桜の樹

Estrella

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初めまして

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国全体が大樹でおおわれてあらゆる敵から守られている国。 それが白桜国。
国の真ん中にある国1番の大樹の「桜樹泉」はこの国の水であり空気であり人々の癒しである。
その麓に位置する風情ある建物には「桜樹泉」の守り神が住んでいる。

守り神とは、大昔にあった大地の戦争により、荒れ果てた場所から戦争をなくすため、1つの樹を持ち己の命を犠牲にして、国を作ったとされる女神のこと。
現代では、何年かに1度生まれる不可思議な力を持った女性が守り神となる。
守り神は、「桜樹泉」の麓の屋敷で住まうことになっている。

そして、今世の守り神であり国1番の美女と有名なのが…

「初めまして。あなたが新入りの神獣さん?」

輝く銀髪が風で靡き、美しい藤色の瞳の久遠桜である。

彼女は今、産まれたばかりの神獣と話しているところだ。

神獣とは、この国の「桜樹泉」の麓に住み国と守り神を守護する神聖な生き物。
代々の守り神にしか会話ができず、大昔の戦争でもその力は絶大なものだと、戦記に記されている。

「今日は麒麟の子が産まれたのね。私は今世の守り神の久遠桜です。どうか、この国の繁栄に力をお貸しください。」
 
『……名を。』

「はい。美しい黄金の麒麟の子よ。名を朱凰と名づける。」

守り神が産まれた新たな神獣に名づける儀式を神名の儀といい、名付けられた神獣からは、神々しい光を発する。

『朱凰か…良い名をありがとう。桜。』

「いいえ。こちらこそ、私の代で麒麟の子が産まれるだなんて名誉をありがとうございます。よろしくね。朱凰。」

本来、神獣とは簡単に産まれるものではなく、新たな神獣が産まれるだけでも、国が宴を開くのだが、今回はさらに珍しい麒麟の子とあってその稀少さは、計り知れないものであった。

『しかしまぁ、今の神獣はグリフォンとペガサスだけとは、世が平和なのか、そうでないのか…』

「……。それは、やはり今世では何かあるということでしょうか?」

『分からぬが、前の世では20は神獣がいたからな。私を含め3体しかおらぬのが気になっただけだ。』

「何も無いといいのですが…」

朱凰と桜が危惧しているのは、神獣の数。
年々その数が減っており、国に何か起こるのではないかと、国王陛下や国民までもが不安を感じながら、今回の麒麟誕生を迎えていた。

神獣の数で平和が決まる訳では無いが、国にとって神獣はかけがえのない力。
数は多い方がいいという考えなのだろう。

今はこれといって目立った事件などはないが、守り神である桜の立場というのもあり、神獣や桜自身も日々が不安であった。

『しかし、向こうで式典をしているとはいえ、主は参加しないのか?』

「私は、あまり人前に出て貰いたくないようで…」

『……ああ。人気を取られたくないのか。』

(そんな悟った顔で言わないでください!)

「まぁ、目立つのが苦手なので、構わないのですが。」

『今世の国王もまた美形ではあるがな。人気など気にする必要も無さそうだが…』

「前の世も王族は美形だったのですか?」

『ああ。大体美形だな。国民の人気は凄かったぞ。』

「やはり王族の方は違うんですねぇ。今も人気が高くて、お嬢様方の王太子様への熱気は凄いですよ。」

『ああ。そんな感じだな。ここまで声が聞こえてくる。しかしまぁ、主の方が綺麗と認めているのだろうな。』

「え?」

『でなければ、人前に出るなと言わないであろう。神秘的な方がいいとかは建前だな。』

「!?人前に出るなと言われた理由がどうしてわかったんです?」

『ふっ。少し時を遡るなど造作もないぞ。』

「時の力をお持ちなんですか!?すごいです!」

『ふふふ。もっと褒めて良いぞ!』

「さすが麒麟の朱凰様です!」

『よいよい。さて、今世の国王も拝んだことだし、グリフォンとペガサスにでも会いにゆくかの。』

「それでしたら、ご案内致します!」

遠目で、国王と王太子を拝み桜と朱凰は「桜樹泉」の中へと入っていった。



「桜樹泉」の中、それは国民には秘密の神獣の住処である。
国民には、麓としか伝えられてないが、実際は「桜樹泉」の中で神獣たちは暮らしている。

「桜樹泉」の中は、摩訶不思議で樹の中に広い森がある感じだ。
その中で各々神獣は自分の住処を作り、力の蓄え所とする。
神獣が傷つき力を失いそうな時は住処へ戻り、力を蓄えられる。
守り神の1番の仕事は、この神獣の住処である「桜樹泉」の守護と何人たりとも侵入不可避の森を隠す幻術を使うこと。
つまり、常にこの「桜樹泉」は誰の目にもつかないように桜は幻術をかけているのだ。

『大したものだよ。主の力は。』

「急にどうしたんですか?」

『なに、ここまで誰の目にもつかないとなるといるのも怪しまれるんじゃないかと思ってな。』

「ええ!?さすがに存在を疑う方はいないと思いますけど、幻術が使えるのも、500年ぶりとありますし、そのことも伝承に載ってるので、幻術自体は知られちゃってますからねぇ。」

『まぁ。我らになにかしようと考える輩がいなくて幸いだな。因みに、主の幻術は引っかかるとどうなるんだ?』

「あ~。私のは相手の1番嫌なことを悪夢にして見せて、例え桜樹泉から離れても半年はそれで苦しむようになってます。」

『…………………見かけによらずえぐいな。』

「え?そうですか?」

『どこで覚えたんだ?そんな術。。』

「グリフォンの玄凰様が言ってました!」

『神獣に、聞いたのか…』

「はい!どんなのがいいですか?と聞いたらそう言ってたのでそのまま、使っちゃいました!」

『無邪気にえげつないことを…神獣に聞いたらそんな答えしか返ってこないかもしれんが。。他にはなんかなかったのか?』

「うーーん。私では中々いい案が浮かばなくて、ペガサスの青凰様は、不得手と言ってましたので…」

『不得手ってなんだ…絶対めんどくさかっただけだろう。ペガサスは大体そうだ。』

「そうだったんですか!?もっと気にかけてればよかった…」

『そうなるのか…』

「え?」

『まあ、良い。そろそろか?』

「はい。ここで下にある紋章を私か神獣の御三方が踏むと、入口が開きます。」

『そこは画期的なんだな。』

「ふふ。出る時も一緒ですよ。」

『あまりないと思うがな。』

神獣は、基本気高く高慢。
それゆえ、守り神にしか心を許すことは無いとされている。
他の民が神獣を見たとしても、好奇心で体に触れれば災いが起きるとされている。

(しかし、昔からそう伝えられていて国民は怖いので試した者はいない。)



「あっ、いた。おーい。玄凰様と青凰様~」

桜が呼ぶと木の影から、グリフォンとペガサスがひょっこりと顔を出した。

玄『桜が新しい神獣を連れてきたか。』

青『あら。麒麟じゃない?』

玄『本当だ。またお硬いのがきたな。』

青『そんなこと言って、桜の取り合いをするだけでしょう。』

玄『なんで俺がそんなことするんだよ。』

青『あら。普段から好き好き光線ダダ漏れよ?』

玄『好き好き光線ってなんだ!?あいつが危なっかしいだけだろう!』

青『そんなこと言っていつも、真っ先に守りに行くじゃない?だから、私はいつも1歩引いて見守ってんのよ。青いわね~』 

玄『お前のそれは、めんどくさいだけだろう!』

青『失礼ね!そんなことないわよ!』

玄『いいや!あるね!』

「あれ~?喧嘩してるんですか?」

玄青『してない!』

シャキーンと玄凰と青凰は並ぶ。

「新しい神獣の麒麟の朱凰様を連れてきましたよ。」

朱『麒麟の朱凰だ。喧嘩は好まないので仲良く頼むぞ。玄凰と青凰。』

玄『喧嘩じゃないし。』

青『してないからね。そんなこと。』

「ふふふ。皆さん仲良くなれそうでよかったです!私からもこれからよろしくお願いしますね!」

玄青朱『ああ。よろしく。』
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