運命を知らないアルファ

riiko

文字の大きさ
上 下
10 / 67
本編

10、美香に相談

しおりを挟む

 俺の実家はホテル事業をしている。親は今海外事業に力を入れているので、実質俺が国内の事業を見ている。まだ見習いだがいずれは俺が継ぐ企業なので、学業が終わると定期的にホテルへと出向いていた。

 その日は丁度、美香も仕事でうちのホテルのラウンジを使用していた。大学生の彼女は、在学中にもかかわらずいくつかの事業を立ち上げた実業家だった。仕事と学業をそつなくこなしている優秀なアルファなのだ。

 俺に気がついた美香が声をかけてきた。

「司、ちょうど良かったわ、今仕事終わったの。こっちに来て一緒にお茶でもしましょう」
「ああ、俺もちょうど美香に話があったんだ」

 一応どんな関係にしても精算しないと、せっかく好きになったオメガちゃんに嫌われちゃうぞと光輝に言われていたのを思い出した。嫌われるも何もまだ存在すら気づいてもらえてないが、正樹のような男にはいい加減な人間だと思われない方が賢明だと思った。

「あら、司から話があるなんて珍しいね。部屋に行く?」
「いや、もう関係を終わらせたいんだ」
「えっと、いきなりだね。理由を聞いても?」
「好きな人ができた」
「えええぇ!! マジ? 司に好きな人? 滅茶気になる。あの鉄の西条司が……」

 美香は俺に別れを切り出されても……というか付き合ってはいないが。冷静だった、がしかし俺に好きな人ができたと聞いた途端、目を大きく見開き驚いていた、というか笑った。

 やはり楽な女性だ。こいつも同じで俺をただの性欲処理としてしか見てなかったと、改めて気づけて嬉しくなった。こういうさっぱりした人種は一番いい、これからもビジネスで絡むし後腐れなく話せる間柄なのはありがたい。

「鉄の……なんだ? それは」
「いいの、いいの、気にしないで。それにしても凄く貴重なこと聞けたわ。もちろん体の関係は終わりでいいよ、その代わり友達としてその話は聞きたいな!」
「ああ、それは助かる。実は恋をするのも初めてで、どうしていいのかわからなかったんだ。美香はオメガと付き合ったことあるって言っていたな? オメガの生態について教えてほしい」
「生態って……動物じゃないんだから。でも相手オメガなんだ、本気だね」
「ああ」

 美香は終始ニコニコしていた。そして俺の話を聞いては途中吹き出し笑った。そんなに面白いか? よくわからないけど友人との恋バナというやつか、これは。初めての経験だが、正樹の良さについて話せるのはとても楽しかった。

「んも――、笑えた。司って意外と純粋なのね。でもだめよ、見ているだけじゃ」
「でも俺と正樹はまるで接点がないし、どうやってコンタクトをとっていいのかまるでわからないんだ」
「ただ単純に話しかけて、呼び出して告白すればいいじゃない。コンタクトも何も話しかけなきゃ始まらないよ」
「でも俺は学校で凶悪アルファみたいなレッテルを貼られて、オメガから怖がられているしな。きっと彼も俺をそういう人間だと噂で聞いているはずだ」

 美香は俺がフェロモンレイプしたオメガを断罪したことは知っていた。

「でもでもうるさいわね、全く。それでもよ!! せっかく本気になる相手見つけたのに、始まる前に怖気づいてどうするの。いいから当たって砕けろ!!」
「他人事だと思って。砕けたら辛い」
「しょうがないでしょ、今まで自分がしてきた報いだと思って真摯になるチャンスよ。オメガは必ずしも司にフェロモンレイプしてきたような人種だけじゃないの、そういう人にまで嫌われようとした司がまいた種。頑張りなさい‼ またいつでも話聞いてあげるから」
「ああ。ありがとう、美香に聞いてもらえて助かったし、やってみるよ」

 そうして美香とは別れた。付き合ってはないけどな、でも助かったのは本当だ。学校で正樹が一人になったところ話しかければ、迷惑はかからないだろう。とにかく行動する勇気をもらえた。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...