オメガの復讐

riiko

文字の大きさ
上 下
1 / 4

前編

しおりを挟む
「お前のこと誰にも見つけさせない」

 愛しいオメガを抱いていつも最後にそう言うと、オメガはいつも通り微笑む。

 このオメガは運命ではない。
 
 だからこそ、誰にも触れられないように囲わなくてはいけない。こいつに運命が現れたら、たとえつがい関係を結んでいたとしても無かったことになる。実体験でその威力を知っているからこそ、今度はその脅威に怯えるのが自分だ。

 俺には昔、つがいがいた。

 とても淑やかで従順なオメガだった。彼がとても好きですぐに囲った。そしてつがい契約をすると腹に子ができた。順番は逆だが結婚しようと言うと、彼は泣いて喜んだ。

 しかし入籍を控えたある日、俺は運命に会ってしまった。

 それは何とも言えない高揚感と、隣にいたつがいのことを愛していたなんてまるで信じられないくらい、運命しか目に入らなかった。隣で呆然とするオメガを見向きもせず、俺は運命を抱きしめその場から去った。

 運命のオメガとつがい契約を結び少し落ち着いた頃、元つがいに会いに行くと、捨てないでと泣いて縋られたが、もうどうしようもなかった。

 どうしてこのオメガをつがいにしてしまったのかと、後悔すらした。不幸中の幸いなことに、彼とはまだ入籍していなかったので、すんなり別れた。堕胎費用と慰謝料として百万を渡し、彼とはそれきりだった。

 しかし運命のつがいは、その時末期がんを患っていて半年後にこの世を去った。それから失望感で何も手につかなくなったとき元つがいが気になりはじめた。

 連絡を取ると家族から息子は死んだと言われた。

 死因は、つがい解除による衰弱。腹に子がいるままこの世を去った。自分のしたことに、その時初めて気付き、彼を想い涙を流したが遅かった。あんなに愛してくれた人は今までいなかった。運命とはその場で盛り上がるも、病気の世話がほとんどだったので愛を交わした時間は少ない。

 思えば、俺が本当に愛していたのは最初につがいにしたあの男だった。
 
 だから、今度こそ間違わない。つがいにしたら絶対に一生離さない。

 この胸に抱える、あの元つがいに似ている可愛いオメガを一生離さない。そしてもう一度、自分に言い聞かせるかのように囁く。

「愛してる、絶対に離さない……」

 オメガはそんな俺を見て、いつも天使のように微笑むだけだった。


 * * *

「あなたはこの男を、生涯愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」

 今日は結婚式。恋人は結婚するまで絶対につがいにならないと決めていた、今時珍しいくらい純粋な子だった。
 
 もちろん妊娠を許してくれるはずもなく、発情期は抱かせてくれなかった。彼を抱く回数は片手に入るくらいしかなかった。外泊はできない、結婚するまで一緒に暮らせないと言われていたので、ひと時も離れたくなかった俺は、すぐにプロポーズして出会って半年で結婚式を挙げた。

 今日、ついに彼を手に入れることができる。

 彼は神父の言葉に頷き、俺を受け入れる。祝福のベルが鳴り、俺たちは教会を出て長い階段を降り、参列者からフラワーシャワーを浴びていた。彼は俺の腕に腕を絡め終始笑顔だった。

 しかし階段を降り切る前に、彼の表情が一瞬歪んだ。きょろきょろして何かを探している様子。

「どうした?」
「あ、う、運命が……」
「え?」

 彼が一言、「運命」と口にして俺の手を離した。

 すると彼のフェロモンが急激に香り始める。今まで発情期には会えないと言われていたので、こんなに強いフェロモンを感じたことはない。

 それは、元つがいと同じ可憐な花の香りだった。

 周りの参列者がざわめく。今日はアルファの知り合いも多く来ているので、彼のフェロモンを感じて皆が焦っている。フェロモンを振りまく彼は、そんな参列者や俺のことは見向きもせずに、ブーケを床に落とし、階段を駆け降りる。

 唖然として固まってしまった俺は、その時オメガの先にいる男に気が付いた。

 余裕の顔で微笑み、手を広げる男は、まるでオメガを待っているかのようだった。

「おいで、僕の運命」

 アルファらしき男がそう言うと、俺のオメガは泣きながら走り出す。

「僕の運命の人!」

 そしてそのアルファの胸に飛び込むオメガ。

 ガーデンウェディングで選んだ会場。
 同じようないくつかの建物が並ぶ隣の会場でも結婚式が執り行われていた。その参列者たちが外に出てきている。彼もその一人だったのだろう。引き出物を持つ手を見てそう思えた。

「うわっ、まじかよ、お前、人の花嫁が運命?」
「すげー、おめでとう! 運命のつがい、俺初めて見たわー!」
「うわー良かったな!」

 隣のウェディング会場はちょうど終わったところだったらしく、皆引き出物を持った手で拍手をして、参列者の一人だったであろう友人アルファを祝福する声。隣の新郎新婦まで涙を流して喜んでいる。

 そして俺たちの式に参列していた人たちも――

「わー、運命ならしょうがないよね。結婚式に可哀想―」
「でも、因果応報じゃね? あいつ確か一回つがい解除でオメガ死なせてなかったっけ?」
「最低なことしといて、またつがいを得ようとするからバチが当たるんだよ」

 まさかの友人側からも、俺のオメガと見知らぬアルファの運命を祝福する声。そして俺の過去を知られていて罵られることに驚いた。

 俺が驚愕に目を見開いくと、オメガはアルファにキスをしている。俺には濃厚なキスは好きじゃないといって、抱いている時しか許してくれない唾液を絡めるキスを自分からしていた。

 そして、相手のアルファはキスされている最中俺を見て、ほくそ笑んだ。そして俺の目を見ながら、オメガに話す。

「もう、君を離さない。一生僕のオメガでいてくれる?」
「うん! 僕のアルファはあなただけ! 間違いで入籍しなくて本当に良かった!」

 彼は今何と言った……「間違いで入籍」俺は間違いの相手だった?

 入籍は式が終わって翌日に二人で届け出を出そうと言っていた。だから、結婚式を挙げてはいたが入籍はまだしていない。

「うわっ、あいつ、マジで哀れすぎ」
「でも入籍前で、オメガちゃん助かったねぇ。ほんと最悪なアルファのつがいになる前に運命に会えて良かったわ」

 友人たちの声が、まるで俺に聞かせるかのように聞こえてくる。隣の参列者たちもその声が聞こえたようで、「最低なアルファって世の中いるんだ……」とひそひそとこちらを見て話す女性たち。

 俺は、過去の過ちを、今更責められている。
 
 そして、俺のオメガは俺を振る向くことすらなく、そのアルファと会場を後にしていた。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~

仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」 アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。 政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。 その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。 しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。 何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。 一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。 昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) 些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜

白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。 しかし、1つだけ欠点がある。 彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。 俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。 彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。 どうしたら誤解は解けるんだ…? シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。 書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。

勘弁してください、僕はあなたの婚約者ではありません

りまり
BL
 公爵家の5人いる兄弟の末っ子に生まれた私は、優秀で見目麗しい兄弟がいるので自由だった。  自由とは名ばかりの放置子だ。  兄弟たちのように見目が良ければいいがこれまた普通以下で高位貴族とは思えないような容姿だったためさらに放置に繋がったのだが……両親は兎も角兄弟たちは口が悪いだけでなんだかんだとかまってくれる。  色々あったが学園に通うようになるとやった覚えのないことで悪役呼ばわりされ孤立してしまった。  それでも勉強できるからと学園に通っていたが、上級生の卒業パーティーでいきなり断罪され婚約破棄されてしまい挙句に学園を退学させられるが、後から知ったのだけど僕には弟がいたんだってそれも僕そっくりな、その子は両親からも兄弟からもかわいがられ甘やかされて育ったので色々な所でやらかしたので顔がそっくりな僕にすべての罪をきせ追放したって、優しいと思っていた兄たちが笑いながら言っていたっけ、国外追放なので二度と合わない僕に最後の追い打ちをかけて去っていった。  隣国でも噂を聞いたと言っていわれのないことで暴行を受けるが頑張って生き抜く話です

処理中です...