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本編
6、気になるオメガ
しおりを挟む翌日、保健医を通じてそのオメガから手紙をもらった。名前も学年も何も書いていない、謝罪と感謝の言葉のみだった。
『昨日は嫌な場面を見せてしまって申し訳ありませんでした。助けていただきありがとうございました』
その文章のシンプルさから、彼の誠実な人柄が見えた。俺をフェロモンで誘う今までの低俗なオメガと同じだとは思えなかった。
その紙にはあの時の香りが移り香として残っていた。なんともたまらない香りだ、強い抑制剤を飲んでから微量でもフェロモンを感じることがなかったのに、そんな紙切れ一つに俺の細胞がよろめきたった。
名前も何も知らない男のオメガ。
探そうと思えば探せる、嫌な気はしなかったがオメガに関わる気もなかったので、名前も何も知らなくてむしろ良かったとも思った。あの時、俺を見ようともせず、ひたすら発情に耐えていた。だから俺の顔を知らないはずだし、俺は抑制剤を服用済みで、俺の香りは届いていないだろうから、彼は俺を知らないままだ。
昨日はとっくに下校時間の過ぎた時間だったので良かった。あれが学生たちのいる時間帯だったら、彼は無事では無かったはずだ。そしてレイプをするようなアルファを作らずに済んだ。
もし彼がレイプされていたとしても彼に非があると言われ、アルファは断罪されないどころかオメガを訴えることができる、そんな世の中だから、それは心から良かったと思った。
あのオメガに遭遇してから一週間くらいして、学校で彼を見かけた。初めてのヒートが開けたのだろう。
友人と楽しそうに笑っている。
あの時はとても可愛くて魅惑的に見えたが、彼はよく見ると健康的に焼けた肌で欲望の対象には見えないくらい元気な男だ。背もそこそこありそうで、オメガのようなか細い印象もない、可愛いというよりも爽やかな高校生らしい少年だった。
彼は、俺が嫌う人種のオメガ。
しかしなぜか彼からは目が離せない。友人と話しながらも上の空で、彼を目で追っていた。すると一瞬目が合った気がしたが、すぐに逸らされた。
彼は、俺に気づいた?
目が合うなり、すぐそらす。それは俺とは関わりを持ちたくないように感じた、そして一瞬戸惑ってしまった。彼と目があっただけで細胞が目覚めたかのように、アルファとしての何かが色めきだった。
そんなオメガ初めてだった。
大抵のオメガは目が合うと色気を撒き散らしてくる、そんな印象しかない。オメガから発情した状態で近づき、アルファをヒートの香りで狂わせセックスを強要される、それに遭遇したことも一度や二度ではない。
だから常日頃から、自分のフェロモンも出さないくらいの強い抑制剤を使用していた。
オメガを手当たり次第抱けてラッキーだと友人のアルファたちは言うが、そうは思わない。発情に負けて獣のように欲望を吐き出すことに意味などないだろう。
学校で俺をチラチラと盗み見るオメガはいても、ほとんどは面と向かってくることは無い。すでに俺のオメガ嫌いは有名だからだ。アルファ至上主義という時代遅れなアルファも未だにいるから、周りにはそう思われているのだろう。
オメガから近寄ってくることは無いので助かっているが、それでも自信家のオメガは自分ならいけるだろうと俺を誘惑しにくる。そして二度と俺に話しかけられないくらいの脅しをかけて追っ払う。
彼もオメガなら俺の存在は知っているはずだ。だから関わらないように手紙に名前も書かず、目が合ってもそらす行為をしたのかもしれない。俺はそれを寂しいと思った。
やはり初めての感情だった。
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