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覚醒編
35 家出三日目
しおりを挟む昨日はたくさん遊んだ。今まではオメガというだけで時給は安かった分、たくさんの時間を働いてきた。そのくせ薬代などで医療費は馬鹿にならない。収支バランスが完全におかしい生活をしていたので、俊は年頃の遊びをしてきたことはなかった。
裕は付き合っている相手がいつもいたので、それなりに遊んでいるようだった。その裕が木島の前に付き合っていた人とデートしたところが楽しかったからと、お台場にある施設に連れて行ってくれた。室内でたくさんの遊びができて、たくさん笑った。夜には映画も見て、美味しいご飯も食べた。
「あ――。昨日は楽しかったな。孝彦じゃ、ほら、年齢も顔もすでにアウトだろ。まず入り口で断られるからな、付き合ってくれてありがとう」
「はは、確かに木島さんにはちょっと似合わない場所かもね。僕あんな楽しいところ初めて行ったよ、連れて行ってくれてありがとう」
そうだ、昨日は全てを忘れて楽しんだ。昨日行った遊び場は、少し年齢層が若い人が主流だと感じた。高校生みたいな学生も多く来ていたが、俊も裕もオメガだからなのかよく十代に見られがちだった。木島は三十代後半で神谷よりも少し年上だが、見た目の威圧感が強すぎてもっと年上にも見えなくもない。そんな人がいたら少し違和感があるなというのが目に浮かび笑ってしまった。
今は神谷の家を出て三日目、そろそろ現実に向き合おうと俊は思っていた。木島のマンションで過ごしていたが、そろそろ神谷の仕事が終わる時間だ。今神谷の家に行けば会えるだろう。
「そういえば木島さんは?」
「ああ、仕事が立て込んでるんだってさ、あいつマンションいくつも持っているから、事務所近くで寝泊まりしてんじゃね?」
「もしかして僕が泊まりにきたから、遠慮して?」
「どうだろな。俺一人だと不安だからいつもここにいたけど、俊がいることで安心してるんじゃないの?」
結局二日間泊まらせてもらっている間、木島は帰ってこなかった。といっても昨日はお台場まで迎えに来てくれて、夕食は三人で外食した。マンションに送り届けると裕と熱烈なキスをしてまた車に乗り込んでいった。だから一応毎日会ってはいる。
「じゃあ、僕は今日出ていくね。神谷さんの家に行ってみる」
「待てよ、一人はさすがに……。なんかあったら怖いし」
「なんかって何?」
「ほら、監禁とか、もしくは証拠隠滅とか、警察だろ。人ひとり消すくらいさ」
「えぇ!? やっぱり僕は神谷さんに恨まれて……」
裕が不穏なことを言うので俊は驚いた。自分から捨てて、すんなりただいまと帰れるわけがないとは思っていたが、せめて言い訳を聞いてもらおうというのもまずいだろうか。
「いや、そうじゃなくてさ。あいつの目、俺から見ても典型的なアルファに見えたからさ、有無を言わさずに俊を監禁したりしそうな未来もなくない? 俺こんな別れ方嫌だし、一生俊とは兄弟でいたい。もし反社の嫁の友達はダメとか言われたら仕方ないから諦めるにしても」
「そんな怖い人じゃないと思うよ? その前に僕がフラれて警察に突き出される可能性もあるしね」
そんな時、俊は自分の荷物の一つであったスマホを起動するために、電源を入れた。そして電源を入れると同時に電話が鳴り響いた。びくっとすると、それは裕の電話だった。
「ええ! う、うんわかった」
裕はすぐに電話を切って、俊に向き合う。
「大変だ、俊」
「な、なに?」
「神谷が、事務所に乗り込んできた」
「え……」
「カチコミだ!」
「ええぇぇ――」
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