運命を知りたくないベータ

riiko

文字の大きさ
上 下
57 / 63
日本編

28、入院生活

しおりを挟む

 それからの日々は、岩峰先生と二人で話す機会が増えた。診察の時にちょっとだけど、他愛もない話をする、その時に僕の知らない時間の陸斗のことを教えてくれる。

 陸斗はやはり爽が好きだったって、でも爽から煙たがられているのに気が付いていて、つがい解除を言われた時、もう受け入れるしかないと思ったようだ。

 初めはつがい解除が不安で、一生の別れになるのが怖くてたまらなかったけれど、妊娠しているとわかり救われ、好きな人の子供を産みたいと言った。それで岩峰先生も出産に協力したのに、陸斗は一人になって不安が大きくなり過ぎたのか、今度は子供を産みたくないと言っていた。でもその時はすでに堕胎できない状況だった。そこから、陸斗はどんどんふさぎ込むようになったらしい。

 診察の時、陸斗はたまに僕のことを自慢していた。僕の記事や、雑誌を集めてスクラップしているものを、岩峰先生は見せてもらったことがあると言った。

 心の底では、兄を慕っているのが良くわかったと。だけど自分は兄から好きな人を奪ったから、一生会えないかもしれないし、つがいに捨てられるのも罰が当たったのだと言っていた。先生は陸斗の想いを知っていたから、いつかは僕にそのすべてを聞かせたいと思っていた矢先に記憶喪失になってしまった。だからこれは自分が伝えるべきことなんだと思ったって、そう言って僕に陸斗の話をしてくれた。

「陸斗は僕のことを恨んでいたと思っていたんですけど、そんなふうに思ってくれていたなんて……」
つがいに愛されないのは、海斗君のせいじゃないって言っていたよ。君たちの愛の深さも知らず、自分は運命だから選ばれて当然ってそういうおごりが、きっとつがいにもわかってしまって、飽きられたんだろうって」
「先生。僕の知らない陸斗のことを色々教えてくださり、ありがとうございます。記憶を失くす前の陸斗が、岩峰先生と出会えて良かったです。僕はもう過去は見ません、陸斗のつがいとも決別できたし、法的にも今後陸斗に近づくことも許されません。だからこれからは、僕が弟を守ります。もちろん弟の子供も!」
「海斗君はいい笑顔をするね。君たち兄弟の絆が深くて良かった。オメガ治療は心理的な部分が多数を占めるから、家族の仲がいいのは最大の治療効果を引き出すよ」

 そして僕の個室に陸斗が引っ越してきた。

 あの日、翌日の昼まで類と二人だけの時間を満喫すると、先生からホルモン値も安定したのでもうセックスする必要はないと言われてしまえば、さすがに病院でそういうことを続けるのは難しい。そして陸斗と毎日会うようになり、陸斗が僕のベッドにこっそりと夜に寝にくるのを見て、岩峰先生が笑いながら引っ越ししてこようと言った。

 陸斗は甘えん坊でとても可愛かった。

 陸斗の思春期に僕がいなかったのが寂しかったようで、今になってたくさん甘えてきた。治療に良いと言われて同室になったけれど、それ以上に僕の心も兄弟でいる方が落ち着いていた。類はその間に、僕を陸斗に託して精力的にビリーからの仕事をこなしていたので、ちょうど良かった。

 僕の入院は、の体力低下のためだと岩峰先生が説明した。この際、僕がことと、したことを同時に伝え、先生が陸斗の反応を見ながら話したら、すんなり受け止めてもらえた。陸斗の状態では子供と対面させるのはまだ早いということで、子供は集中治療中でまだ見せられないという説明にした。

 僕は一日に何度か子供を見に行った。一生懸命頑張って生きようとしている姿を見ると、いつも泣けてくる。いつの間にか類も寄り添っていてくれて、まだ抱けない子供を見て、二人親としての決意を固めていった。

 その後、旅行を満喫した両親も帰ってきて、僕の病室はいつも誰かしらいる賑やかな部屋になっていた。

 一度、司が来たときは驚いた。僕を守れなくてホテルとして管理がいきわたらず申し訳なかったって、だけど僕は司には感謝しかなかった。あの時助けてくれなかったら、僕の傷はもっと深いものとなっていたから。それを言うと司は変な笑顔になった。この子もアルファだからきっと不器用な子なのだろうなって、ちょっと可愛く思った。

 それから類のお友達の近藤と明もちょくちょく遊びに来た。医者から、今はつがい持ちのアルファやオメガと陸斗は会わせない方がいいと言われて、残念だけど司には僕が入院していることを正樹に内緒にしてもらった。

 陸斗は五年もの間、爽のもとにいたから友達は離れてしまったと両親から聞いた。だから類の友達二人と会うのは楽しそうで安心した。ベータの二人には、陸斗のオメガ事情を詳しく知ってもらった。気を使ってくれてそれでも友達のように接してくれて、僕としてはとてもありがたかった。

 あれから類の両親にも、オメガ化のことを類から説明すると、喜んでくれたらしい。複雑だけど良かった。そして、二人でお見舞いに来てくれた。

 その時に両親とも対面して、病院だけど両家の顔合わせも無事に済んだ。

 両親は類のご両親を連れて赤ちゃんを見に行ったらしい。類のお母さんは泣いていたと言っていた。事情の全てを聞いて僕と赤ちゃんを受け入れてくれた櫻井家には、頭が上がらないわって、うちの母は言っていた。爽の家とは違って、良識のある方たちで良かったって父も言っていた。

 赤ちゃんの名付け親には僕の父になってもらった。類も、櫻井家もそれでいいと言っていた。

 そんな穏やかな日々が過ぎて、僕の退院が決まった。

 赤ちゃんの入院はまだまだかかるだろうと言われて、僕と類は、その間にイギリスでのことを全て片付けて日本に戻ると約束をして、二人イギリスへと旅立った。

 そして慌ただしくイギリスで入籍発表をして、さらにラノキリアジャパンのオープンの告知とともに、代表を類が務めるとビリーが発表した。僕は夫についていき、活動拠点を日本にすると報道することで、連日パパラッチに追われる羽目になったが、それはそれで楽しかった。もう何も隠すことはない。僕のうなじの噛み跡はひそかに撮られたらしく、雑誌にはkaiカイ は結婚してつがいになったと出ていた。事務所は否定も肯定もせず、今まで通り、バース不明モデルとしての路線は変えないと言った。すなわち、今後もkaiカイはどんなバースでも演じるモデルを続けると。

 そしてすべてのことをやり終えて日本へ帰国すると、驚いたことになっていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

BL / 完結 24h.ポイント:1,123pt お気に入り:2,850

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:781pt お気に入り:9,828

【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

BL / 完結 24h.ポイント:406pt お気に入り:1,075

銀の王子は金の王子の隣で輝く

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:479

【完結】「愛してる」の呪い

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:141

聖獣の契約者

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:237

4人の乙女ゲーサイコパス従者と逃げたい悪役令息の俺

BL / 連載中 24h.ポイント:1,207pt お気に入り:812

迷子の喫茶店

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:22

処理中です...