運命を知らないアルファ

riiko

文字の大きさ
上 下
20 / 67
本編

20、送る

しおりを挟む

 その後正樹を言いくるめて、オメガ用の首輪を付けた。これで正樹を狙うやからはいないはず、アルファなら西条の首輪とわかる紋章を見て、その首輪をつけるオメガに手を出す恐れ知らずのやつはいない。

 だが、正樹は俺の好意を素直に受け入れてくれない。

 オメガとはどういうものだった? 自分がオメガを抱くことになるとは思わなかったから、知識が乏しい。

 抱かれた相手に、流されてくれないものなのか? でもそんなオメガだから俺は正樹が好きだ。矛盾しているが、あまり強く言って離れられては困るので友人だと言った。すると正樹は嬉しそうにした。

 オメガというだけでアルファとは友人の立場にはなれないと思っていたのだろう、普通はなれない。

 櫻井がいい例だ、正樹はバースで人を判断しない素直な子だから、櫻井を友達と思い込んでいたみたいだった。あれは誰がどう見ても獲物を狙う目、つまり櫻井は最初から正樹を友人として見ていなかった、いつかは手に入れるオメガという風に見ていたのだろう。

 俺も同じだ。でも正樹は恋に慣れていないし鈍感だから友達と言ったほうが受け入れやすい。結局櫻井と同じ手法を取っている自分に、笑えてきた。

 アルファなんて弱いものだ、好きなオメガを手に入れたくて必死なただの男に簡単に成り下がってしまう。

 だが正樹はオメガというだけではなくて、真面目で優しくて強い、なによりもヒートになっているのにもかかわらず二度も俺から逃れようとした、ヒート時にアルファが目の前にいてそれでもすがらない、その強さに惹かれたんだ。

 発情もおさまった今、もう正樹を引き止める理由が無くなってしまい、泣く泣く家に送った。車の中で正樹の手を離さなかった。正樹も赤い顔して俺の手を拒まなかったのには、安心した。

「正樹、もう人から食べ物もらうなよ?」
「へっ、ああ、そうだったな。わかった」
「警戒心、少しは持ってね」
「うん」

 他愛もない話をしていたら、もう正樹の家に着いてしまった。

「ありがと、送ってくれて。もうここでいいから」
「お願い、家に入るまでエスコートさせて? 家に入ったのを見届けないと、俺、心配で帰れないよ」
「家の前まで来て、何が心配なんだよ?」

 そんなことを玄関先で話していたら、ドアが開いた。と思った瞬間、小柄な女性が勢いよく出てきて正樹に抱きついた。

 その人、正樹の母親は目からは大きな涙を流していた。

「バカぁぁぁぁ!!」
「うん、ごめん母さん」
「怖かったね、正樹。ママがもっとあなたにきちんとオメガ教育してればこんなことにならなかった。本当にごめんね」
「ははっ、オメガ教育ってなんだよ。あれ以上はごめんだかんな」

 正樹は抱きしめられながら、涙声で答えていた。そんな美しい親子愛を前に俺は何も言えず固まってしまった。

「あら、ごめんなさい! あなたが西条君ね。電話でお家の方から事情は伺いました。正樹のこと助けてくれてありがとう」
「いえ、俺は、その」
「正樹は疲れたでしょ? もう部屋で休みなさい。西条君、少しお話したいんだけど時間ある? 良かったらお茶でもどうかしら?」
「ぜひ!」
「ふふ、お入りくださいな」

 正樹は母親に促され、先に中に入っていった。その時、不安そうに俺を見た。

「司、その、いろいろとありがとうな」
「ああ、また学校に行く時、迎えに来るから。ゆっくり休んで」
「うん」

 可愛いな、離れたくないなと思っていたが、これから俺の義理母になる人に、変なところを見せられないから、精一杯アルファらしく振る舞い、正樹をまだ見送っていた。

 彼女は大変聡く、すでに俺が正樹を特別視しているのに気がついたみたいだ。

 俺たちのやりとりを見ながら、笑顔が溢れていた。先程まであんなに涙をこぼした人には見えなかった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

巣作りΩと優しいα

伊達きよ
BL
αとΩの結婚が国によって推奨されている時代。Ωの進は自分の夢を叶えるために、流行りの「愛なしお見合い結婚」をする事にした。相手は、穏やかで優しい杵崎というαの男。好きになるつもりなんてなかったのに、気が付けば杵崎に惹かれていた進。しかし「愛なし結婚」ゆえにその気持ちを伝えられない。 そんなある日、Ωの本能行為である「巣作り」を杵崎に見られてしまい……

運命を知っているオメガ

riiko
BL
初めてのヒートで運命の番を知ってしまった正樹。相手は気が付かないどころか、オメガ嫌いで有名なアルファだった。 自分だけが運命の相手を知っている。 オメガ嫌いのアルファに、自分が運命の番だとバレたら大変なことになる!? 幻滅されたくないけど近くにいたい。 運命を悟られないために、斜め上の努力をする鈍感オメガの物語。 オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω 『運命を知っているアルファ』というアルファ側のお話もあります、アルファ側の思考を見たい時はそちらも合わせてお楽しみくださいませ。 どちらかを先に読むことでお話は全てネタバレになりますので、先にお好みの視点(オメガ側orアルファ側)をお選びくださいませ。片方だけでも物語は分かるようになっております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。 コメント欄ネタバレ全解除につき、物語の展開を知りたくない方はご注意くださいませ。 表紙のイラストはデビュー同期の「派遣Ωは社長の抱き枕~エリートαを寝かしつけるお仕事~」著者grottaさんに描いていただきました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜

MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね? 前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです! 後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛 ※独自のオメガバース設定有り

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

処理中です...