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本編
20、送る
しおりを挟むその後正樹を言いくるめて、オメガ用の首輪を付けた。これで正樹を狙う輩はいないはず、アルファなら西条の首輪とわかる紋章を見て、その首輪をつけるオメガに手を出す恐れ知らずのやつはいない。
だが、正樹は俺の好意を素直に受け入れてくれない。
オメガとはどういうものだった? 自分がオメガを抱くことになるとは思わなかったから、知識が乏しい。
抱かれた相手に、流されてくれないものなのか? でもそんなオメガだから俺は正樹が好きだ。矛盾しているが、あまり強く言って離れられては困るので友人だと言った。すると正樹は嬉しそうにした。
オメガというだけでアルファとは友人の立場にはなれないと思っていたのだろう、普通はなれない。
櫻井がいい例だ、正樹はバースで人を判断しない素直な子だから、櫻井を友達と思い込んでいたみたいだった。あれは誰がどう見ても獲物を狙う目、つまり櫻井は最初から正樹を友人として見ていなかった、いつかは手に入れるオメガという風に見ていたのだろう。
俺も同じだ。でも正樹は恋に慣れていないし鈍感だから友達と言ったほうが受け入れやすい。結局櫻井と同じ手法を取っている自分に、笑えてきた。
アルファなんて弱いものだ、好きなオメガを手に入れたくて必死なただの男に簡単に成り下がってしまう。
だが正樹はオメガというだけではなくて、真面目で優しくて強い、なによりもヒートになっているのにもかかわらず二度も俺から逃れようとした、ヒート時にアルファが目の前にいてそれでもすがらない、その強さに惹かれたんだ。
発情もおさまった今、もう正樹を引き止める理由が無くなってしまい、泣く泣く家に送った。車の中で正樹の手を離さなかった。正樹も赤い顔して俺の手を拒まなかったのには、安心した。
「正樹、もう人から食べ物もらうなよ?」
「へっ、ああ、そうだったな。わかった」
「警戒心、少しは持ってね」
「うん」
他愛もない話をしていたら、もう正樹の家に着いてしまった。
「ありがと、送ってくれて。もうここでいいから」
「お願い、家に入るまでエスコートさせて? 家に入ったのを見届けないと、俺、心配で帰れないよ」
「家の前まで来て、何が心配なんだよ?」
そんなことを玄関先で話していたら、ドアが開いた。と思った瞬間、小柄な女性が勢いよく出てきて正樹に抱きついた。
その人、正樹の母親は目からは大きな涙を流していた。
「バカぁぁぁぁ!!」
「うん、ごめん母さん」
「怖かったね、正樹。ママがもっとあなたにきちんとオメガ教育してればこんなことにならなかった。本当にごめんね」
「ははっ、オメガ教育ってなんだよ。あれ以上はごめんだかんな」
正樹は抱きしめられながら、涙声で答えていた。そんな美しい親子愛を前に俺は何も言えず固まってしまった。
「あら、ごめんなさい! あなたが西条君ね。電話でお家の方から事情は伺いました。正樹のこと助けてくれてありがとう」
「いえ、俺は、その」
「正樹は疲れたでしょ? もう部屋で休みなさい。西条君、少しお話したいんだけど時間ある? 良かったらお茶でもどうかしら?」
「ぜひ!」
「ふふ、お入りくださいな」
正樹は母親に促され、先に中に入っていった。その時、不安そうに俺を見た。
「司、その、いろいろとありがとうな」
「ああ、また学校に行く時、迎えに来るから。ゆっくり休んで」
「うん」
可愛いな、離れたくないなと思っていたが、これから俺の義理母になる人に、変なところを見せられないから、精一杯アルファらしく振る舞い、正樹をまだ見送っていた。
彼女は大変聡く、すでに俺が正樹を特別視しているのに気がついたみたいだ。
俺たちのやりとりを見ながら、笑顔が溢れていた。先程まであんなに涙をこぼした人には見えなかった。
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