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番外編
【書籍化記念SS】フランの見る夢は
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ある日フランが夢を見てうなされた。
――それは、前の生の僕の人生が終わった後の話だった。
僕が命を散らしたあと、僕を凌辱した騎士たち、後宮官僚、そしてミラー男爵家は全員処刑された。
僕は急な病で亡くなったことにされたが、家族だけは真実を伝えられる。兄が公爵家を引き継ぐと、両親は悲しみから国を捨て母の祖国に行った。
アシュリーに関しては僕と同じ苦しみを味わうため、フランの命令により番がいる状態で凌辱され命を落とした。リアム様は率先して死地へ向かい、国に忠誠を誓い戦死した。フランは僕を失ってから番欠乏の病にかかり、後追いのように僕の死後一年で亡くなる――そんな壮絶な話を聞いた。
不幸な最期を迎えたのは、僕だけではなかった。全員が苦しみながらこの世を去ったという、僕の知りえなかった話をフランから聞かされ、僕は戸惑う。
「結婚当初、受け入れる心の準備が整っていないシリルを無理やり抱き、友を利用してシリルの心を縛った。夢は過去の罪が見せた私への戒めだろう」
「フラン……」
これがただの夢ではないことを、僕だけが知っている。
僕の死後も彼らの人生は続き、苦しんだ。そして僕の回帰により、僕だけじゃなく皆が救われた?
一度目の人生はちゃんとフランの中にも存在していた。ただ僕だけが回帰の記憶を持っていただけで、実際は皆が経験してきたことなのかもしれない。
僕は、涙を流すフランに抱きつく。
「大丈夫、僕はここにいる」
「シリル、私の可愛いシリル」
僕がすべての記憶を思い出すまで、この生でもフランを苦しめた。
フランは夢を見たことで、過去の罪が浄化したようだった。僕たちの回帰がようやく終わり、次の幸せへと進むかのようにその年の発情期に、僕は子を身ごもった。
* * *
「お父さま~、お母さま~、早く!」
「待って、アルフレッド」
三歳になる我が子がわんぱくなのは、お義母様似だから。王宮に勤める皆がそう言うから間違いない。僕たちの息子は、王宮でたくさんの愛に包まれ育てられていた。
「シリル、アルフレッドの体力に付き合ったら大変だぞ」
「でも、ここ久しぶりだし! 僕も楽しみたい」
ここは王都から少し離れた王族専用の保養地、幼い僕とフランの出会いの場所。城の前には大きな湖があり輝いている。緑が豊かで綺麗に整備された庭も美しい。
「ここは変わらず美しいな」
「うん、キラキラの湖を見てアルフレッドが興奮しているね。可愛いなぁ」
両親を呼んだ割にはもう関心をなくし、今度は近くにいるリアム様の手を取り、楽しそうに湖まで走っている息子を見てフランは微笑む。そして僕の手を優しく握る。
「そうだな、私たちの子は本当によく育って愛おしい。リアムが見てくれているから、少し二人で歩かないか?」
「いいね!」
優しいリアム様は、一人先を走る息子のお守りをしてくれる。それを見て、僕はフランの胸に頭を預けた。フランは、そんな僕を愛おしいというような瞳を向ける。
「今のあの子と同じ歳に、ここでシリルに出会って恋に落ちた」
「僕はキラキラの男の子にわくわくしたよ」
フランの輝く金の髪を撫でると、フランは僕を見つめる。
「シリルは私の運命だ」
「フランは過去から繋がっている……僕の運命だよ。ねぇ、あの時の夢だけど」
「うん?」
何年経ってもフランの香りに、雰囲気に魅了される僕は彼に向き合う。
「好きな人の胸で最後を迎えるなんて……、夢の中の僕も愛に生きている今と同じ。フランのこと、どうしようもなく愛している」
「シリル、私も。最後の時をあなたと迎えるためにここに還ってきたとようやくわかった。私こそ、あんな夢を見るほど、シリルがいない世界で生きていけないくらい愛している」
遠くで息子の声が聞こえる心地いい世界で、僕はフランに口づけをする。
「僕も、あなたを愛するためにここに来たよ」
僕の顔を見て驚くフラン、すぐに何かを納得したかのような顔で。
「ああ、初めて番になった日に言ってくれた言葉が、今ようやく理解できた。私もシリルを愛するためにここにいる――それが私の見る夢だ」
僕とフランは同じ夢を見ていたんだ。僕は彼と同じ夢を見るために、ここに還ってきた。
これは、そんな幸せに包まれた日の話だった。
――fin――
お読みくださりありがとうございます。
フランとシリルの出会いの場所は、シリルの乳兄弟セスの生まれ故郷にある王族の避暑地という裏設定です。フランの母親シンが主人王のお話、『王太子専属閨係の見る夢は』エピローグのお話で、フランとシリルはここで出会います。三歳の時、フランがシリルに一目惚れしたシーン収録ありです。親世代のお話は、シリルの話を書き終えてから作りましたが、どちらも「閨係」という存在で苦しむ恋のお話です。
そして!! 私事ですが、本作『回帰したシリルの見る夢は』を書籍にしていただくことになりました。
連載中たくさんの方に応援していただき、奨励賞を取れたことで書籍打診をいただくことができました。本当にありがとうございます。担当さんと一緒に頑張って作り直しました。より読みやすく、わかりやすく、そして受け入れやすくなったと思います。詳しい詳細は近況報告でお知らせいたします。
お手に取っていただけたら嬉しいです。
2024.2.26 riiko
――それは、前の生の僕の人生が終わった後の話だった。
僕が命を散らしたあと、僕を凌辱した騎士たち、後宮官僚、そしてミラー男爵家は全員処刑された。
僕は急な病で亡くなったことにされたが、家族だけは真実を伝えられる。兄が公爵家を引き継ぐと、両親は悲しみから国を捨て母の祖国に行った。
アシュリーに関しては僕と同じ苦しみを味わうため、フランの命令により番がいる状態で凌辱され命を落とした。リアム様は率先して死地へ向かい、国に忠誠を誓い戦死した。フランは僕を失ってから番欠乏の病にかかり、後追いのように僕の死後一年で亡くなる――そんな壮絶な話を聞いた。
不幸な最期を迎えたのは、僕だけではなかった。全員が苦しみながらこの世を去ったという、僕の知りえなかった話をフランから聞かされ、僕は戸惑う。
「結婚当初、受け入れる心の準備が整っていないシリルを無理やり抱き、友を利用してシリルの心を縛った。夢は過去の罪が見せた私への戒めだろう」
「フラン……」
これがただの夢ではないことを、僕だけが知っている。
僕の死後も彼らの人生は続き、苦しんだ。そして僕の回帰により、僕だけじゃなく皆が救われた?
一度目の人生はちゃんとフランの中にも存在していた。ただ僕だけが回帰の記憶を持っていただけで、実際は皆が経験してきたことなのかもしれない。
僕は、涙を流すフランに抱きつく。
「大丈夫、僕はここにいる」
「シリル、私の可愛いシリル」
僕がすべての記憶を思い出すまで、この生でもフランを苦しめた。
フランは夢を見たことで、過去の罪が浄化したようだった。僕たちの回帰がようやく終わり、次の幸せへと進むかのようにその年の発情期に、僕は子を身ごもった。
* * *
「お父さま~、お母さま~、早く!」
「待って、アルフレッド」
三歳になる我が子がわんぱくなのは、お義母様似だから。王宮に勤める皆がそう言うから間違いない。僕たちの息子は、王宮でたくさんの愛に包まれ育てられていた。
「シリル、アルフレッドの体力に付き合ったら大変だぞ」
「でも、ここ久しぶりだし! 僕も楽しみたい」
ここは王都から少し離れた王族専用の保養地、幼い僕とフランの出会いの場所。城の前には大きな湖があり輝いている。緑が豊かで綺麗に整備された庭も美しい。
「ここは変わらず美しいな」
「うん、キラキラの湖を見てアルフレッドが興奮しているね。可愛いなぁ」
両親を呼んだ割にはもう関心をなくし、今度は近くにいるリアム様の手を取り、楽しそうに湖まで走っている息子を見てフランは微笑む。そして僕の手を優しく握る。
「そうだな、私たちの子は本当によく育って愛おしい。リアムが見てくれているから、少し二人で歩かないか?」
「いいね!」
優しいリアム様は、一人先を走る息子のお守りをしてくれる。それを見て、僕はフランの胸に頭を預けた。フランは、そんな僕を愛おしいというような瞳を向ける。
「今のあの子と同じ歳に、ここでシリルに出会って恋に落ちた」
「僕はキラキラの男の子にわくわくしたよ」
フランの輝く金の髪を撫でると、フランは僕を見つめる。
「シリルは私の運命だ」
「フランは過去から繋がっている……僕の運命だよ。ねぇ、あの時の夢だけど」
「うん?」
何年経ってもフランの香りに、雰囲気に魅了される僕は彼に向き合う。
「好きな人の胸で最後を迎えるなんて……、夢の中の僕も愛に生きている今と同じ。フランのこと、どうしようもなく愛している」
「シリル、私も。最後の時をあなたと迎えるためにここに還ってきたとようやくわかった。私こそ、あんな夢を見るほど、シリルがいない世界で生きていけないくらい愛している」
遠くで息子の声が聞こえる心地いい世界で、僕はフランに口づけをする。
「僕も、あなたを愛するためにここに来たよ」
僕の顔を見て驚くフラン、すぐに何かを納得したかのような顔で。
「ああ、初めて番になった日に言ってくれた言葉が、今ようやく理解できた。私もシリルを愛するためにここにいる――それが私の見る夢だ」
僕とフランは同じ夢を見ていたんだ。僕は彼と同じ夢を見るために、ここに還ってきた。
これは、そんな幸せに包まれた日の話だった。
――fin――
お読みくださりありがとうございます。
フランとシリルの出会いの場所は、シリルの乳兄弟セスの生まれ故郷にある王族の避暑地という裏設定です。フランの母親シンが主人王のお話、『王太子専属閨係の見る夢は』エピローグのお話で、フランとシリルはここで出会います。三歳の時、フランがシリルに一目惚れしたシーン収録ありです。親世代のお話は、シリルの話を書き終えてから作りましたが、どちらも「閨係」という存在で苦しむ恋のお話です。
そして!! 私事ですが、本作『回帰したシリルの見る夢は』を書籍にしていただくことになりました。
連載中たくさんの方に応援していただき、奨励賞を取れたことで書籍打診をいただくことができました。本当にありがとうございます。担当さんと一緒に頑張って作り直しました。より読みやすく、わかりやすく、そして受け入れやすくなったと思います。詳しい詳細は近況報告でお知らせいたします。
お手に取っていただけたら嬉しいです。
2024.2.26 riiko
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