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本編
7、オメガというものは
しおりを挟むあれから、彼を目で追う日々は続いた。
あの肌は、あのズボンの下は、ヒート中の声は? 気づけば彼のことが気になっていた。これまで付き合ってきたのはオメガ以外の異性だけだ。だから男と付き合ったことなどないし、男の下半身にはなんの興味もわかないはずだった。それなのに、彼のズボンの下を気にしている自分おかしく思った。
初めてまともに嗅げたオメガの匂いにどうにかなったのか? 俺がオメガの香りをいいと感じたなんてどうかしている。もしかしたら抑制剤を長年使用し、効きが悪くなったのかもしれない。今度違う種類の薬を処方してもらうとするか。
女とのベッドの中で、俺はあろうことかあの時のオメガのことが頭によぎった。
「ねぇ? 何を考えているの?」
「えっ、いや、別に」
「そう? にやにや気持ち悪かったんだけど」
「失礼だなっ、俺そんなににやけていた?」
「うん、司のそんな顔初めて見た」
情事中にまであの彼のことを考えていたなんて、重症だな。
美香、彼女はアルファで少しプライドが高い。でもそれも許容範囲の程度だった。あっさりした性格で頭も良く美しい。家関係のパーティーで知り合って意気投合した、そしてなんとなくホテルに行き、関係を持ったところから始まった。彼女も今特定のオメガと付き合う気もないようで、お互い都合が良かった。
いわゆる体だけの関係。
歴代の彼女たちはこぞって俺に愛情を求める。
付き合う上で守るべきものは守るが、あまりベタベタするのは好きではない。そうすると彼女たちは愛情が薄いだとか冷たいだとか、しまいには自分を好きでいてくれている感じがしない等と言われて別れるのが今までのパターンだった。
だから最近では、一夜の相手しか求めなかった。現にそのつもりで美香とホテルへ行った。しかし過去の女たちとは違い、俺に愛情を求めず、お互い体の熱を出すだけで満足してくれた。
適度に性欲も解消できて、束縛もされないので俺としては都合のいい女だった。隣に美香がいればその時だけでもいらない誘いを受けなくて済む、虫よけになるのも助かっている。きっと美香にとっても同じだろう。
「美香はオメガと付き合ったことある?」
「あぁ、司はオメガ嫌いなんだもんね。あるよ、オメガって本当に可愛いし、守ってあげたくなる」
「ふぅん、そんなもんかね」
「ふふっ、今は司と相性がいいけど。でも運命に出会ったらこの関係も終わり」
「あの都市伝説の? まさか、美香までそんなこと信じている?」
驚いた。あっさりした性格の割に、運命に出会ったらそのオメガにのめり込むと?
「まぁあまり聞かないけど、でもアルファもオメガも本能で生きている部分があるから相性のいい香りはあるしね! それが抗えないレベルの香りなら運命ってことよね」
「抗えない、か」
「もしかして、そんな香り嗅いじゃったの?」
あれはそんな種類の香り、なのか? いや、俺は抗えた。かなり必死だったが、抗えたはずだ。だから違うだろう。
「いや、もしそうだとしても俺は抑制剤を使っているから出会ってもわからないだろう」
「馬鹿ね、普通のオメガならそうだけど、運命なら薬が効かないっていうから、出会えば気づくわよ」
「……」
それだけの情報では、彼が気になるということの理由には情報が足りない。薬は飲んでいたが、あの時の俺の性欲は確かにあった。だが抗えないほどでは無かった……はず。
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