運命の番は姉の婚約者

riiko

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第二章 男を誘う

16 二度目の訪問

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 ヒートが終わった今、またすぐに動き出さなくてはならない。

 たった一度の性交で妊娠できるなんて思ってもいないが、やはり無理だった。確実に孕むためには、毎週だれかと寝るくらいのことをしなければいけない。

 そして週末、行動に移した。

 結局、隆二の連絡先は聞いていなかった。そして自分のも教えていない。だから、もうあの彼とは会うことはないだろうし、一度寝た相手とまた寝るのはリスクしかないはずだ。もしかしたら向こうもそう思っているかもしれない。たった一度、オメガの処女を貰った相手に執着されたら怖いだろう。

 お互い、いい思いをしてそれで終わり。そうなっているはずだし、また会っても無視されるかもしれない。だったら、こちらも知らないふりして新しい男を漁るという目的をしっかりと意識するだけだ。

 やはりまだ安全性を配慮して、他のバーへと行くことはできなかった。隆二に会わないことを願って、バー御影へと足を運んだ。

「いらっしゃいませぇ」
「こんばんは」
「あ、爽君」

 バーの店主みかげが、微笑みかけてきた。

「え、あ、俺のこと覚えていてくれたんですか?」
「もちろんです」

 みかげに誘導されて、カウンターに座った。今の時間は二十一時、そろそろ人もいるかと思って来たら、何人か一人で来ている男がいた。

「あれから、どうしていたの?」
「えっと、なにかと忙しくって」
「ふふ、そう。で、どうだった? 彼は君のお眼鏡にかなった?」
「彼?」

 みかげは今日もノンアルコールのドリンクをそっと、席に置いてくれた。お辞儀をしてそれを受け取り、一口飲んだ。

「隆二さんだよ、一緒にお店を出ていったでしょ」
「あっ、あの人ってかなりここ来ていますか? 会うのはなんとなく気まずいかな……」

 みかげが名前を言うということは、かなりの常連だろうか。

「ああ、彼はあの日以来、来ていないよ。そんなに頻繁に来る人じゃなかったから」
「良かった! 今日は新しい出会いを求めてきたんです!」
「えっと、隆二さんもかなりの人だと思うんだけど、爽君は気に入らなかったかな? 爽君からしたらオジサンか」
「まさか! そんなこと思っていませんけど、俺の求める条件とは違ったから」

 みかげが不思議な顔をした。

「えっと、条件って。差し支えなければ聞いてもいい? 他におすすめできる人がいるかもしれないし」
「なんか生意気すいません。できればあまりハイスペックじゃない人がいいかも。でもここに来る人って、やっぱりそれなりの人しかいないんですか? ただの平社員とか」
「はは、条件ってソコ? 隆二さんじゃその条件には当てはまらないもんね」

 みかげが笑いながら、目の下に手を持っていった。涙が出るほどおかしい条件だっただろうか? 俺には会社員だと名乗ったのに、やはり隆二は平社員ではないらしい。どんな仕事をしているかなどは全く聞いていなかったから知らなしい、聞きたくもない。そして、真実を言わないのがワンナイトのマナーなのだろう、本気だったらそこで仕事について嘘をつく必要はないのだから。

 俺はただ遊ばれた。それでいいはずなのに、なぜか心がぎゅっとした。

「そんなに笑わなくても……。俺、ハイスペックな人、苦手なんです。だから平凡なベータ男がいいなと思って。でも、こんな素敵なところには平凡な男が出入りしないですよね……。やっぱり俺は町の居酒屋くらいの場所に行った方がよさそう」
「ちょ、ちょっと待って。君オメガでつがいもいないんだから、そんな危険な場所はだめだよ。相原にも言われたからここに来たんでしょ、大丈夫。そういう人もいるから、ね、ああ、そうだ、そこにいるお客さんは、確か大手証券会社勤務だったけど、まだ役職もない気がしたなぁ」
「大手証券会社……それはもうハイスペックに片足突っこんでいませんか? いや、むしろハイスペックでしかないような……」

 みかげが、その彼を手招きした。そして男は、蝶に群がるようにみかげの元にきて俺の隣に座った。

「みかげさん、なんですか? この子を俺に紹介してくれるとか?」
「そうだよ、じょう君ならまだ若いし、そこまでのスペックもないからいいかと思って」

 丈と呼ばれたその男は、好意的な視線を向けてきた。こちらを向いて微笑みかけてきたので、俺も愛想よく会釈した。

「なにそれ、若いのは認めるけど、俺そこそこ持ってるよ」
「ふふ、そういうのは、いいから。丈君、こちらは爽君。まだ十代だから、君みたいな二十代の貴重な男の子には優先して紹介してあげる。爽君は会社員の安定した彼氏をお望みだからね」
「ああ、安定なら任せて! 隣に座ってもいいかな?」

 みかげに誘導されて、ダメとは言えないので、どうぞと隣に促した。

「とにかく、爽君! まずは誰かと話してみて。会話を楽しむことができたら、他のお店でも楽しめると思うから、ここではその練習だと思ってね。丈君は安全だよ」
「さっきから、みかげさん酷い。お酒を楽しみに来ているのもあるけどさ、可愛い子と楽しみたいじゃん、練習相手って」
「いいでしょ、バーデビューした子に手取り足取り教える権利を、マスター自ら与えてあげたんだからね、ははは」

 そう言って、みかげは他の常連客のもとに行った。

「なんか、すいません。俺に付き合わせてしまって」
「ううん。みかげさんが勧めてくるなんてよっぽどだし、俺で良ければ楽しくお酒飲もう!」
「ふふ、お願いします」

 やはり、みかげはここで本気の彼氏を探しにきているオメガだと思ったみたいだった。この人はいい人そうだが、みかげが安全とあらかじめ言うくらいだから、安全な男なのだろう。このバーは居心地がいいけれど、もう駄目だと思った。だから今夜は最後の思い出にこの男とただ会話を楽しむことにした。金曜の夜をつぶしたところで、まだ土曜の夜がある。

 明日こそ、出会いを求めて安い居酒屋に行こう。それがだめなら、嫌だけど、安全のために、会社のお見合いシステムを使って、一晩相手をしてくれる人を早急に探すしかない。お遊びは今日でおしまい。俺にはタイムリミットがあるのだから、もうどこで誰を探すとかわがままは言えない。


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