上 下
10 / 31
本編

10、話ができない

しおりを挟む
 
 経験値の差が歴然として僕はひたすら鳴いていた。とにかく僕を追い詰めては休めて、最後は僕から何度も強請ねだった。

『おそるべき セフレおおきや アルファさま』

 うん、上手くまとまった! 

 僕の祖母は俳句の先生をしている、たまに僕も参加するんだけど、僕にはそんなセンスがないみたいでいつも上手くまとまらないんだよね。ここにきて、やっといいのが出来た!! 出来てないか、季語が見当たらない。

 まぁそんなことはさておき、行為を繰り返ししていたらすっかり夕方になった。食事もせずにずっとシテいたなんて、なんて破廉恥だ!!

 結局なんら話はせず、ただのベッドでの睦言むつごとだけで、お互いの話をしないままその日も別れた。今日は早く帰るって祖母に言ってあったから、さすがに二日続けて祖母を放置できないと言い、また送ってもらった。

 その時に楓は今日こそ挨拶って言ったけど、もう少し待ってとお願いした。まだ楓と出会ったことさえ話す暇もないまま今日という日がやって来たのに、いきなり孫から聞かされずに相手から話をされるなんて酷いでしょって言って帰らせた。

 本当はあのマンションでもう同棲を始めるって言われたけど、無理だよ、いろんな意味で。僕に婚約者がいることについてもまだ話していないし。

「ただいま――」
「お帰り!! 由香里」

 勢いよく陽子が玄関に出迎えに来てくれた。

「あれ? 陽子来ていたんだ」
「うん! うちの田舎から野沢菜が届いたから、亜香里さんに持って来たの! あっ梨々花もいるよ、お好み焼きを作っていたんだ。はやくっ、お夕飯だよ」
「そうなんだぁ! ありがとう、楽しみだなぁ」

 祖母と友人二人は仲良くしてくれていて、高校時代からよく我が家に遊びに来ていた。たとえ僕がいなくても祖母とお茶をしにくるという、仲の良さ。ありがたいけどね、でも今日は違うはず、きっと今朝の出来事が二人の耳に入ったに違いない。

「由香里、陽子ちゃんとこの野沢菜大量よ! ちょうど今梨々花ちゃんがお好み焼き作ってくれて、今からたこ焼きもするから、早く手を洗ってこっちにきなさいな」
「は――い、おばあちゃん! すぐ行くね」

 食卓には見事に粉ものばかり揃っていた、そこに陽子の田舎からの野沢菜は最高のエッセンスだった! 祖母も陽子も梨々花も女オメガでみんな話が合うようでなにより、僕はみんなの会話を聞いて楽しんでいた。主に二人の恋愛トークだったけれどね。

「そういえば、由香里だってそろそろこういう話に参加するべきじゃないかしら? 洋平さんと最近仲良くなってきたのでしょ? 昨日なんて珍しく日付またぎそうな時間に帰ってきたのよ」
「ちょ、おばあちゃん!!」
「あら、いいことじゃない。婚約者とうまくいっているなんて」
「そ、そうだね」

 陽子と梨々花が怪訝けげんな顔をしたけど、すぐさま二人に目配せをしてその場は突っ込まずにいてもらった。

「ねえ、亜香里さん! 由香里の話はあとでたっぷり聞き出しておくからさ、私の話きいてよ!!」
「あら、梨々花ちゃん。彼氏と旅行に行く話だったわね」
「そう、それ!!」

 ナイス梨々花!! そして夕食は楽しく終わって、あとは若い子たちで楽しみなさいと言われ、片付けが終わると祖母はお風呂にいった。そして僕の部屋で始まるのは、夜な夜な開催される恒例行事のオメガ会だった。

「由香里、どういうこと!? まず亜香里さんに言ってなかったの? お見合い相手が叔父さんに変わったこと」
「う、うん」

 梨々花に責められた。そして次は陽子が乗り出してきた。

「っていうか、上條先輩をいつの間に落としたのよ!! 今日の大学大変だったんだよ、まず上條先輩のセフレ達が動揺しだして……これは笑えたから、まぁいいとして。由香里ファンのアルファたちは泣きだすし! これも面白かったからいいんだけど」
「ん?」
「みんな事情が分からなすぎて、誰も真実を知らない。知っているのは校舎で上條先輩が由香里に熱い抱擁のちディープキス!! ねえ、何があったの!?」

 そうだよね、そこだけ公衆の面前でしてから二人は大学を後にした。まだ一限目が始まる前の朝早い時間だったけれど、見た人が噂をバラマキ、この二人の耳にも入ったということだった。

「うん、結果だけ言うと、処女を捧げた」
「「ええ――!!」」
「しかも運命のつがいだった」
「「えええええええ」」

 驚くよね、そりゃ、僕もびっくり展開だったよ。

「ちょ、ちょっと順を追って説明しよう、由香里落ち着いて!!」
「いや、落ち着くのは陽子でしょ」

 陽子がオロオロしだした、僕はいたって冷静だよ。すると梨々花がフォローに入った。

「そ、そ、そうよ、陽子まず聞くことあるでしょ、由香里うなじはどうなった!?」
「ああ、これ」

 二人に、少し長い襟足をかき揚げてうなじにかかる首輪を見せた。

「うわっ、首輪が無残にも……」
「一応、まだつがいにはなっていないのね」
「うん」

 首輪のうなじ部分は歯型でガチガチになっていた。一応髪で隠れているけど、かなり悲惨な首輪に仕上がっている、一瞬強姦にでもあった? と思われなくもない。

「首輪の鍵は持っていなかったから、つがいにはなれなかった。危なかったよ、マジで僕をつがいにする勢いだったから」
「いったい何があったの?」

 僕は昨日の出会いから、まあ致したことは簡単に話した。そして今日マンションに連れて行かれたことも、結婚をしようと言われたこともすべて包み隠さずに伝えた。

「じゃあ、上條先輩と結婚してつがいになるの? 運命だしそれが一番だよね」
「あの婚約者のことは言った?」
「そう、そこなんだよね。結局昨日も今日も二人とも盛っていて、何一つ話をしていないんだ、どうしよう」
「どうしようって、まずは亜香里さんに運命に会ったこと言ったほうがいいんじゃない?」
「いや、ちょっと待って。上條先輩は他のセフレとまずは切れているの?」

 なんだか頭がいっぱいだった。問題山積みじゃない?

「何から整理するべき? 僕昨日からヤリっぱなしで正直何を考えるべきなのかも分かってない」

 僕は二人に普通に聞いたけど、二人は顔を赤らめた。

「ヤ、ヤリっぱ……由香里の口からそんなセリフを聞く日がくるとは。でもそうだよね、まずは小湊との婚約問題じゃない?」
「由香里が大人の階段を……。じゃあ整理するとだよ、婚約者との結婚は絶対で、運命と出会ってつがいになる? これって二股!?」
「それいうなら、上條先輩は何股か分からなくない!?」

 オメガ女子たち言いたい放題だった。

「ちょっと、真面目に考えてよ」
「でも、私達も分からないよ、そもそも運命なんて本当に存在したんだね、そこに驚き!!」
「運命って、どんな感じ?」

 どんな感じって、言葉に現すのが難しい。

「ズドーン?」
「ははっ!! なにそれ」
「由香里、語彙力ごいりょくなさ過ぎ!!」

 大笑いされた。

「いやいや、そういうけど凄い衝撃だったんだよ。ズドーンとしか言いようがない」
「でもさすが由香里だよ、運命が上條先輩だなんていきなりの大物!! 処女喪失にはもってこいの相手だったね。で、喪失した後は……当初の予定通りこれであのオジサンと結婚ってわけにいかなくなったよね?」
「そこだよね、でもいくら運命が現れたからって僕のこれまで生きてきた過去を変えることはできないし、僕とおばあちゃんが生きてこられたのも小湊との契約のお陰でしょ。だから運命が現れたところで僕の人生が変えることは出来ない。なのに楓はどんどん先をいって、もちろん僕も楓が好きだけど、でもどうしようもなくない!?」
「……由香里」
「やっぱり亜香里さんに言った方が」

 僕たち三人はう――ん、と唸って結果がでないまま夜は更けていった。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る

112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。 ★本編で出てこない世界観  男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。

処理中です...