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本編
9、自分に好きな相手ができたらしい
しおりを挟む俺は気になるオメガが居ると、同じアルファの光輝に打ち明けた。
「お前もついにアルファの本能に目覚めた!?」
「いや、本能とか、フェロモンとかではなくて、だな」
「ん? その子の香りが好きなんじゃなくて?」
「まぁ嫌いではないが、たまたまヒートに苦しんでいて助けたんだ。それで匂いは感じたけど」
「発情期に、抱いたの?」
「俺がそんな獣のような行動をすると思うか?」
「しないな」
俺らしいと、光輝は笑った。初めて会った日のことを話した。
「へぇこの学校の子なんだ、でも抱く気もないのに自ら発情オメガに近づくなんてすげぇな。オメガ嫌いで有名な司なのに、嫌悪感ないオメガ初めてだから気になったのか?」
「確かに嫌悪感は無いな」
光輝は閃いたように、嬉しそうに話した。
「でも、それって、好きなんじゃないの?」
「好き……なのか? ヒートに当てられた時は下半身が熱くなったが、相手は男オメガだからそれはどうだろう」
性欲が愛情とは限らないことは、今までの女との付き合いから理解している。
「えっ!! しかも男の子だったのか、俺は男も女もオメガならどっちもいけるけど、司は女しか勃たないって言っていたからなぁ、アルファが下半身にきてオメガを抱かず、ずっと目で追っている。それって恋じゃない? 好きなんでしょ」
「そういうことなのか……」
驚いた。自分にそんな感情があったのか?
「えっ、大丈夫? 今気がついた?」
「そうだな、そうなのか、これが好きという感情か、なんかしっくりきた」
光輝は、残念な奴を見る目で俺を見る。
「美香ちゃんは救われないな。きちんと別れろよ、そんでそのオメガにアプローチでもしたら?」
「別れるも何も付き合ってない、ただの体だけの関係だ。で、どうやってアプローチするんだ? 向こうは俺を知らない、接点がないんだ。しかもこの俺がいきなりオメガに話しかけたら驚かないか?」
もう美香のことなど頭から抜けていた。それよりも俺は自分から誰かにアプローチなどしたこともない。ヤル相手なら誘えるが、正樹をそれだけの目的にしたくない。もちろんいずれは抱きたいが。
「だって発情期に助けたんだろ? なのに司のこと知らないの?」
「あの時はもうヒートにやられて朦朧としていた」
う――ん、と光輝は唸る。
「確かにオメガ嫌いで有名な司がそのオメガに話しかけて誘いでもしたら、他のオメガのあたりが酷くなると考えられる、と迷惑だからやめた方がいい、じゃあ!!」
そして光輝の計画に従い、俺は日常取っている抑制剤の服用をやめてみた。俺のフェロモンに気がつけば意識してくれるんじゃないのかと、それが光輝の計画だった。
そして薬を飲まずに、何気なく校舎ですれ違ってみた。
しかし反応はなかった。そればかりか俺を一瞬見て怪訝な顔をすると、友人のアルファとすぐにその場を去っていった。
俺も正樹からは、ほんのり俺好みの香りがする程度で、あの時の発情で感じられたほどの香りはしなかった。そのかわりすれ違うオメガどもの匂いがキツかった。そして俺に群がってくる、そんな煩わしい出来事が続いたので、すぐにまた薬を飲み始めた。
だが、その結果わかったのはフェロモンなど感じなくても正樹が気になって仕方なかったということだった。
俺はオメガを求めているんじゃなくて、正樹本人を求めている。俺のオメガ嫌いはそのままだったが、オメガは嫌いでも正樹は好きだ。いや、正樹以外のオメガが嫌いだという真実を発見した。そして正樹に対する思いはバースも性別もない。
本物だった。
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