運命の番は姉の婚約者

riiko

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第一章 運命の番を知る

5 決意

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「爽ちゃん、大丈夫? 熱が出たんだって? 彼がプリン買ってくれたの。食欲出たら食べてね」
「ねぇ、ちゃん……あっ、ごめん、ちょっと無理そう。今はアルファの匂い、むり……」
「あっ、ごめんね!! 何かあったらすぐに呼ぶのよ」

 デート中にも関わらず、姉は熱を出した俺を心配して帰ってきてくれた。彼の香りをまとった姉が部屋にきておでこを触った瞬間、ヒートがきてしまう予感がした。あんな事件があったからか、体調が悪い時にアルファの残り香は嗅げない。そう姉は思ってくれたのか、すぐに部屋を出ていった。

 あれからなんども急にヒートがきそうになって、俺はそういう言い訳を家族にして、姉に染みつくアルファの香りを俺に着けないようにお願いした。だから姉の体にある残り香に反応したとは思われなかった。この時ばかりは姉が、弟のフェロモンを感知できないベータで良かったとしみじみ思う。

 姉の彼氏の残り香を嗅いだだけで、こないだ終わったばかりのヒートがきた。もしかしたら体調不良と同時に弱っているときに、自分の求めた香りを嗅いだことで、本能が刺激されたのかもしれない。だけどそんなこと、とても言えなかった。弟が姉の彼氏の匂いで発情するなんて、浅ましくて軽蔑されると思ったから。

「はぁっ、あうっ、こんなのっ、もうやだっ……どうして、姉ちゃんの彼氏が、俺のっ……」

 本来は解熱剤と併用できないのだけど、緊急抑制剤を打った。そのせいで、次の日からますます体調は悪化して大変な目にあったのだった。それでも、どうしても、その処置が必要だった。

 だって、そうしなければ自然にヒートなんて終わらない。それは、姉の彼が自分のたったひとりの運命のつがいだったから。

 これからも、こんな隠し事をしてこの家で生きていくのはもう限界だった。それは、何度目かの、ヒートではない日の急なヒートを経験した日だった。もうこれ以上は無理、そこでやっと俺は判断を下した。

 ***
「せっかく大学受かったのに、急に入学キャンセルするなんて……」
「ごめん。でも、俺やっぱりアルファのいる環境は怖いんだ」

 母が残念そうに言ってきたが、オメガの息子にアルファと言われると何も言えなくなってしまう。そこを利用した。自分は親不孝な息子だとは思うが、そのおかげで今まで姉の彼氏を紹介されることもなかった。

 本当なら、姉が彼氏と別れる日までなんとか秘密を守るために頑張ろうと思ったけれど、そうとも言えない状況になった。熱を出して寝込んだ日に、このままではいつか姉に「自分の運命のつがい」を知られてしまうと焦ったから。

「寮はオメガだけで職場もアルファはいない、金も貰えてそんな環境で暮らせるなんてラッキーだよ」
「爽が納得しているなら、いいんだけどね。でも家まで出るなんて寂しいわ」

 母とリビングで話していると、姉が帰ってきた。

「爽! ひどいよ、こんな大事なことを急に決めるなんて!」
「姉ちゃん……」

 俺ははっきり言ってシスコンだ。それに勝るくらいに姉もブラコンで、弟を溺愛している。

 姉は彼氏とうまくいっていて、向こうの親にも紹介されたらしい。そして今度は両親にも合わせるということになった。親公認になれば、我が家に遊びにくることもある。そんな事がなければ、実家から大学に通ってまだ学生をしていたと思う。今は姉から少しでも離れなくてはいけなくなり、急遽寮付きの仕事を見つけて大学入学を諦めた。

 アルファ嫌いな弟を思い、姉も今までは付き合っている相手がアルファだから親にも紹介するのを避けたのだろう。姉はとても美しく優秀で、社会人としても成功している。アルファに見初められるのも納得の完璧な女性だった。

 自分の匂いが染み付いた家にアルファがきて、運命がばれるのは怖い。だから早く家からオメガの香りを消すためにも、生活圏を変えるしかなかった。それを姉には言えない、付き合っている相手が弟の運命のつがいだった、そんな不幸なドラマの題材みたいな話はあってはいけない。

 このまま無事に時間が経って二人が別れる日を待てばいい。

 その間寂しいけど姉に近づかなければ不定期のヒートも起こらないだろうし、実家を出れば彼にばったり会うこともない。高校最後の年に俺は思い切って人生の岐路を方向転換させた。



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