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第二章 男を誘う
10 帰宅
しおりを挟む食事が終わったら、寮まで送ってもらった。そして相原は一枚のカードを渡した。
「これは?」
「ここなら安全な場所だ。もし今後も彼氏を作るつもりなら、ここに行くといい。きっといい出会いがある」
「え」
「君がまた変な男に引っかからないとも限らない。オメガにとって出会いの場所は大切だろうが、あまりいい人種が来ないところは初心者はやめたほうがいい。犯罪に巻き込まれて俺が君の捜査を担当することになったら、目覚めが悪すぎるからな」
警察官らしいセリフを言われて、おもわず笑った。
「はは」
「それから、そこの客はほぼベータとオメガだから安心して行くといい。一応紹介制のバーだから、だいたい客のことはそこのオーナーが把握している」
「ありがとうございます」
相原は、寮の入り口まで車を降りて送ってくれて、そして自分の名刺とバーの名刺を渡して帰っていった。
部屋のベッドに仰向けになると、一気に今までの緊張感が解けてきた。
なんだか変な日だった。男を引っかけるつもりが、まさか酒飲まされて意識失ったままホテルに連れ込まれるところだった。それに男と寝ることを簡単に考えすぎていた。頭で考えていたことに、感情がついていかなかった。それを思い知らされた。こんなことで、妊娠できるのだろうか。
いや、だめだ。ここで諦めるわけにはいかない。
このまま姉の結婚式に出て、運命を前に発情してしまったら? それこそ姉の結婚が、結婚式のその日に壊れてしまいかねない。仮に姉の彼氏が運命のオメガを我慢できたとしても、その親たちには嫁の弟が息子の運命のオメガだと知られてしまう。いい気がするわけがないし、運命との結婚の方を望まないとも限らない。運命同士の子供は優秀なアルファが生まれる率が高いと、なにかの論文で発表されたと聞いたことがある。
息子の嫁はベータの女より、運命のオメガ男の方がいいとなってしまったら? そもそも姉がその男の家に嫁ぐことも、少しだけ揉めたと母から聞いた。上流階級みたいな家に一般家庭のベータ女性が嫁ぐのはとても大変だと、母が俺への電話で愚痴をこぼしたことがあった。いいところの家は、オメガの嫁の方が出産率も高いので優遇されるという噂は本当だったらしい。
そういう家系の家柄だったら、姉と、その男、俺の意思など、関係なくなってしまう。
だから運命だと知られるわけにはいかなかった。これを防ぐ方法は、フェロモンが「運命に出会っても感知しないようにする」すなわち妊娠するしかない。だから、勇気を振り絞り相原に紹介されたバーにその日の夜、訪ねてみた。
昨日は、せっかくの金曜の夜を無駄にしてしまった。
勝負をかけられる日は、金曜か土曜しかない。日曜の夜に誰かを誘ってセックスして、翌朝仕事にいけるかはわからなかったからだ。経験がないから、翌日の自分の体の状態が読めない。仕事は単純作業といえ、機械を扱うから集中しなければならない。だからこそ、翌日が休みの日に初体験を試すしかなかった。一度経験したら翌日の状態も把握できるだろう、初めてだけは慎重になるべきだった。今後産休を取ることも考えると、無駄に仕事をサボるわけにいかない。会社からの印象が悪くなって解雇されたら困るから、仕事に響かない程度にこの野望を達成しなければならない。
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