運命を知りたくないベータ

riiko

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日本編

20、家族会議

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 その日、みんなで飯田家に帰ってきた。病院の泊りは許されていないので、面会ぎりぎりまでいて、そして今後の話をするために家に戻った。

「海斗、類君もごめんね。こないだは、せっかくお食事を予約してもらったのにドタキャンすることになってしまって」
「あ、それなら、兄夫婦に譲ったので大丈夫です。むしろ喜ばれたので! また今度一緒にいきましょう」

 そうだった、せっかく類が予約してくれた料亭のこと、僕はすっかり忘れていた。

「類、ありがとう」
「いいんだよ、今度連れてってあげるからね」

 僕が動転してしまっても、類はさりげなくサポートもしてくれる。

「類君、本当にありがとう。それに今日も。二人はお友達の結婚式の後だったのに、来てくれて」
「ううん、僕は類の付きそいで行っただけだったから」
「俺も海斗を紹介するために出席しただけなので、問題ないです。目的は果たしましたから‼ 友人たちも俺と海斗のコト祝福してくれたので」

 ちょっと照れた。親の前で堂々と惚気てくれる類ったら。

「まあ、類君、本当にあなたが海斗のお相手で良かったわ」
「俺、これからは海斗の旦那として、飯田家の婿として頑張ります」
「あらあら、頼もしいわ、ありがとう」

 母がお茶を出しながら、言った。

「類君、出会って早々我が家の深い問題に関わらせてしまい、すまない。海斗を支えてくれて、本当にありがとう」
「いえ、むしろこんな若い俺を迎え入れてくださり感謝しています」
「固い話はここまでにしましょう、海斗、あなたコレ好きだったでしょ。疲れた時は甘いものよね」

 僕が昔好きだった北海道のバームクーヘンをわざわざ取り寄せてくれた。覚えてくれていたのも嬉しいし、家でこうやってまたこのお菓子を食べる日が来たことが嬉しい。

「へえ、海斗これ好きなの? 一年付き合っているのに、全く知らなかった」
「ふふ、僕もイギリスにいて忘れていた。そう、これが好きでよく物産展があるとお母さんが買ってきてくれたんだよね、ありがとう」

 そして陸斗の話になった。
 
 岩峰先生からは、中学生だという記憶しかないのに、子供が二人もいるなど言わない方がいいと言われた。そのことで陸斗の心が不安定になり、壊れかねない。つがい解除の治療をして記憶が戻らない限りは、赤ん坊のことは言えないとドクターストップがかかった。

 陸斗はしばらく入院したのち、実家に帰ってくることになる。その時に赤ん坊がいるのは不自然だし、もし養子に出すなら病院でもサポートに入るとのことだったが、そこでも母は反対した。

 さすがに両親が産んだというには、高齢出産すぎて真実味が無いし、赤ん坊と合わせることで陸斗がどう反応を起こすのかは正直わからないから、リスクは避けたいと先生から言われた。

「赤ちゃんまだあんなに小さいのに、すでに実の両親に存在すら知られていないなんて、可哀想だわ。陸斗も大切だけど、生まれたばかりの孫だってもう離れたくない」
「そうだな、孫をよそにやるなんてとてもできない。小さいのに、あんなに一生懸命生きようとしているんだ、弟のところはどうだろう?」

 両親は孫を養子に出すつもりはないらしい。叔父夫婦に預けられないかと、考えようとしている。叔父夫妻は僕が家にいられなくなった時期に、一時預かってくれて写真家の要さんを紹介してくれた僕の恩人。僕がイギリスに行くきっかけをくれた大変優しい人たちだ。

「だけど叔父さんたち、たしか沖縄に移住したって言ってなかった? お父さん達も、赤ちゃんにめったに会えない環境になるよ」
 
 僕が父に聞くと、難しい顔をした。陸斗のことでも手一杯なのに、孫を手放したくないという想いも強いのだろう。

「あの、ご提案があるのですが……」
「類?」

 類が真剣な顔で、両親向き合った。

「類君、何かな? 君はもううちの家族同然だから、なんでも言ってくれ」
「ありがとうございます」

 そして類は僕を見た。

「ん?」
「俺と海斗の子供として引き取るのはどうかな? 俺たち結婚するし、実子としてあの子を迎えないか?」
「え」

 まさか考えてもいなかったことを、類の口から出てきた。

つがい解除って未知な部分もあるし、何がどう作用するかわからない。もし陸斗君が子供のことを思い出して、返して欲しいと言われたらその時、きちんと戻せる環境にいるのも必要じゃないかな? だったら一番身近な存在が育てるのがいいんじゃない。でもご両親が育てるには、今は陸斗君と同じ家にいるのは難しいし、叔父さん夫婦だとたとえ引き取ることに納得してくれても情が沸いて返したくないってなったら? それに沖縄じゃあ、未熟児で生まれた子には医療が整っているとも限らない。俺と海斗が日本でこのまま、家族として迎え入れるのはどうかな?」

 両親も僕も驚いて、言葉が詰まってしまった。

「ごめん、勝手に。海斗は陸斗君とわだかまりもあったし、なにより憎い奴の子供だったね」
「えっ、いや、僕はもう陸斗に対して何も思ってないし、むしろ僕のせいで爽と出会うことになって、つがい解除までされて申し訳ないくらいで。それに生まれてきた赤ん坊に罪はない、爽の子供だろうと関係ないよ。あの子は陸斗が産んだ飯田家の子供だ」

 正直赤ん坊はすごく可愛かった。爽のことなんて、これっぽっちも頭に浮かばないくらい、純粋に愛おしい存在だった。

「そうか、それなら安心した。やっぱ海斗は優しいね」
「え、そうじゃなくて。類には全く関係ない子だよ」
「そうかな? 陸斗君可愛いし、素直そうないい子だったからきっと、子供もそうなるよ。あっ海斗よりは全然だよ、俺の好みは海斗だけだからね‼」
「え、ありがとう?」

 類の気持ちはこれっぽっちも疑っていない。

「それにさ、海斗ほどの人なら子供産んだって言っても世間は納得するよ。もし実の子供にするのが嫌なら養子って世間に公表してもいいし。それにお義父さんもお義母さんも、その方が気兼ねなく孫に会えると思って……出しゃばったこと言ったかな」

 母が泣いた。そして父も、嬉しいんだと思う。言葉が出ないのは、なんて言っていいかわからないから、僕の産んだ子供としてでも、二人の養子としてでも、どちらにしても類はあの子を自分の子供として引き取るつもりでいるらしい。

「……類」
「海斗、泣かないの。それどっちでとらえたらいいのか、わからないよ」
「ふっ、うっ、僕もわからない」

 類が僕を抱き寄せた。

「お義父さん、どうでしょうか?」
「いや、その、俺は、飯田家の、俺の孫として迎えられるなら、それが一番嬉しい。もちろん海斗の子供として迎え入れるのは一番いいとは思うけど、すまない。まさかそんなこと考えてもなかったし、君から提案されるとも思ってもいなかったから……」

 そうだよね、父なら僕にそんな重石をかけようなんてひとかけらも思うはずがないし、僕だってそこは全く考えも及ばなかった。もちろん、今聞いてそうしたいって思うくらいにはあの子を愛おしく思える。

「類君、私たちにとっては嬉しいけど、でもあなたまだ十代だし、自分の子供でもないのに、いいの?」

 やはり両親は嬉しいんだ。母の、類の決断に縋りたい気持ちが伝わってきた。

「俺は、海斗が幸せならそれが一番です。陸斗君のことでこれ以上悩ませたくない。少しも罪悪感をもって欲しくない、そのためにあの子の戸籍が必要なら俺が力になります。もちろん引き取るなら、全力で親になります。自分の子供として愛します。海斗と血の繋がりがある子なら、俺にとっても全く他人ではありません。どうかな、海斗?」

 優しい顔で僕を見る。僕の答えで、甥っ子の運命は決まる。初めてあの子をガラス越しに見た時、感動して涙が出た。自分のお腹を痛めたわけじゃないけど、もう身内としての愛情はあった。それを類は見抜いたんだ。

「僕は、僕は、類との子供を産んであげられないから、類が親になりたいならそうしたい」
「そうじゃなくて、海斗はあの子をどうしたい?」
「ぼ、僕は、あの子を幸せにしてあげたい‼ 生まれてきた子に罪はないし、なによりも可愛い僕の甥っ子だもん。類が認めてくれるなら、僕があの子の親になりたい‼」

 両親は泣いていた。僕も涙が止まらなかった、なんて大きな人なんだろう。類は全てを受け入れてくれる、僕という全てを。

「海斗、本当にそれでいいのか? 君たちはまだ新婚生活もしてないのに、いきなり赤ちゃんを」

 父が僕に問う。

「うん、僕はそれでいい。二人は僕が親になること許してくれる?」
「もちろん、もちろんよ‼ 海斗、類君、本当になんて言ったらいいか、私たちの正真正銘の孫なのね、あの子は」

 母も泣いて、凄く泣いて、僕と類にお礼を言う。

「まだ結婚もしていないのに、出しゃばりましたが、俺は海斗もあの子も何がなんでも守ります。この先、二人を手放しません。赤ちゃんに関しては、今後の陸斗君の様子次第にはなりますが、それでも陸斗君から何か言われるまでは、俺の子供として必ず幸せにしてみせます」
「類君……ありがとうっ」

 父が類の手をきつく握った。そして類も父の手を握りかえした。
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