28 / 67
本編
28、運命なんかに奪わせない
しおりを挟む正樹も入江の隣にいるオメガ女も、俺と入江が顔見知りのような関係なのを見て、きょとんとしている。
入江は彼女を小脇に抱き寄せ俺に牽制するかのように、彼女は自分のものだと見せつけ、正樹に説明をした。そんな女ひとかけらも興味がない。
「僕、執筆活動とか打ち合わせで彼のお家のホテルよく使うんだよ。それで何度か見かけたことがあるから」
「正樹、こいつはアルファだ、お前が会うべき人種じゃない。こんな年上が好みなのか?」
入江は不敵に笑っている。正樹は何をそんなに赤い顔して恥ずかしがっているんだ?
「ってか、お前もアルファだろ、失礼なこと言うな! そして勘違いするな。入江さん、本当にすいません」
「いや、アルファらしいアルファだったんだね、西条君のことは噂でしか聞いたことなかったけど、随分噂と違うみたいだ。西条君、僕は彼女の番なんだ。今日は彼女の友達を紹介してもらっただけだよ。アルファなら番の全てを知っておきたいからね、変な勘違いをさせて悪かったよ」
正樹が説明する姿、ほんと可愛いな。
旦那の言葉を正す妻、そして旦那の代わりに相手に謝るなんて、なんてできた嫁なんだ! 俺はもう新婚生活が目に浮かぶようで嬉しくなった、正樹になら尻に敷かれたい。
ふと正樹が振り返って、俺をじっと見つめてきた。えっ、なになに? 早く二人きりになりたいっていうサインですか? 俺の気持ちが急上昇して思わず笑みがこぼれてしまった。そうとなれば、早く正樹と二人きりにならなくちゃ! 待たせてごめんね、正樹。
「それならもう済んだだろう、俺たちもこれで失礼する」
「ああ、じゃあ」
入江はその女と退散しようとしていたが、女は正樹になにやらコソコソと話をしている。クソっ、オメガだろうと番がいようと、異性が正樹に近づくのは気分が悪かった。正樹もまんざらではなさそうな顔をしているのが、気に食わない。
正樹を引き離すように、連れ去り車に乗せた。
最近の俺は、どうも正樹をいろんな奴から引き離すことしかしていない。というか正樹はなんだ! アルファホイホイなのか? 見目のいい男ばかりが正樹に近づく。少しも油断できない。
先程は正樹の友達という、オメガ女性の番を紹介されていたところだったらしい。
あの入江が? まさかあの男があんな低俗な運命の番とやらにひっかかるとは、世も末だ。あいつも俺と同じでオメガは相手にしていなかったはず。聞けば二人は出会ったばかりで結ばれ、おとぎ話みたいだと正樹は言った。
「まさか……運命とか言わないよな?」
「だったら何なの? それこそ素敵じゃないか」
正樹はオメガらしくないくせに、あの二人を運命だと羨ましそうな目で話した。
そんな……正樹は運命を待っているのか!?
ダメだダメだ‼ そんなぽっと出の奴に、フェロモンしか感知しないようなアルファに正樹を奪われてたまるか!
「素敵なわけあるか! 匂いに反応して相手のことを知らず獣のように性欲に溺れる。運命で番になるなんて、俺が一番嫌う行為だ」
「えっ」
「俺は幼い頃からオメガどもからあの臭い匂いを嗅がされてきた。自分こそが運命だと言い張って、発情誘発剤でプンプン匂わせたやつらのやることを俺は軽蔑する」
「それはそうかもしれないけど。でも、そんな打算的なものじゃなくて、彼らは本物の運命の番だよ? アルファやオメガの憧れじゃないの?」
違う! 俺はそんな理由で正樹を他のアルファに奪われたくない。二人築き上げた時間が全てであって、ただ出会っただけの運命なんかが、俺たちに入り込めるなんて有り得ない‼ これから先、正樹は誰にも渡さない。
「そうは思わない。もし俺の前に運命が現れたなら、他のアルファを宛がい俺以外と番にさせる」
俺は運命なんかには惹かれない、一生正樹だけという想いを込めて、もしも俺の前に運命のオメガが現れても、すぐに他のアルファをあてがう。だから俺が正樹より運命を取ることは絶対に無い、そう安心させる為に言った。
俺は正樹を愛してしまった為に、今まで考えたことの無いような、運命のアルファに取られるかもしれないという不安が生まれた。
「正樹? 青い顔して、どした。気分悪いのか」
「へっ」
「大丈夫だ、正樹以外のオメガなんか、たとえ運命だろうとも俺は番にすることないよ。俺には正樹だけだから安心して」
正樹の手が震えている? オメガの正樹なら、俺よりももっと不安になっているかもしれない、安心して欲しかった。それほど、俺は正樹しか考えられないと伝えたかったんだ。
「あっ、だ……いじょうぶ。ちょっと車に酔ったみたい、外出てもいい?」
「ああ、すぐに止めさせるから」
車に酔った? 心配で俺も一緒に車を降りた。
「司、ありがとう。もう大丈夫、ここからなら近いし、ひとりで帰る」
「いや、家まで歩いて送るから」
「ううん、大丈夫っ」
「でも、そんな真っ青になって危ないから、すぐそこだろ、俺に掴まれ」
「……」
無事に家に送り届けた正樹は、運命の話をしてから何かを考えこんでいる様子だった。そんな顔をしたのは少し気になった。
94
お気に入りに追加
2,400
あなたにおすすめの小説


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
運命だなんて言うのなら
riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。
「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。
ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。
常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。
☆記憶喪失オメガバース☆
主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。
運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる