運命を知らないアルファ

riiko

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本編

44、巣作り

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 二人への報告は済んで、正樹の了承を得た場合は契約もしていいと言われた。俺は寝ている正樹のいる部屋へと向かった。そこには、もぞもぞとしている正樹がいた。もう、起きていたのか。

「正樹、起きた? 気分はどう?」
「司ぁ、どこ行っていたんだよ! 俺を一人にするなんて、司のくせに生意気だ」
「えっ、あっ、ごめん。って、正樹ぃ!? なに、何しているの?」

 正樹は俺の荷物をベッドにばらまき並べていた。く、く、黒魔術!? ベッドの上にはミステリーサークルが。

「司、ここに座れ」
「ここって、ここ?」
「ここは、ここだ」

 正樹が示した場所は、ベッドの中央のぽっかり空いた場所。その周りは、俺のカバンの中の教科書やら、ペンやら、ハンカチだとかを丸く配置して、人ひとりが座れる場所が真ん中にある。

 俺は今から呪術で呪われる儀式をするのか? 俺の持ち物を周りに囲んで、俺。

「あっ、上着は脱いで貸せ」
「ああ!!」

 正樹に無理やりシャツをはぎ取られた。

「ズボンもな」
「ええ!?」

 ズボンも脱がされてパンイチになる。そして正樹に手を引かれてそのサークルの中に入った。どうしたらいいかわからなかったから正座をしてみた。

 その間も、正樹は俺の脱がされた服をサークルに配置していた。

「よし! いい具合に丸くなったな」
「ま、正樹、俺を恨んでいるのは、まぁわからなくもないけど、俺これからどうなっちゃうの? 正樹はどんな呪文が使えるの?」
「は? 呪文ってなんだ? お前はファンタジーの国の住人か!? 一般人が呪文なんか使えるわけがないだろ、それよりどう? そこの居心地は、最高だろ?」
「えっ、えっと」

 正樹がむっとした顔をしだした、俺、何をどう答えればいいの?

「司は、俺が作った巣じゃ満足できない? 俺がお前の運命なんだよ!! いい加減認めろよ」
「認めているよ。正樹が俺の運命、好きだよ。愛している」

 俺は今、俺の荷物に囲まれた中に正座でパンイチで座らされている、そんな中最愛の正樹に愛の告白をしている、これは、もしや告白会場!? ちょっとキャパオーバーだった。よくわからない。どうしよう。

「好きなら、俺の巣の居心地いいはずだろ? なんで褒めてくれないの?」
「えっ、」

 俺は近くにあったスマホを手繰り寄せて、検索した、『巣 居心地』とりあえずこの単語を入れるとすぐに引っかかった。『オメガの巣作り』えっ、正樹がこれを? 俺に作った?

 引っかかった言葉を検索すると、オメガの巣作りとは、別名オメガの求愛という、オメガが発情期の際に、よっぽど好きなアルファやつがいに向けてアルファの持ち物を集めて巣を作るという、巣とはすなわちアルファを入れる器、自分の好きな匂いの中に、自分の好きな人を入れてオメガなりのアルファの囲い方……らしい。めったに見られるものではなくて、よっぽど好きだったり、その人の子供を産みたいなど、大事な時だけする行動。

 正樹、俺、嬉しすぎて涙が出てきた。

 巣に対して、アルファはひたすら褒めなければいけない。世界に一つだけの自分の為だけに作ってくれた囲い。良くできているねと褒めるとオメガは喜ぶ。そしてもっと愛してくれる。巣作りは本能がさせているので、正気に戻るとその行動自体おぼえていない、貴重な行為。

 そうなのか、正樹はそんなに俺のことを。

「正樹、良くできているね、最高の巣だよ。俺の為にありがとう、愛している」
「司ぁ!! うまくできていた? 嬉しい?」
「ああ、最高に嬉しい!!」

 正樹は巣を飛び越えて、俺に抱きついてきた。俺は勢いよくきた正樹を抱きしめて、幸せを実感していた。これがアルファとオメガか。まさかこんなオメガの本能を見られるとは、知らなかったから正樹をまた悲しませたけど、今は喜んでくれている。なんて可愛いのだろう。

 正樹は本能では俺を、俺だけを求めてくれているんだ!!

 結婚しよう!!
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