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日本編
31、そして家族になった
しおりを挟む「びり――‼」
「ハイ! スカイ、元気そうだね」
「ぼく、げんきぃ、びり―も元気!?」
「ああ、元気だよ。はは、重くなったな」
息子が元気に、ビリーの元まで走っていくと、ビリーは破顔して幼いあの子を抱きしめた。きゃっきゃって言いながら、空も嬉しそうにしている。日本名で空だから、イギリスではみんなにスカイって言われている。ラノキリアスタッフみんなに愛されて、空はいつも楽しそうだった。日本も好きだけど、イギリスの方がなんとなく落ち着くみたいに見える。僕と一緒で、こっちの空気が合うのかもしれない。
「ビリー、この子、重くなったでしょ?」
「ほんとに、健康に成長したね。おかえりkai」
「ただいま、今回は半年くらいこっちにいるからよろしくね」
「じゃあ、スカイをいろんなところに連れまわせるな‼」
おじいちゃんみたいな存在になっているビリー。久々にイギリスにきて、こちらで仕事をこなすために、半年滞在することになっている。あれから、僕と類は日本で生きていたけれど、本社がイギリスにあるし、イギリスでのモデル活動もまだ続けているので、たまに長期で戻ってきては働いている。
僕たちの息子の空は四歳になった。立派に成長して、といっても他の同い年の子供よりは小さい体をしているけど、病気一つせずに元気に育っている。
「ママ、パパはもう来る?」
「そうだね、もうすぐ到着する頃だと思うけど」
もちろん、僕の仕事と類の仕事のスケジュールは同じにして、いつでも一緒に同じ国で過ごす。イギリスでの家も残したままなので、二つの国に我が家が存在する。今回は一日遅れで、類がこちらに来ることになっていた。
「海斗、空、こっちだよ」
「パパ――‼」
よたっとしながらも一生懸命に走って、父親のもとに行く我が子の後姿がとても可愛い。ビリーがほほえましい顔で、僕に問う。
「kai、幸せ?」
「うん、とっても」
「スカイもますます可愛くなる、そろそろラノキリアモデルデビューしてもいいんじゃない?」
「それ、櫻井のお義父さんと相談してね。サクラジュエリー専属にするっていつも言っているから、ビリーが抜け駆けしたら怒ると思うよ?」
「おう! イクゾウも孫にデロデロだなぁ。僕も負けてられないね」
イギリス紳士のビリーはそう言って、僕にウィンクをする。安定のビリーだった。空は成長すると、僕と陸斗の母にそっくりになっていった。世間にはおばあちゃん似で通っているので、誰も僕の子供ではないと疑っていない。爽の遺伝子は一つも見出せずホッとした。
僕も陸斗も母に似ているので、その遺伝子が強かったみたい。父はデロデロだった、母の若い頃は、それは美しかったらしい。懐かしそうにアルファと母を競い合ったと言っていた。空も綺麗になるぞって、ちょっとだけ寂しそうに話していて、とにかく初孫を堪能して甘やかしてばかりだった。
「あれ、海斗、空眠っちゃったよ?」
「はは、はしゃぎすぎたんだね、パパの抱っこが安心したんじゃない?」
「可愛い顔を見たら、俺も安心しちゃった。海斗、会いたかった」
「一日しか離れてないでしょ。でも僕も会いたかった」
空を抱っこしながら、僕にキスをする。それを見てビリーが笑った。
「君たちは何年たっても熱いね、さあ、仕事の打ち合わせをするよ、中に入ろう」
「ふふ、そうだね。僕たちはいつまでたっても熱い」
ビリーにエスコートされてラノキリア本社へ入る。
類と初めて会った思い出の場所、明日はそのスタジオで家族写真を撮ってもらう。毎年、類が僕に宝石をプレゼントする、その記念に家族三人、プロのカメラマンで友人のアマンダが楽しそうに撮る。僕たちの写真がまた一枚、明日増えるんだ、そうやってどんどん家族になって、思い出が増えていく。
あの時の僕は、まだ終わりきれていなかった失恋を引きずって、ビッチなベータとして、毎晩違う男のベッドを歩きわたっていた。それが今では、旦那様一筋のオメガになって、愛する息子を育てているんだから、人生わからないもんだよね。
「海斗? どうしたの」
「ううん、僕は今日も類を愛しているって、そう思っていたところ」
「なに、それ、俺一日離れて海斗不足なのに、俺を誘惑する気? ちょっといい香りもしてきているじゃん‼」
「あれ? 類に会って、嬉しくてフェロモンでちゃったかな」
「危ないなぁ、俺にしかわからないからいいけど、もう‼ キスだけさせて」
「嬉しい、して」
息子を抱えながらも、器用に僕に深い口づけをする。類の香りが口内に入るとたまらなく、嬉しくてしかたない。
「ん、んん、類、好き」
「ああ、俺は愛してる」
「僕も‼ 愛してる」
―― 運命を知りたくないベータ fin ――
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