから、なんで? 爽の事、あんなに気持ちよくできる男いると思う? 爽は経験ないからわからないと思うけど、あんなセックス、僕は他では知らない。僕たちは相性がいいんだよ」

 その恥ずかしい言葉に、喜ぶ自分がいる。

 俺にとっても、かなり特別で貴重な経験だった。まだ隆二しか経験がないのに、あの行為が特別で気持ち良くて、大事にされているような、極上のものだと感じてしまった。それは隆二が俺のことを特別良かったと思ってくれていたから? そう言われて単純に嬉しかった。なぜか隆二のその一言に、細胞が反応した。しかし、今俺が求めているのはたったひとりの相手ではない。

「そうなの? でも! 別に相性良くなくてもいいんだけど」
「は? 爽は何のためにセックスするの?」

 困った。困った顔をしたと思う。だって、妊娠するため、なんて言っていいのかわからない。

「ねえ、何か困ったことでもある? 相談のるよ?」

 うーん。困った。

「俺は、恋人も要らないし、その場限りの人を求めているんだ。バーで意気投合した相手なんてそんなものでしょ、いきなり恋人とか、ちょっと引くよ。とにかく俺はそういう性癖。だからもう用は無い」
「性癖って、処女だったのに随分な事言うんだな。だったら僕がセフレになるよ」

 隆二が言うと色々卑猥に聞こえるのはなぜだろう、俺は自分で言った言葉も恥ずかしくなった。性癖とか処女、セフレとかセックスとか、その単語をぽいぽいと、恥ずかしくないのか? 俺が恥ずかしい。

「何? セフレって言葉気に入った? 可愛い顔して、やっぱり心配だな、僕にしなよ。体だけの関係が欲しいんでしょ」

 いや違う。でもどうしてか説明するまで帰してくれなさそうな雰囲気がして、しょうがないから話すことにした。

「違うんだ。正直に話すけど、実は最近母性本能に目覚めて、子供が欲しいの。だけど誰かと付き合うとか嫌だし、子種だけが欲しくて。それで色んな男と寝れば、誰かしらの子供が孕めるかと思って。父親は必要ないから誰の子かわからない方が都合良い」
「え……」

 あっ、驚いている。まさかそういう事を言われるとは思わなかっただろうな。

「自分の子供孕ませようとしているオメガなんて気持ち悪いでしょ? ネタバレした以上、隆二とはもう寝ないから安心して。これで全部話したからいいでしょう」
「えっと、なんで子供だけ欲しいの? 旦那いらないの?」

 戸惑いながらも、まだ俺の話を聞こうとしている。

「うん、いらない、俺結婚する気ないし」
「本気で子供だけ産みたいの?」
「そうだよ、しつこいなぁ」

 そこで隆二は黙ったまま、車を走らせた。とにかく、車はいつか停車する。その時、そこから帰ればいいだけだと思って、窓の外に目を向けて俺も黙った。

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