運命の番は姉の婚約者

riiko

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第一章 運命の番を知る

6 社会人

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 それから半年後、無性に困った事態になっていた。

「爽ちゃん、私、彼と結婚することになったの……」
「ぇ……」
「だからね。私、結婚するの」
「あっ……」

 まさかの結婚!? 

 家も出て極力姉にも会わないようにしていた爽は、二人がそこまでの関係になっていたことは全く知らなかった。姉は話を続けた。

「彼はとても素敵な人で、爽ちゃんも気に入ってくれると思うんだけど、会ってくれないかな?」

 家を出てから、姉の彼氏は実家に出入りするようになっていた。両親とも仲良くなり、何度も実家に行っている。

 良かった、家を出ていて。あのとき頑張って、全ての痕跡を消して本当に良かった! 俺の香りを少しでも残しておかなくて。

 家を出るとき、実家には何も残さずに全てを処分した。家を出たばかりの頃、姉から彼氏が家に遊びに来ていると聞いた時、素直に自分の痕跡の無い家に安心したが、まさか姉の男は、恋人の弟が自分の運命だと知らず、結婚を決めるとは。

 自分だけがこんなに苦労して運命の痕跡を消している間、運命の男はただただ安心して恋人と未来の約束をしていた。なんだかむなしいような悲しいような、なんとも言えない感情が自分の中にあった。

「ごめん、びっくりして、おめでとう」
「あっ、ありがとう! 爽ちゃんからおめでとうって言ってもらえると思ってなかった」

 姉は少し涙目になっていた。弟はアルファがダメなの知っているのだから、相当気を使って、この話をすることも悩んだはずだと、姉の性格を知る爽は申し訳ない気持ちになった。

「でも、ごめん。俺どうしても、たとえ姉ちゃんの旦那さんになる人でも、アルファだけは会えない」
「そう、だよね。ごめんね、アルファの人を好きになっちゃって」
「いや、違う。姉ちゃんやその人を否定しているんじゃなくて、俺の問題だから……」

 想像していた答えが返ってきたのだろう、姉はがっくりしながらもそこまで驚いてはなかった。

「どうしても、半年後の結婚式には、爽ちゃんにも出席してほしいの……」
「う、うん」

 姉の話によると、彼氏は大会社の跡取りで、それなりの家系。スキャンダルも嫌うだろうから、実の姉の結婚式にも来ない身内は、何か問題があるのかと思われてしまう。そうなると弟の過去の事件を調べられて、弟が辱められるのは避けたいと姉は言った。

「もうあんな悲しいことを思い出して欲しくないし、早く忘れて欲しいのに、私のせいで、爽ちゃんの過去を暴かれるのは絶対に避けたいの、だから……」
「ねぇちゃん」
「むこうも私の身内にオメガがいるって知っているから、つがいのいない人には抑制剤の使用をお願いすることにしたわ。だから爽ちゃんがアルファの匂いを感じることはないと思うの」

 姉もこんなこと、頼みたくないだろう。それに、弟のためにそこまで手をまわしてくれている。でも、たとえ抑制剤を使用していたとしても、運命のフェロモンは騙せない。

 身内に、未遂とはいえレイプ事件に巻き込まれたオメガがいるというのも、心証がよくないのはわかる。オメガのレイプ事件は、オメガ側のヒート管理のせいにされることが多い。いうなれば奔放なオメガがわざとアルファに抱かれるためにそういうことをしていると思われかねない。いまだにアルファ家系には、オメガを性的奔放者として見られることは珍しくないと、姉も自分も知っていた。

「わかったよ。その日は必ず行くから、だから姉ちゃん幸せになってね」
「うん! ありがとう」

 姉はアルファと付き合ってから、自分と触れ合うのを我慢していた。弟と会うときはアルファの匂いをきちんと消してからと、いつも気にかけてくれていた。それをいつも感じていた。姉の優しさ、気遣いすべてをちゃんとわかっていた。

 自分を抱きしめ、泣きながらありがとうと言う姉が本当に好きだった。そんなに気を使ってくれていても、それでも抱きしめられるとかすかに残るアルファの香りが鼻をかすめて、たちまち苦しくなる。今日だって、万全の準備として、抑制剤を使用してきた。それなのに、運命にはこんな抵抗意味をなさない。

 この匂いの持ち主は、こんなにも俺のオメガ性を刺激してくる。会って普通でいられるはずがない。もう時間がない。姉の結婚式までの半年、いつか友人が話していたことを実行しなければならなかった。


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