運命を知らないアルファ

riiko

文字の大きさ
上 下
6 / 67
本編

6、気になるオメガ

しおりを挟む

 翌日、保健医を通じてそのオメガから手紙をもらった。名前も学年も何も書いていない、謝罪と感謝の言葉のみだった。

『昨日は嫌な場面を見せてしまって申し訳ありませんでした。助けていただきありがとうございました』

 その文章のシンプルさから、彼の誠実な人柄が見えた。俺をフェロモンで誘う今までの低俗なオメガと同じだとは思えなかった。

 その紙にはあの時の香りが移り香として残っていた。なんともたまらない香りだ、強い抑制剤を飲んでから微量でもフェロモンを感じることがなかったのに、そんな紙切れ一つに俺の細胞がよろめきたった。

 名前も何も知らない男のオメガ。

 探そうと思えば探せる、嫌な気はしなかったがオメガに関わる気もなかったので、名前も何も知らなくてむしろ良かったとも思った。あの時、俺を見ようともせず、ひたすら発情に耐えていた。だから俺の顔を知らないはずだし、俺は抑制剤を服用済みで、俺の香りは届いていないだろうから、彼は俺を知らないままだ。

 昨日はとっくに下校時間の過ぎた時間だったので良かった。あれが学生たちのいる時間帯だったら、彼は無事では無かったはずだ。そしてレイプをするようなアルファを作らずに済んだ。

 もし彼がレイプされていたとしても彼に非があると言われ、アルファは断罪されないどころかオメガを訴えることができる、そんな世の中だから、それは心から良かったと思った。

 あのオメガに遭遇してから一週間くらいして、学校で彼を見かけた。初めてのヒートが開けたのだろう。

 友人と楽しそうに笑っている。

 あの時はとても可愛くて魅惑的に見えたが、彼はよく見ると健康的に焼けた肌で欲望の対象には見えないくらい元気な男だ。背もそこそこありそうで、オメガのようなか細い印象もない、可愛いというよりも爽やかな高校生らしい少年だった。

 彼は、俺が嫌う人種のオメガ。

 しかしなぜか彼からは目が離せない。友人と話しながらも上の空で、彼を目で追っていた。すると一瞬目が合った気がしたが、すぐに逸らされた。

 彼は、俺に気づいた?

 目が合うなり、すぐそらす。それは俺とは関わりを持ちたくないように感じた、そして一瞬戸惑ってしまった。彼と目があっただけで細胞が目覚めたかのように、アルファとしての何かが色めきだった。

 そんなオメガ初めてだった。

 大抵のオメガは目が合うと色気を撒き散らしてくる、そんな印象しかない。オメガから発情した状態で近づき、アルファをヒートの香りで狂わせセックスを強要される、それに遭遇したことも一度や二度ではない。

 だから常日頃から、自分のフェロモンも出さないくらいの強い抑制剤を使用していた。

 オメガを手当たり次第抱けてラッキーだと友人のアルファたちは言うが、そうは思わない。発情に負けて獣のように欲望を吐き出すことに意味などないだろう。

 学校で俺をチラチラと盗み見るオメガはいても、ほとんどは面と向かってくることは無い。すでに俺のオメガ嫌いは有名だからだ。アルファ至上主義という時代遅れなアルファも未だにいるから、周りにはそう思われているのだろう。

 オメガから近寄ってくることは無いので助かっているが、それでも自信家のオメガは自分ならいけるだろうと俺を誘惑しにくる。そして二度と俺に話しかけられないくらいの脅しをかけて追っ払う。

 彼もオメガなら俺の存在は知っているはずだ。だから関わらないように手紙に名前も書かず、目が合ってもそらす行為をしたのかもしれない。俺はそれを寂しいと思った。

 やはり初めての感情だった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

運命だなんて言うのなら

riiko
BL
気が付いたら男に組み敷かれていた。 「番、運命、オメガ」意味のわからない単語を話す男を前に、自分がいったいどこの誰なのか何一つ思い出せなかった。 ここは、男女の他に三つの性が存在する世界。 常識がまったく違う世界観に戸惑うも、愛情を与えてくれる男と一緒に過ごし愛をはぐくむ。この環境を素直に受け入れてきた時、過去におこした過ちを思い出し……。 ☆記憶喪失オメガバース☆ 主人公はオメガバースの世界を知らない(記憶がない)ので、物語の中で説明も入ります。オメガバース初心者の方でもご安心くださいませ。 運命をみつけたアルファ×記憶をなくしたオメガ 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけますのでご注意くださいませ。 物語、お楽しみいただけたら幸いです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...