運命を知りたくないベータ

riiko

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イギリス編

3、出会い

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 今日はラノキリア……僕がメインモデルを務めるジュエリーブランドの新作撮影会。

 今日の僕は全てのバースをこなさなければいけない。ラノキリアが連れてくるアルファは時間がその日しか取れなかったらしく、一日で全ての撮影をする運びとなった。

 モデル経験のないアルファだが、ラノキリアの社長が彼を気に入っていて、僕とのツーショットを是非新作で撮りたいと意気込んだ。

 ラノキリア社長のビリーはそういうところがあるが、嫌いじゃない。僕もここのモデルに抜擢されたのはビリーに気に入られたから。ビリーはファッション性やモデルとしての実績や技術力は全く見ない。自分のブランドに合うか合わないか、それだけ。技術は後でつければいいが、持って生まれたモノは後からは付かない、それがビリーの考えだった。

 だからこそ、ぽっと出の僕なんかがこんな老舗ブランドのトップモデルを飾れている。

 そして連れてきたアルファは、アジア人? イギリス本国出身以外のモデルは僕だけだったから驚いた。

「ハイ! kaiカイ今日も美しいね」
「ビリー! ありがとう。久しぶりだね」

 ビリーはイギリスの紳士らしく、僕の手を取ってキスをした。僕はいつものことだけど毎回面白くて笑ってしまう。

 ビリーは隣にいるアルファを僕に紹介した。

「彼は君と同じ日本人のルイだよ、今はイギリスに留学中の学生さんだ。僕は彼の父親と友達でね、ルイがこっちに来ているというから会いに行ったらびっくり! 成長したルイを見た瞬間、kaiカイに合う相手はルイしかいないってビビッときたんだ!」
「はじめまして、kaiカイさん。俺は櫻井類さくらいるいといいます。謎のアジア人は、日本の方だったんですね、よろしくお願いします」

 僕に挨拶をしたアルファは、きれいなイギリス英語を話した。僕が日本人だと知っても、ビリーたちがわかるようにきちんとこちらの言葉を使うのは好感が持てた。

 だから僕も英語で答える。

「はじめまして、モデルのkaiカイです。社長の方針で僕のすべては謎のままに、商品の引き立て役に徹してほしいという意向なので、僕の情報は発信しないようにしているんです。といってもモデル仲間やカメラマンには知られていますが」
「そうですか。俺はこの通りただの学生で、ビリーに捕まってしまって。足手まといにならないように気をつけます。俺のことは類と呼んでください」

 この通りって、どの通り? 見るからにアルファで王子様、モテまくっているオーラ丸出しですけど? 日本人特有の控えめとか演じているの? アルファで日本人、なんだか僕の何かをえぐりだしそうで嫌だった。でもそれを出す必要はないから、僕はいつもみんなに対応するみたいにフレンドリーに接した。

「わかった、類。僕もカイと呼び捨てで、みんなの前では今みたいにこちらの言葉で話そう。二人で話す時は日本語も気軽に使ってね、それからお互いに敬語はやめよう」

 僕は愛想笑いをして、その場を収めた。

 そして撮影は新作の時計だった。アルファ同士、アルファとベータ、アルファとオメガをモデルとした男二人と時計。

 もちろんアルファを演じるのはそのまま類。僕は類の相手役としてすべてのバースを演じる。今日オメガも演じるけれど、とくに濡れ場のような色気は要らないと言われているので同日でも撮影可能だった。

 さすがにアルファとオメガという全く違うバースを同じ日に演じるのは疲れる。とくに宝石を扱うオメガモデルには色気も必要になるので、オメガを演じる前日には誰かとベッドをともにして少しけだるい感じでいったほうがスムーズに撮影は進む。

 その逆でアルファを演じる時は前日に誰にも抱かれないようにしている、アルファには必要のない部類の色気が出て撮影にならなかった時があったからだった。

 アルファ×アルファの撮影は、できる男二人で仕事中の設定。資料を見て話す、二人の腕には形の違う時計。ジュエリーショップが出す時計なので金額が相当だった。アルファがつけるステータス。そんな雰囲気を出すのは王子様な類と美形な僕という違うタイプの美男子……らしい。

 撮影に望むも、類は全く物怖じもせず順調に進んだ。

「さすがルイだね! ただそこにいるだけでいつもどおりのルイの美しさが出ている。kaiカイの隣が今までのモデルの中で一番似合っている」
「ありがとう、ビリー」

 ビリーが類を褒める。当たり前のようにその称賛を受け取る類。やはりアルファなだけにこういう人に見られる現場は慣れているようだった。僕もスムーズに進むのなら、ありがたかった。

「カイは凄いね。いつもこんなたくさんの人に見られていて。俺、緊張してガチガチだった。とりあえずうまくいって良かったよ」
「えっ? 君、緊張なんてしていたの?」
「そりゃするよ。世界的モデルのカイの隣にいるんだよ」
「ははっ、そこ? 僕なんてラノキリアの中だけの有名人だよ。実際に会ったら別に普通の日本人でしょ」
「それこそ、何言っているの。普通の日本人はそもそもこんな場所にいないから! カイは面白いね。俺の日本にいる友達に少し似ている」

 撮影しながら会話も楽しめる。やはり余裕なアルファだった。静止画をとるだけだからどんな会話もしていても大丈夫だったが、類が屈託なく笑ったので撮影は止められた。

 今求められているのは、ビジネスの中心にいるシリアスなアルファ同士だったから。

 この子はアルファなのに屈託ない笑い方をするんだなって思って、僕の気も少し抜けた。
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