桜の樹

Estrella

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以後お見知りおきを

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朝の6時に鐘が鳴る。
ドォーンとなるその鐘を鳴らすのは、ここ白桜国の守り神である桜。
鐘を鳴らしたあとは、神獣の森へと向かい神獣達を起こす。

「おはようございます!皆さん朝ですよー!」

桜の一声で、神獣達は起きたけど起きない。

「いいんですかー?起きないと…」

(起きないと?)

「神獣様のスペシャルフワフワモチモチバター添えが無くなりますよ?私の胃袋の中に。」

ガバ!           (一斉に起きた。)

朱『何を言う主あれは私のだ。』

「ちゃんと起きたらですよ?起きたらあげますけどね~♪」

玄『おい!朱凰ずるいぞ!俺もだ!』

「だから、起きて顔洗ったらですよ?」

青『ちょっと!抜け駆けしないでよ!私もよ!』

「じゃあ、起き上がった後は顔洗って体操したらです。」

(……体操?)

朱『主、何かやることが増えてないか?』

「気の所為です。」

玄青『嘘だ!増えてる!』

「早くしないとなくなりますよ?」

ワーワーと神獣様と桜が一悶着やること小一時間。


スペシャルフワフワモチモチバター添えの為に、体を動かす神獣様は、この国では逆らえる者がいないはず……だが、まぁ守り神もある意味では国王陛下より立場が上である。

(桜にその気がないだけで。)

朱『主、スペシャルフワフワモチモチバター添えを早く食べたい。』

「じゃあ、皆さん並んで座ってください。」

朱玄青『うむ。』

「それではお待ちかねの、スペシャルフワフワモチモチバター添えを召し上がれ~!」

朱玄青『おおおー!』

「挨拶は?」

朱玄青『頂きます!』

「はい!どうぞ!」

そう。この時ばかりは何がなんでも言うことを聞く神獣様は、最近スペシャルフワフワモチモチバター添えが大好物となり、朝はこれから始まるのだと、勝手に豪語しているのだ。

ふっくら分厚い生地を3枚4枚5枚と何枚でも平らげそうなこの上にバターがトロっとしていて……

(そう。普通のパンケーキ。)

「それにしても不思議ですね~。神獣様がパンケーキにハマるだなんて。」

朱『うむ。美味い。』

「人間の食べ物でいけるんですね~!」

(こっちが本音。)

玄『人間はこれが毎日食べれて幸せだな!』

「多分毎日食べる方はいないです。」

青『いないの!?こんなに美味しいのに!?』

「あんまりこの国では、流行ってないそうですよ?元々質素な食事が主流ですから。」

朱『?では、主はなんでこの作り方を知ってたのだ?』

「ああ。こっそり食べてる人を見つけて教えてもらったんです。材料は意外と少なくて済むって言うものですから。」

玄『誰だ?それ。』

「ふふ。午後になれば分かりますよ?」

青『午後?何かあるの?』

「朱凰様を一目見たいのですって。」

朱玄青『誰が?』

「陛下と王太子様が。」

朱玄青『………ん?』

「ん?」

朱玄青『国王と王太子?』

「はい。」

朱玄青『……嫌だ…』

「少し見るだけですって。」

朱玄青『それでも嫌だ。』

「はっきり言いますねぇ。」

玄『だって、国王と王太子なんてどうやって主を嫁にしようか考えてる奴らだろ。』

青『ホント下品よね~』

朱『夜の寝物語でこ奴らから聞いたが、あまりいい印象ではないな。』

「寝物語に何を聞いてるんですか…あと、嫁にしようかなんて話をしたことは無いですよ?」

青『それに気づいてないのは本人だけよ…』

「え?」

朱『………主。』

玄『相変わらず疎いよな。その辺。』

青『まぁ、ずっとここにいるから仕方ないけれど。どうしたらいいものかしらね。』

「結婚なんてしませんよ~」

朱『だが、主のことだからスっとサインしそうだな。』

玄青『うんうん。』

「ええ!そんなにすっとぼけてませんって!大丈夫ですよ!」

玄『よし。午後は寝よう。』

「寝ないでください!お願いします!」

青『ぐっすり寝ましょう!』

「やめてください~」

朱『主も一緒に寝るか?』

「私だけ不敬罪になりそう~!」

朱玄青『それは無い。』


駄々をこねる神獣をどう諌めようか考えている桜だったが、午前から午後などあっという間。
お昼の後には直ぐに、国王陛下と王太子様が「桜樹泉」に向けて、城を出た。

「どうしよう…本当に部屋に籠っちゃった…」

(私も正装に着替えたり、神獣様だって少しは着飾ろうかと思ったのに~)

「桜樹泉」の中は特別な気があり、守り神か神獣達の許可なく入れない。

(許可があればいいのだが、そうでなければ桜の術の餌食になる。)

(今日来る国王陛下でさえ、私がいないと入れないし。きっとまたいつでも入れる許可をもらいに嘆願しに来たんだよね…)

「………うーん。どうしよう。」

白桜国の国王陛下。
齢26の若さでこの国の王になったのは、先王が若くしてお亡くなりになったからだ。
それでも、変わりなくこの国は動いているので国王陛下は素晴らしいと、国民の人気は高い。
それでも、神獣や守り神の許しがあるのと無いのでは、王位を揺るがすこともある。
それほど、この国にとって神獣と守り神の存在は大きい。
加えて、何かあった時のためと王太子にも許しを貰えたらという、算段を企てていてそれには王太子が守り神である桜と婚姻した方が、いいのではと声が上がっているが、桜は王太子の意図に何も気づいていない。
人生のほぼ全てはここ「桜樹泉」にいるので、恋愛というものを知らない乙女なのであった。

流石の国王もこれは予想外。
直ぐに許しが貰えると思ったのだから、だいぶ焦り、神獣達もこの国王の策には怒り、なんと会うのは、5年ぶりである。

国王も神獣の威光がなく、平和が今だけとは思われたくないため桜を通して何とか会うことを今回は取り付けられた。

「あんなに必死だったから、神獣様の威光である許しの印が欲しいんだろうけど…」

許しの印とは、国王陛下にだけ与えられるという額に現れる神獣がつける印のこと。
これがあれば、神獣様の力を得られているというわかりやすいステータスとして、国民に見せつけられる。

「政治的にも人間性的にも人気はあるから、すぐにどうなる訳でもないけど、印はやっぱり欲しいんだろうなぁ。でも、私だけいてもそればかりはね…」

(因みに守り神の桜も額に印はあるが別物である。)


「ああ!そろそろ時間だ!」



国王陛下と王太子到着。


桜は「桜樹泉」から出て国王陛下と王太子を迎える。

「桜樹泉」から出ると桜は、光を纏い薄い紫とピンクの重ねが美しい衣を着て羽衣を纏えば、その姿はまるで天女。
人々が、美しさのあまり気を失うと言われているほどである。

(伝承みたいに伝えられているだけで人前に立ったことは無い。)

桜「…5年ぶりでしょうか。ご健勝で何よりでございます。国王陛下並びに王太子殿下。」

王「守り神様であられる貴方がおられるからです。桜殿。」

太子「本日は神獣様ヘのお目通りを叶えて下さり誠にありがとうございます。」

この国の王族の金髪に翡翠の瞳は、国民の人気のひとつ。
とても綺麗な濁りのない瞳の奥にあるミステリアスな感じが女性に人気で、さらに剣術の腕がすごいと男性の人気もある。

(これ以上に欲しがるところが神獣様たちは嫌なのかしら…)

桜「この中に入るのは、御二方のみとさせてもらいますが、よろしいでしょうか?」

王「そのように、取り計らいます。」

桜「では、こちらへ。」

桜は国王と王太子を、「桜樹泉」の前に並ばせ唱える。

桜「我 この樹を守る者 式たりを与えし者 力のある限り忠誠を誓う者 我の声を聞き届けよ」

桜が唱えればたちまち光におおわれ、他のものには光しか見えず、後に入口は見えなくなる。
護衛の騎士団は、大層驚きまたこのままここにいるのかと、少し不安であった。

桜『ああ。護衛の皆様は麓の私の屋敷でおくつろぎください。勝手に歩いては、幻術にハマりますので。』

と、姿なく声が聞こえしばらく動けなかった騎士団である。


「桜樹泉」の中

桜「陛下。今日はおひとりでお会いになられますか?神獣様たちは、少しお休みになられてますが、お部屋の前にいるだけでも、お気づきになられますので。私がご案内した後お話を通しておきます。」

王「ああ。頼む。」

太子「……お一人で行くのですか?私も共に…」

王「いや、まずは私が行かねばな。」

桜「でしたら、王太子殿下は1度ここの屋敷へいてください。出歩いてはダメですよ。」

太子「はい。わかりました。」

王「…しかし、いつ来ても樹の中の森に屋敷とは、不思議が止まらない場所だな。」

桜「お恥ずかしながら、ここで寝てしまい起きないなんてこともあるんですよ。」

王「はは。相変わらずだな。ああ、そうだ…」

桜「?」

王「これを…桜殿のご両親から預かって来たのだ。手紙を書いてくれないかと言ってたぞ。」

桜「………。陛下、申し訳ありませんがその手紙は受け取れません。」

王「まだ、ダメか…」

桜「…。」

王「よい。そう伝えておこう。」

桜「すみません。」

王「気にするな。仕方がないことだ。」

桜「…ああ。ここが先日お生まれになった麒麟の朱凰様の住処でございます。そのまま真っ直ぐに玄凰様と青凰様となっております。」

王「そうか。では、あとは私次第だな。」

桜「それでは、私は屋敷でお待ちしてます。お帰りは屋敷まで着くようにしておきますので。」

王「わかった。と、昔のようにくだけてはダメだな。後は私がお引き受けします。桜殿ありがとう。」

桜「では、ご武運を。」

そう言い終えると国王陛下は朱凰様の住処へ入っていった。

(ここで上手くいくといいけれど)

桜は屋敷へ戻り、王太子を探した。

桜「殿下?」

太子「ああ。すまない。ここで少し寝てしまった。陛下は大丈夫でしたか?」

桜「麒麟の朱凰様の住処へ行かれました。」

太子「そうか。」

桜「…」

太子「どうかしたか?」

桜「いえ、陛下と瓜二つなのは中身もなんですねと思いまして。」

太子「…そうか?」

桜「その、そうか。というのを口癖のように陛下も言ってました。」

クスクスと桜は無邪気にも笑う。

太子「!」

王太子はそんな桜を見て嬉しかったのか微笑んでいた。

太子「桜殿。よろしければ貴方のことを教えて貰えないか?」

桜「!?」

太子「いや、あまり聞いてはならぬと言われてはいるが、知りたくなってしまって…」

桜「…それは、なりません。」

太子「え?」

桜「私は守り神です。誰の目にも本来は触れてはいけないのです。神獣様達もそれを危惧していつも、私を守ってくださいます。ですから、私のことは守り神という存在なのだとそれだけだと、お心に刻んでください。」

太子「だが…」

桜「殿下。」

桜の周りに言い知れぬ力が纏わり付く。

太子「わかった。」

桜「では。以後お見知りおきを。」

そうにっこりと笑う桜はまるで箱にしまわれたお姫様のようであった。
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