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蜜月編
其の名は・後
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ヤトの言う目的地に着いたのはそろそろ朝飯の時間になろうかって頃だった。
腹を空かせつつ、馬車の中でこれでもかと厚着させられ、最後にもこもこした手触りのいい毛皮の上衣を着せられる。なんでも火狐って物の怪の毛皮だそうで、それ自体が常時熱を持っているらしい。同じようにその毛で編んだ手袋をはめられ、ヴェールを被せられる。シースルーだから薄く透けて見えるとはいえ、当然視界は悪くなった。
そんなに外は寒いのかと覚悟を決めつつ手を引かれて馬車から降りると、寒いどころか痛みすら感じる外気に顔が強張る。火狐の毛越しでこれなんだから、多分ヴェールを外したら俺、血を流すんじゃないだろうか。
「な、なあ。ここ、物の怪だと平気なのか? なんか痛いんだけど」
いつもと違ってヤトも一応着込んではいる。それも俺ほどじゃなくて、顔は普通に出してるし表情もそんなに辛そうには見えない。馬車から人型に変わったルゥなんか厚着さえしてないのに平然としている。
「僕は暑さや寒さ、痛みというのは感じない性質なんですよ」
「俺の場合は血の強さだな。もっとも、ここは人が決して立ち入ることのないようにと術を施して意図的に温度を下げている。門を潜れば大分変わるはずだ」
ヤトが示した先には古めかしくも大きな屋敷が建っていた。少し手前には白塗りの塀に広い門。そこに、綺麗な女の人が立っていた。真っ黒の髪と雪みたいに白い肌。うっすらと色づく唇は桃色で、切れ長の目は涼やかな印象を受けた。
「ようこそお越しくださいました、第二王子殿下」
「もう王子ではないからその呼び名はやめろ」
深々と頭を下げた女の人に対して、ヤトの態度は少し硬い。相手に好意的じゃないのが分かるくらいトゲを感じる。けど、女の人は全く気にせずに目を細めて笑った。
「まあ。わたくし、これ以外に殿下をお呼びする方法を存じ上げませんのよ? それとも、これぞという名を教えていただけるのでしょうか」
「……」
黙り込むヤトを尻目に、女の人は俺に目を向けて、上品に笑った。門の真ん中から脇に移動し、俺たちに中へ入るよう促してくれる。そのまま門を通り過ぎると、確かに、痛むほどの寒さは引いていた。
「お初にお目にかかります。わたくし、雪女でございます。この宿の女将をしておりますの」
どうぞお見知り置きを、と女将が会釈をする。俺もつられるようにして頭を下げた。ヴェールをそっと外して、両手でくるくると巻き取る。寒さはあるものの、門の外に比べれば寒いと思うだけで済む程度だ。あれを体感した後だと少し温いような気さえする。
「白百合と申します。人の身ながら立ち入ることを受け入れていただきありがとうございます。名交わしをしたばかりでまだ知らぬことも多くございますれば、至らぬ点も多々ございましょうが、どうぞご容赦くださいますようお願い申し上げます」
腰を低く保ったまま挨拶をすると、女将に顔を上げるよう促された。
「白百合様のことは存じ上げておりますわ。この度はおめでとうございます。一目お目にかかりたくお待ちしておりました。道中、なにもありませんで退屈でしたでしょう。この場所を選んでいただき、また遠路遥々いらしてくださったこと、光栄に思います。さ、朝餉は準備してございますから、どうぞごゆるりとお召し上がりくださいまし」
柔らかな笑みに引き寄せられるようにヤトとルゥと連れ立って中へ上がる。建物は全て和国の様式で統一されていて、木のいい匂いがした。入り口ですぐに履物を脱ぐように言われて、指示に従う。毛皮や手袋・ヴェールはルゥに預けて板張りの廊下を歩いていく女将に先導されて行きついたのは、既に配膳の済んだ座敷だった。お膳に従い、向かい合わせになって胡坐をかく。女将とルゥが最後の仕上げにと米を器に盛ってくれた。量はそう多くないように見えるけど、あまり食べたことのない米や卵焼きが美味しそうだ。
「王子殿下から言い付かりました通り、離れをそのままお使いいただけるよう手配を致しました。後ほどご案内いたしますので、なにかご所望のことがございましたらお呼びくださいまし」
女将は細かなことはルゥに説明しておくと言って、一緒に席を外していった。去り際、
「お邪魔虫は退散いたしますわね」
と、笑顔でそんなことを言いながら。
うーん、正しく俺とヤトの関係は伝わってるようだ。でも、同性ってことには触れられなかったな。俺は育った環境上そういうのは気にしないけど、物の怪はそういうの気にしたりしないんだろうか。少なくともヤトは俺に会うまで同性を好きになるとは思ってなかったみたいだし。
そっとヤトを見ると、俺が待てを言い渡された犬のように見えたのか、朝餉へ手をつけようと促された。箸は使えるかと心配されたけど、普段使わないだけで和国式の食事は全くの初めてってわけでもない。大丈夫だと答えて箸を手に取った。確かに腹は減ってるからいいんだけどさ。
「なあ、あの人あんたが王子だった頃の知り合い?」
聞かないことには始まらない。俺が米と味噌汁を味わいながら単刀直入にそう尋ねると、焼き魚の身をほぐしていたヤトは箸を止めた。
「……面識はあるな」
「ああいう人が好みだった?」
「白百合」
ヤトが窘めるように少し声を大きくするけど、でも、王様だって好みと王妃様のタイプは違ったみたいだし。
昔のヤトが知りたい、とか、単純に好奇心だったりしたけど、俺がどうなんだよと引かずにいると、箸を動かし、渋々といった様子ながら答えてくれた。
「……あれはな、兄上に侍っていたうちの一人だ。そして俺のところに流れてこなかった少数のうちの一人でもある。ゆえ、他の者よりも話がしやすい。ああ、だからと言ってあれが居るからここを選んだわけではないぞ? そなたに見せたいものがあるのが、たまたまあやつの土地だったのだ」
最初は嫌々っぽかったヤトも次第に当時のことを思い出してきたのか、箸を動かす手はそのままに、そのまま愚痴を吐き出すようにして教えてくれた。
「俺とて端から女嫌いだったわけではない。兄で足りぬ輩が俺の部屋にまで忍び込んできおってな、それが頻発したのだ。挙句俺が少しも勃たぬと分かれば、龍の血のことを心得ておるだろうに不能などとぬかす者さえ出る始末……。勝手に寄ってきおった上に問答無用で股座をまさぐられた俺の身にもなれというのだ」
口の中に食い物がある時はむっすりしつつも黙り込む辺りがまた上品というかなんというか。
抵抗しようにも怖かったのかもしれない。人間でも恐怖が先立っていれば勃起しないことはある。極度の緊張とか。身体を動かすっていうのが出来なくなるんだよな。筆下ろしにってやってきた客でもそういうことはあったし。
「……その人どうなったの?」
相槌のつもりで訊ねると、ヤトは少しも表情を変えずに答えた。
「二度と逆らえぬようにしておいた」
怖え。変に表現が柔らかいだけに最悪の自体しか連想できねえ。
「ふ、ふーん……まあ不能はないよな」
「おかげで侵入者を阻む結界の類は得意になったぞ」
深く突っ込むのも躊躇われて、曖昧に肯定しておく。けど、ヤトは一つ息をついて、今にも箸を折りそうだった勢いを殺した。
「結果、ほとほと嫌気がさしてな、あの地に籠ったわけだが……そこにきてようやく静かになったかと思えば、脅しをかけてそなたを攫うなどという暴挙に出た馬鹿者が出てしまった」
あれは処遇に困った、とボヤいて、ヤトは箸を置いた。お茶をすすって一息するのを見つつ御膳に目を遣ると、綺麗に平らげた後。俺も食べながら聞いてるけど、明らかに食べるスピードはヤトの方が早い。なんでだ。ヤトは喋りながらのはずなのに。
急ぐこともないだろうと、無理せず自分のペースで箸を進める。
「俺、その人がどうなったか知らないんだけど」
そもそもそいつに名前のこととか聞いたんだっけ。懐かしいなあ。乱暴はされなかったけど、ちょっと高圧的な感じだったな。
俺がそいつのその後について気にしたのを見て、ヤトはふむ、と少し考えた。
「過程は最悪だったとはいえ、結果としてそなたは俺の血の相手だったのだ。引き合わせたのは他ならぬそやつゆえ、切り捨てるわけにも行かぬし、かといって褒美を与えるにもしでかした内容が悪すぎた。今は俺とは縁遠い地で達者で過ごしているだろう。監視付きだが」
ふーん。まあ血生臭いことになってなくて何よりだ。そいつも、人間の方とも。
ヤトは言いたいことは言ったのか、それ以上は何も言わなかった。
「折角女を好きになれるかもしれなかったのに、俺が男でがっかりした?」
今は俺が男ってことを受け入れてくれてるけど、ヤトはもともと俺のことをずっと女だと思っていたわけだ。名明かしも俺からだったし、そういや半ば折れるような形で名前を教えてもらったような……? いや、でも、ヤトはずっと優しかったし、それは男だってバラした後もそうだ。俺が感じる範囲じゃ、ヤトは俺のことを好きでいてくれている。それはちゃんと感じている。でも、バラした直後はどうだったんだろう。ショック受けてたのは十分分かったけど……。
ふと浮かんだ疑問は、ヤトにとっては衝撃的だったらしい。目を見開いて固まるヤトに手を振って呼びかけると、ふと我に返ったようにはっと俺と目を合わせた。
「あ、ああ……すまぬ。そういった考えはなかったな」
図星を指されたわけじゃなさそうだ。今気づいたと言わんばかりの態度に、少しだけほっとする。
「そもそも血の相手そのものを諦めておったし……仮にそなたが女だったとして、それで女というもの全体を好くようになるかというとそうではないだろう? それに血が求めるからとは言え、掌を返したように女に入れあげる自分というものを受け入れがたく思っていたのも確かだ」
「……うん」
「これでもそなたに出会ってあれこれと思い悩みもした。……確かにそなたが男だというのは信じ難かったが、落胆はしておらぬ。驚きでそれどころではなかったしな」
苦笑して、ヤトはあの時のことを思い出したのか、肩を竦めてから、そのまま脱力したように下げ切った。
「全く、一年もの間疑問にも思わぬとは。いくら脅して得た負い目があろうと、今振り返っても俺は随分浮かれていた」
その声が一緒に笑えと言ってるようで、俺は軽く答えた。
「俺もバレたら困ることになると思ってたからいいんだって。お互い、必要な期間だったんじゃねーの?」
漬物を齧りながらあったかいお茶を飲む。俺の言葉に、ヤトはなるほどと頷いた。
「言い得て妙だな」
それから、そなたで良かったと、優しく微笑んだ。
そのまま朝餉を終えると、ルゥが入ってきた。この後どうするかと俺たちに聞いてくる。
「白百合、疲れが出てはおらぬか」
「寝心地よかったし大丈夫。飯も食ったし、散歩に行きたいくらい元気」
ヤトの言葉に答えると、それならばとヤトは一つ提案をした。
「そなたに見せたいものがここからしばらく行った先にある。そこへ行くか。犬にソリを引かせるから散歩ではなくなるが」
「へえ! ソリってあの雪の上を滑るっていう奴だろ?」
聞けば、既に女将が用意してくれてるんだそうだ。ヤトが全て前もって言ってたらしい。ただ、今回はルゥは化けず、お留守番だそうで。
「お二人でごゆっくり。楽しんできてくださいねえ」
にこにこと邪気のない笑顔を向けられ、俺も悪い気はしなかった。まあ、俺たちが出向かないと見れないものなんだから外なんだろうし、この寒い中熱い流れになることはまずないだろうけど。
さほど休憩を挟まず、また火狐の毛皮やらなんやらを被る。外に出ると、確かに犬が六頭ほどソリらしき椅子っぽいのに繋がれていた。その横には女将が立っていて、犬を撫でているところだった。俺も撫でたいと小走りに駆けよったら笑って許してくれたので、手袋越しだけど頭とか顎とか一杯わしゃわしゃ撫でた。きりっとした顔つきなのに尻尾を振って、きゅんきゅんと鳴きながら俺に寄ってくる。可愛い。
「これが犬ゾリですか?」
「ああ。俺が後ろに立ち操縦する。そなたは前に座ればよい」
かなりスピードが出るから、必ず火狐のヴェールは被るようにと女将に言われる。尻尾を振る犬たちを少し避けつつ、俺はヴェールが外れないようにと軽く髪を結った。よければ髪留めをと女将が言ってくれて、手ずから、ヴェールごと綺麗に留めてくれた。
「夕餉はどうなさいますか?」
「それまでには戻る」
「では、僕は離れにある露天風呂の準備をしておきますね」
ソリの前に座りながら、三人の会話を耳にする。そんなに時間がかかるのかと聞くと、この辺は日の入りが早いのだと女将が答えてくれた。
「早いってどれくらいなんですか?」
「そうですね……大体昼の三の刻を過ぎれば暗くなりますわ」
早い。驚いたのがヴェール越しにも伝わったのか、女将はころころ笑った。遠方からいらした方は皆驚かれます、と。
「そんなに早い日の入りで……みなさん夜中ずっと眠ってらっしゃるのですか?」
多分宴会とかやるんだろうけど、毎日なわけがない。雪が光って明るかったから朝は早いのかも。
そんなことを考えていると、女将は笑みを深めた。……なんか意味深だな。好い仲の二人が揃って寝るだけで終わるわけないだろってか。ヤブヘビになっても困るから何も言わないけど。
「さあ、お喋りはその辺にしておけ。準備はいいか?」
「ん!」
妙な空気がさらに妙な方向へ変わる前に、ヤトが上手く切り替えてくれたのにすかさず便乗する。ヤトは多分、意図的にしたわけじゃないだろうけど。
ルゥと女将に見送られて、ソリの後ろに立ったヤトの合図で、俺たちは宿を出発した。
ソリは早かった。体感でしかないけど、多分、馬車よりも。
そして、雪の中を半ば埋もれるようにして走る犬たちの姿は可愛くもあり、雄々しくもあった。その先にひたすら広がる白い景色や、吐く息が蒸気のようになるのも新鮮だ。顔が少し寒いけどそれは仕方がない。それに、ヴェールを払ってちゃんと景色を見たいと思うほど、白一面の大地は綺麗だった。
ヤトの掛け声は鋭いものの弾んでいて、方向を指示しながらソリが傾いてこけないよう踏ん張ってくれているのが分かる。俺は気楽にひたすらはしゃいでいた。
風を切って走る犬とソリ。風にまかれて巻き上がる雪はきらきらと太陽に照らされて光って、まるでガラスか宝石の砂のようだ。雪に触ってみたくて、ソリの上から手を伸ばしたけど、さらさらとしていて手袋の上からじゃよくわからなかった。
そのまましばらくは雪と犬ばかり眺めてソリを楽しんでいると、直ぐに森が見えた。……うん、最初は森だと思ったんだけど、近づくにつれて幹が白いのに気付いた。
「! あの樹、なに?」
「あれは白樺だ。このあたりではよく見かける」
病気じゃないと聞いて、余計に驚いた。ヤトは犬へ指示を出して、その森の方へと真っ直ぐに進む。幹は太くなくて、真っ直ぐにすっと伸びていて、雪景色ということもあるせいか、俺が知ってる森とは全然違っていた。林みたいだ。鬱蒼とは縁遠く、風通しも、日当たりもいい。そのまま白樺の森を抜けると、犬ゾリは速度を落とした。ヤトがソリを停めて、降りるように促された。
「ここ?」
「ああ。もう見えている」
ソリから降りると、雪の中に足が埋もれた。その場で足踏みをして少し遊んだけど、歩き出すと転けそうになって、ヤトに支えてもらった。ヤトのエスコートで少し歩く。下ばかり見ていて周囲にまで目を遣る余裕はなくて、急に顔側のヴェールを上げられて驚いた。
「これだ」
そこには背の低い細い樹が、雪に埋もれるようにして立っていた。白樺とは違って細かな枝があちこちにむかって伸びている。顔を近づけてよく見ると、雪だと思っていたものは樹から生えているようだった。繊細で、ガラス細工でもこんな風にはできないだろうというほど綺麗な模様の、氷の葉っぱ。一枚一枚複雑に形作られたそれはレースのハンカチを思い出させるけど、それよりもずっとずっと複雑で細やかだ。共通しているのは六角形ってことか。
「……すげえ、これ、植物?」
「ああ。六花といってな、ここでしか咲かぬ雪の花だ」
葉っぱじゃなかったこと以上に、ヤトの口から出た思いがけない名前に、俺は弾かれたように顔をあげた。ヤトは俺を見下ろしていて、目が合う。
「これをそなたに見せたかった。持ち出せぬというのもあるが、あの部屋にそなたを縛り付けた俺から逃げず、いつも俺がゆく度に迎え入れてくれたそなたへ、僅かばかりだが礼がしたくてな。……外へ出たがっていたのは執事から聞いていたのだ。それでも、どうしてもそなたを手放すことなど考えられなかった」
外、と言うのが単純に屋敷の外だということを言ってるんじゃないのは分かった。まあ諦めがあったのは間違いないけど、それでも、結局あそこにいたのは俺の意思には違いない。
ヤトのそういうところがいい、とは思うけど、気にしすぎなんだ。
「……これ……調べたのか?」
「まあな。なかなか出歩けぬ身ゆえ、実際に位置まで把握するには伝手を頼ったが」
俺は無理やりヤトを好きだと思い込んでるわけじゃない。俺だってちゃんと、ヤトが好きだ。好きになったんだ。
「……なあ、もう一回、この――花の名前、教えて」
迂闊に名前は呼べない。呼んでもらえない。でも、ヤトが呼ぶのは俺の名前じゃなくて、この花の名前だ。
「……六花。六花だ」
ヤトの優しくて低い声が耳を撫でて、俺と同じ名を紡ぐ音に身震いした。それが俺の奥まったところにある、熱くて、柔らかい場所に落ちていく。
俺も言い返したい。返したいけど、やっぱり呼び名は思いつかなくて、替わりに背伸びをしてヤトの首に手を伸ばした。その後ろで自分の手を掴み、下へと引き寄せる。
屈んだヤトと合わせた唇はじんじんと熱く脈打っていて、鋭い空気に晒された肌はしきりに寒さばかり訴えてくるのにそこだけはひたすら熱く蕩けるほど気持ちが良くて、俺は気付けば貪るようにして吸い付き、舌先を食んでいた。ヤトの手が俺の背中と腰に回って、俺のキスに応えてくれる。
「ん、っ……」
唇が少し離れるだけで急に寒くなって、またすぐにくっつける。それを繰り返しながら合間に漏れた吐息は熱く湿っていて、その時ばかりは温かいものの、直ぐに冷えがやってくる。結果的に寒くなるのにキスはやめられなくて、俺の芯は熱を持ち始めて、止め時を悟らざるを得なくなった。
名残惜しいのが伝わるようにと最後に優しく唇に吸い付いて、そっと目を開け、ヤトの表情を眺める。
「……気に入ったと、思っていいのだな?」
「ここでなんで文句が出るんだよ。……ありがと。この花のことも、連れてきてくれたことも、今回のこと、全部嬉しい」
目の前にいるヤトの目は相変わらず綺麗で、黒い髪の奥に見えるそれが夜に浮かぶ二つの月のように思えた。
そうして、俺の中にふと、何かが入り込む。いや、浮かび上がったのか。
「なあ、返礼ってわけじゃないけどさ、」
ちょっと詩的かもしれない。けど、俺が白百合なんだから丁度いいだろう。きっと。
「桂。あんたの呼び名……。ど? 変かな」
少し緊張する。きっと似合うと思う。黒い髪は優しい夜色だし、飴色の目は淡く輝く月みたいだし。それで、この俺の名前の樹……と、花、それと俺につけてくれた『白百合』にちなんで、俺も植物から拝借してみた。『桂』は違う国では月に生えてる木というらしいし、イメージが重なったんだけど。
ヤトは俺をじっと見下ろして、ケイ、と俺の提案した名前を呟いた。それから、じわじわと頬が赤くなって、最後に、こっちまでつられそうになるくらい嬉しそうに、笑った。
「ケイ、か。よい名だ」
喜色満面、って感じだ。目尻が下がって、いつもはきりっとしてる感じのその顔がひたすら甘くなる。その中に少し照れが見えるせいか、俺の方までちょっとこう、むず痒い感じがした。
ヤトが嬉しそうに俺に触れ、抱きしめてくる。何度も唇が落ちてきて、合間合間にありがとう、と嬉しそうな声がしとしとと降りそそいだ。
名前一つで、と少しついていけなかったが、やはり物の怪にとっての名前と言うのは俺が思うより遥かに特別なものだということを突きつけられる。大体、俺だってついさっきキスを仕掛けたばっかりだし人のことは言えねえな。
「……あのさあ、もしかして、呼び名つけるのって何か特別な意味があんの?」
俺に頬ずりをするヤトの背を軽く叩いて尋ねると、ヤトははたと気づいたように表情を止めて、けど、直ぐにまた蕩けそうな顔をした。
「そなたが俺にと考え、くれた名だろう。特別でないはずがあるまい」
それはそのまま受け取っていいんだろうか。嬉しそうな表情だけは真っ直ぐだし、ヤトの言うことを疑ってはいない。けど、そもそもとしてというか。名交しみたいにさ、なんかこう、その行為自体が何らかの意味を孕んでるんじゃねーかって。まあ直感だけど。
「それで、ケイとはどういう意味だ?」
「え? ああ、それは――……」
せがまれるまま答えようとして、ふと気づく。……これ、感じたこと正直に言うのってすっげえ恥ずかしくねえ?
言葉に詰まった俺に、ヤトは口元に笑みを浮かべたまま首を傾げた。その眼が面白そうに細められてるのを見て、俺はいよいよ恥ずかしくなる。
「そっ、そっちこそなんで白百合だったんだよ」
我ながら情けないけど、そう言って逃げようとした。けど、俺が気恥ずかしいことがヤトにとってもそうだとは限らないということを、よくぞ聞いてくれたとばかりに目を輝かせたヤトを見て痛感した。
言うのが恥ずかしすぎたから口を塞いで、また身体が熱くなってしまったのは不覚としか言いようがない。
その後いろいろと誤魔化すために近くを散策してキイチゴを摘み食いしてみたり、犬と少し戯れたりしたものの、流石に長時間そうするのは無理があった。寒くなってきて、自然と戻る流れになる。キイチゴはお土産にと少し多めに摘み取って、折角見ることが出来た六花も女将が持たせてくれたという特別な入れ物に入れて、ここに居る間だけでも見て楽しむことにした。
帰り道はやっぱり真っ白で、ただ、少し傾きかけた太陽が夜の帳を下ろすタイミングを計っているようだった。
「あ! おかえりなさいませ」
宿へ帰ると、真っ先にルゥが迎えてくれた。既に夕餉の支度は出来ていて、俺達が寝泊まりするらしい別棟に用意してくれているそうだ。湯浴みの方も既に整っていると聞いて、俺達は先に風呂に浸かって身体を温めることにした。外套の類とお土産のキイチゴ、六花の入った箱をルゥに預ける。
案内されたのは、朝餉を食べた部屋ではなく、板張りの廊下をさらに奥へと進んで、橋のようになっている場所を過ぎた先にある小さな建物だった。
「こちらがお館様と白百合様のお過ごしいただくことになる離れです。お風呂は露天風呂だそうですよ」
「露天風呂?」
「外に置かれたお風呂のことです。温泉が湧き出るのでかけ流しで、いつでも暖かいお湯に浸かっていただけます」
この寒いのに、と思うものの、他の風呂はまた戻らないといけないし、他の滞在客と共同になるためお互いに気兼ねしなくていいとヤトに説明された。そういうもんか。俺も物の怪慣れしてるとは言いがたいし、俺のためでもあるんだろう。ヤトの身分とか力の強さのこともありそうだけど。
服を脱ぐための脱衣所で一切のものを脱いでいく。寒いしお互い男だし夫婦だし、一緒に入ったってなんら問題はない。ヤトは俺の裸を見て目を逸らしていたけど、俺も一糸纏わぬヤトの身体から目が離せなくなったから丁度良かった。
変に濡らすと乾かすのが面倒だから髪は結い上げて、落ちてこないようにしておく。それから掛け湯もそこそこに、早々に湯船の中に肩まで浸かった。浴槽も木製で、和国式の間接照明が風情を醸し出している。周囲には外から見えないようにと塀があった。小さな庭のような景色が広がり、その上に幕を張るように見える空は、もう赤くさえならずに暗くなっていた。
「熱っ! あ、かゆい、足痒い」
「身体が冷えていた反動だな。それが醍醐味でもある」
広い浴槽の中ではしゃぎながら足先を掻いていると、ヤトに後ろから抱きすくめられた。そのまま、足を開くヤトの股座の中に納まる。その手が俺の胸や腹を這って、ぴったりと押し付けられたヤトのペニスが少し硬くなっているのがはっきり分かった。
「髪を結い上げるというのもよいものだな。普段目につかぬところも良く見える」
「んっ……」
うなじに吸い付かれて、ぞわぞわと快感が腰のあたりを彷徨う。そのまま背中にキスをされて、身体が前に傾いた。それを離すまいと、ヤトの手が俺の乳首とペニスへ伸びてきた。
「あ、ちょ、桂」
「向こうからずっと芯が暴れぬよう耐えていた……そなたも俺と同じだろう? 白百合」
ヤトの声が近い。近すぎる。ヤトの大きな手に俺のペニスは容易く包まれて、簡単に膨らんだ。
無遠慮に動くんじゃなくて、そっと、太い指先が俺のペニスを撫でて、指で挟んで、ぷるぷると亀頭を振る。優しいその刺激はあっという間に俺の自由を奪った。咄嗟に閉じかけた足は、ヤトの手の動きに反応して徐々にだらしなく開きつつある。
「んっ、あんっ、あ、ここ、風呂だって……!」
「この後夕餉なのだぞ? 閨までとても待てぬ」
嫌とは言ってない。言ってないけど、宿の風呂で盛ってもいいもんか。
俺の躊躇いを余所にヤトの手はどんどん滑って、俺の感じる場所を優しく、けどはっきり快感を引き出そうと動いていく。
「白百合」
「っひ、ぁ」
耳元で低く囁かれると同時に筋を擦られて、腹筋に力が籠った。乳首を弄っていた方の手が俺の顎を捉えて、首を捻るよう誘導される。上半身ごと振り向けば、直ぐに舌に吸い付かれた。湯船に浸かっているのもあって身体が軽い。ヤトの足の上で横抱きのようになると、その指先が俺のアナルにあてがわれた。
「っちょ、流石にそれはマズいって。ルゥに頼まねえと」
「問題ない。ルゥからはいつものものを預かった。……今回は俺が中で果てれば、それも食うようになっているそうだ」
我が侍従ながら用意がよすぎる。いや、元々ヤトのなんだけどさ。
笑うべきか引くべきか、兎に角この流れを保ったまま、ヤトは俺のアナルの中にルゥの用意したアレを入れた。くちゅんと自ら進んで入ってくるような感覚があって、ヤトの指がそれに続いて、そのまま中を掻き回される。入口付近は敏感だからか、それを合図に奥が疼いた。湯の中だけど、ぐちゅぐちゅと音を立てられている感覚が身体の内側から響いてくる。ヤトの指を咥えこんで、快感にひくつく中を自覚して頬が熱くなった。
「綺麗だ、白百合」
不意打ちで褒められて、甲高い声とともに身体が跳ねる。溶けだしそうな熱の籠った瞳に視線を絡め取られて、もう入れられてるような錯覚を起こしそうになった。
初めての時はそんな余裕はなかったのに、この一ヶ月ほどの間でヤトは随分慣れてきたと思う。可愛いは何度か言われたけど、ヤトにそういうことを言われるのは慣れない。普段なら流せるのにな。
睨むような鋭い目が迫り、そのまま食われるような、恐怖にも似た興奮の中キスをされる。乱れる息と、性急なアナルへの刺激に情欲が煽られていく。昼間何度か治めたはずのその衝動は、我慢する必要のなくなった今は溢れるばかりで、突き動かされるようにヤトを求めた。
「も……入れて」
指では届かない奥深い場所が、俺にヤトを受け入れるよう足を開かせる。切ない疼きは、座るヤトに向かい合わせになるように座り直したことで期待に変わった。
膝をついた俺の腰をヤトが支える。もう片方はペニスに添えられて、俺のアナルにぴったりと亀頭が当たった。それで軽く下の口元を押されて、それだけのことが気持ち良くて吐きだす息が震える。目を合わせて微かに頷くと、俺は腰をゆっくりと下ろした。
「ふっ……うあ、あ……ぁ……っ」
熱いヤトの昂りが、俺の肉の中へ分け入ってくる。何度しても猛るペニスのでかさに心の準備が要るけど、奥を突かれたり、ヤトのを全部飲みこんで、玉が尻に密着するときの変な安心感を覚えた後は期待もそれ以上に膨らんでいた。
息を吐いて力を抜こうとしても、ぴりぴりとした感覚の中に快感が混じってヤトを締めつけてしまう。キスを繰り返して一番入りやすい角度を探し腰を揺らしながら、ゆっくり、その上にしゃがみこんだ。亀頭が入れば楽だ。
途中でイイトコロに当たりかけて慌てて射精しないようにペニスを掴むと、ヤトに笑われてしまった。俺の代わりにヤトの手で根元を掴まれ、強制的に射精が出来ないようにされる。それが一種のプレイのように思えて、ぞわりと腰に快感が這った。
全部が入りきると、ヤトは俺のペニスから手を離して膝裏に腕を引っかけ、腰をぎゅっと掴んてきた。俺からも腕を伸ばして、ヤトの首にしがみ付く。身体を折りたたむような姿勢は苦しい。でも、それ以上に身体が密着するのが嬉しかった。ゆらゆらと、湯船の中で俺のペニスが揺蕩っている。
「肩が冷えるな」
「お互いさま……だろ」
胸から下はお湯に浸かってるけど、肩から上はというと出っぱなしだ。けど、繋がった場所が気持ち良いし、肌は確かに冷えてるけど、身体の内側は熱いくらいだ。
ヤトが小刻みに、震えるように腰を動かす。それで奥を擦られて、小さな声が上がった。
「あっあっ……んっ、も、焦らすなって……っあ……ん」
「そなたはその方がより大きく乱れるではないか」
生意気にもそんなことを口にするヤトに、一応、最近のことを思い出して自覚はあっただけにぐうの音も出なかった。体面座位だとヤトは動きにくいだろうけど、俺も膝を抱えられていて動けない。結果、されるがままになるしかなくて、少しずつ溜まっていく快感にアナルがびくびくして、もっと強くされたくてたまらなくなってくる。股関節に力が入り、自然と足が閉じようと内側へ動く。それがヤトに分からないわけはなくて、俺を観察するように眺めるヤトの視線に羞恥心を高められた。見ないでほしいような、見て、俺が求めてるものを与えて欲しいような。
「あ、あっ、けい、桂っ」
目を閉じても状況が変わるわけじゃないけど、羞恥心からヤトの目を意識したくなくてうつむきがちになる。ヤトはそんな俺の顔を、下からすくい上げるようにしてキスをして上向かせると、露わになった俺の首に舌を這わせつつ、肩に噛みついた。
「ああっ」
じわ、と肌に食い込む硬く鋭いそれと、下から押し上げてくるペニスの動きが重なってアナルでイきそうになる。実際にはイクにはもうちょっと強さが足りなくて、ヤトのを締めつけただけで終わってしまったけど。近づいた絶頂感が離れて、それが寂しいような、切ないような気にさせる。
「けい……俺、もう……イきそ……イきたい……」
前の衝動よりも、後ろのが強い。今だってアナルが魚の口みたいにぱくぱくして、見えないのに、俺も、ヤトにだって分かるほど物欲しそうにいやらしく動いてる。
ヤトは黙って俺の膝から腕を抜くと、少しだけ俺の腰を浮かせた。その高さを保ったまま、俺は足に力を入れて、下からヤトのペニスが俺のイイトコロを擦り上げてくるのに身悶える。
「っあ! ひ、いいっ、いい……っ そこ、すげ、こすれてっ……んっ、んんっ」
ヤトの動きに合わせて、自然と俺も腰が動く。強い快感に腰を刺されてのけ反ると、足が滑った。
「ああっん!」
勢いよく自分からヤトのペニスに突き刺さる形になって、一気に最奥まで亀頭が入り込む。悲鳴のような声が出て、でも気持ちよくて、そのまま腰を前後に振った。
「く、っ」
中でヤトのペニスが膨らむ。また近づいてきた絶頂感に自分から体当たりをするように、俺は無我夢中で腰をむちゃくちゃに動かした。そこへヤトの律動が加わって、空に投げ出されたような強い力に押されたようにして、俺はもがくように背を伸ばして、それを掴んだ。
「あ! あ、あああああっ!」
気持ちよくて足が、手が震える。壊れたように絶頂を味わう俺に次いで、ヤトのペニスが大きくひくついた。その後ルゥの一部だか術だかわからないが、潤滑油代わりに俺の中を潤していたそれが蠢くような感触があって、また身震いしてしまう。
「あっ……うご、くなっ」
「だって、なか、ああっ」
イったばかりで敏感と言うには余りにも刺激に弱いそこで、激しくないだけに快感だと一発で分かる柔らかい刺激。絶頂感こそ来ないものの、強い快感にどうしようもなくアナルが締まる。それに堪りかねたのか、ヤトは早々にペニスを引き抜いて息を整えた。俺はと言うと、引き抜かれるその刺激さえ気持ちよくて、猫が鳴くような声をだしてしまっていた。
繋がりが断たれて、お互いに下腹部に広がる余韻に浸り、沈黙が落ちる。気だるげな動きのヤトに抱きしめられて、肩まで湯船に浸からされた。そうして、おもむろにペニスを掴まれる。
「っ、あ」
「こちらはまだだったな」
そうしてするりとヤトの指先が亀頭を滑ると、にゅるりと、後ろ側で馴染みの感触が鈴口から中に入り込んだ。
「ちょ、これっ……! んああっ」
本来アナルと同じように出すばかりのそこから、柔らかいものが入って行く。前にルゥにされたようにやっぱり前側から俺の奥にあるイイトコロが擦られて、俺は慌てて立ち上がりかけた腰をその場で止めるしかできなかった。丁度腰が湯船から出て、ヤトの眼前に俺のペニスが現れる。それを狙っていたのか、それとも今度こそチャンスは逃すまいとしたのか、ヤトは俺の太ももを左手でしっかと掴んで、ためらいもなくそれを咥えた。
「ひあっ、やっ、やめ」
既に中から気持ちよくされてるのにその上フェラされるとか、抵抗する暇もなく俺のペニスは硬さを取り戻して、ヤトの舌に頭を撫でられて元気いっぱいに喜んだ。思わず頭を掴んでみたけど、あんまり力を入れると痛いだろうし、かといって気持ちよくて突き飛ばすことも出来ず、結局添えるだけになってしまう。
「んっ……あ、だめだって……すぐい、く いく、からっ……けいっ、……! あ、あっ!」
内側も外側も扱かれて、俺は頼りなく声を上げてあっという間にヤトの口内に射精していた。多分最短記録じゃねえのこれ。
ヤトの咽喉から小さな音がして、俺のを飲みこんだらしいことを知る。射精したばっかでありとあらゆる気力が一時的に無くなった頭でも、初めてのそれに変な嬉しさが込み上げた。
「っ、ぁっ」
ヤトは出すもん出してすっきりした俺のペニスがふにゃふにゃと休息に入る間際、強く亀頭に吸い付いた。まだ敏感な鈴口への刺激と共に強い射精感があって、今度こそ腰から崩れ落ちる。湯船の中だし、ヤトがきちんと抱き留めてくれた。礼を言う力もなく、快感続きでまだ痺れの残る身体をなだめる時間が欲しくて、ゆっくり息をついた。じんわりとお湯が外気に晒されて冷えた肌を包んで、熱がしみ込んでくる。
「珍しくない? 桂がこういうことするの」
息を整えつつ訊ねると、ヤトは前からそのつもりはしていたのだがと言葉を濁した。またタイミングが掴めなかったのか。
「ま、いいけどさ。これから先ずっと一緒なわけだし」
何の気なしにそう励ますと、ヤトの瞳は見開かれて瞬きを繰り返し、それから、破顔した。
「そなたからそう言われるとは思わなかった。……今日は好い日だ」
はにかむその顔が可愛くて、俺もつられて笑みが浮かぶ。
「まあ、一緒はいいけど、たまにはこうやってどっか連れてってくれよな」
「……努力しよう。そなたは外にいる時の方がよい顔をする」
まだ見ぬ景色と生き物を見せよう、と、ヤトは約束をしてくれた。俺はそれに頷いて、身体の火照りが湯船に浸かっているからだと言い切れる状態になったか自問してから、ぎゅっとヤトに抱きついた。
「それはそれとしてさ、帰るのも楽しみだよ。やっぱする時くらいちゃんと本名呼びたいし」
六花の時でさえぞくぞくしたんだ。白百合と熱っぽく囁かれるだけで、綺麗だと褒められて、胸が跳ねてたまらなくなったんだ。呼びたい。呼ばれたい。強くヤトを求めて叫びたい。それが出来る嬉しさを改めて理解できた。その場所を家と呼んで、そこへ帰るっていうのも、悪くない。
そっとヤトの顔を見上げると、ヤトは逆上せたわけでもないだろうに顔を真っ赤にして言葉に詰まっていた。……さっきまでは頑張ってたくせに。可愛くていいけど。
風呂から上がり浴衣に着替える。部屋へ案内されて中に入ると、既に夕餉のいい匂いがした。夕餉っつっても時間的には昼を回ったくらいなんだけど……まあいいか。その夕餉は一つの長い机に鍋が置かれていて、そのすぐ前に対面で二人分の配膳がなされていた。
フグとか魚の刺身は冷えていて、噛みごたえがあって美味かった。鍋には蟹の長い足が突っ込んであって、食べ方がよく分からなくて、ヤトの隣に移動して教えてもらった。足の一番太いところを割るとぷるんと身が出てくるのは面白かったな。触感もぷりぷりしてたし。でもたまに失敗して身まで一緒に折れてしまうと、ほじくり出すのが大変だった。手にたくさん汁が付いて、御手拭で何回も拭く羽目になった。最終的にコツを掴むよりも先に見かねたヤトに剥いてもらって食わしてもらったけど。
鍋の最後は残り汁に米を入れて、ぐつぐつと煮立ったら溶き卵をそっと垂らせば雑炊の出来上がりだ。蟹や野菜のエキスが染み出していて、これも美味しかった。
「あー! 美味かった。美味かったけどもう腹パンパンだ」
最後の米が一気に腹に満ちると、急にものすごい満腹感に見舞われた。片づけをルゥに任せて、既に寝具を出したという奥の部屋へと連れて行かれる。
流石に夜間の移動やら散策やらで環境の変化が続いて疲れが出たんだろう。畳に敷かれた一組の布団にダイブすると、急に眠気がやって来た。普段なら昼寝で済むのに、もう日も沈んで、セックスまでやった後だと朝まで寝てしまいそうな気がする。
トイレの位置だけチェックして、俺は布団に潜り込んだ。湯たんぽが仕込んであって足元が暖かい。ヤトはと言うと少し迷うそぶりをして、それから明かりを枕元だけ残すと、同じ布団の中に入ってきた。
「腹が膨れて酒を楽しむ間もなかったな」
酒が入ってないのに眠い、とヤトも既にうとうととしている。明日は雪中酒でも楽しもうと独り言のように呟き、俺をぎゅっと抱き寄せた。
「酒、飲んでも良かったのに」
「食いながら飲むのは性に合わぬ。それにそなたもおるしな」
「少しくらいなら付き合えるけど?」
「そうか? なら次からはそうしよう」
同じ布団に入っているのに、会話の内容と言えば色気もへったくれもない。二人の体温で直ぐに布団の中全体が暖かくなって、俺も瞼が重くなってきた。
「しかし……そなたがほろ酔いにでもなれば、先の風呂のように不埒な真似をしない自信が無いな……」
少しだけ笑みを乗せた言葉。どこか拙く聞こえるのはもう寝る寸前だからだろうか。
「……いーよ。俺達、もう夫婦なんだから」
くすぐったくなって呟き返すと、ヤトは俺に頭を擦り付けて、嬉しそうにくすっと笑った。そのまま直ぐに上に被さってる方の腕が重くなって、寝入りを知る。
俺は自分で言った言葉に少し気恥ずかしくなって、もうヤトは目を閉じて意識もないのに、一人顔を反らしてむずむずする身体に身悶えつつ、ヤトの薄く開かれた唇に一度だけキスをして気持ちを切り替えると、後を追うようにして暗闇の中へ落ちて行った。
翌日の昼間は犬と遊んだ。ソリを引かせて運動させてやろうというヤトの提案で、犬ゾリの操縦方法を教えてもらって乗って楽しんだのだ。やってる最中は楽しいだけだったけど、終わってみると結構足がパンパンになっていて、ルゥに容赦なく解された。ヤトは平気そうだったのに……やっぱ筋肉つけたいな。でも俺が筋肉質になった時のヤトの反応が読めないし、俺の身体はもうヤトしか――ルゥは数えない――拓かないわけだから、あったところでって感じだけど。絶対喜ぶなら積極的に運動して鍛えるのになあ。
夕餉は軽く済ませてこの辺りで美味しいと評判らしい酒を頼んだところ、ヤトには透き通った和酒、俺には甘酒が出された。甘酒は発酵過程はあるものの酒と言う名の酒じゃない……甘いリゾット? みたいなの。暖かくて美味しいから、ヤトにお酌をしながらちょっとずつスプーンでいただく。とろとろの米はもち米だそうで、独特の食感だった。焼き餅は食ったことあるけど、こういう食べ方は初めてだ。
ヤトに一口食べるかとスプーンを持って行くと素直に食べた。甘い、と率直かつシンプルな感想が出る。
「そっちのお酒って辛いんだろ? 桂って甘いのより辛いのが好き?」
「特に好き嫌いはないな。どちらも人並みに好む方……だと、思うのだが。今飲んでいるこれは比較的甘い方だぞ」
飲むのは兎も角舐めるくらいならやってみるかと小さいカップ、御猪口を渡される。唇が濡れる程度に口をつけると、ふんと、アルコール独特の空気が口と鼻の中で膨らんだ。覚えがある味よりもまろやかだけど、年齢的にそこまで嗜むこともなかったから甘いかどうかは分からなかった。
「前に少し飲んだ和酒よりはずっと優しめって感じだな」
「……もうやらんぞ?」
俺がもっと飲みたいと言っているように聞こえたのか、ヤトは完全に子どもを窘める大人の顔をした。俺は御猪口を返して、甘酒の入ったマグほどの器を両手で持ち直す。
「俺はこっちでいいよ。桂が酔い潰れたら介抱しなきゃなんねえし」
精々醜態を晒してくれ、と俺が笑うと、ヤトは目をぱちくりさせて
「それも贅沢な話だ」
真顔で悪くないなと呟いて、御猪口の中の酒を煽った。……そういう反応をされると甲斐甲斐しく世話を焼きたくなるだろうが。それに、昨日寝る直前の会話まで思い出すし。
俺は変な顔をしていたらしく、訝った様子でヤトの眉間にしわが寄った。なんでもない、と甘酒を食べ進めたものの、頬が赤くなっているのは自分でも分かってしまうだけに説得力はないだろう。
「酔ったか?」
からかいを含んだ声にそういうわけじゃないと返すも、ヤトには強がりに見えているかもしれない。
「身体も温もったし閨に入るか」
それは俺に訊いているようでもあり、ヤトからの誘いのようにも思えた。
甘酒の残りを流し込むように飲んで、布団へ潜り込む。湯たんぽを間に挟んでみたけど、さりげなく下へずらされた挙句邪魔だとばかりにヤトの足で蹴り出されてしまった。
その後は言う必要もないだろう。夜が長いってのもあったけど、それでなくても酒の回ったヤトの誘いを受ける時は体力が残ってる時にしようと固く心に決めた。結局翌日介抱されたのは俺の方で、布団に横になりながら、見舞いに来てくれた女将の笑顔にたじたじになるヤトを眺めつつ俺はまさに痛感したのだ。酒が理性のタガを外すというのは本当だということを。
「あらあらまあまあ。第二王子殿下、御気持ちはお察しいたしますけれど、白百合様のお身体は殿下よりも愛らしくいらっしゃるのですから、もう少々手心をくわえられてもよろしかったのではございません?」
「……そうだな、分かっているから皆まで言うな。それと、俺にも桂という名がついた。もう殿下は止めろ」
居心地悪そうにしている割には、呼び名を持ったことだけは自慢げにヤトが言い返す。けど、その後の女将の反応はあっさりとしたもので、寧ろ俺にはヤトが口を滑らせたように見えた。女将は俺とヤトを見比べて、それから一層笑みを深くした。
「そうですか。それはようございましたね。ですがそれとこれとは別のお話です」
軽くヤトをあしらいつつ深まるばかりの微笑に、呼び名には絶対なんか意味があるんだと悟らざるを得ない。
俺は猛烈に雪の中に埋まりたくなりながら、碌に動けない身体に歯噛みしたのだった。
腹を空かせつつ、馬車の中でこれでもかと厚着させられ、最後にもこもこした手触りのいい毛皮の上衣を着せられる。なんでも火狐って物の怪の毛皮だそうで、それ自体が常時熱を持っているらしい。同じようにその毛で編んだ手袋をはめられ、ヴェールを被せられる。シースルーだから薄く透けて見えるとはいえ、当然視界は悪くなった。
そんなに外は寒いのかと覚悟を決めつつ手を引かれて馬車から降りると、寒いどころか痛みすら感じる外気に顔が強張る。火狐の毛越しでこれなんだから、多分ヴェールを外したら俺、血を流すんじゃないだろうか。
「な、なあ。ここ、物の怪だと平気なのか? なんか痛いんだけど」
いつもと違ってヤトも一応着込んではいる。それも俺ほどじゃなくて、顔は普通に出してるし表情もそんなに辛そうには見えない。馬車から人型に変わったルゥなんか厚着さえしてないのに平然としている。
「僕は暑さや寒さ、痛みというのは感じない性質なんですよ」
「俺の場合は血の強さだな。もっとも、ここは人が決して立ち入ることのないようにと術を施して意図的に温度を下げている。門を潜れば大分変わるはずだ」
ヤトが示した先には古めかしくも大きな屋敷が建っていた。少し手前には白塗りの塀に広い門。そこに、綺麗な女の人が立っていた。真っ黒の髪と雪みたいに白い肌。うっすらと色づく唇は桃色で、切れ長の目は涼やかな印象を受けた。
「ようこそお越しくださいました、第二王子殿下」
「もう王子ではないからその呼び名はやめろ」
深々と頭を下げた女の人に対して、ヤトの態度は少し硬い。相手に好意的じゃないのが分かるくらいトゲを感じる。けど、女の人は全く気にせずに目を細めて笑った。
「まあ。わたくし、これ以外に殿下をお呼びする方法を存じ上げませんのよ? それとも、これぞという名を教えていただけるのでしょうか」
「……」
黙り込むヤトを尻目に、女の人は俺に目を向けて、上品に笑った。門の真ん中から脇に移動し、俺たちに中へ入るよう促してくれる。そのまま門を通り過ぎると、確かに、痛むほどの寒さは引いていた。
「お初にお目にかかります。わたくし、雪女でございます。この宿の女将をしておりますの」
どうぞお見知り置きを、と女将が会釈をする。俺もつられるようにして頭を下げた。ヴェールをそっと外して、両手でくるくると巻き取る。寒さはあるものの、門の外に比べれば寒いと思うだけで済む程度だ。あれを体感した後だと少し温いような気さえする。
「白百合と申します。人の身ながら立ち入ることを受け入れていただきありがとうございます。名交わしをしたばかりでまだ知らぬことも多くございますれば、至らぬ点も多々ございましょうが、どうぞご容赦くださいますようお願い申し上げます」
腰を低く保ったまま挨拶をすると、女将に顔を上げるよう促された。
「白百合様のことは存じ上げておりますわ。この度はおめでとうございます。一目お目にかかりたくお待ちしておりました。道中、なにもありませんで退屈でしたでしょう。この場所を選んでいただき、また遠路遥々いらしてくださったこと、光栄に思います。さ、朝餉は準備してございますから、どうぞごゆるりとお召し上がりくださいまし」
柔らかな笑みに引き寄せられるようにヤトとルゥと連れ立って中へ上がる。建物は全て和国の様式で統一されていて、木のいい匂いがした。入り口ですぐに履物を脱ぐように言われて、指示に従う。毛皮や手袋・ヴェールはルゥに預けて板張りの廊下を歩いていく女将に先導されて行きついたのは、既に配膳の済んだ座敷だった。お膳に従い、向かい合わせになって胡坐をかく。女将とルゥが最後の仕上げにと米を器に盛ってくれた。量はそう多くないように見えるけど、あまり食べたことのない米や卵焼きが美味しそうだ。
「王子殿下から言い付かりました通り、離れをそのままお使いいただけるよう手配を致しました。後ほどご案内いたしますので、なにかご所望のことがございましたらお呼びくださいまし」
女将は細かなことはルゥに説明しておくと言って、一緒に席を外していった。去り際、
「お邪魔虫は退散いたしますわね」
と、笑顔でそんなことを言いながら。
うーん、正しく俺とヤトの関係は伝わってるようだ。でも、同性ってことには触れられなかったな。俺は育った環境上そういうのは気にしないけど、物の怪はそういうの気にしたりしないんだろうか。少なくともヤトは俺に会うまで同性を好きになるとは思ってなかったみたいだし。
そっとヤトを見ると、俺が待てを言い渡された犬のように見えたのか、朝餉へ手をつけようと促された。箸は使えるかと心配されたけど、普段使わないだけで和国式の食事は全くの初めてってわけでもない。大丈夫だと答えて箸を手に取った。確かに腹は減ってるからいいんだけどさ。
「なあ、あの人あんたが王子だった頃の知り合い?」
聞かないことには始まらない。俺が米と味噌汁を味わいながら単刀直入にそう尋ねると、焼き魚の身をほぐしていたヤトは箸を止めた。
「……面識はあるな」
「ああいう人が好みだった?」
「白百合」
ヤトが窘めるように少し声を大きくするけど、でも、王様だって好みと王妃様のタイプは違ったみたいだし。
昔のヤトが知りたい、とか、単純に好奇心だったりしたけど、俺がどうなんだよと引かずにいると、箸を動かし、渋々といった様子ながら答えてくれた。
「……あれはな、兄上に侍っていたうちの一人だ。そして俺のところに流れてこなかった少数のうちの一人でもある。ゆえ、他の者よりも話がしやすい。ああ、だからと言ってあれが居るからここを選んだわけではないぞ? そなたに見せたいものがあるのが、たまたまあやつの土地だったのだ」
最初は嫌々っぽかったヤトも次第に当時のことを思い出してきたのか、箸を動かす手はそのままに、そのまま愚痴を吐き出すようにして教えてくれた。
「俺とて端から女嫌いだったわけではない。兄で足りぬ輩が俺の部屋にまで忍び込んできおってな、それが頻発したのだ。挙句俺が少しも勃たぬと分かれば、龍の血のことを心得ておるだろうに不能などとぬかす者さえ出る始末……。勝手に寄ってきおった上に問答無用で股座をまさぐられた俺の身にもなれというのだ」
口の中に食い物がある時はむっすりしつつも黙り込む辺りがまた上品というかなんというか。
抵抗しようにも怖かったのかもしれない。人間でも恐怖が先立っていれば勃起しないことはある。極度の緊張とか。身体を動かすっていうのが出来なくなるんだよな。筆下ろしにってやってきた客でもそういうことはあったし。
「……その人どうなったの?」
相槌のつもりで訊ねると、ヤトは少しも表情を変えずに答えた。
「二度と逆らえぬようにしておいた」
怖え。変に表現が柔らかいだけに最悪の自体しか連想できねえ。
「ふ、ふーん……まあ不能はないよな」
「おかげで侵入者を阻む結界の類は得意になったぞ」
深く突っ込むのも躊躇われて、曖昧に肯定しておく。けど、ヤトは一つ息をついて、今にも箸を折りそうだった勢いを殺した。
「結果、ほとほと嫌気がさしてな、あの地に籠ったわけだが……そこにきてようやく静かになったかと思えば、脅しをかけてそなたを攫うなどという暴挙に出た馬鹿者が出てしまった」
あれは処遇に困った、とボヤいて、ヤトは箸を置いた。お茶をすすって一息するのを見つつ御膳に目を遣ると、綺麗に平らげた後。俺も食べながら聞いてるけど、明らかに食べるスピードはヤトの方が早い。なんでだ。ヤトは喋りながらのはずなのに。
急ぐこともないだろうと、無理せず自分のペースで箸を進める。
「俺、その人がどうなったか知らないんだけど」
そもそもそいつに名前のこととか聞いたんだっけ。懐かしいなあ。乱暴はされなかったけど、ちょっと高圧的な感じだったな。
俺がそいつのその後について気にしたのを見て、ヤトはふむ、と少し考えた。
「過程は最悪だったとはいえ、結果としてそなたは俺の血の相手だったのだ。引き合わせたのは他ならぬそやつゆえ、切り捨てるわけにも行かぬし、かといって褒美を与えるにもしでかした内容が悪すぎた。今は俺とは縁遠い地で達者で過ごしているだろう。監視付きだが」
ふーん。まあ血生臭いことになってなくて何よりだ。そいつも、人間の方とも。
ヤトは言いたいことは言ったのか、それ以上は何も言わなかった。
「折角女を好きになれるかもしれなかったのに、俺が男でがっかりした?」
今は俺が男ってことを受け入れてくれてるけど、ヤトはもともと俺のことをずっと女だと思っていたわけだ。名明かしも俺からだったし、そういや半ば折れるような形で名前を教えてもらったような……? いや、でも、ヤトはずっと優しかったし、それは男だってバラした後もそうだ。俺が感じる範囲じゃ、ヤトは俺のことを好きでいてくれている。それはちゃんと感じている。でも、バラした直後はどうだったんだろう。ショック受けてたのは十分分かったけど……。
ふと浮かんだ疑問は、ヤトにとっては衝撃的だったらしい。目を見開いて固まるヤトに手を振って呼びかけると、ふと我に返ったようにはっと俺と目を合わせた。
「あ、ああ……すまぬ。そういった考えはなかったな」
図星を指されたわけじゃなさそうだ。今気づいたと言わんばかりの態度に、少しだけほっとする。
「そもそも血の相手そのものを諦めておったし……仮にそなたが女だったとして、それで女というもの全体を好くようになるかというとそうではないだろう? それに血が求めるからとは言え、掌を返したように女に入れあげる自分というものを受け入れがたく思っていたのも確かだ」
「……うん」
「これでもそなたに出会ってあれこれと思い悩みもした。……確かにそなたが男だというのは信じ難かったが、落胆はしておらぬ。驚きでそれどころではなかったしな」
苦笑して、ヤトはあの時のことを思い出したのか、肩を竦めてから、そのまま脱力したように下げ切った。
「全く、一年もの間疑問にも思わぬとは。いくら脅して得た負い目があろうと、今振り返っても俺は随分浮かれていた」
その声が一緒に笑えと言ってるようで、俺は軽く答えた。
「俺もバレたら困ることになると思ってたからいいんだって。お互い、必要な期間だったんじゃねーの?」
漬物を齧りながらあったかいお茶を飲む。俺の言葉に、ヤトはなるほどと頷いた。
「言い得て妙だな」
それから、そなたで良かったと、優しく微笑んだ。
そのまま朝餉を終えると、ルゥが入ってきた。この後どうするかと俺たちに聞いてくる。
「白百合、疲れが出てはおらぬか」
「寝心地よかったし大丈夫。飯も食ったし、散歩に行きたいくらい元気」
ヤトの言葉に答えると、それならばとヤトは一つ提案をした。
「そなたに見せたいものがここからしばらく行った先にある。そこへ行くか。犬にソリを引かせるから散歩ではなくなるが」
「へえ! ソリってあの雪の上を滑るっていう奴だろ?」
聞けば、既に女将が用意してくれてるんだそうだ。ヤトが全て前もって言ってたらしい。ただ、今回はルゥは化けず、お留守番だそうで。
「お二人でごゆっくり。楽しんできてくださいねえ」
にこにこと邪気のない笑顔を向けられ、俺も悪い気はしなかった。まあ、俺たちが出向かないと見れないものなんだから外なんだろうし、この寒い中熱い流れになることはまずないだろうけど。
さほど休憩を挟まず、また火狐の毛皮やらなんやらを被る。外に出ると、確かに犬が六頭ほどソリらしき椅子っぽいのに繋がれていた。その横には女将が立っていて、犬を撫でているところだった。俺も撫でたいと小走りに駆けよったら笑って許してくれたので、手袋越しだけど頭とか顎とか一杯わしゃわしゃ撫でた。きりっとした顔つきなのに尻尾を振って、きゅんきゅんと鳴きながら俺に寄ってくる。可愛い。
「これが犬ゾリですか?」
「ああ。俺が後ろに立ち操縦する。そなたは前に座ればよい」
かなりスピードが出るから、必ず火狐のヴェールは被るようにと女将に言われる。尻尾を振る犬たちを少し避けつつ、俺はヴェールが外れないようにと軽く髪を結った。よければ髪留めをと女将が言ってくれて、手ずから、ヴェールごと綺麗に留めてくれた。
「夕餉はどうなさいますか?」
「それまでには戻る」
「では、僕は離れにある露天風呂の準備をしておきますね」
ソリの前に座りながら、三人の会話を耳にする。そんなに時間がかかるのかと聞くと、この辺は日の入りが早いのだと女将が答えてくれた。
「早いってどれくらいなんですか?」
「そうですね……大体昼の三の刻を過ぎれば暗くなりますわ」
早い。驚いたのがヴェール越しにも伝わったのか、女将はころころ笑った。遠方からいらした方は皆驚かれます、と。
「そんなに早い日の入りで……みなさん夜中ずっと眠ってらっしゃるのですか?」
多分宴会とかやるんだろうけど、毎日なわけがない。雪が光って明るかったから朝は早いのかも。
そんなことを考えていると、女将は笑みを深めた。……なんか意味深だな。好い仲の二人が揃って寝るだけで終わるわけないだろってか。ヤブヘビになっても困るから何も言わないけど。
「さあ、お喋りはその辺にしておけ。準備はいいか?」
「ん!」
妙な空気がさらに妙な方向へ変わる前に、ヤトが上手く切り替えてくれたのにすかさず便乗する。ヤトは多分、意図的にしたわけじゃないだろうけど。
ルゥと女将に見送られて、ソリの後ろに立ったヤトの合図で、俺たちは宿を出発した。
ソリは早かった。体感でしかないけど、多分、馬車よりも。
そして、雪の中を半ば埋もれるようにして走る犬たちの姿は可愛くもあり、雄々しくもあった。その先にひたすら広がる白い景色や、吐く息が蒸気のようになるのも新鮮だ。顔が少し寒いけどそれは仕方がない。それに、ヴェールを払ってちゃんと景色を見たいと思うほど、白一面の大地は綺麗だった。
ヤトの掛け声は鋭いものの弾んでいて、方向を指示しながらソリが傾いてこけないよう踏ん張ってくれているのが分かる。俺は気楽にひたすらはしゃいでいた。
風を切って走る犬とソリ。風にまかれて巻き上がる雪はきらきらと太陽に照らされて光って、まるでガラスか宝石の砂のようだ。雪に触ってみたくて、ソリの上から手を伸ばしたけど、さらさらとしていて手袋の上からじゃよくわからなかった。
そのまましばらくは雪と犬ばかり眺めてソリを楽しんでいると、直ぐに森が見えた。……うん、最初は森だと思ったんだけど、近づくにつれて幹が白いのに気付いた。
「! あの樹、なに?」
「あれは白樺だ。このあたりではよく見かける」
病気じゃないと聞いて、余計に驚いた。ヤトは犬へ指示を出して、その森の方へと真っ直ぐに進む。幹は太くなくて、真っ直ぐにすっと伸びていて、雪景色ということもあるせいか、俺が知ってる森とは全然違っていた。林みたいだ。鬱蒼とは縁遠く、風通しも、日当たりもいい。そのまま白樺の森を抜けると、犬ゾリは速度を落とした。ヤトがソリを停めて、降りるように促された。
「ここ?」
「ああ。もう見えている」
ソリから降りると、雪の中に足が埋もれた。その場で足踏みをして少し遊んだけど、歩き出すと転けそうになって、ヤトに支えてもらった。ヤトのエスコートで少し歩く。下ばかり見ていて周囲にまで目を遣る余裕はなくて、急に顔側のヴェールを上げられて驚いた。
「これだ」
そこには背の低い細い樹が、雪に埋もれるようにして立っていた。白樺とは違って細かな枝があちこちにむかって伸びている。顔を近づけてよく見ると、雪だと思っていたものは樹から生えているようだった。繊細で、ガラス細工でもこんな風にはできないだろうというほど綺麗な模様の、氷の葉っぱ。一枚一枚複雑に形作られたそれはレースのハンカチを思い出させるけど、それよりもずっとずっと複雑で細やかだ。共通しているのは六角形ってことか。
「……すげえ、これ、植物?」
「ああ。六花といってな、ここでしか咲かぬ雪の花だ」
葉っぱじゃなかったこと以上に、ヤトの口から出た思いがけない名前に、俺は弾かれたように顔をあげた。ヤトは俺を見下ろしていて、目が合う。
「これをそなたに見せたかった。持ち出せぬというのもあるが、あの部屋にそなたを縛り付けた俺から逃げず、いつも俺がゆく度に迎え入れてくれたそなたへ、僅かばかりだが礼がしたくてな。……外へ出たがっていたのは執事から聞いていたのだ。それでも、どうしてもそなたを手放すことなど考えられなかった」
外、と言うのが単純に屋敷の外だということを言ってるんじゃないのは分かった。まあ諦めがあったのは間違いないけど、それでも、結局あそこにいたのは俺の意思には違いない。
ヤトのそういうところがいい、とは思うけど、気にしすぎなんだ。
「……これ……調べたのか?」
「まあな。なかなか出歩けぬ身ゆえ、実際に位置まで把握するには伝手を頼ったが」
俺は無理やりヤトを好きだと思い込んでるわけじゃない。俺だってちゃんと、ヤトが好きだ。好きになったんだ。
「……なあ、もう一回、この――花の名前、教えて」
迂闊に名前は呼べない。呼んでもらえない。でも、ヤトが呼ぶのは俺の名前じゃなくて、この花の名前だ。
「……六花。六花だ」
ヤトの優しくて低い声が耳を撫でて、俺と同じ名を紡ぐ音に身震いした。それが俺の奥まったところにある、熱くて、柔らかい場所に落ちていく。
俺も言い返したい。返したいけど、やっぱり呼び名は思いつかなくて、替わりに背伸びをしてヤトの首に手を伸ばした。その後ろで自分の手を掴み、下へと引き寄せる。
屈んだヤトと合わせた唇はじんじんと熱く脈打っていて、鋭い空気に晒された肌はしきりに寒さばかり訴えてくるのにそこだけはひたすら熱く蕩けるほど気持ちが良くて、俺は気付けば貪るようにして吸い付き、舌先を食んでいた。ヤトの手が俺の背中と腰に回って、俺のキスに応えてくれる。
「ん、っ……」
唇が少し離れるだけで急に寒くなって、またすぐにくっつける。それを繰り返しながら合間に漏れた吐息は熱く湿っていて、その時ばかりは温かいものの、直ぐに冷えがやってくる。結果的に寒くなるのにキスはやめられなくて、俺の芯は熱を持ち始めて、止め時を悟らざるを得なくなった。
名残惜しいのが伝わるようにと最後に優しく唇に吸い付いて、そっと目を開け、ヤトの表情を眺める。
「……気に入ったと、思っていいのだな?」
「ここでなんで文句が出るんだよ。……ありがと。この花のことも、連れてきてくれたことも、今回のこと、全部嬉しい」
目の前にいるヤトの目は相変わらず綺麗で、黒い髪の奥に見えるそれが夜に浮かぶ二つの月のように思えた。
そうして、俺の中にふと、何かが入り込む。いや、浮かび上がったのか。
「なあ、返礼ってわけじゃないけどさ、」
ちょっと詩的かもしれない。けど、俺が白百合なんだから丁度いいだろう。きっと。
「桂。あんたの呼び名……。ど? 変かな」
少し緊張する。きっと似合うと思う。黒い髪は優しい夜色だし、飴色の目は淡く輝く月みたいだし。それで、この俺の名前の樹……と、花、それと俺につけてくれた『白百合』にちなんで、俺も植物から拝借してみた。『桂』は違う国では月に生えてる木というらしいし、イメージが重なったんだけど。
ヤトは俺をじっと見下ろして、ケイ、と俺の提案した名前を呟いた。それから、じわじわと頬が赤くなって、最後に、こっちまでつられそうになるくらい嬉しそうに、笑った。
「ケイ、か。よい名だ」
喜色満面、って感じだ。目尻が下がって、いつもはきりっとしてる感じのその顔がひたすら甘くなる。その中に少し照れが見えるせいか、俺の方までちょっとこう、むず痒い感じがした。
ヤトが嬉しそうに俺に触れ、抱きしめてくる。何度も唇が落ちてきて、合間合間にありがとう、と嬉しそうな声がしとしとと降りそそいだ。
名前一つで、と少しついていけなかったが、やはり物の怪にとっての名前と言うのは俺が思うより遥かに特別なものだということを突きつけられる。大体、俺だってついさっきキスを仕掛けたばっかりだし人のことは言えねえな。
「……あのさあ、もしかして、呼び名つけるのって何か特別な意味があんの?」
俺に頬ずりをするヤトの背を軽く叩いて尋ねると、ヤトははたと気づいたように表情を止めて、けど、直ぐにまた蕩けそうな顔をした。
「そなたが俺にと考え、くれた名だろう。特別でないはずがあるまい」
それはそのまま受け取っていいんだろうか。嬉しそうな表情だけは真っ直ぐだし、ヤトの言うことを疑ってはいない。けど、そもそもとしてというか。名交しみたいにさ、なんかこう、その行為自体が何らかの意味を孕んでるんじゃねーかって。まあ直感だけど。
「それで、ケイとはどういう意味だ?」
「え? ああ、それは――……」
せがまれるまま答えようとして、ふと気づく。……これ、感じたこと正直に言うのってすっげえ恥ずかしくねえ?
言葉に詰まった俺に、ヤトは口元に笑みを浮かべたまま首を傾げた。その眼が面白そうに細められてるのを見て、俺はいよいよ恥ずかしくなる。
「そっ、そっちこそなんで白百合だったんだよ」
我ながら情けないけど、そう言って逃げようとした。けど、俺が気恥ずかしいことがヤトにとってもそうだとは限らないということを、よくぞ聞いてくれたとばかりに目を輝かせたヤトを見て痛感した。
言うのが恥ずかしすぎたから口を塞いで、また身体が熱くなってしまったのは不覚としか言いようがない。
その後いろいろと誤魔化すために近くを散策してキイチゴを摘み食いしてみたり、犬と少し戯れたりしたものの、流石に長時間そうするのは無理があった。寒くなってきて、自然と戻る流れになる。キイチゴはお土産にと少し多めに摘み取って、折角見ることが出来た六花も女将が持たせてくれたという特別な入れ物に入れて、ここに居る間だけでも見て楽しむことにした。
帰り道はやっぱり真っ白で、ただ、少し傾きかけた太陽が夜の帳を下ろすタイミングを計っているようだった。
「あ! おかえりなさいませ」
宿へ帰ると、真っ先にルゥが迎えてくれた。既に夕餉の支度は出来ていて、俺達が寝泊まりするらしい別棟に用意してくれているそうだ。湯浴みの方も既に整っていると聞いて、俺達は先に風呂に浸かって身体を温めることにした。外套の類とお土産のキイチゴ、六花の入った箱をルゥに預ける。
案内されたのは、朝餉を食べた部屋ではなく、板張りの廊下をさらに奥へと進んで、橋のようになっている場所を過ぎた先にある小さな建物だった。
「こちらがお館様と白百合様のお過ごしいただくことになる離れです。お風呂は露天風呂だそうですよ」
「露天風呂?」
「外に置かれたお風呂のことです。温泉が湧き出るのでかけ流しで、いつでも暖かいお湯に浸かっていただけます」
この寒いのに、と思うものの、他の風呂はまた戻らないといけないし、他の滞在客と共同になるためお互いに気兼ねしなくていいとヤトに説明された。そういうもんか。俺も物の怪慣れしてるとは言いがたいし、俺のためでもあるんだろう。ヤトの身分とか力の強さのこともありそうだけど。
服を脱ぐための脱衣所で一切のものを脱いでいく。寒いしお互い男だし夫婦だし、一緒に入ったってなんら問題はない。ヤトは俺の裸を見て目を逸らしていたけど、俺も一糸纏わぬヤトの身体から目が離せなくなったから丁度良かった。
変に濡らすと乾かすのが面倒だから髪は結い上げて、落ちてこないようにしておく。それから掛け湯もそこそこに、早々に湯船の中に肩まで浸かった。浴槽も木製で、和国式の間接照明が風情を醸し出している。周囲には外から見えないようにと塀があった。小さな庭のような景色が広がり、その上に幕を張るように見える空は、もう赤くさえならずに暗くなっていた。
「熱っ! あ、かゆい、足痒い」
「身体が冷えていた反動だな。それが醍醐味でもある」
広い浴槽の中ではしゃぎながら足先を掻いていると、ヤトに後ろから抱きすくめられた。そのまま、足を開くヤトの股座の中に納まる。その手が俺の胸や腹を這って、ぴったりと押し付けられたヤトのペニスが少し硬くなっているのがはっきり分かった。
「髪を結い上げるというのもよいものだな。普段目につかぬところも良く見える」
「んっ……」
うなじに吸い付かれて、ぞわぞわと快感が腰のあたりを彷徨う。そのまま背中にキスをされて、身体が前に傾いた。それを離すまいと、ヤトの手が俺の乳首とペニスへ伸びてきた。
「あ、ちょ、桂」
「向こうからずっと芯が暴れぬよう耐えていた……そなたも俺と同じだろう? 白百合」
ヤトの声が近い。近すぎる。ヤトの大きな手に俺のペニスは容易く包まれて、簡単に膨らんだ。
無遠慮に動くんじゃなくて、そっと、太い指先が俺のペニスを撫でて、指で挟んで、ぷるぷると亀頭を振る。優しいその刺激はあっという間に俺の自由を奪った。咄嗟に閉じかけた足は、ヤトの手の動きに反応して徐々にだらしなく開きつつある。
「んっ、あんっ、あ、ここ、風呂だって……!」
「この後夕餉なのだぞ? 閨までとても待てぬ」
嫌とは言ってない。言ってないけど、宿の風呂で盛ってもいいもんか。
俺の躊躇いを余所にヤトの手はどんどん滑って、俺の感じる場所を優しく、けどはっきり快感を引き出そうと動いていく。
「白百合」
「っひ、ぁ」
耳元で低く囁かれると同時に筋を擦られて、腹筋に力が籠った。乳首を弄っていた方の手が俺の顎を捉えて、首を捻るよう誘導される。上半身ごと振り向けば、直ぐに舌に吸い付かれた。湯船に浸かっているのもあって身体が軽い。ヤトの足の上で横抱きのようになると、その指先が俺のアナルにあてがわれた。
「っちょ、流石にそれはマズいって。ルゥに頼まねえと」
「問題ない。ルゥからはいつものものを預かった。……今回は俺が中で果てれば、それも食うようになっているそうだ」
我が侍従ながら用意がよすぎる。いや、元々ヤトのなんだけどさ。
笑うべきか引くべきか、兎に角この流れを保ったまま、ヤトは俺のアナルの中にルゥの用意したアレを入れた。くちゅんと自ら進んで入ってくるような感覚があって、ヤトの指がそれに続いて、そのまま中を掻き回される。入口付近は敏感だからか、それを合図に奥が疼いた。湯の中だけど、ぐちゅぐちゅと音を立てられている感覚が身体の内側から響いてくる。ヤトの指を咥えこんで、快感にひくつく中を自覚して頬が熱くなった。
「綺麗だ、白百合」
不意打ちで褒められて、甲高い声とともに身体が跳ねる。溶けだしそうな熱の籠った瞳に視線を絡め取られて、もう入れられてるような錯覚を起こしそうになった。
初めての時はそんな余裕はなかったのに、この一ヶ月ほどの間でヤトは随分慣れてきたと思う。可愛いは何度か言われたけど、ヤトにそういうことを言われるのは慣れない。普段なら流せるのにな。
睨むような鋭い目が迫り、そのまま食われるような、恐怖にも似た興奮の中キスをされる。乱れる息と、性急なアナルへの刺激に情欲が煽られていく。昼間何度か治めたはずのその衝動は、我慢する必要のなくなった今は溢れるばかりで、突き動かされるようにヤトを求めた。
「も……入れて」
指では届かない奥深い場所が、俺にヤトを受け入れるよう足を開かせる。切ない疼きは、座るヤトに向かい合わせになるように座り直したことで期待に変わった。
膝をついた俺の腰をヤトが支える。もう片方はペニスに添えられて、俺のアナルにぴったりと亀頭が当たった。それで軽く下の口元を押されて、それだけのことが気持ち良くて吐きだす息が震える。目を合わせて微かに頷くと、俺は腰をゆっくりと下ろした。
「ふっ……うあ、あ……ぁ……っ」
熱いヤトの昂りが、俺の肉の中へ分け入ってくる。何度しても猛るペニスのでかさに心の準備が要るけど、奥を突かれたり、ヤトのを全部飲みこんで、玉が尻に密着するときの変な安心感を覚えた後は期待もそれ以上に膨らんでいた。
息を吐いて力を抜こうとしても、ぴりぴりとした感覚の中に快感が混じってヤトを締めつけてしまう。キスを繰り返して一番入りやすい角度を探し腰を揺らしながら、ゆっくり、その上にしゃがみこんだ。亀頭が入れば楽だ。
途中でイイトコロに当たりかけて慌てて射精しないようにペニスを掴むと、ヤトに笑われてしまった。俺の代わりにヤトの手で根元を掴まれ、強制的に射精が出来ないようにされる。それが一種のプレイのように思えて、ぞわりと腰に快感が這った。
全部が入りきると、ヤトは俺のペニスから手を離して膝裏に腕を引っかけ、腰をぎゅっと掴んてきた。俺からも腕を伸ばして、ヤトの首にしがみ付く。身体を折りたたむような姿勢は苦しい。でも、それ以上に身体が密着するのが嬉しかった。ゆらゆらと、湯船の中で俺のペニスが揺蕩っている。
「肩が冷えるな」
「お互いさま……だろ」
胸から下はお湯に浸かってるけど、肩から上はというと出っぱなしだ。けど、繋がった場所が気持ち良いし、肌は確かに冷えてるけど、身体の内側は熱いくらいだ。
ヤトが小刻みに、震えるように腰を動かす。それで奥を擦られて、小さな声が上がった。
「あっあっ……んっ、も、焦らすなって……っあ……ん」
「そなたはその方がより大きく乱れるではないか」
生意気にもそんなことを口にするヤトに、一応、最近のことを思い出して自覚はあっただけにぐうの音も出なかった。体面座位だとヤトは動きにくいだろうけど、俺も膝を抱えられていて動けない。結果、されるがままになるしかなくて、少しずつ溜まっていく快感にアナルがびくびくして、もっと強くされたくてたまらなくなってくる。股関節に力が入り、自然と足が閉じようと内側へ動く。それがヤトに分からないわけはなくて、俺を観察するように眺めるヤトの視線に羞恥心を高められた。見ないでほしいような、見て、俺が求めてるものを与えて欲しいような。
「あ、あっ、けい、桂っ」
目を閉じても状況が変わるわけじゃないけど、羞恥心からヤトの目を意識したくなくてうつむきがちになる。ヤトはそんな俺の顔を、下からすくい上げるようにしてキスをして上向かせると、露わになった俺の首に舌を這わせつつ、肩に噛みついた。
「ああっ」
じわ、と肌に食い込む硬く鋭いそれと、下から押し上げてくるペニスの動きが重なってアナルでイきそうになる。実際にはイクにはもうちょっと強さが足りなくて、ヤトのを締めつけただけで終わってしまったけど。近づいた絶頂感が離れて、それが寂しいような、切ないような気にさせる。
「けい……俺、もう……イきそ……イきたい……」
前の衝動よりも、後ろのが強い。今だってアナルが魚の口みたいにぱくぱくして、見えないのに、俺も、ヤトにだって分かるほど物欲しそうにいやらしく動いてる。
ヤトは黙って俺の膝から腕を抜くと、少しだけ俺の腰を浮かせた。その高さを保ったまま、俺は足に力を入れて、下からヤトのペニスが俺のイイトコロを擦り上げてくるのに身悶える。
「っあ! ひ、いいっ、いい……っ そこ、すげ、こすれてっ……んっ、んんっ」
ヤトの動きに合わせて、自然と俺も腰が動く。強い快感に腰を刺されてのけ反ると、足が滑った。
「ああっん!」
勢いよく自分からヤトのペニスに突き刺さる形になって、一気に最奥まで亀頭が入り込む。悲鳴のような声が出て、でも気持ちよくて、そのまま腰を前後に振った。
「く、っ」
中でヤトのペニスが膨らむ。また近づいてきた絶頂感に自分から体当たりをするように、俺は無我夢中で腰をむちゃくちゃに動かした。そこへヤトの律動が加わって、空に投げ出されたような強い力に押されたようにして、俺はもがくように背を伸ばして、それを掴んだ。
「あ! あ、あああああっ!」
気持ちよくて足が、手が震える。壊れたように絶頂を味わう俺に次いで、ヤトのペニスが大きくひくついた。その後ルゥの一部だか術だかわからないが、潤滑油代わりに俺の中を潤していたそれが蠢くような感触があって、また身震いしてしまう。
「あっ……うご、くなっ」
「だって、なか、ああっ」
イったばかりで敏感と言うには余りにも刺激に弱いそこで、激しくないだけに快感だと一発で分かる柔らかい刺激。絶頂感こそ来ないものの、強い快感にどうしようもなくアナルが締まる。それに堪りかねたのか、ヤトは早々にペニスを引き抜いて息を整えた。俺はと言うと、引き抜かれるその刺激さえ気持ちよくて、猫が鳴くような声をだしてしまっていた。
繋がりが断たれて、お互いに下腹部に広がる余韻に浸り、沈黙が落ちる。気だるげな動きのヤトに抱きしめられて、肩まで湯船に浸からされた。そうして、おもむろにペニスを掴まれる。
「っ、あ」
「こちらはまだだったな」
そうしてするりとヤトの指先が亀頭を滑ると、にゅるりと、後ろ側で馴染みの感触が鈴口から中に入り込んだ。
「ちょ、これっ……! んああっ」
本来アナルと同じように出すばかりのそこから、柔らかいものが入って行く。前にルゥにされたようにやっぱり前側から俺の奥にあるイイトコロが擦られて、俺は慌てて立ち上がりかけた腰をその場で止めるしかできなかった。丁度腰が湯船から出て、ヤトの眼前に俺のペニスが現れる。それを狙っていたのか、それとも今度こそチャンスは逃すまいとしたのか、ヤトは俺の太ももを左手でしっかと掴んで、ためらいもなくそれを咥えた。
「ひあっ、やっ、やめ」
既に中から気持ちよくされてるのにその上フェラされるとか、抵抗する暇もなく俺のペニスは硬さを取り戻して、ヤトの舌に頭を撫でられて元気いっぱいに喜んだ。思わず頭を掴んでみたけど、あんまり力を入れると痛いだろうし、かといって気持ちよくて突き飛ばすことも出来ず、結局添えるだけになってしまう。
「んっ……あ、だめだって……すぐい、く いく、からっ……けいっ、……! あ、あっ!」
内側も外側も扱かれて、俺は頼りなく声を上げてあっという間にヤトの口内に射精していた。多分最短記録じゃねえのこれ。
ヤトの咽喉から小さな音がして、俺のを飲みこんだらしいことを知る。射精したばっかでありとあらゆる気力が一時的に無くなった頭でも、初めてのそれに変な嬉しさが込み上げた。
「っ、ぁっ」
ヤトは出すもん出してすっきりした俺のペニスがふにゃふにゃと休息に入る間際、強く亀頭に吸い付いた。まだ敏感な鈴口への刺激と共に強い射精感があって、今度こそ腰から崩れ落ちる。湯船の中だし、ヤトがきちんと抱き留めてくれた。礼を言う力もなく、快感続きでまだ痺れの残る身体をなだめる時間が欲しくて、ゆっくり息をついた。じんわりとお湯が外気に晒されて冷えた肌を包んで、熱がしみ込んでくる。
「珍しくない? 桂がこういうことするの」
息を整えつつ訊ねると、ヤトは前からそのつもりはしていたのだがと言葉を濁した。またタイミングが掴めなかったのか。
「ま、いいけどさ。これから先ずっと一緒なわけだし」
何の気なしにそう励ますと、ヤトの瞳は見開かれて瞬きを繰り返し、それから、破顔した。
「そなたからそう言われるとは思わなかった。……今日は好い日だ」
はにかむその顔が可愛くて、俺もつられて笑みが浮かぶ。
「まあ、一緒はいいけど、たまにはこうやってどっか連れてってくれよな」
「……努力しよう。そなたは外にいる時の方がよい顔をする」
まだ見ぬ景色と生き物を見せよう、と、ヤトは約束をしてくれた。俺はそれに頷いて、身体の火照りが湯船に浸かっているからだと言い切れる状態になったか自問してから、ぎゅっとヤトに抱きついた。
「それはそれとしてさ、帰るのも楽しみだよ。やっぱする時くらいちゃんと本名呼びたいし」
六花の時でさえぞくぞくしたんだ。白百合と熱っぽく囁かれるだけで、綺麗だと褒められて、胸が跳ねてたまらなくなったんだ。呼びたい。呼ばれたい。強くヤトを求めて叫びたい。それが出来る嬉しさを改めて理解できた。その場所を家と呼んで、そこへ帰るっていうのも、悪くない。
そっとヤトの顔を見上げると、ヤトは逆上せたわけでもないだろうに顔を真っ赤にして言葉に詰まっていた。……さっきまでは頑張ってたくせに。可愛くていいけど。
風呂から上がり浴衣に着替える。部屋へ案内されて中に入ると、既に夕餉のいい匂いがした。夕餉っつっても時間的には昼を回ったくらいなんだけど……まあいいか。その夕餉は一つの長い机に鍋が置かれていて、そのすぐ前に対面で二人分の配膳がなされていた。
フグとか魚の刺身は冷えていて、噛みごたえがあって美味かった。鍋には蟹の長い足が突っ込んであって、食べ方がよく分からなくて、ヤトの隣に移動して教えてもらった。足の一番太いところを割るとぷるんと身が出てくるのは面白かったな。触感もぷりぷりしてたし。でもたまに失敗して身まで一緒に折れてしまうと、ほじくり出すのが大変だった。手にたくさん汁が付いて、御手拭で何回も拭く羽目になった。最終的にコツを掴むよりも先に見かねたヤトに剥いてもらって食わしてもらったけど。
鍋の最後は残り汁に米を入れて、ぐつぐつと煮立ったら溶き卵をそっと垂らせば雑炊の出来上がりだ。蟹や野菜のエキスが染み出していて、これも美味しかった。
「あー! 美味かった。美味かったけどもう腹パンパンだ」
最後の米が一気に腹に満ちると、急にものすごい満腹感に見舞われた。片づけをルゥに任せて、既に寝具を出したという奥の部屋へと連れて行かれる。
流石に夜間の移動やら散策やらで環境の変化が続いて疲れが出たんだろう。畳に敷かれた一組の布団にダイブすると、急に眠気がやって来た。普段なら昼寝で済むのに、もう日も沈んで、セックスまでやった後だと朝まで寝てしまいそうな気がする。
トイレの位置だけチェックして、俺は布団に潜り込んだ。湯たんぽが仕込んであって足元が暖かい。ヤトはと言うと少し迷うそぶりをして、それから明かりを枕元だけ残すと、同じ布団の中に入ってきた。
「腹が膨れて酒を楽しむ間もなかったな」
酒が入ってないのに眠い、とヤトも既にうとうととしている。明日は雪中酒でも楽しもうと独り言のように呟き、俺をぎゅっと抱き寄せた。
「酒、飲んでも良かったのに」
「食いながら飲むのは性に合わぬ。それにそなたもおるしな」
「少しくらいなら付き合えるけど?」
「そうか? なら次からはそうしよう」
同じ布団に入っているのに、会話の内容と言えば色気もへったくれもない。二人の体温で直ぐに布団の中全体が暖かくなって、俺も瞼が重くなってきた。
「しかし……そなたがほろ酔いにでもなれば、先の風呂のように不埒な真似をしない自信が無いな……」
少しだけ笑みを乗せた言葉。どこか拙く聞こえるのはもう寝る寸前だからだろうか。
「……いーよ。俺達、もう夫婦なんだから」
くすぐったくなって呟き返すと、ヤトは俺に頭を擦り付けて、嬉しそうにくすっと笑った。そのまま直ぐに上に被さってる方の腕が重くなって、寝入りを知る。
俺は自分で言った言葉に少し気恥ずかしくなって、もうヤトは目を閉じて意識もないのに、一人顔を反らしてむずむずする身体に身悶えつつ、ヤトの薄く開かれた唇に一度だけキスをして気持ちを切り替えると、後を追うようにして暗闇の中へ落ちて行った。
翌日の昼間は犬と遊んだ。ソリを引かせて運動させてやろうというヤトの提案で、犬ゾリの操縦方法を教えてもらって乗って楽しんだのだ。やってる最中は楽しいだけだったけど、終わってみると結構足がパンパンになっていて、ルゥに容赦なく解された。ヤトは平気そうだったのに……やっぱ筋肉つけたいな。でも俺が筋肉質になった時のヤトの反応が読めないし、俺の身体はもうヤトしか――ルゥは数えない――拓かないわけだから、あったところでって感じだけど。絶対喜ぶなら積極的に運動して鍛えるのになあ。
夕餉は軽く済ませてこの辺りで美味しいと評判らしい酒を頼んだところ、ヤトには透き通った和酒、俺には甘酒が出された。甘酒は発酵過程はあるものの酒と言う名の酒じゃない……甘いリゾット? みたいなの。暖かくて美味しいから、ヤトにお酌をしながらちょっとずつスプーンでいただく。とろとろの米はもち米だそうで、独特の食感だった。焼き餅は食ったことあるけど、こういう食べ方は初めてだ。
ヤトに一口食べるかとスプーンを持って行くと素直に食べた。甘い、と率直かつシンプルな感想が出る。
「そっちのお酒って辛いんだろ? 桂って甘いのより辛いのが好き?」
「特に好き嫌いはないな。どちらも人並みに好む方……だと、思うのだが。今飲んでいるこれは比較的甘い方だぞ」
飲むのは兎も角舐めるくらいならやってみるかと小さいカップ、御猪口を渡される。唇が濡れる程度に口をつけると、ふんと、アルコール独特の空気が口と鼻の中で膨らんだ。覚えがある味よりもまろやかだけど、年齢的にそこまで嗜むこともなかったから甘いかどうかは分からなかった。
「前に少し飲んだ和酒よりはずっと優しめって感じだな」
「……もうやらんぞ?」
俺がもっと飲みたいと言っているように聞こえたのか、ヤトは完全に子どもを窘める大人の顔をした。俺は御猪口を返して、甘酒の入ったマグほどの器を両手で持ち直す。
「俺はこっちでいいよ。桂が酔い潰れたら介抱しなきゃなんねえし」
精々醜態を晒してくれ、と俺が笑うと、ヤトは目をぱちくりさせて
「それも贅沢な話だ」
真顔で悪くないなと呟いて、御猪口の中の酒を煽った。……そういう反応をされると甲斐甲斐しく世話を焼きたくなるだろうが。それに、昨日寝る直前の会話まで思い出すし。
俺は変な顔をしていたらしく、訝った様子でヤトの眉間にしわが寄った。なんでもない、と甘酒を食べ進めたものの、頬が赤くなっているのは自分でも分かってしまうだけに説得力はないだろう。
「酔ったか?」
からかいを含んだ声にそういうわけじゃないと返すも、ヤトには強がりに見えているかもしれない。
「身体も温もったし閨に入るか」
それは俺に訊いているようでもあり、ヤトからの誘いのようにも思えた。
甘酒の残りを流し込むように飲んで、布団へ潜り込む。湯たんぽを間に挟んでみたけど、さりげなく下へずらされた挙句邪魔だとばかりにヤトの足で蹴り出されてしまった。
その後は言う必要もないだろう。夜が長いってのもあったけど、それでなくても酒の回ったヤトの誘いを受ける時は体力が残ってる時にしようと固く心に決めた。結局翌日介抱されたのは俺の方で、布団に横になりながら、見舞いに来てくれた女将の笑顔にたじたじになるヤトを眺めつつ俺はまさに痛感したのだ。酒が理性のタガを外すというのは本当だということを。
「あらあらまあまあ。第二王子殿下、御気持ちはお察しいたしますけれど、白百合様のお身体は殿下よりも愛らしくいらっしゃるのですから、もう少々手心をくわえられてもよろしかったのではございません?」
「……そうだな、分かっているから皆まで言うな。それと、俺にも桂という名がついた。もう殿下は止めろ」
居心地悪そうにしている割には、呼び名を持ったことだけは自慢げにヤトが言い返す。けど、その後の女将の反応はあっさりとしたもので、寧ろ俺にはヤトが口を滑らせたように見えた。女将は俺とヤトを見比べて、それから一層笑みを深くした。
「そうですか。それはようございましたね。ですがそれとこれとは別のお話です」
軽くヤトをあしらいつつ深まるばかりの微笑に、呼び名には絶対なんか意味があるんだと悟らざるを得ない。
俺は猛烈に雪の中に埋まりたくなりながら、碌に動けない身体に歯噛みしたのだった。
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