運命の番は姉の婚約者

riiko

文字の大きさ
上 下
17 / 71
第二章 男を誘う

17 再会

しおりを挟む
 
 その若いベータ男の丈とそれなりに盛り上がった。話をしていたら、なんとなく、もしかしたら、この男を誘えるのではないだろうかと思えてきた。

 そして、みかげにばれないように、その男の手をカウンター越しに握った。反応は悪くない。男は少し顔を赤らめたが、手を外されることがなかった。

「丈さん、俺、この後まだ時間があるんですが」
「え、あ、俺もあるけど、じゃあ、もう一杯飲む? おごるよ」
「いえ、そうじゃなくて……二人きりになれる場所に、ってえええ!」

 丈の後ろには、まさかの男が立っていた。黒いパンツとシャツというラフな格好ながらも、モデルさながらのスタイルの良さが、彼の美しさを引き立たせている。前回同様、スーツ姿ではなく、ふらっと立ち寄ったような恰好だった。このバーはスーツ姿の男が多い中、この姿は目立つというより、男前すぎる見目の良さの方が目立っているように見えた。

「丈君、その子は僕の連れなんだ。悪いけど下で結んでいる手を離してくれない?」
「えええ、隆二さん? 何してるんすか、え、爽君は隆二さんの連れ? わぁ、みかげさん酷いわぁぁ」

 そしてなぜか隆二にどうして見えていたのかわからないが、繋いでいる手のことを指摘され、丈が素早く離した。そして丈も隆二を知っているようだった。ここは思いのほか、客同士も繋がっているのかもしれない。ここではやはり男を漁ることは無理だと再度確認した。

「丈さん、その人と知り合い?」
「こら、爽。もう僕の名前忘れたの? あんなに熱い夜を過ごしたのに」

 ただ丈に聞いただけなのに、そこで隆二が答える。そのあとに丈が焦った声をだす。

「うわっ、二人はもうそんな関係性?」
「そうだよ。とにかく、丈君ごめんね。今日は僕がおごるからね、恋人のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「ぇ……」

 今、俺のことを恋人と言わなかったか?

 丈はじゃあと言って、愛想よく席を立ってしまった。そして、俺は戸惑う。一度寝ただけの相手を恋人と呼ぶ、目の前の男が恐ろしかった。

「俺、隆二と恋人になったつもりないけど?」
「処女を僕にくれたのに?」
「ねぇ、あからさまにそういう話、やめてよ」
「ごめん、でも爽がいけないんだよ。黙って帰ったりするから」
「それは、悪かったよ」

 隆二はそう言いながら、隣に座る気配はない。もうここで男漁りできないと思い、財布を出そうとすると手を掴まれた。

「え?」

「みかげさん! 爽、連れて帰るね、お代置いとく!」
「あ、隆二さんお迎え? じゃあまたね」
「え、お迎えって……」

 向こうのみかげに、隆二が話しかけるとこちらを向いたみかげが頷いた。隆二はテーブルに一万円札を一枚置いて、そして俺の手を取りバーを出た。あまりの速さと、思いのほか、隆二の手の強さに驚いて抵抗するのを忘れてしまった。

「ど、どこ行くの?」
「二人きりになれる場所」
「どうして?」
「爽と一緒にいたいから」

 いつの間にか掴まれた手は、俺の腕から指さきへと移動し、恋人繋ぎのような形になって街を歩いた。夜の街頭以上に、ビルのネオンが眩しい。周りは陽気な大人や、学生、夜の街を楽しむ人たちで賑わっている。そんな中、男が二人で手を繋いで歩くことは大して目立たない。

 こうやって隣を歩いていると、普通に恋人同士なように見えなくもないかもしれない。そんなことを考えて数分、隆二に連れられていくと、そこは隆二と初めてを交わしたホテルだった。

「ひょっとして、俺の体、忘れられなかった?」
「ああ、もう爽以外考えられない」

 おちょくろうと思って言った言葉に、まさかの本気の回答がきてしまった。そんなにオメガの初めてが良かったのだろうか。隆二をそっと見上げた。

「これから、スルの?」
「爽が望むなら。でも、僕としては二人のこれからを話したい」
「それは、遠慮しとく。でもいいよ、しよう。俺も隆二が忘れられなかった」

 隆二が、というより隆二とした行為が。思いのほか楽しかったし気持ち良かった。発情期で隆二を思い出すくらいには、運命を忘れさせてくれた。

 それに、自分からターゲットを見つけなくても向こうから来てくれた。やはり、妊娠するなら隆二ほどの男の子供がいいと思ってしまった。高望みだけど、この男の子供なら安心して愛せる気がした。

「隆二、今夜も俺を抱いて」
「爽……」

 隆二は切なさそうな顔をしてけれど、そのまま俺を部屋まで連れて行った。

「やっぱりこの部屋なんだ」
「ああ、とりあえずすぐ入れるように、ずっと借りっぱなしなんだ」
「意気投合した相手と寝るために?」
「否定はしないけど、そうだね。仕事でこのホテルは使うから、ちょっとした作業の時とか、少し仮眠を取るようにね」

 まるで自分の家かのように、コーヒーポットに粉をセットして、抽出が始まる。部屋中にいい香りが漂い始めた。

「ねぇ? この部屋で俺とお茶をするために、わざわざ連れてきたの? 今はそんな時間じゃないよ、もう夜なんだしやることは一つじゃないの?」
「そう? 親睦を深めるのに、お茶はいいアイテムだと思うけどな? コーヒーでいい? あっ、紅茶の方がいいかな」
「ううん、コーヒーがいい。なんかすげぇいい香りしてる」
「豆にはこだわってるんだ」

 そんな他愛もない話をしていた。俺はいったい何をしているんだ。ああ、また貴重な金曜日が潰れていく……。

 なんとなく、隆二は今夜俺を抱かない気がした。


しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡

白井由紀
BL
【BL作品】 絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ 田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか! 学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡ ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇‍♂️ ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

【完結】今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?

SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息 ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。 そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。 しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。 それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。 そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。 一、契約期間は二年。 二、互いの生活には干渉しない——…… 『俺たちの間に愛は必要ない』 ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。 なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。 ☆感想、ブクマなどとても励みになります! ☆ムーンライトノベルズにも載せてます。 ☆ 書き下ろし後日談をつけて、2025/3/237のJ.gardenにて同人誌にもします。通販もあります。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...