運命を知りたくないベータ

riiko

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日本編

1、きっかけ

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 あれから僕たちは変わらない日常を過ごしていた。イギリスで相変わらず僕は第一線でモデルの仕事をしていて、類も学業に励んでいた。

 そしていつものように、夜寝る前にベッドで類と会話を楽しんでいると、類が何やら手紙を見せてくる、ん、結婚式の招待状?

「俺の高校時代のクラスメートが結婚するんだって、それで日本に戻ってこないかって、コレ送ってきてくれた」
「へぇ、あれ? 入江響也いりえきょうやってもしかして」
「ああ、海斗の本棚にあったね。そう、作家の入江響也、その人のつがいが俺の高校のクラスメートのオメガの女の子なんだ。俺が逃げるように日本を離れたことを心配してくれているみたいで」
「これまた凄い人と‼ それにしてもそのオメガの女の子いい子だね。これを機に一度日本に戻ってみたら?」

 類は僕を抱き寄せてきた。

「海斗も一緒に行って欲しい……俺、海斗の親にも挨拶したいし、俺の家族にも紹介したい、できれば友達にも。結婚式も一緒に来て欲しいって、海斗の分も招待されている」
「へ?」

 親はまぁわかるけど、友達にも? 

「こんな年の離れた僕を友達に紹介したいの?」
「年って五歳しか変わらないじゃんか、というかどう見ても俺の方が年上に見えなくもなくない? それと単純に自慢したい。海斗が俺の恋人でフィアンセだって。俺たちの記事、日本にも知られているんだよ。日本の知り合いが教えてくれたんだ」

 まさか遠い日本にも僕のことが知られるなんて驚きだった、でもそれもそうか。なんせ類は日本を代表するトップ企業の御曹司、その類がイギリスでモデルをしてその相手と恋に落ちたなんて、日本のゴシップが好きそうな話題だ。

「へ、そうなんだ。それで、その類の友達は僕も誘ってくれたの?」
「うん、前に正樹まさきに手紙送っただろう、正樹とその女の子、沙也加さやかちゃんは仲がいいから、俺に付き合っている人ができたって言ったみたい。その時は沙也加ちゃんも相手が海斗だって知らなかったけど、日本に流れたニュースで俺の相手はモデルのkaiカイだって知って。それで海斗の分もって、招待してくれたんだ」

 正樹とは、類が恋に破れてしまったオメガ。

「ふ――ん、優しい子だね、沙也加ちゃん。類の周りは優しいであふれているわけ? なんだか嫉妬する」
「はは、俺の全ては海斗だよ。でも嬉しいな」

 ってことはうちの両親も爽も僕のことを知っているのかな? いやモデルのkaiカイってだけで、海斗だと知っている人はいないから。わかっているのは実情を知っている両親と叔父夫妻だけだろう。

「でも家族に紹介は、そうだよね。結婚するならそこはしときたいね」
「海斗‼」
「あと、正樹にも牽制したい」
「海斗‼! もう、好きだっ‼」

 こんな嫉妬深い僕に喜ぶ類に、ほっこりしてしまった。そんなきっかけで僕たちは一度日本に行くことに決めた。

 一応両親には結婚したい人がいるから連れていくとだけ連絡した。両親は喜んでくれていたからちょっとホッとした。婚約者を家に連れていくのは、人生で二度目。少しトラウマをえぐられそうになるも、電話している僕を類がずっと抱きしめてくれていたので、照れの方が勝った。

 類も家族に僕を連れていくと言ったら、向こうは単純に有名モデル、しかもラノキリア専属のkaiカイを迎えられることに、喜びしかないようだったと類は正直に言ってくれた。

「俺の親、前にも言った通りあまりいい人種じゃない。今回喜んでいるのも息子が結婚するからじゃなくて、相手が世界的モデルのkaiカイだからだよ。なんなら海斗を丸め込んで実家の会社……サクラジュエリーの広告に使おうくらい考えてそう。こんなこと言いたくないけど、実際に両親に会って海斗をがっかりさせたくないから、俺の親には期待しないで欲しい。もちろん俺はモデルとかそんなの関係なく海斗を愛しているから、そこだけは疑わないで」
「疑うわけがないでしょ、僕も類を愛している。それに前に類の過去を聞いた時点でアルファのご両親がちょっと非道なのはわかっているから、って僕こそ類の両親を悪く言ってごめん、だから期待はしていないから安心して」

 類は馬鹿正直に僕に全てを話してくれる、こんなに信用できる男はいない。

「海斗、ほんと好き。じゃあ両親が何を言っても気に留めないで、たとえ性別で否定されても俺は海斗以外嫁にしない。両親が海斗を受け入れないなら、俺は両親を切るから。そのつもりでいて? 俺だけを見ていて欲しい」
「物騒だね、でも類の両親ならベータの僕を拒絶するのは想像できるかな。類は、いいの? いまさらだけど僕、ベータだよ。類の子供を産んであげることはできない」

 類が驚いた顔をしてこっちを見た。

「海斗」

 えっと? なんか怒ってない?

「海斗、良く聞いて。俺が好きなのは海斗だ、それはわかるよね?」
「う、うん」
「俺は好きな人と結婚したい。子供はその副産物であって、必ずしも必要なものじゃない。俺に必要なのは海斗だけ」
「うん」
「まだわからない? 海斗がオメガで子供を産みたいというなら俺は孕ませるけど、でも海斗はベータで産めない。なら孕ませる必要はないし、海斗は一生俺だけでしょ? そりゃ家族が多い方が楽しいかもしれないけど、本気で子育てしたいっていうなら、方法はいくらでもある。代理出産だってあるし、血のつながりにこだわらないなら孤児を引き取ってもいい。とにかく海斗が望むことならなんでもするけど、きちんと理解して? 俺に必要なのは家族じゃなくて、海斗だから。海斗といることで家族が増えるならそれもありだけど、海斗が子供を産めないから結婚しないということにはならない」

 僕の目から涙がポロっとこぼれた。類は、僕の涙をぬぐう。

「海斗、愛している。俺は海斗さえいてくれればそれでいい。俺の両親や、たとえ海斗の両親が反対しても関係ない。海斗には親と縁を切ってもらうことになったとしてもだ、俺は海斗を一生離さない」
「ぼ、僕も。僕も誰が何と言おうと、類と離れない‼」
「もう、こんな綺麗な涙見たことないよ。ぜったい俺以外の前で泣かないでよ? 心配で仕方ない」
「うん、類、僕のことそこまで想ってくれてありがとう」

 僕たちはキスをして、お互いにお互いが必要なことをまた確認した。これからの人生、この人と生きていく。そう思うと喜びと不安と、それ以上に愛おしさが溢れた。

「類、僕はもう諦めない。もしお互いの親に反対されたら、イギリスで生きていこう。僕が一生養ってあげる」
「頼もしいな」
「僕、これでも有名モデルだし、稼いでいるからね」

 二人、笑いあった。
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