運命の番は姉の婚約者

riiko

文字の大きさ
上 下
19 / 71
第二章 男を誘う

19 会話

しおりを挟む
 
 翌朝、隆二に抱きしめられて目が覚めた。いつの間にか、上質なパジャマに着替えていて、隆二とお揃いのパジャマで、朝を迎えている。

 いったい、これは。

 それに今度はぎゅうっと抱きしめられていて、そっとやちょっとでは拘束が解けない。

 もぞもぞとしながら、隆二を見た。

 本当にいい男だと思う。この男は何者なのだろうか。昨日抱きしめられた時すっぽりと隆二の胸に収まったのを思い出し、そして今も収まっている。

 なぜかここが心地よく感じてしまう。誰かに抱きしめられるなんて、姉や両親しか経験ない。他人なのに居心地がいい。なぜだろう。

 もがくのは止めて、隆二をじっと見ていたら、隆二の瞳がすうっと開いた。

「あっ」
「おはよう、爽」
「お、おはよ」
「ふふ、もう暴れるのは終わり? 爽がもぞもぞするから、僕感じてきちゃったよ」
「え?」
「ほら」

 隆二の手が、俺の手を握り、そして自分の股間に触らせた。

「何すんだよ、朝だからだろ」
「朝からスル?」
「もう、いいよ。今日一日が無駄になる」
「あ、土曜も仕事?」
「違うけど、今日は朝から出かける用事あるから、いいかげん放してよ」

 用事なんて無い。引きこもりオメガは寮で惰眠を貪るかゲームするだけ、しいていうなら夜は男漁りという予定はある。

「へぇ、何時から?」
「え、十時?」

 咄嗟に聞かれてそう言った。

「じゃあ、まだ朝の六時だよ、一回できるね」
「え……」

 まだそんな早い時間だったのか。そして、起きた瞬間からって、この男の性欲は凄い。だったら朝一番の濃厚なミルクで、孕ませてくれよ。

「いいよ、昨日はなんか寝ちゃったし、俺だけ発散させてもらって悪かったし、好きに抱きなよ」
「なんか投げやり?」
「そんなことない、しよ」
「ふふ、朝から誘われて嬉しいな、んっちゅっ」
「ん、隆二、んん」

 キスが始まると、もう自然にスイッチが入った。そして、二度目だと言うのに、胸への攻めがしつこく、胸だけで達するという特技を身に着けていた俺。

 最後は強請るようにして、隆二をれてもらった。

 朝から相当したと思う。全てが終わったあと、隆二に風呂にまで入れてもらった。そしてドライヤーで髪を乾かしてもらっているときに、ふと普通の話になった。

「ねぇ、爽。連絡先」
「え」
「連絡先を交換してない、出会ってからエッチしかしてないよ、まだ何もこれからのこと話してない」
「だって、そういう雰囲気になるんだから仕方ないだろ」
「じゃあ、番号教えて。それと、住所と、仕事と、家庭環境」
「え? なにその最後の質問」
「だって、これから仲良くなっていく人だし、全てを知りたいじゃん」

 なんとなく、なんとなくだけど、隆二に好かれている気はした。しかしヤリ部屋を持っているような男だし、誘えば抱いてくれるのをみると、ただの体の関係だけで終わる予感もしていた。

 だけど、今の会話で何かを確信した。

 こいつはダメだと。

「ねぇ、じゃ、俺また週末御影に行くからさ、そのとき色々お互いのことを話そうよ。それまでは、内緒な」
「なんだか、はぐらかされてる気がする」

 鋭い。

 しかし自分が欲しいのは子供であって、男ではない。恋愛なんかするつもりもない。ましてや、ベータの男だなんて、なんの役にも立たない。アルファなら、万が一でもつがい関係を結べば、これからも姉と安心して会うことができる。それは、もう運命を知ってしまったからできない選択肢だったけど。

 とにかく、いくらハイスペックな男でも、いらない。それが答えだった。

 だらだらとしていたので、当初予定していた時間直前になった。週末会うからと約束して、時間がないと慌てた素振りで、ホテルを後にした。

 もちろん、もう会わない。週末にも、これから先も、もうあのバーに行くことはない。


しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?

SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息 ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。 そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。 しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。 それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。 そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。 一、契約期間は二年。 二、互いの生活には干渉しない——…… 『俺たちの間に愛は必要ない』 ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。 なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。 ☆感想、ブクマなどとても励みになります! ☆ムーンライトノベルズにも載せてます。 ☆ 書き下ろし後日談をつけて、2025/3/237のJ.gardenにて同人誌にもします。通販もあります。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...