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8 輝く世界
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手料理を作って、二人でご飯を食べた。
まるで新婚の頃のように、料理をする僕の周りにまとわりつく大樹が愛しくて仕方なかった。彼の好きなハンバーグを作る。はたして笹塚の味覚に合うのかはわからないが、大樹は「この味だ!」と言って喜んで食べていた。
大樹のすること、話すこと、すべてが嬉しくてたまらない。
その夜はお互いに抱き合って眠った。僕は睡眠薬を飲んだ時以上に熟睡出来て、一瞬で朝が来ていた。起きると大樹が僕を見ていて、照れた。
「まずは、お前が食べて眠る姿をこの目で見られて、俺それだけで嬉しいわ」
「なんか、妻じゃなくて子供に接するみたいだね」
「バカ言うな。俺は今、この体の使い方をイメトレしてる最中だ。子供にしないことを明日、お前にするからな」
僕に朝のキスをする大樹。
聞いていて恥ずかしくなるセリフを、笹塚の顔で言うのはやめてほしいけれど、大樹にまた抱いてもらえる自分を想像して、そわそわした朝だった。
大樹のリクエストで、朝は僕たちのいつもの朝食、鮭と納豆とお味噌汁という定番の朝定食みたいな庶民的な朝食になった。
大樹は涙を流して、おいしいって食べてくれた。
僕も泣いた。
せっかく来たのだから、会いたい人とかやりたいことはって聞いたら「蓮だけだ」と言う大樹。僕はまた嬉しくて泣いた。
泣きすぎだと言う大樹も、目がウルウルしていた。ほんと似たもの夫夫だと思った。
大樹はちっとも変わってなくて、ハンバーグ、カレーライス、すき焼き、生姜焼き、とにかくそれが食べられれば満足だと言う。食いしん坊なアルファの旦那様を持つと、自然と料理の腕が上がっていったのは間違いない。この三年間、大樹の仏壇にそういった料理をお供えしていたので、腕は落ちていないはず。大樹はおいしいおいしいって食べてくれるのを見て、そう確信できた。昼には大樹のリクエストのカレーライスを作って食べた。
三日しかない大樹の時間は全て僕だけに使ってくれるという話なので、二人は近所へ買い物したり、散歩したりするくらいで、ずっとこの家にいた。これが僕たちの結婚生活そのものの日常。そして今夜は大樹の親友夫妻と夕食を共にする約束をしている。
これは大樹が望んだこと。直接、親友の隆太に会って、僕のことを見てくれていたことに感謝をしたいと言った。
ちょうど、料理が作り終える頃にチャイムが鳴る。
大樹が玄関に隣人夫婦を迎えに行くと、初めは怪しそうに大樹を見ていた隆太もすぐに意気投合していた。姿かたちは変わっても、親友だった時間は変わらないんだなと感じた。もちろん、隆太は事情を知らないから、突然現れた僕の従兄弟だと思っている。
すき焼きを四人で食べて、お酒も飲んで、大樹が生きていた頃と変わらない楽しい食事会ができた。隆太も久しぶりに酒に酔ったのか、最後は泣きながら大樹の想い出話をしていた。それを聞いて僕も愛子もしんみりする中、大樹だけは楽しそうに突っ込んで笑っていた。
親友同士が話すのを久しぶりに見て、僕もたくさん笑った。
翌日も普通に二人で起きて、朝からテレビをつけて朝食を食べた。今日はクリスマスイブなので、毎年クリスマスにしていたことをしようとなった。
それは、いつもの場所にイルミネーションを見に行くこと。それを見て、夜は愛し合うということを毎年してきた。
ついに僕は今夜、笹塚の姿をした大樹に抱かれる。そう思うと少し緊張してきたけれど、大樹とクリスマスデートをできることに喜びを感じていた。
大樹と二人、駅まで歩いて電車に乗った。僕が電車に乗るのは大樹と一緒の時だけだから、二人で手を繋いで遠出をしたのを思い出して楽しくなった。
ワクワクする気持ちなんていつ以来だろう。彼と一緒に歩いている。それだけで世界は色を取り戻していた。ずっと笑っている。ずっと手を繋いでいる。ずっと彼の温もりを感じている。ずっと輝いている。
――僕の世界が、大樹のいる世界になって輝いている。
幸せしかなかった。
屋台でホットワインを飲んで、クリスマスマーケットを楽しみ帰宅する。
我が家はなぜかクリスマスにチキンではなくて、大樹の好きな生姜焼きを作るのが決まりだった。もちろんクリスマスケーキはある。それは、僕の大好きなチョコレートケーキ。大樹を失ってから甘いものをあまり欲さなくなっていた。久しぶりに食べるケーキはほんのり苦みを感じた。それは、これからくる大樹との二度目の別れを知っているからかもしれない。
大樹との幸せな二日間はこうして終わりを告げようとしていた。彼がお風呂に入っている間に、僕は覚悟を決めた。
これから彼と番になる。幸せなような、深い絶望のような複を雑な気持ちもあったけれど、今は違う。大樹と過ごして、デートして、日常を体験した。彼と同じ時間過ごして、世界は輝きを取り戻した。
僕の気持ちに整理をつける時間をくれた。突然いなくなった夫が帰ってきてくれて、ちゃんと最後のお別れをする覚悟をくれた。
それだけで、僕はもう一生を生きていく決意ができた。
だけど、それではだめだ。この先の笹塚を受け入れ、笹塚を愛する未来を受け入れるために大樹に抱かれる。愛する大樹に抱かれる僕を、笹塚に託す大樹の心情だって相当な覚悟だと思う。
だから、僕は受け入れる。
――これから僕はもう一度、最愛のひとの番になることを。
まるで新婚の頃のように、料理をする僕の周りにまとわりつく大樹が愛しくて仕方なかった。彼の好きなハンバーグを作る。はたして笹塚の味覚に合うのかはわからないが、大樹は「この味だ!」と言って喜んで食べていた。
大樹のすること、話すこと、すべてが嬉しくてたまらない。
その夜はお互いに抱き合って眠った。僕は睡眠薬を飲んだ時以上に熟睡出来て、一瞬で朝が来ていた。起きると大樹が僕を見ていて、照れた。
「まずは、お前が食べて眠る姿をこの目で見られて、俺それだけで嬉しいわ」
「なんか、妻じゃなくて子供に接するみたいだね」
「バカ言うな。俺は今、この体の使い方をイメトレしてる最中だ。子供にしないことを明日、お前にするからな」
僕に朝のキスをする大樹。
聞いていて恥ずかしくなるセリフを、笹塚の顔で言うのはやめてほしいけれど、大樹にまた抱いてもらえる自分を想像して、そわそわした朝だった。
大樹のリクエストで、朝は僕たちのいつもの朝食、鮭と納豆とお味噌汁という定番の朝定食みたいな庶民的な朝食になった。
大樹は涙を流して、おいしいって食べてくれた。
僕も泣いた。
せっかく来たのだから、会いたい人とかやりたいことはって聞いたら「蓮だけだ」と言う大樹。僕はまた嬉しくて泣いた。
泣きすぎだと言う大樹も、目がウルウルしていた。ほんと似たもの夫夫だと思った。
大樹はちっとも変わってなくて、ハンバーグ、カレーライス、すき焼き、生姜焼き、とにかくそれが食べられれば満足だと言う。食いしん坊なアルファの旦那様を持つと、自然と料理の腕が上がっていったのは間違いない。この三年間、大樹の仏壇にそういった料理をお供えしていたので、腕は落ちていないはず。大樹はおいしいおいしいって食べてくれるのを見て、そう確信できた。昼には大樹のリクエストのカレーライスを作って食べた。
三日しかない大樹の時間は全て僕だけに使ってくれるという話なので、二人は近所へ買い物したり、散歩したりするくらいで、ずっとこの家にいた。これが僕たちの結婚生活そのものの日常。そして今夜は大樹の親友夫妻と夕食を共にする約束をしている。
これは大樹が望んだこと。直接、親友の隆太に会って、僕のことを見てくれていたことに感謝をしたいと言った。
ちょうど、料理が作り終える頃にチャイムが鳴る。
大樹が玄関に隣人夫婦を迎えに行くと、初めは怪しそうに大樹を見ていた隆太もすぐに意気投合していた。姿かたちは変わっても、親友だった時間は変わらないんだなと感じた。もちろん、隆太は事情を知らないから、突然現れた僕の従兄弟だと思っている。
すき焼きを四人で食べて、お酒も飲んで、大樹が生きていた頃と変わらない楽しい食事会ができた。隆太も久しぶりに酒に酔ったのか、最後は泣きながら大樹の想い出話をしていた。それを聞いて僕も愛子もしんみりする中、大樹だけは楽しそうに突っ込んで笑っていた。
親友同士が話すのを久しぶりに見て、僕もたくさん笑った。
翌日も普通に二人で起きて、朝からテレビをつけて朝食を食べた。今日はクリスマスイブなので、毎年クリスマスにしていたことをしようとなった。
それは、いつもの場所にイルミネーションを見に行くこと。それを見て、夜は愛し合うということを毎年してきた。
ついに僕は今夜、笹塚の姿をした大樹に抱かれる。そう思うと少し緊張してきたけれど、大樹とクリスマスデートをできることに喜びを感じていた。
大樹と二人、駅まで歩いて電車に乗った。僕が電車に乗るのは大樹と一緒の時だけだから、二人で手を繋いで遠出をしたのを思い出して楽しくなった。
ワクワクする気持ちなんていつ以来だろう。彼と一緒に歩いている。それだけで世界は色を取り戻していた。ずっと笑っている。ずっと手を繋いでいる。ずっと彼の温もりを感じている。ずっと輝いている。
――僕の世界が、大樹のいる世界になって輝いている。
幸せしかなかった。
屋台でホットワインを飲んで、クリスマスマーケットを楽しみ帰宅する。
我が家はなぜかクリスマスにチキンではなくて、大樹の好きな生姜焼きを作るのが決まりだった。もちろんクリスマスケーキはある。それは、僕の大好きなチョコレートケーキ。大樹を失ってから甘いものをあまり欲さなくなっていた。久しぶりに食べるケーキはほんのり苦みを感じた。それは、これからくる大樹との二度目の別れを知っているからかもしれない。
大樹との幸せな二日間はこうして終わりを告げようとしていた。彼がお風呂に入っている間に、僕は覚悟を決めた。
これから彼と番になる。幸せなような、深い絶望のような複を雑な気持ちもあったけれど、今は違う。大樹と過ごして、デートして、日常を体験した。彼と同じ時間過ごして、世界は輝きを取り戻した。
僕の気持ちに整理をつける時間をくれた。突然いなくなった夫が帰ってきてくれて、ちゃんと最後のお別れをする覚悟をくれた。
それだけで、僕はもう一生を生きていく決意ができた。
だけど、それではだめだ。この先の笹塚を受け入れ、笹塚を愛する未来を受け入れるために大樹に抱かれる。愛する大樹に抱かれる僕を、笹塚に託す大樹の心情だって相当な覚悟だと思う。
だから、僕は受け入れる。
――これから僕はもう一度、最愛のひとの番になることを。
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