上位種アルファと高値のオメガ

riiko

文字の大きさ
上 下
16 / 31
本編

16、婚約者   

しおりを挟む

「由香里、急に来てもらって悪かったね。このホテルで会合があったから」
「いえ、僕の方こそ急にお時間作っていただきありがとうございます」

 僕の手を当たり前のように触って、握ってきた。気持ち悪い。

「あ、あの」
「婚約者なんだから、エスコートさせてくれ」
「……はい」

 エレベーターに乗せられて上の階へと上がる。

「あの、どこに向かっているんですか?」
「ああ、部屋を取ったからそこでゆっくりしよう」
「えっ」
「そんなに警戒するな。今はホテルのラウンジも混んでいるから、部屋でコーヒーを頼んで話をするだけだよ」

 本当に? でも個室なら僕の方が有利だ。僕のフェロモンを浴びれば僕は逃げることも出来るから、っておかしいか。婚約者から逃げることを前提に部屋に行くのも。でも何から話そうか悩む。個室の方が都合いいかもしれない、婚約解消話を人が多いところで言うのもお互いに気まずいだろうから。

 部屋に着いてコーヒーを頼むと、ウェイターが持ってきてくれた。

「由香里、今日もとても綺麗だよ」
「ありがとうございます。あの、事前に連絡した通り、今日はこの首輪の鍵をもらいたくて」
「どうして? 今すぐ俺とつがいになる気になった? でも発情期まではまだ一ヶ月あるよね?」

 なんで僕の発情周期を知っているんだ!? 気持ちが悪い。

「いえ、そうではなくて。ちょっと首輪に傷がついてしまって新しいのに変えたいんです」
「それなら、すぐ新しいのを用意するからそしたら俺がまた付け直してあげるよ」

 どうしよう、なんかもう本題に入るしか無いかも。

「その、僕、運命のつがいと出会ってしまったんです」
「な、なんだって!?」

 小湊が驚いて大声を上げた。

「その人とつがいになりたくて、それでこの婚約を無かったことにしていただけませんか? これまで安里あざと家に支払ってくれた費用は一生かかってもお返しします」
「由香里、そいつと寝たのか!?」
「そ、それは」
「婚約者がいながら、他のアルファに股を開くとは、なんという淫乱オメガだ!! くそっ! これは不貞だ、許さない」

 どうしよう、穏便に話すのは無理だ。だってめちゃくちゃ怒っている!!

「あっ!」

 急に腕を掴まれて、顔を床に押し付けられた。

「くそっ! そのアルファが首輪を噛んだんだな!!」
「痛っ」

 上から頭を押さえられて、ひと目でこれが噛み跡だと分かる首輪のうなじ部分を見られた。つがいになりたいけれど首輪が邪魔して噛めなかった、そんな跡にしか見えない。

 僕は人が凄く怒っているのを見るのは、実は初めてで恐怖に固まった。生まれた時からこの容姿でチヤホヤされてきたし、無理やり従えるような人種が周りにいなかったせいもあり、人がここまで怒るということを僕は知らなかった。

 今度は無理やり起こされて、ベッドに放り投げられた。えっ、な、なに!? 何が始まるの。

 鍵を取り出して、首輪を外された。

「由香里ほどの美しさなら、処女じゃなくても仕方ない。だがお前を他の男になんてやるわけないだろ!! 今すぐここで犯してやる。婚姻届も今日提出する」
「えっ!?」
「まずは、俺のオメガを味合わせろ! 自ら服を脱ぐか、俺に脱がされるか選べ」
「や、やだ! どっちも嫌です! 話し合いをしましょう」

 小湊が僕にのしかかってきた。気持ち悪いっ、気持ち悪いっ、早く気絶して!! そう思うも、僕は今なんの興奮もしていない、性的に興奮しないと強いフェロモンは出ないから気絶する前に犯されてしまうかもしれない。

 嫌だ! 嫌だ!!

「いやっ、か、楓!! 助けてっ」
「他の男の名前を言うな!」

 僕の服を無理やり脱がそうとするも、抵抗されてそれが無理だと判断した小湊は、服を豪快に破った。その時、思わず楓の名前を言ってしまった僕の頬を殴ってきた。

「ううっ」

 僕は人生で初めて人から暴力を受けた。もう怖くてたまらない、話し合いが出来る、特殊フェロモンを出せるから大丈夫なんて、どうしてそんな安易な考えでここまでついてきてしまったのだろう、どの道この男が旦那になるなど、僕には無理だった。

 たとえ楓と出会っていなかったにしても、こんな男は耐えられなかっただろう。



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

処理中です...