15 / 71
第二章 男を誘う
15 初体験の後
しおりを挟むいつの間にか寝てしまったらしい。隣には隆二がすやすやと自分を抱きしめながら寝ていた。今は、夜中? まだ朝の光が入ってこない。窓にカーテンがないのは、高層過ぎて誰もこのベッドルームを見ることができないからだろうか。外はネオンがキラキラと光り輝いていた。
一体どれだけの人間が、今現在こうして誰かと事後をすごしているのだろうかと、変なことを考えてしまう自分に笑った。
隆二のリズムのいいスウスウという寝息を聞いていると、また夢の世界に戻ってしまいそうになる。体は確実に今まで経験したことのない疲れを感じている。ベッドの住人になりたいという気持ちもあるが、恋人でもない一夜の関係の相手と朝を迎える勇気はない。文字通り一夜の相手にするためには、まだ夜が明けない今この場を離れるべきだった。
目覚めの朝を一緒に過ごすなど、互いに心臓に悪いだろう。
それにしても初めてだというのに、痛さはあったものの、全てが気持ちよかった。このままこの男の胸で一生を過ごしてしまいたいと思ってしまうくらいに、安心して快楽に身を任せることができた。
隆二と体を合わせている間、運命の男を思い出すこともなかったことに驚いた。心は姉の男を求めているわけではないのだろうか。違う男に抱かれるとき、もしかしたらあの人のことを思って泣くのかと思ったら、そんなことはなかった。いや泣いたのは確かだが、それは初めての快楽に心も体もついていかなくて、ただの自然現象で出た涙だった。昨夜の俺は、必死に心も体も目の前のベータの男に向かっていた。
きっと初体験の相手だから、なにか心がバグを起こしているのだろう。そう思うことにして、隆二の腕を自分の体からそっと外した。お互いに裸、しかも体からは石鹸のいい香りがする。最後は風呂で気を失った記憶があるから、髪に寝癖がついていないとこを見ると、ドライヤーまでかけてもらったらしい。随分と丁寧に扱ってもらったことに、気恥ずかしく感じた。
隆二から開放されると、ベッド脇に掛けてあった服を着た。下着まで畳んである。帳面な男なのだろうか? 勢いよく脱いだはずの服は、シワひとつなく整っていた。
ベッドルームを出るときに、そっと隆二の寝顔を見た。運命の男に負けないくらいの美男子と寝ることになるとは、人生わからないものだ。そこら辺の適当なベータを捕まえるつもりが、ひょんなことから上位の男をひっかけてしまったらしい。というか引っかかった? 自分からは特になにもしていないような、流れに身を任せて誘ったくらいだから。俺がむしろひっかかったオメガだ。だったら罪悪感に浸る必要もなく、きれいサッパリこの場を去ることができるだろう。
心の中でそっと「さようなら」とつぶやいた。そしてその部屋を出た。
そして日曜は疲れた体を癒すために、寮に引きこもり、翌朝にはすっかり体調も戻ったので、予定通り月曜の朝は出勤した。そこで、金曜にバーに一緒に行った同僚と会った。
「おはよう、三上君」
「おはよ」
「三上君、金曜の夜はどうだった? 僕はもう最悪だった! あのベータいきなり変な薬出してきてヒートエッチしたいとか言ってきたんだよ。僕は怒ってすぐ帰ったけど、そっちはどうだった? 一応電話したけど繋がらないから心配していたんだ」
「そうだったんだ。ごめん、電話放置していて見てなかった」
「ううん、でも昨日は寮にいたみたいだから安心はしていたけどさ」
一緒にバーに行った同僚は、相手の質の悪さに怒っていた。俺の方も酒を飲まされて酔い潰したところホテルに連れ込まれそうになったことを話した。同僚はその話を聞いたら泣きそうな顔をしてきた。責任でも感じたのだろうか。急いでその続きを話した。揉めているところ通行人に助けられことなきを得たということまで言うと、同僚は安堵の顔を見せた。
「良かった、僕のせいで三上君の処女があんな奴らに奪われたかもって思ったら、僕。でも良かった、純血は紳士な通行人に守られたんだね」
「……」
守られて、はない。翌日に全く別の男と初体験をした。そこまでは流石に言わなくてもいいだろうと思い、苦笑いをすると始業のベルがなった。
同僚にまた週末、男漁りしに行くかと誘われたが、もう一人で大丈夫だと言って断った。また変な男をひっかけることになって、心配させるのも悪い気がしたし、一人経験したのだから、しばらくは彼の子供が着床するかを待てばいいと思った。
なんとなく、あの男の遺伝子ならすぐに妊娠しそうな気がした。
あれから、すぐにいつものヒートがきた。ということは、男のモノは着床しなかったらしい。オメガはヒート中なら百パーセント妊娠できるのだから、このヒート期間に男漁りに行けば良かったものの、今回のヒートは少し酷かったので外出するのは怖くてやめた。
いつもの通り、ヒート中は姉の男を思い出していたのだが、それは最初だけでだんだんと一度だけしか寝ていないあの男が思考の中に入り込んできた。
(爽、いやらしい爽のお尻、可愛い蜜がでてる)
「あ、だ、だめええ」
(僕のキスと愛撫だけで、そんな感じちゃうの?)
「あん、気持ちいい、もっと強くっ、」
(もっと、声聞かせて、そう、可愛いよ)
「あ、あん、あん、あああ、りゅうじぃ」
彼の声を、最中の会話を思い出して、なんども前も後ろもいじった。初めての経験は、ヒート中の思考にも変化を与えていた。それは喜ばしいことなのかわからない。ただ、ヒート後の罪悪感が少し和らいだ。いつもは、姉の彼を想像して抜いていた自分に、ヒートが終わって冷静さを思い出した時、死にそうな気分になる。それがないだけマシだったのに、発情自体は前よりも強くなった気がした。
オメガのこの体はよくわからない。
53
お気に入りに追加
2,356
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡
白井由紀
BL
【BL作品】
絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ
田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか!
学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇♂️
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
【完結】今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?
SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息
ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。
そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。
しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。
それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。
そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。
一、契約期間は二年。
二、互いの生活には干渉しない——……
『俺たちの間に愛は必要ない』
ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。
なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。
☆感想、ブクマなどとても励みになります!
☆ムーンライトノベルズにも載せてます。
☆ 書き下ろし後日談をつけて、2025/3/237のJ.gardenにて同人誌にもします。通販もあります。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる