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本編
12、救出
しおりを挟む「おい離せよっ! こいつは俺と過ごしているのがわかんねぇか? 人の情事の邪魔をするな」
正樹を襲おうとしたアルファが、まるで同意の行為であるかのように言う。俺は正樹に触れた手の感覚に驚いていたら、不意に正樹を奪われた。しかし正樹はそのアルファの胸を押し除け、必死に抵抗していた。その姿の凛々しさに、俺は見惚れてしまった。
「はぁ!? 何言ってんの、ってか、お前ら二人アルファだろ! 今はなんだかやばいから、俺から離れてっ」
正樹は薬が効き始めたようだった。
発情の始まりだろう。息が上がり、だんだんと正樹のフェロモンがこの部屋に満たされていった。薬を飲んでいる俺でさえフェロモンにやられそうになったので、急いで正樹をここから救出すべきと、正樹に言葉をかけたが、正樹からしたら初対面なのに、馴れ馴れしいアルファと思われたかもしれない。
「くそっ! 変な薬盛りやがって、正樹俺と行こう」
「ふへっ。薬って? なんで俺の名前をっ? と、とにかくひとりにして」
俺が正樹の名前を呼んだのに驚いていた。そりゃそうだろう、俺たちには一応共通点はないことになっている。
「なんで、西条が正樹を知っているんだ? まぁいい。俺たちはこれから番になるんだ、邪魔なんだよっ、出てけ、ああ正樹いい匂いだ」
「ひっ!」
こいつは正樹の首に自分の顔を押し当てた。正樹は咄嗟に身震いして、拒絶の意思が見えた。俺は正樹に抱きついているアルファの櫻井を引き離し、自分の懐に入れた。一瞬びくっとした正樹だったが、力が入らないようで俺に身を預けてくれている。正樹の香りに俺こそどうにかなりそうだった。
櫻井はあからさまに敵意の目でこちらを見た。
「これは強姦だ、薬嗅がせてヒート起こさせるなんてお前はどうかしている」
「西条だってアルファなんだからわかるだろ? 欲しいものは何をしても手に入れる。あぁお前はオメガに興味はないからわからないか」
「わかりたくもないな、人権を無視したレイプ犯の気持ちなんて」
「とにかく、お前には関係ないだろう! これは俺と正樹の問題だ」
俺たちの言い争いを聞いて、正樹は俺の腕の中で震えていた。発情で思考は正常では無いにしても、自分はレイプをされるところだったという話をしているんだから、当たり前だ。俺は腕の中の正樹に俺の香りを当てて話しかけた。
「正樹、大丈夫だ。俺がお前を守るから、少しだけ我慢して。ヒート辛いか?」
「んっ、まだ少し大丈夫かも」
初対面の俺に甘えたな声で答えた。もうあまり状況を理解してないのかもしれない。
「でも、そろそろやばいな、すぐにここを出るから大丈夫だ」
「う、ん」
正樹にしか聞こえないくらいの低い声で話しかけて、正樹を安心させた。そしたら正樹はそのまま目を閉じて意識を閉ざした、そしてタイムアップだ。
「見ての通り、正樹はお前にはひとかけらも興味が無いみたいだ、諦めろ。そして強姦未遂の罪を償え」
「は? オメガのフェロモンに当てられて抱くなんて犯罪でも何でもない」
「違うだろう? お前は正樹に薬を盛った」
「そんなのほんのきっかけだ。ヒートさえ起こせばこっちのものだし、正樹は情が深いから番になれば俺を愛してくれる」
「そんなまがい物の愛情になんの価値があるんだ? とにかく今の俺たちの会話は校長室と警察に筒抜けだ」
「えっ、お前っ!! なんてことをっ!」
俺は事前に学校に強姦事件を伝えておいて、電話をずっと校長に繋いでいた。彼らは録音もしているだろうし、これは犯罪だ。こういう犯罪で学校のオメガが泣きを見ているのを学校側も許せなかったが、どれも事後のことで証拠が取れなかったと以前から生徒会を通じて聞いていた。だから俺が協力をした。
今回は生配信で、初めて立件できたのだ。
いい加減、校長も教育者としてアルファの横暴を許せなかったというのを聞いていたので、今回は彼らを使って処理してもらうことにした。そこで、教師たちがこの部屋に入ってきて、彼は連行されていった。
「正樹、終わったよ。お前はもう大丈夫だ」
「んっ、おわったの……あり、がと」
正樹はきっと俺が誰だかもわかっていないだろう。近くにいて助けてくれた男、ただそれだけの認識だからか、薬が効いているからか、素直で可愛い。
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