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番外編
愛妻家上條楓の日常 3
しおりを挟む由香里がまどろむ顔をして俺を見る。
「楓っ、もう、もうダメだって」
「あと一回だけ、もう一回で終わりにするから」
「さっきも言った。ああ、もう僕痛いよ、そんなに噛んだらっ」
明日は俺たちの息子、桜の中学の卒業式。大勢のアルファの親が来る。そんな場所に由香里を連れていくにはきっちりとマーキングをしなければならない。しつこい位に由香里の中に俺の子種を吐き出して、そしてうなじを中心に噛みまくった。
最後に噛みながら達すると由香里は意識を失った。これで明日は一日連れまわしても、誰も由香里に手を出そうとしないはずだ。俺も安心して、気を失った由香里を風呂にいれてから一緒に眠りについた。
***
「ぐすんっ、ぐすっ、うう、桜あんなに大きくなって……」
「そうだな、さすが俺たちの子だ。立派になったな」
桜は今、全校生徒の前で卒業生代表として挨拶をしている。本当に立派になった。この三年での桜の成長は目覚ましかった。上位種アルファの息子で、特殊フェロモンを持つ高嶺のオメガの安里家の血も交じってか、親の俺が言うのもなんだが相当優秀な子に育った、今から会社に入れる日が楽しみで仕方ない。
隣では、相変わらず美しすぎる妻の由香里は、感動の涙を流している。まわりの男どもの視線がうるさくて由香里を見る奴をひと睨みすると、慌てて目を外すが油断できない。だからこういった大勢の来る場所に由香里を連れていくのは嫌なのだが仕方ない。一人息子の晴れの日を見せないわけにはいかないからな。
「楓、連れてきてくれてありがとう。もう桜も立派になって安心だね。桜は好きな子はいないって言っていたけど本当かな? 婚約は決まったけど、あれって二人とも虫除け程度のおままごとだもんね? 楓は中学の時どうだった? いつからあんな遊び人だったの?」
「えっ、その話っていったい何年聞かれ続ける? 由香里一筋になってからはもう過去のことはいいだろ?」
焦った……俺は中学の頃からヤリチンだった。
そんなこと今さら由香里には言えないし、桜を見る限り、あいつも相当遊んでいると思う。俺も若かりし頃のことがあるから息子にさえ強く言えない。桜には絶対に妊娠させるなということと、運命以外は番にするなと幼いころから教育はし続けていた。
今は上條の事業絡みで悪い虫が付かないようにと、由香里の親友の梨々花の娘と婚約中だった。梨々花の旦那の会社と上條とで仕事絡みがあり、悪くない話だと両家で決めた。
なにより桜の幼馴染……梨々花の娘は相当な美少女オメガで、誰彼構わず声を掛けられることに疲弊していた昔の由香里みたいで、由香里も同情していたくらいだった。梨々花も娘に悪い虫が付くのを嫌がっていた。桜を体のいい虫よけ代わりにしているのは笑えたが、桜も誰かに本気になるより遊びたい盛りだったみたいで、婚約者がいる方が本気にされなくて済むという、お互いに割り切った婚約だった。本人たちがそれでいいならいいかと、親もそんな感じ。
それでも二人は幼馴染なので仲がいいが、けっして恋仲ではないのは誰もが知っている。梨々花の娘はオメガだけれども優秀で、将来は経営者になりたいようでそっちに精を出すために、恋よりも勉強やビジネスに夢中だった。桜も経営学に夢中だが同時に有り余る精力を発散できるような軽い付き合いを望んでいた。お互いに何かタッグを組んでいるのを俺たちは知っていたので好きにさせていた。
「それにしてもさ、中学に入ってからなんで桜はあんな感じになっちゃったのかなぁ、やっぱり親元でもっとしっかり育てるべきだったかな?」
「ん? あんなって? かなり優秀に育ったと思うけど、何が気に食わない?」
「あのしゃべり方!! どうして実の親に敬語なの? 昔はお母さんって言ってくれたのに今では母さんだよ、酷くない? それにかしこまった言い方も気に食わない」
「そう言うな。桜なりに俺たち親ときちんと向き合った結果、ああしているんだから。生徒会長として生徒を引っ張る大役をするくらいの役職について、将来は上條グループを引っ張る御曹司だ。桜なりに今から考えて頑張っているんだろう。それに桜は親離れする方法がそれだと思ったんだから、認めてあげろよ」
たしかに桜はちょっと怖い、俺を見る目が呆れているのはもうかなり昔からだった。経営者としては尊敬してくれるようで、休みの日に会うと仕事の話をよくするが、たちまち家で会うと俺と由香里のイチャラブを呆れた目をしてそっといなくなる。まあそのお陰で、由香里とは息子の前でもイチャイチャしても問題ないのでありがたい。幼い頃からそうやって育てた賜物だった。
そして中学を卒業すると、寮も引っ越しして高等部の寮に入る。荷物は春休みの内に運ばれる手筈を整えているから、春休みは実家で久しぶりに過ごす桜と家に帰ることとなった。由香里はとっても機嫌が良くて喜んでいるけれど、ああ、今日からは少し自重しなければダメかな? そのために昨日までのひと月は一日も欠かさずに由香里を抱き続けた。
「桜!! 卒業おめでとう」
「母さん……ありがとうございます」
校舎を出てきた桜に由香里が抱きついた。まわりの目が凄いな、嫉妬に狂う目をしているオメガを数人見つけた。あれは桜のセフレか? そして由香里の美しさに見とれるアルファの卵たちもいた。俺の嫁をそんな目で見るなんてまだ早えんだよ、そう心で思って、二人をまとめて抱きしめた。これで俺が夫で親だと分かるだろう、俺なんて親切なんだ、周りの安心する目と憧れのような眼差しが見て取れた。
「桜、おめでとう! 今日はお祝いだ、父さんと母さんがお前をねぎらってやるからな!!」
「ふふ、ありがとう。父さん」
まだ少し照れくさい顔も出来るのかと安心したのもつかの間、桜が俺にだけ聞こえるようにぼそっと言った。
「息子の俺に会わせるのに警戒したんですか? それともここに来る親たち? あまりにフェロモン付け過ぎるのもどうかと思うよ。愛妻家の上條家をそんなに周知したら、上條家の弱点は母さんって教えているようなものですよ。これから母さんに詰め寄る人が出てくるかもしれない、守りたいなら家にしまっておけばいいのに」
「お前……恐ろしいやつだな」
ニコっと笑って、俺以上にヤンデレ発言していないか? 俺はいくらなんでもそんなことまでしないぞ。守りたいからこそ、外でも俺が側に居ればいいだけだから閉じ込めるなんてしないぞ、絶対!!
「俺には一生その気持ちは分からないので安心してください」
「バカが。お前は俺の息子だ、きっと俺以上に今の俺の行動の意味を分かる日がくるさ」
俺と桜のひそひそ話が気に食わなかったようで由香里がしびれを切らした。
「もう!! 二人で何? はやく行こうよ」
「ああ、そうだな」
久しぶりに一家三人揃うのを楽しみにしていた由香里が俺たちを急かした。二人を連れて待っている車へとエスコートした、その時の周りの目線に優越感を覚えた。
俺の家族最高だろ!? 息子の卒業式でこんな気持ちになるなんてな、俺もただの親だったみたいだ。
愛おしい家族に囲まれて、俺は幸せものだ。
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わぁ( ^∀^)
やはりあのミッキーリンさまでしたか( ¨̮ )いつもありがとうございます!!!
ゆかりのストーリー大好きと言っていただけて嬉しいです( ˃ ⌑ ˂ഃ )エブリスタさんでは、運命シリーズなどご覧頂きありがとうございました。こちらにも起こしいただき恐縮です。
ローゼラはミッキーリンさまにお読みいただいていた作品と違い、かなりダークな部分も混ざっているのでお好みに合うか分かりませんが、良かったらお楽しみくださいませ♪
応援は励みになります!本当にありがとうございます!!!
ご感想ありがとうございます☆
続編希望や可愛らしい文章の感じ、お名前から推測するに…もしやエブリスタさんで素敵コメントをくれたミッキーリンさまでしょうか?(違ってたらごめんなさいっ)
あちらはそんなにコメントないので、書いてくれた方は印象に残るんですwありがとうございます!!!
桜ちゃま時代は書けませんがw桜が相手役の物語は「ローズゼラニウムの箱庭で」になります。近々エブリスタさんにも転載予定です!そしてゆかりの子供は桜オンリーなんですよ。その謎もローゼラ最終話あたりでネタバレしますが!
楓と2人ラブラブ生活を送りたーい!という理由でした(๑ ́ᄇ`๑)
熱烈なコメント嬉しかったです(*´ `*)ありがとうございました!!!
オメガバース大好きなので、オメバ中心に作品を読ませて頂いていたら、こんな所にあんな人が...!(表現悪くてすみません💦)
イチャラブはずっと変わらないんですね😁
素敵な作品、有難うございました。
ご感想ありがとうございます☆
こちらの作品もお読みくださり嬉しいです!
ローゼラでもラブラブでしたが、2人のなりそめはこんな感じでした(´˘`*)
お楽しみいただけて良かったです!これからもオメガバース作品頑張ります( ¨̮ )