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終わりよければ全てよし
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静かに響いたそれに、知らず詰めていた息を吐き出した。そして、呼ぶ。
「ヤト」
「ああ」
「ヤト」
「……ん」
「ヤト?」
「……」
姿形を確かめるようにヤトの体に手を這わせて、顔を寄せて匂いを嗅いだ。それから知った名が嬉しくて覚えたての言葉を得意げに繰り返す子どもみたいに何度も名を呼んでいると、ヤトの反応が鈍くなった。
訝り、そっと顔色をうかがう。そこには照れたように顔を赤くするヤトが、決まり悪そうに俺から目をそらしていた。
「……ああ、俺、変態っぽい?」
いつかヤトに向けた言葉を思い出す。けど、ヤトは首を横に振った。
「そうではない。……面映ゆいだけだ」
「そうか? 俺は結構安心するけど」
言うと、ヤトは俺をじっと見つめた。やっぱりべっこう飴みたいな綺麗な目は美味しそうで、舐めたらどんな反応をするのかと思うと自然、口元が緩みそうになる。王太子にあんなに腹の立つことをされた割にこんなに簡単に機嫌がよくなるとか、俺は随分とちょろい奴だったらしい。まあ、嬉しいからしゃーないな。
「ヤト」
「……なんだ、ロッカ」
「やっとあんたのこと呼べて、俺、今結構嬉しい」
誘ったりなんかしなくても、こうすればよかったのか。とふと思う。ヤトが観念するのを待たなくたってよかったんだ。ヤトは俺に惚れてるんだから、意地悪しないでさっさと名前を教えてやればよかった。まあ、それはそれで楽しかったんだけどさ。
ヤトの首に腕を回して抱きつくと、暖かな手が俺の身体を支えてくれる。耳元で、優しい声が響いた。
「俺もだ」
さて、すっかり機嫌も良くなって泣いてたのが嘘のような俺だけど、自分から好きだと観念して行動すれば簡単に事が運ぶことが分かれば引く理由はない。
暫く抱き合ってお互いの体温に心地よさを感じていたのを、ぎゅっとヤトの首に回した腕に力を込めて、そのままおもむろに後ろのベッドめがけて倒れ込む。俺程度の力じゃびくともしないけど、ヤトは俺に合わせてベッドに乗り上げ、優しく俺をベッドへ横たえた。
「眠るか?」
小さい子どもをあやすような手と穏やかな声に、そんなわけねーだろ、と心の中で答える。俺は腕をほどいてヤトの頭を両手で挟むと、そのまま自分からキスをした。ヤトの唇は悔しいことに王太子が化けていたときと同じだったけど、俺の唇に割って入ってくるようなことはなかった。だけど、それでいい。それがヤトだと思えるから、安心して俺から舌を入れた。
「ん、」
怯えたように歯が閉じかけるけど、俺の舌を挟むと思ったのかすぐにまた開いた。逃げ惑う舌先を突っついて、出来るだけ優しく、くすぐるように舐める。やってることはさっき王太子に唇を開けさせられた時とそう変わらないけど、自分のペースに強引に持って行くことはしないように気をつける。時々吸い付くだけのキスを交えて唾液を飲み込むくらいの隙を作るも、ヤトは苦しくなってきたのか俺から顔を離そうとベッドについていた手を突っぱねた。ヤトがその気になると力では敵わないから、黙ってそれを見送る。思いっきり動揺した顔は部屋に入って来た時と同じ奴だとは思えないほど真っ赤で、可愛いな、なんて感想が自然と零れた。
「……ろ、ロッカ、なんだ、急に」
「急じゃねえよ。前からこうしたかったから、しただけ」
別に俺は女じゃねえんだから、女的な貞淑さというか、『待ち』を求められてたってそれに合わせる必要なくね?
そう思うと肩の力が抜けたっつーか、なんか面白くなってきて、楽しみ始めた俺自身と楽しげに笑ってた王太子が俺の中で重なって、あーありゃ同族嫌悪って奴だったのかなあなんて考える余裕も出てきた。
まあ俺はあっちと違って誰でもいいわけじゃないから、許してよ。
そんな風にまた心の中だけでヤトに呼びかけて、もう一回音を立ててその唇に吸い付いた。
「なあヤト。誰より先に俺のこともらってくれない?」
「……名明かしならば今済ませただろう?」
「今言いたいのはそういう縛りじゃなくって、こっち。身体の方」
言いながら自分で前あわせの寝間着を左右に広げると、ヤトは目に見えて狼狽えた。
「そっ……!」
「つまみ食いで嫉妬したんだから、もういい加減遠慮しないで食べなよ。っていうか、今日こそ食わせるから」
さっき王太子に食われかけて思ったんだけど、俺って結構ヤトのこと笑えない位ロマンチストだったらしい。似合いのカップル誕生でなによりだなと弾み出した思考で考える。
「俺さ、奉仕する方らしい」
「え?」
「ヤトを気持ち良くさせたいってこと」
また啄ばむようなキスを仕掛ける。薄く開いたままの唇が悪い。どう考えても誘ってるようにしか見えない。
そのまま舌を滑り込ませて、またヤトの口内を探る。意外にもヤトは俺を抱き起こしてあぐらをかいたそこへ乗せると、大きな手で俺の頭を固定してきた。さっきは逃げるだけだった舌は自分から俺の舌に触れてきて、それが嬉しい。今まで気持ちいいとか上手いとか下手だとか慣れてるとか思うことは山ほどあったけど、嬉しかったことなんてあったっけと過去の行為を思い起こしながら考える。まだわかったとは言い難いけど、好きって、こういうことなのかもしれない。
嬉しいままヤトの舌に応える。ちろちろと舐めてくるその舌の動きが可愛くて、もっと感じていたいから俺から性急に絡めることはしないでおく。どちらともなく、ん、ともふ、ともつかない声が漏れた。暫くそうしてたけど、声を聞きたくなったから舌を引いて唇をすり合わせて、むちゅ、と押し付けて離れる。と、名残惜しそうな顔が飛び込んできて笑ってしまった。
「そんな顔すんなって。すっごい攻めたくなる」
「……俺もそなたにその、快くなって欲しいのだが」
「ん。じゃあ好きなように身体触って」
初々しい声に、ヤトの両手を取って、まずは頬を挟ませた。俺の手を添えたまま、ヤトの手が下へ滑って行くのを目で追い掛ける。暖かい手はそれだけで心地良くて、この調子が続けばきっと安眠できるんだろうと思うほど性欲が煽られなくて頬が緩んだ。ま、それは俺がやればいい。
「ヤト。名前呼んでよ」
腰を彷徨う手に少しだけ反応しつつ、せがむ。
「……ロッカ」
熱っぽく呼ばれて、ぶわ、と毛穴が開いたみたいにして快感が肌を撫でて行った。耳から入った低い声は急転直下、快感になって俺の腰にまで辿り着いてペニスが反応する。あ、やばい。これはやばい。余裕なくなりそう。
「んで、もっと触って」
「……そうしたいのはやまやまなのだが、その、お前の良いように教えてくれ。何もかもが分からぬ」
途方に暮れた声と表情がおかしくって、俺は疼く股間の熱をぐっとこらえることが出来た。経験ないなら仕方ない。腰で止まってるヤトの手のひらをもう一度掴んで、導く。
「触りたいって思うところ、ない? どこでもいいけど。頭を撫でるみたいに髪を梳くのもいいし、首筋と鎖骨をなぞってもいい。そのまま服を脱がせつつ二の腕に下がっていって、乳首は舐めるのもアリ。俺の身体ならあばらに沿ってそーっと指先を這わせたり、ヘソのラインを辿ったりとか。そのまま腰骨をくすぐって、ちんこに行ってもいいし、焦らすみたいに内腿撫でて、足先の方に行ってもいい」
あちこちヤトの手を引っ張りながら触れさせている間、ヤトの視線は俺の乳首だとか股間に特に反応していてこっちまでドキドキしてしまいそうだった。気恥ずかしそうに俺の胸をちらちらと見ていかにも舐めたそうにしてるのを感じると、こっちから胸を押し付けたくなってくる。俺がそうするように誘われてるみたいだ。それを意識して背を反らしつつ、俺は言葉を続けた。
「あとは身体を擦り付けるのもアリかな。ヤトの身体は俺とは結構違うから……俺がヤトにするんなら、腹筋にそって舌を這わせたりとか? そのままヘソ下の際どい所までキスをしながら下りてって、……こっちの髪も手で梳くかな」
ヤトの軽装を肌蹴させて、腰紐を解く。まだ完全には脱がさないけど、服の上から股間に触れると、脈打つペニスの熱さが伝わってきた。優しく子どもの頭を撫でるみたいにして亀頭を掌で撫でると、ヤトが小さく息を飲んで、声を漏らした。それだけで俺のもピクッと反応するんだから恐ろしい。こういう衝動を、ヤトは今まで耐えていたんだろうか。無責任に煽りすぎたかな。でも、もう耐えなくってもいいわけだし。
「ヤトがしにくいんなら俺がやる。ちょっとそのまま寝転んで」
ヤトの膝に乗ったまま、そっと押し倒す。その際に軽く服を脱がせると、居た堪れなさそうなヤトの顔が目に入った。
「どした?」
「いや、その……なんというか、情けなくてな。すまぬ。それに、湯浴みもまだだ」
眉尻を下げて苦笑するヤトは文句無しに可愛い。俺はすぐに情けなくなんかないよと返しながら、ヤトの眉間や眉尻、ゆがんだ口元にキスをした。
「同じ男なんだしそう変わんねえって。要領なんて直に掴めると思うよ。ヤトのいいところは多分、俺もいいと思うし……相手の反応って、探るの楽しいからさ。今から風呂行くのはナシ。俺は今、ヤトに触りたいんだから。ヤトも触りたくなったらいつでも俺に触っていいから」
「……分かった」
「気持ちよかったら我慢すんなよ。反応あった方が嬉しい」
頬を撫でながら囁くと、ヤトは顔を真っ赤にしながらももう一度分かった、と小さく呟いた。うーん、やっぱ可愛いわ。
頬に軽くキスをして、さっき言った通り首筋を唇で撫でて行く。太い。ヤトが息を詰めて、喉仏がくっと動いた。そこにも唇を寄せる。鎖骨も浮き出てて、指でそっと撫でながらそのまま肩を包んだ。そこでさするように小刻みに動かす。そこから脇を通って乳首に吸い付くと、ヤトの身体が引きつった。
「ん、強かった?」
「いや……男でもそこに触れるのか?」
「感度で言うと男も女もそう変わんないかな。ここだけでイケる奴もいるし」
乳首敏感な男ってびっくりするほど可愛い声で喘ぐことが多いから、ヤトもきっと最高に可愛いだろう。想像するだけでちょっと興奮する。とはいえ、普段着がかなり軽装だから、腹筋もだけど乳首も結構丸出しっていうか……そっちの意味で防御力が低いのはちょっとな。可愛いのは俺の前でだけで十分だし。今はまだそんなに攻めなくてもいいかもしれないな。
「そなたも、その、反応するのか?」
「どうかな。ヤトが相手だったらかなりクるかも?」
やってみる? と訊ねると、ヤトは頷いて、俺の乳首に触れた。最初は中指と人差し指の先で。それから、触りにくかったのか親指の腹で。他の指は腋に差し込むように添えられていて、少しくすぐったい。乳首への刺激は、感じるには少し足りてない。それでもヤトの指先は熱いくらいで、それが俺の乳首を何度かかすめる内にそこが勃起しはじめた。個人的に一番心地いいのは乳首が少し硬くなって、乳輪は柔らかいくらいなんだけど、ヤトはどういうのが好きなのかな。
「……いいのか?」
「ん、うん。……むずむずする。声出すほどじゃないけど、ちゃんと下まで来てるよ。もう少し強くてもいいくらい」
王太子に勃たされてから一回萎えたけど、またむくむく膨らんでるところだ。きゅ、と少し強く乳首を押されて、快感が腰を突き抜けて背中が反った。
「痛くないか?」
「ん、……大丈夫。このくらいが一番好きだ」
ヤトの頭が持ち上がり、目が合った。乳首をいじられたまま口付けに応えて、俺はヤトのペニスに触れた。
「、っふ……」
気持ち良さそうな声に気分がよくなる。そうっと下穿きごと服を開いて、さてご開帳。大っきいイチモツとご対面した。太くてそこそこの長さで、形がいいとか羨ましい。色もあっさりしてて綺麗だとさえ思う。……そういや、実質俺が最初で最後の相手なんだっけ。うわ、なんか感動かも。
ヤトの手から逃げるように上半身をずらして、勃ちかけてるペニスを持つ。そのまま、ヤトが何かを言う前に亀頭を口に含んだ。
「ろっ!」
ぎょっとした声がかかるけど気にしない。太ももに力が入ったのを感じる。とっさに動いて俺を蹴り上げないように堪えているのかもしれない。どっちにしろ止めないけど。
ヤトの亀頭を口の中で舐めて鈴口を攻めると、ヤトの口から頼りない嬌声が零れた。ぴく、とペニスも大きくなって、俺はわざと顔が見えるようにサオに指と舌を這わせて、こっちからもヤトの顔を見た。
「っ」
途端にギクリとヤトの身体が強張る。これ見よがしに付け根を舌でくすぐってタマを揉むと、逃げるように膝を折り曲げられ、腰が遠のいた。ヤトは上半身を起こしてしまっていて、直ぐに股間を隠してしまった。
「あー、なにすんだよ」
「ろっ、ロッカ! そなたっ」
反応を見るに嫌なわけじゃなさそうだけど、恥ずかしくて耐えられないってところか。そういや湯浴みまだとか気にしてたし汚いとかなんとか言いそうだなと見当をつけてみる。こりゃあこのままキスしたら怒るか?
「ヤトもしたくなったとか? いいよ、ほら」
寝間着の裾を太ももまで見えるように肌蹴させつつ、足の下の方からつつつ、と指で肌を辿って見せつける。肝心なところは見せないように気を付けてヤトの視線を誘うと、その咽喉仏が上下に動くのが見えた。
「ヤトの好きにしていいよ」
そのまま今度は俺が肘で身体を支えながら横になる。膝をすり合わせるように動かして、際どい位置までめくれ上がった服のその中に意識が行くように仕向ける。ヤトは黙ったまま俺の方へ寄ってくると、まず俺に口づけた。至近距離で表情がよく分かる。興奮してるのに、それ以上に緊張してるんだな。動きにくそうだ。慣れてないからだろう。代わりとばかりに俺からもヤトの首に腕を回して距離を詰めた。
「なあ……触って、俺の」
耳元で囁いて、足を開いて股座をヤトの腕に擦り付ける。抜き合いっこは一回してるから、勝手は分かるはずだ。そのまま腰を揺らすと、ヤトの手は恐る恐ると言った感じで俺の太ももを這った。
「こう、か?」
「ん……そう、そのまま上がってきて」
たどたどしいけど、強くないそれが逆にぞくぞくと快感を生んで、俺の背中を駆け抜けていく。俺は腕の力を少し緩めて、ヤトの手がそのままそっと太ももに着けたまま指先で寝間着と下穿きをかき分けるようにして中へ入り込んでいくのを見た。暖かい手が俺のペニスにたどり着くと、つつ、とサオを指先がなぞって、その後握りこまれる。ゆっくりと上下に動かされて、吐きだす息が震えた。
「んっ……は、ぁ……っ」
俺の表情を探りながら手を動かすヤトにキスをねだる。ペニスへ与えられる快感に腰が前後に小さく揺れ、口元で響く水音が耳を犯して俺の気持ちを高ぶらせていく。息が上がって、しきりに背中を撫でていく快感に乳首が疼いた。
「ロッカ、このまま……その、果てる、か?」
伺う声に、どっちでもいい、と答える。
「ヤトは、どうしたい?」
やわやわと動きが鈍くなった手に、今度は俺が腰を動かしながら訊ねた。目を合わせて、ヤトがしっかりと俺に欲情してるのを感じ取る。
「もっと……そなたの快い声が聴きたい」
「……じゃ、どうすれば俺がヤトの聞きたい声を出すか、考えてよ」
考えるまでもなく分かるだろ? そんな気持ちを込めて囁くと、直ぐに唇を押し付けられた。直ぐに離れたけど、じっと強く見つめられて胸が跳ねる。何も言わずにもう一度顔を寄せて、唇で食むように何度も味わわれた。手の動きは緩やかになって、まだ射精には遠い。
「はぁ……ん」
リップ音が耳に響いて、時折ふるふるっと快感で身体が震える。声は出来るだけ抑えないように。かといって演技はしないで。睨まれてるように思えるほど真剣なヤトの顔を見ると、視姦されてるような気がしてピクリとペニスが反応した。自分のことながら正直すぎる。
「……今は何もしてなかったぞ」
「ばか。見つめられて興奮してんの」
言わせるなよ、と呟くと、ヤトは馬鹿正直に謝ってくるもんだから笑みが零れた。続けていーよ、と促すと、分かった、なんて律儀に返事するし。
「ここは舐めると快いのだったな」
「っあ」
乳首を舐められ、軽く吸い付かれて、高い声が出た。まだ声変わりは来ないらしくて、女の声とそう変わらない。男なのに女みたいで、大人じゃないけど幼児でもない。それが性的倒錯してて良い感じにトべるって言ってた人もいたっけな。でも、こんなに自然に出せるものとは思わなかった。
自分でも経験ないくらいリラックスしてる自覚はある。仕事は関係なくて、自分の意志で、相手の意志で、好きでこうやってること。相手に全部委ねられる安心感。と、でも俺がリードしてやれる優越感。全部が心地いい。
少し硬くなった乳首を柔らかい舌先で甚振られて、くりくりとした小さな刺激と吐息の熱さに反応してしまう。唾液で濡れたらキスで吸い取られて、また舌が乳首に絡みつく。反対側は手で撫でるように触られて、少し強いそれがぴりっと痛むはずなのに気持ちいい。ペニスの扱き方も小刻みで、もどかしいまでのそれに身悶えた。
「っく、は、……あ、ぁっ、ヤト、んんっ」
ヤトの髪の中に指を差し込んで、そのままうなじや背中を撫でる。爪を立てそうになって、咄嗟に手を握りこむ。
「は、……ロッカ、一度達しておくか?」
「んっ、う、ん あ、ヤトがそう、したい、ならっ、ぁ」
もう一度好きにして、と言うと、ヤトは乳首を触ってた方の手で俺の寝間着を開ききって下穿きをはぎ取ると、腰を抱き込んでペニスを扱く手を一気に早めた。股間が外気に晒されても、ヤトの手の所為で温度差はあまり感じなかった。
「あああっ!」
大きな手でしっかりと握られて、腰を揺らす間も無く快感を受け止めるので一杯になって、身体が硬直する。ヤトに捕まることも出来ずに、じっと俺の顔を見つめてくるヤトを見つめ返しながら、切羽詰まった声があふれ出した。
「ヤトっ、……っ、も、でる、イク、あ、あっ、あっ!」
ヤトの目の前で、至近距離で蕩けてるだろう顔を見られながら、追い立てられるまま瞬間を迎える。イキ顔見られて恥ずかしいのにそれさえも興奮材料にしかならなくて、イった余韻に浸っていると、下からヤトのキスが来た。何度か唇を押し付けられ、最後にちゅ、と音を立てて額をくっつけられる。そこでようやく一息。疲労感はあるものの、嫌な感じじゃない。このままほっとけば寝そうではあるけど。
勢いよく出た精液は幸いヤトの手をそこまで汚さなかったみたいだ。自分の腹にぶちまけたらしい。
「はぁっ……ヤトもイっとく?」
少し冷静になって、一瞬だけヤトの股間へ目を遣ってから、顔を窺った。ヤトは持ち前の堅牢な理性のおかげなのか、俺の声に煽られたはずなのにまだ何か考える余裕があるらしい。
「……その、出来ればそなたの中に、入りたいのだが」
訂正。あんまりなかったっぽい。目を泳がせつつもそわそわと期待からか身体を揺らす姿はまさに初体験中の男という感じで、俺の余裕を膨らませた。
「いいよ。じゃあ慣らしてから……あ、そうだ、するんだったらってルゥに小瓶を持たせられたんだけど」
ルゥはなんというか、気が利くというのかそういう展開が好きなのか、俺の侍従になってからずっともしものためにと何かしら用意してくれている。毎晩中身を取り換えているらしい小瓶は客間の時からずっとサイドテーブルに置いていた。ここでも同じのはず。
そう思って目を遣ると、やっぱりあった。少しオレンジっぽく色づいた液体の入った小瓶。ヤトに手渡すと、なにか合点が行ったのかコルクを外して中身を手に取った。てっきり流れ落ちるものだと思っていたそれは、何かこう、ぬるりと綺麗にヤトの手に落ちた。しかも流れずにそのままヤトの手の中に大人しく納まっている。
「それ、なに?」
「滑りをよくする類のものだ。香油や石鹸よりも乾きにくい」
なぜ知ってるのかと聞こうとしたけど、ヤトもいろいろ話を聞いたりして知識はあるんだろうと見当をつけた。女でも慣れてなけりゃちゃんと濡らしてやんないとキツイもんな。
「ふぅん。じゃあ、どうする? 仰向け? 四つん這いになる?」
「ロッカが安心できる方でいい」
「……じゃあ、仰向けで」
相手がヤトだし不安はないけど、どんな風になるのか気になるし、ヤトの表情を確認できる方が楽しそうだ。改めて仰向けになって、枕を頭の下に引いてヤトの顔が見えるようにセット。腰紐を解いて寝間着を完全に脱ぎ足を抱えると、今からヤトを受け入れるアナルを晒した。自分からそうしたとはいえ、そこをじっと見つめられた上、ヤトが生唾を飲み込むのが分かってしまうと、きゅ、とそこがひくついてしまう。どうにも欲しがってるみたいで恥ずかしくて、片手でそこを覆った。
「あんまり見ないでよ。ヤトに見られてると、なんかすげえエロいことしてる気分になる」
「……違うのか?」
「違わないけどさ。どきどきするから」
早く、とヤトの手にしているそれを顎でしゃくった。ヤトの動きに合わせて、手を外してまた、膝を抱える。ヤトの空いてる手が俺の尻を支えて、そっと、手が中のものを流し込むように俺の穴近くに触れた。
「……っ、あ、ぁ……」
ぬるり、と何かが滑りこんでくる感覚。ルゥに掃除されるときとよく似たそれ。中で広がるその刺激と暖かさに力なく声が漏れた。にゅるにゅるした感じは忘れようにも毎日味わわされてて、今日だって掃除されたんだ、身体はちゃんと覚えてる。
「どうだ?」
「っ……、だいじょ、ぶ……ヤト、指で、解して……」
綺麗にされてるから大丈夫だと言うと、ヤトは微かに頷いて、俺のそこへ指を沈めた。
「ふっ……う」
ヤトの指だ、と思うと自然と締め付けてしまう。そのまま俺の呼吸に合わせてゆっくり入ってくる指。ある程度埋まると関節を曲げられて、くちゅ、と卑猥な音がした。
「そなたの中は暖かいな」
「そ、う……? っ、はやく、はいり、たい……?」
ヤトの指の動きは探り探りなのに、それに敏感に反応してひくんひくんと穴に力が入る。ヤトもそれは分かっているだろう。俺と目を合わせて、少しだけ笑んだ。
「ああ」
短い答えなのにそれがやけに艶めいて見えて、滑りの良くなり始めたそこがヤトの指を締めつけた。それでもヤトの動きは止まらない。ゆっくり、俺の反応を見ながら指を入れて、出してを繰り返す。円を描くように、とか、入り口を広げるように、とか時々教えながらそれを感じるけど、久しぶりに固形物を受け入れたそこは前ほど短時間では柔らかくならなかった。それなのにヤトは根気強く俺の穴を解してくれて、俺のイイところを覚えようとしてくれた。俺は気持ちよさに身をよじって喘ぎながら、ヤトの太い指を三本受け入れかき回され、響く水音があからさまになった頃にもう大丈夫だと合図を出した。
「……いくぞ?」
「ん」
ヤトのペニスが俺のアナルにあてがわれる。俺からも手を伸ばしてそれを支えて、ヤトが腰をゆっくりと押し進めてくるのを受け止めた。亀頭がじわじわとめりこんで、圧迫感に息を深く吐きだす。
「っは、ぁ、あ……っ」
ぱちぱちと爆ぜるような快感に息もアナルも引き攣らせながら、それでもヤトを奥で感じたくて腰を浮かせる。カリを過ぎれば、後は楽だ。ずる、と入り込んだ亀頭に中が刺激されて、堪える間も無く声が出た。ヤトが少しずつ押したり引いたりしながら、ルゥの用意した潤滑油らしきものを馴染ませようとする。ヤトが腰を引く度に仔猫みたいな声が出て、本当に俺の声なのかと思ってしまう。ヤトを煽りたいのと自分で興奮を大きくしたいからかもしれないけど、それにしても甘えるようなやらしい声だ。それでヤトも反応するもんだから、連鎖が止まらない。
途中何度かキスをしながら、時間をかけてヤトのペニスは俺の中に落ち着いた。抱えていた膝を離して、軽く抱きしめる。
「はっ……これで、全て、はいっ、たぞ……ロッカ、いたく、ない、か?」
衝動を堪えているのか、ヤトは苦しそうだ。俺は平気だけどヤトの方こそ大丈夫かと声を掛けると、ヤトは苦しい中無理矢理に笑みを作った。
「今動くと直ぐ、果てそうだ……まだ、暫くこのままで……」
浅い息が胸の上に落ちてくる。しっかりと俺の腰を掴む手は汗ばんでいて熱い。必死にイクのを我慢している余裕のない表情は可愛くて、胸が跳ねる代わりにヤトを締めつけてしまった。
「っふ! ……ロッカ、力を抜け」
「ヤト、一回イっときなよ。気持ちいいんだろ? 我慢しないでさ。そんなのしなくていいから、イきたいときにイってよ。その方がいい」
「しかしっ」
「そのまま終わってもいいし、まだイけそうだったら続ければいいだろ? 今日で終わりじゃないんだしさ、……だから、ほら」
「あっ、ぐ」
俺から腰を揺らすと、ヤトが切なそうな声を上げた。俺はそのままヤトの耳元でヤトの射精を導くように囁き、煽る。
「きもちイイ? 動いていいよ。すぐイってもいい。俺でイってくれるとこ、見たいよ、ヤト。それで、中にいっぱい出して」
それから耳に口づけてふっと息を吹きかけると、堪え切れなかったのか、ヤトが腰を動かした。
「ロッカ……ロッカっ……あ、ぁ、だめ、だっ、もう、」
「ん、んっ、いいよ、そのまま、動いて、いいからっ、ヤトっ」
がくがくと揺さぶられながら、歯を食いしばって必死に腰を振るヤトを見上げてその律動を感じる。ルゥの用意したモノがいいのか、痛みは無かった。俺の中のイイトコロにもヤトの太いペニスが擦れて、射精とは違う快感が擦れているそこから溢れてくる。
「っあ! く、ふっ……!」
ヤトの声が裏返って、腰がぎゅっと俺に押し付けられた。そのまま、何度もヤトの身体がびくびくと震える。中でも脈打ってるのが良く分かった。イった。やった。そんな感想が漏れて、きっと中で出ているだろうヤトの精液が俺の中で広がってるんだと思うと、不思議と気持ちも心地よさの中を漂うような気がしてきて、ああ俺は今嬉しいんだと自覚した。
射精直後で呆けているヤトは、少ししてゆっくりと俺に覆いかぶさった。
「……すまぬ……まだ、そなたの中に居たい」
「何謝ってんの。好きにしていいって言ったじゃん」
可愛いことを言われてしまった。全体重は乗せられて無いものの、ヤトの身体は重い。それでも、その重みを不快に思うことは無かった。むしろそれも気持ちが良い。
「ヤトさ、さっき俺の中暖かいって言っただろ?」
「ああ」
「……ヤトのも暖かいよ。なんかさ、そこからじわじわーって暖かいのが広がってる感じ。こうしてるだけでもすげえ気持ちいいの」
まだ萎えてないヤトのペニスは硬さこそさっきよりはないかなと思うくらいだけど、それでも十分存在を主張してる。少し力を込めると、擦れて気持ちいい。何もしなくても、このまま抱き合って寝たいなあって感じだ。
呼吸が深くなって、充足感に浸る。ヤトに撫でられて、ヤトを撫でて、唇をくっつけて、笑みをこぼす。それだけなのに、これ以上なくリラックスしてる。気分が良い。腹の中に気持ちいい頃合のお湯があるみたいだ。それが穏やかに広がって、身体を温めてくれてる感じ。
目を閉じてそれを感じていると、急にそれが波立った。込み上げてくる快感にどきどきと胸が鳴って息が上がる。やばい、これはデカイ。直感するも逃げられそうになくて、咄嗟に身体が硬直した。
「っ、」
「ロッカ?」
俺を気遣ってくれる声が降ってくるのにも答えられずに、俺は覆い被さってくるその巨大な波に飲み込まれて、身体が引きつった。
「っ、わり、なん、っか、急に、っあ! う、しろ、だけでイ、きそ、ああっ」
川が氾濫したような勢いなのに、反面、じわじわこみ上げてくる湧き水みたいな感覚もあって、どっちもひたすらに気持ちいい。自分じゃどうにもならないそれに抗うこともままならないまま、俺は一人ヤトの前で乱れた。
「くっ、う、ロッカ、大丈夫なの、か?」
「んんんっ あ、きもち、い、は、ぁあっ! っかしく、なりそ……! あっ、イくっ、い、ああああっ」
びくびくと身体を震わせて、快感が散って行くのを感じる。腰と頬を包んでくれる手には安心するけど、射精感とは違うそれは散らしてもあとからあとから湧き出して、終わりが見えなくて少し不安になった。絶頂のポイントが長い行列を作って待ってるみたいなんだ。一人通り過ぎてもまだもっと後ろにいて、それが次々にやってくるような。聞いたことがある。男も女みたいにアナルで何回もイケるとか。射精しなくても、射精する時よりずっと気持ちいいとか。
「ロッカ、そんな、しめ、つけるな……っ また、っ、く、ぅ」
「いいっ、……イっていいから、っ このまま、動かないで……、っ、ああっ、やっ、んん、あ、また、ああんっ!」
快感を受け流すように背をそらして、二度目の絶頂感が抜けて行く。それでもまだ溢れてくるのが止まらなくて、俺はヤトにしがみついた。
「はっはっ……っ、あ、やと、ヤトっ」
「ロッカ、すごい、中が……っ、うねっている、ぞ……は、ぁっ……いい、のか……?」
「いいっ、すげえいいっ、よすぎ、て、……っ、も、だめ、あ、また、」
二度目が過ぎ去ると、今度は身体が勝手に動いて腰を小刻みに揺らしていた。そうすると気持ちいいからじゃない。痙攣するみたいにして勝手に揺れるんだ。
「俺も動く、ぞ」
「んんっ、いい、よ、あ、ヤトも、もっと、イってっ」
なりふり構っていられなかった。火事は大量の水をかけ続ければなんとか鎮火するかもしれないけど、これはなんていうか、いつ引くかわからない洪水みたいなんだ。防波堤なんかとっくに壊れて、あとは水の流れるまま好き放題蹂躙される。
勝手に溢れ出した快感に加えて、ヤトが俺に合わせてか小さく腰を揺すってくる。それも合わさって、俺は一際大きく喘いだ。
「あああっ、いい、いいっ」
「はっ、はぁっ……ロッカ、ロッカ……!」
「あんっ、止まんね、あっ、また、イっ、く!」
絶頂が来る度に足が勝手に痙攣して、ぶるぶると肉が震える。快感の中でヤトが大きく張りつめて、脈打って震えるのが分かっても、俺の中はずっと気持ちいいまま。ヤトは射精したからか、くたりと俺の肩口に頭を押し付けてきたから、それに抱きついた。
「ヤト、ヤトッ」
「っ、ロッカ、まだ、」
「んんっ、んっ、そうっ……っあ! きもちい、すげえっ」
ざわざわした感覚がいつまでも抜けない。やってきては引いていくっていう海の浜辺で寝ころんでるみたいだった。
「はっ、……ぅ、く、俺の精を、絞りつくす、つもりか、っ?」
「ちがっ、ん! そんな、っあ、あああっ」
耳から入ってくるヤトの声まで気持ちいい。切羽詰まった声が一番高い所まで上がっていくその勢いを強めて、俺を追い立てる。
「ヤト、ん、このまま、だきしめてて、っ」
「ああ……っ、抜かなくていいか?」
「いいっ、きもち、いいからっ」
「そうか……っ、では俺も尽き果てるまで、っふ、……そなたの中に、いよう……っ」
「ひああっ あっ、いいっ、ヤトっ!」
抱き込まれて、ヤトのペニスがまた俺の中で動く。もうだめだ、と思うのにまだまだ気持ちよくて、引いたと思ったらまた押し寄せてきて、何度もヤトの名前を呼んだ。耳元でヤトが俺を呼んでくれるのを感じながら、暖かい、熱い身体に包まれている安心感から、俺は散々乱れて、身体を痙攣させて、叫ぶように喘ぎながらいつの間にか意識を失った。
次に目を開けると、心配そうなヤトの顔が飛び込んできた。頭が動いて、なんだろう、と思ったら、どうやら腕枕をされていたらしい。頭を引き寄せられて、顔が近くなる。
「……あー……俺、失神してた?」
出した声はへろっへろで力無い。ヤトは時間的にはそう長い間じゃないけど、急にくったりとしたから肝が冷えたと表情そのままの声色で教えてくれた。脱いだ寝間着を引っかけた状態で、身体を冷やさないようにしてくれたらしい。
「悪い。後ろで連続絶頂とか初めてで余裕なかった」
「いや……その、そなたの乱れきった姿は扇情的で、俺は……よかった、のだが……そなたは? 辛くなかったか?」
視線を忙しなく移動させながらも酷く心配してくれるヤトに、苦笑するしかない。
「最高に気持ち良かった……って、言わなくても分かってると思うけど。それに、身体も辛くはないよ。気分もどっちかっていうとすっきりしてて気持ちいい」
ありのままを伝えると、俺のイキっぷりがアレだった上に失神したせいかまだ物憂げな感じだったけど、一応は納得してくれた。俺だってまさか自分があんな、竜巻とか台風の中に突っこまれたみたいな快感に襲われて、何回も何回も後ろだけでイった上にあられもない叫び声を上げながら気を失うなんて全く思っちゃいなかったって。
ヤトの手が俺の頭を撫でる。肩、背中と移動して、俺は横を向いてその腕の中に納まった。
「あー……にしても、なんかなあ。悪かった」
「?」
「最後さ、俺一人で気持ち良くなってた感じがさ、引っかかるっていうか」
「いや……俺も……その、快かったぞ? ……そなたの乱れる姿に耐え切れず、結局あれから何度か達したしな……」
「ホント?」
「嘘を言ってどうする」
そりゃそうか。でもあれ……俺の連続絶頂の部分はセックスって感じじゃなかったよなあ……。ヤトが動いててなったならともかくさあ。張形入れたまんまと何が違うよってなるじゃん。まあ、それまではちゃんとしたって言えるセックスだったし。いい、のか? いいんだろうな。ヤトがいいなら。
「腹は膨れた?」
「よさぬか」
「じゃあ俺美味かった?」
「……これから先、そなたしか知らぬというのは恐ろしく贅沢なのだろうな」
こつん、と額がぶつかる。視線が絡んで、唇を合わせながら笑みが零れた。
「王太子に感謝してもいいよ」
「なに?」
「結果的にだけど、発破かけてくれたからさ」
ちょっとくらいは、と付け加えると、ヤトは渋面を作って俺を抱き込んだ。
「名明かしもしたことだ。後日正式に報告をしに父上の所へ挨拶に参るが、アレにはなにも言わんでよいからな」
「はは、ヤトがそう言うんなら、そうする」
「此度のこと、俺は暫く許す気はない」
ずっとじゃないんだ、と茶化す間も無く唇を塞がれる。柔らかく啄まれ、そっと舌でなぞられるまま口を開いて、舌先を触れ合わせた。腰を強く引かれて、ぴったりと密着する。
「ん……」
ぴちゃ、と卑猥な音が響いて、身体の芯に熱が籠りそうになった。それに気付かないふりをして、ヤトの舌に吸い付いて、唇を押し付ける。
「なあ、身体洗いに行かねえ? 後始末もしなきゃなんねえし」
「……中で出したのは不味かったか?」
「んー、それ自体は別にいいんだけど。なんかの拍子にだらーっと出てきたらなんかさ……分かるだろ? あ、別にここで掻きだしてくれてもいいぜ? ヤトので、さ」
最後は囁き程度に、芯の熱を言葉に乗せて吐き出すようにヤトへぶつけてやると、ヤトは面白いくらい顔を赤らめた。まあ場所が変わるだけでやることはあんま変わんねえ気がするけど。自分じゃ見えねえからって尻突き出して誘うつもりだったし。俺の中ではやっぱさっきの連続絶頂はナシだから。あれはセックスの内に入んないから。気持ち良かったけどさ!
「どうする? 俺はどっちでもいいけど……風呂場は声響くから、さっきより興奮するかもよ?」
ヤトに頬ずりをしながら訊ねると、ヤトは大きく息を吐いた。
「……身体とそなたの中を洗うだけ、だ」
『しない』選択肢は無くしたにもかかわらず、窘めるようにそう言われてしまった。ヤトだってまたしたくなってるだろうに。と思ってたら、抱き起された。
「ここは俺の部屋ゆえに真名を出しても問題は無かったが……出るとなると真名は呼ぶなよ?」
「あ、そっか。……でもヤトの通称知らないし、決めてないや」
だって濡れ場で『元王子』って呼ぶのどうよ? ナシだね。ないない。あり得ない。いくら俺でもそれはちょっとなあ。『先生』とか『師匠』とか、『隊長』とかならアリだよ。そういう役職名はいい。本名を隠してる感じがそれはそれで雰囲気があっていい。けど、元、って! 価値無くなるじゃん! ……ルゥみたく『お館様』か? 執事は『主人』だったし『ご主人様』とか。主従プレイか……アリだな。
考えていると、ヤトはそんな俺の思考を見抜いたのか、珍しく悪戯っぽく笑った。
「……元王子、でも、俺は構わぬが?」
「へっ」
「冗談だ。通称は現職の役職名であることが多いな。今の俺であれば……長、団長、頭領……といったところか」
「……両親からはなんて呼ばれてんの」
「そうだな、兄はタロウで俺はジロウだ」
「なにそれ!」
ぜってえ嘘だし!
ぶすくれる俺を抱き上げながらヤトがくすくす笑う。気を削がれた俺は、ヤトの腕の中に納まりながら脱力した。
「……ヤトの部屋の中でしかヤトのこと呼べねえんなら風呂場いっても出来ねえじゃん」
「そうだな、だからそなただけの呼び名を考えてくれればよい」
「直ぐには無理」
「楽しみにしていよう」
だからそれまではお預けだ、と言わんばかりのヤトに、俺が全力で誘ってその気にさせたのは言うまでもないだろう。俺にもプライドってもんがある。連続絶頂なんてそうあるもんじゃないから、散々入れさせて喘がせてイかせて、キスして腰振らせて掻き出させて同じだけ俺も燃え上がってのリベンジ……いや、二回戦を楽しんだ。ヤトってすげえ覚えが早くて、あっという間に俺の良い所ばっかり攻められたけど、まあ、気持ち良かったし文句はない。別に悔しくなんか! ないし!
ちなみに王太子だけど、後日懲りずに俺に手を出そうとしたところをヤトにぶっ叩かれてた。
「まったくあなたという方は性懲りもなく! 白百合に触れるなどまかりなりませぬ!」
「人妻というのもそれはそれで燃えるじゃないですか」
「いやいや! 俺、男だから!」
こんな奴が次代の王とか物の怪の国大丈夫なのかよと呆れ返ったけど、ヤトが頭を痛めるのは取り敢えずよく分かった。こいつにこそ花嫁必要だろ。誰か攫ってこい。
「ヤト」
「ああ」
「ヤト」
「……ん」
「ヤト?」
「……」
姿形を確かめるようにヤトの体に手を這わせて、顔を寄せて匂いを嗅いだ。それから知った名が嬉しくて覚えたての言葉を得意げに繰り返す子どもみたいに何度も名を呼んでいると、ヤトの反応が鈍くなった。
訝り、そっと顔色をうかがう。そこには照れたように顔を赤くするヤトが、決まり悪そうに俺から目をそらしていた。
「……ああ、俺、変態っぽい?」
いつかヤトに向けた言葉を思い出す。けど、ヤトは首を横に振った。
「そうではない。……面映ゆいだけだ」
「そうか? 俺は結構安心するけど」
言うと、ヤトは俺をじっと見つめた。やっぱりべっこう飴みたいな綺麗な目は美味しそうで、舐めたらどんな反応をするのかと思うと自然、口元が緩みそうになる。王太子にあんなに腹の立つことをされた割にこんなに簡単に機嫌がよくなるとか、俺は随分とちょろい奴だったらしい。まあ、嬉しいからしゃーないな。
「ヤト」
「……なんだ、ロッカ」
「やっとあんたのこと呼べて、俺、今結構嬉しい」
誘ったりなんかしなくても、こうすればよかったのか。とふと思う。ヤトが観念するのを待たなくたってよかったんだ。ヤトは俺に惚れてるんだから、意地悪しないでさっさと名前を教えてやればよかった。まあ、それはそれで楽しかったんだけどさ。
ヤトの首に腕を回して抱きつくと、暖かな手が俺の身体を支えてくれる。耳元で、優しい声が響いた。
「俺もだ」
さて、すっかり機嫌も良くなって泣いてたのが嘘のような俺だけど、自分から好きだと観念して行動すれば簡単に事が運ぶことが分かれば引く理由はない。
暫く抱き合ってお互いの体温に心地よさを感じていたのを、ぎゅっとヤトの首に回した腕に力を込めて、そのままおもむろに後ろのベッドめがけて倒れ込む。俺程度の力じゃびくともしないけど、ヤトは俺に合わせてベッドに乗り上げ、優しく俺をベッドへ横たえた。
「眠るか?」
小さい子どもをあやすような手と穏やかな声に、そんなわけねーだろ、と心の中で答える。俺は腕をほどいてヤトの頭を両手で挟むと、そのまま自分からキスをした。ヤトの唇は悔しいことに王太子が化けていたときと同じだったけど、俺の唇に割って入ってくるようなことはなかった。だけど、それでいい。それがヤトだと思えるから、安心して俺から舌を入れた。
「ん、」
怯えたように歯が閉じかけるけど、俺の舌を挟むと思ったのかすぐにまた開いた。逃げ惑う舌先を突っついて、出来るだけ優しく、くすぐるように舐める。やってることはさっき王太子に唇を開けさせられた時とそう変わらないけど、自分のペースに強引に持って行くことはしないように気をつける。時々吸い付くだけのキスを交えて唾液を飲み込むくらいの隙を作るも、ヤトは苦しくなってきたのか俺から顔を離そうとベッドについていた手を突っぱねた。ヤトがその気になると力では敵わないから、黙ってそれを見送る。思いっきり動揺した顔は部屋に入って来た時と同じ奴だとは思えないほど真っ赤で、可愛いな、なんて感想が自然と零れた。
「……ろ、ロッカ、なんだ、急に」
「急じゃねえよ。前からこうしたかったから、しただけ」
別に俺は女じゃねえんだから、女的な貞淑さというか、『待ち』を求められてたってそれに合わせる必要なくね?
そう思うと肩の力が抜けたっつーか、なんか面白くなってきて、楽しみ始めた俺自身と楽しげに笑ってた王太子が俺の中で重なって、あーありゃ同族嫌悪って奴だったのかなあなんて考える余裕も出てきた。
まあ俺はあっちと違って誰でもいいわけじゃないから、許してよ。
そんな風にまた心の中だけでヤトに呼びかけて、もう一回音を立ててその唇に吸い付いた。
「なあヤト。誰より先に俺のこともらってくれない?」
「……名明かしならば今済ませただろう?」
「今言いたいのはそういう縛りじゃなくって、こっち。身体の方」
言いながら自分で前あわせの寝間着を左右に広げると、ヤトは目に見えて狼狽えた。
「そっ……!」
「つまみ食いで嫉妬したんだから、もういい加減遠慮しないで食べなよ。っていうか、今日こそ食わせるから」
さっき王太子に食われかけて思ったんだけど、俺って結構ヤトのこと笑えない位ロマンチストだったらしい。似合いのカップル誕生でなによりだなと弾み出した思考で考える。
「俺さ、奉仕する方らしい」
「え?」
「ヤトを気持ち良くさせたいってこと」
また啄ばむようなキスを仕掛ける。薄く開いたままの唇が悪い。どう考えても誘ってるようにしか見えない。
そのまま舌を滑り込ませて、またヤトの口内を探る。意外にもヤトは俺を抱き起こしてあぐらをかいたそこへ乗せると、大きな手で俺の頭を固定してきた。さっきは逃げるだけだった舌は自分から俺の舌に触れてきて、それが嬉しい。今まで気持ちいいとか上手いとか下手だとか慣れてるとか思うことは山ほどあったけど、嬉しかったことなんてあったっけと過去の行為を思い起こしながら考える。まだわかったとは言い難いけど、好きって、こういうことなのかもしれない。
嬉しいままヤトの舌に応える。ちろちろと舐めてくるその舌の動きが可愛くて、もっと感じていたいから俺から性急に絡めることはしないでおく。どちらともなく、ん、ともふ、ともつかない声が漏れた。暫くそうしてたけど、声を聞きたくなったから舌を引いて唇をすり合わせて、むちゅ、と押し付けて離れる。と、名残惜しそうな顔が飛び込んできて笑ってしまった。
「そんな顔すんなって。すっごい攻めたくなる」
「……俺もそなたにその、快くなって欲しいのだが」
「ん。じゃあ好きなように身体触って」
初々しい声に、ヤトの両手を取って、まずは頬を挟ませた。俺の手を添えたまま、ヤトの手が下へ滑って行くのを目で追い掛ける。暖かい手はそれだけで心地良くて、この調子が続けばきっと安眠できるんだろうと思うほど性欲が煽られなくて頬が緩んだ。ま、それは俺がやればいい。
「ヤト。名前呼んでよ」
腰を彷徨う手に少しだけ反応しつつ、せがむ。
「……ロッカ」
熱っぽく呼ばれて、ぶわ、と毛穴が開いたみたいにして快感が肌を撫でて行った。耳から入った低い声は急転直下、快感になって俺の腰にまで辿り着いてペニスが反応する。あ、やばい。これはやばい。余裕なくなりそう。
「んで、もっと触って」
「……そうしたいのはやまやまなのだが、その、お前の良いように教えてくれ。何もかもが分からぬ」
途方に暮れた声と表情がおかしくって、俺は疼く股間の熱をぐっとこらえることが出来た。経験ないなら仕方ない。腰で止まってるヤトの手のひらをもう一度掴んで、導く。
「触りたいって思うところ、ない? どこでもいいけど。頭を撫でるみたいに髪を梳くのもいいし、首筋と鎖骨をなぞってもいい。そのまま服を脱がせつつ二の腕に下がっていって、乳首は舐めるのもアリ。俺の身体ならあばらに沿ってそーっと指先を這わせたり、ヘソのラインを辿ったりとか。そのまま腰骨をくすぐって、ちんこに行ってもいいし、焦らすみたいに内腿撫でて、足先の方に行ってもいい」
あちこちヤトの手を引っ張りながら触れさせている間、ヤトの視線は俺の乳首だとか股間に特に反応していてこっちまでドキドキしてしまいそうだった。気恥ずかしそうに俺の胸をちらちらと見ていかにも舐めたそうにしてるのを感じると、こっちから胸を押し付けたくなってくる。俺がそうするように誘われてるみたいだ。それを意識して背を反らしつつ、俺は言葉を続けた。
「あとは身体を擦り付けるのもアリかな。ヤトの身体は俺とは結構違うから……俺がヤトにするんなら、腹筋にそって舌を這わせたりとか? そのままヘソ下の際どい所までキスをしながら下りてって、……こっちの髪も手で梳くかな」
ヤトの軽装を肌蹴させて、腰紐を解く。まだ完全には脱がさないけど、服の上から股間に触れると、脈打つペニスの熱さが伝わってきた。優しく子どもの頭を撫でるみたいにして亀頭を掌で撫でると、ヤトが小さく息を飲んで、声を漏らした。それだけで俺のもピクッと反応するんだから恐ろしい。こういう衝動を、ヤトは今まで耐えていたんだろうか。無責任に煽りすぎたかな。でも、もう耐えなくってもいいわけだし。
「ヤトがしにくいんなら俺がやる。ちょっとそのまま寝転んで」
ヤトの膝に乗ったまま、そっと押し倒す。その際に軽く服を脱がせると、居た堪れなさそうなヤトの顔が目に入った。
「どした?」
「いや、その……なんというか、情けなくてな。すまぬ。それに、湯浴みもまだだ」
眉尻を下げて苦笑するヤトは文句無しに可愛い。俺はすぐに情けなくなんかないよと返しながら、ヤトの眉間や眉尻、ゆがんだ口元にキスをした。
「同じ男なんだしそう変わんねえって。要領なんて直に掴めると思うよ。ヤトのいいところは多分、俺もいいと思うし……相手の反応って、探るの楽しいからさ。今から風呂行くのはナシ。俺は今、ヤトに触りたいんだから。ヤトも触りたくなったらいつでも俺に触っていいから」
「……分かった」
「気持ちよかったら我慢すんなよ。反応あった方が嬉しい」
頬を撫でながら囁くと、ヤトは顔を真っ赤にしながらももう一度分かった、と小さく呟いた。うーん、やっぱ可愛いわ。
頬に軽くキスをして、さっき言った通り首筋を唇で撫でて行く。太い。ヤトが息を詰めて、喉仏がくっと動いた。そこにも唇を寄せる。鎖骨も浮き出てて、指でそっと撫でながらそのまま肩を包んだ。そこでさするように小刻みに動かす。そこから脇を通って乳首に吸い付くと、ヤトの身体が引きつった。
「ん、強かった?」
「いや……男でもそこに触れるのか?」
「感度で言うと男も女もそう変わんないかな。ここだけでイケる奴もいるし」
乳首敏感な男ってびっくりするほど可愛い声で喘ぐことが多いから、ヤトもきっと最高に可愛いだろう。想像するだけでちょっと興奮する。とはいえ、普段着がかなり軽装だから、腹筋もだけど乳首も結構丸出しっていうか……そっちの意味で防御力が低いのはちょっとな。可愛いのは俺の前でだけで十分だし。今はまだそんなに攻めなくてもいいかもしれないな。
「そなたも、その、反応するのか?」
「どうかな。ヤトが相手だったらかなりクるかも?」
やってみる? と訊ねると、ヤトは頷いて、俺の乳首に触れた。最初は中指と人差し指の先で。それから、触りにくかったのか親指の腹で。他の指は腋に差し込むように添えられていて、少しくすぐったい。乳首への刺激は、感じるには少し足りてない。それでもヤトの指先は熱いくらいで、それが俺の乳首を何度かかすめる内にそこが勃起しはじめた。個人的に一番心地いいのは乳首が少し硬くなって、乳輪は柔らかいくらいなんだけど、ヤトはどういうのが好きなのかな。
「……いいのか?」
「ん、うん。……むずむずする。声出すほどじゃないけど、ちゃんと下まで来てるよ。もう少し強くてもいいくらい」
王太子に勃たされてから一回萎えたけど、またむくむく膨らんでるところだ。きゅ、と少し強く乳首を押されて、快感が腰を突き抜けて背中が反った。
「痛くないか?」
「ん、……大丈夫。このくらいが一番好きだ」
ヤトの頭が持ち上がり、目が合った。乳首をいじられたまま口付けに応えて、俺はヤトのペニスに触れた。
「、っふ……」
気持ち良さそうな声に気分がよくなる。そうっと下穿きごと服を開いて、さてご開帳。大っきいイチモツとご対面した。太くてそこそこの長さで、形がいいとか羨ましい。色もあっさりしてて綺麗だとさえ思う。……そういや、実質俺が最初で最後の相手なんだっけ。うわ、なんか感動かも。
ヤトの手から逃げるように上半身をずらして、勃ちかけてるペニスを持つ。そのまま、ヤトが何かを言う前に亀頭を口に含んだ。
「ろっ!」
ぎょっとした声がかかるけど気にしない。太ももに力が入ったのを感じる。とっさに動いて俺を蹴り上げないように堪えているのかもしれない。どっちにしろ止めないけど。
ヤトの亀頭を口の中で舐めて鈴口を攻めると、ヤトの口から頼りない嬌声が零れた。ぴく、とペニスも大きくなって、俺はわざと顔が見えるようにサオに指と舌を這わせて、こっちからもヤトの顔を見た。
「っ」
途端にギクリとヤトの身体が強張る。これ見よがしに付け根を舌でくすぐってタマを揉むと、逃げるように膝を折り曲げられ、腰が遠のいた。ヤトは上半身を起こしてしまっていて、直ぐに股間を隠してしまった。
「あー、なにすんだよ」
「ろっ、ロッカ! そなたっ」
反応を見るに嫌なわけじゃなさそうだけど、恥ずかしくて耐えられないってところか。そういや湯浴みまだとか気にしてたし汚いとかなんとか言いそうだなと見当をつけてみる。こりゃあこのままキスしたら怒るか?
「ヤトもしたくなったとか? いいよ、ほら」
寝間着の裾を太ももまで見えるように肌蹴させつつ、足の下の方からつつつ、と指で肌を辿って見せつける。肝心なところは見せないように気を付けてヤトの視線を誘うと、その咽喉仏が上下に動くのが見えた。
「ヤトの好きにしていいよ」
そのまま今度は俺が肘で身体を支えながら横になる。膝をすり合わせるように動かして、際どい位置までめくれ上がった服のその中に意識が行くように仕向ける。ヤトは黙ったまま俺の方へ寄ってくると、まず俺に口づけた。至近距離で表情がよく分かる。興奮してるのに、それ以上に緊張してるんだな。動きにくそうだ。慣れてないからだろう。代わりとばかりに俺からもヤトの首に腕を回して距離を詰めた。
「なあ……触って、俺の」
耳元で囁いて、足を開いて股座をヤトの腕に擦り付ける。抜き合いっこは一回してるから、勝手は分かるはずだ。そのまま腰を揺らすと、ヤトの手は恐る恐ると言った感じで俺の太ももを這った。
「こう、か?」
「ん……そう、そのまま上がってきて」
たどたどしいけど、強くないそれが逆にぞくぞくと快感を生んで、俺の背中を駆け抜けていく。俺は腕の力を少し緩めて、ヤトの手がそのままそっと太ももに着けたまま指先で寝間着と下穿きをかき分けるようにして中へ入り込んでいくのを見た。暖かい手が俺のペニスにたどり着くと、つつ、とサオを指先がなぞって、その後握りこまれる。ゆっくりと上下に動かされて、吐きだす息が震えた。
「んっ……は、ぁ……っ」
俺の表情を探りながら手を動かすヤトにキスをねだる。ペニスへ与えられる快感に腰が前後に小さく揺れ、口元で響く水音が耳を犯して俺の気持ちを高ぶらせていく。息が上がって、しきりに背中を撫でていく快感に乳首が疼いた。
「ロッカ、このまま……その、果てる、か?」
伺う声に、どっちでもいい、と答える。
「ヤトは、どうしたい?」
やわやわと動きが鈍くなった手に、今度は俺が腰を動かしながら訊ねた。目を合わせて、ヤトがしっかりと俺に欲情してるのを感じ取る。
「もっと……そなたの快い声が聴きたい」
「……じゃ、どうすれば俺がヤトの聞きたい声を出すか、考えてよ」
考えるまでもなく分かるだろ? そんな気持ちを込めて囁くと、直ぐに唇を押し付けられた。直ぐに離れたけど、じっと強く見つめられて胸が跳ねる。何も言わずにもう一度顔を寄せて、唇で食むように何度も味わわれた。手の動きは緩やかになって、まだ射精には遠い。
「はぁ……ん」
リップ音が耳に響いて、時折ふるふるっと快感で身体が震える。声は出来るだけ抑えないように。かといって演技はしないで。睨まれてるように思えるほど真剣なヤトの顔を見ると、視姦されてるような気がしてピクリとペニスが反応した。自分のことながら正直すぎる。
「……今は何もしてなかったぞ」
「ばか。見つめられて興奮してんの」
言わせるなよ、と呟くと、ヤトは馬鹿正直に謝ってくるもんだから笑みが零れた。続けていーよ、と促すと、分かった、なんて律儀に返事するし。
「ここは舐めると快いのだったな」
「っあ」
乳首を舐められ、軽く吸い付かれて、高い声が出た。まだ声変わりは来ないらしくて、女の声とそう変わらない。男なのに女みたいで、大人じゃないけど幼児でもない。それが性的倒錯してて良い感じにトべるって言ってた人もいたっけな。でも、こんなに自然に出せるものとは思わなかった。
自分でも経験ないくらいリラックスしてる自覚はある。仕事は関係なくて、自分の意志で、相手の意志で、好きでこうやってること。相手に全部委ねられる安心感。と、でも俺がリードしてやれる優越感。全部が心地いい。
少し硬くなった乳首を柔らかい舌先で甚振られて、くりくりとした小さな刺激と吐息の熱さに反応してしまう。唾液で濡れたらキスで吸い取られて、また舌が乳首に絡みつく。反対側は手で撫でるように触られて、少し強いそれがぴりっと痛むはずなのに気持ちいい。ペニスの扱き方も小刻みで、もどかしいまでのそれに身悶えた。
「っく、は、……あ、ぁっ、ヤト、んんっ」
ヤトの髪の中に指を差し込んで、そのままうなじや背中を撫でる。爪を立てそうになって、咄嗟に手を握りこむ。
「は、……ロッカ、一度達しておくか?」
「んっ、う、ん あ、ヤトがそう、したい、ならっ、ぁ」
もう一度好きにして、と言うと、ヤトは乳首を触ってた方の手で俺の寝間着を開ききって下穿きをはぎ取ると、腰を抱き込んでペニスを扱く手を一気に早めた。股間が外気に晒されても、ヤトの手の所為で温度差はあまり感じなかった。
「あああっ!」
大きな手でしっかりと握られて、腰を揺らす間も無く快感を受け止めるので一杯になって、身体が硬直する。ヤトに捕まることも出来ずに、じっと俺の顔を見つめてくるヤトを見つめ返しながら、切羽詰まった声があふれ出した。
「ヤトっ、……っ、も、でる、イク、あ、あっ、あっ!」
ヤトの目の前で、至近距離で蕩けてるだろう顔を見られながら、追い立てられるまま瞬間を迎える。イキ顔見られて恥ずかしいのにそれさえも興奮材料にしかならなくて、イった余韻に浸っていると、下からヤトのキスが来た。何度か唇を押し付けられ、最後にちゅ、と音を立てて額をくっつけられる。そこでようやく一息。疲労感はあるものの、嫌な感じじゃない。このままほっとけば寝そうではあるけど。
勢いよく出た精液は幸いヤトの手をそこまで汚さなかったみたいだ。自分の腹にぶちまけたらしい。
「はぁっ……ヤトもイっとく?」
少し冷静になって、一瞬だけヤトの股間へ目を遣ってから、顔を窺った。ヤトは持ち前の堅牢な理性のおかげなのか、俺の声に煽られたはずなのにまだ何か考える余裕があるらしい。
「……その、出来ればそなたの中に、入りたいのだが」
訂正。あんまりなかったっぽい。目を泳がせつつもそわそわと期待からか身体を揺らす姿はまさに初体験中の男という感じで、俺の余裕を膨らませた。
「いいよ。じゃあ慣らしてから……あ、そうだ、するんだったらってルゥに小瓶を持たせられたんだけど」
ルゥはなんというか、気が利くというのかそういう展開が好きなのか、俺の侍従になってからずっともしものためにと何かしら用意してくれている。毎晩中身を取り換えているらしい小瓶は客間の時からずっとサイドテーブルに置いていた。ここでも同じのはず。
そう思って目を遣ると、やっぱりあった。少しオレンジっぽく色づいた液体の入った小瓶。ヤトに手渡すと、なにか合点が行ったのかコルクを外して中身を手に取った。てっきり流れ落ちるものだと思っていたそれは、何かこう、ぬるりと綺麗にヤトの手に落ちた。しかも流れずにそのままヤトの手の中に大人しく納まっている。
「それ、なに?」
「滑りをよくする類のものだ。香油や石鹸よりも乾きにくい」
なぜ知ってるのかと聞こうとしたけど、ヤトもいろいろ話を聞いたりして知識はあるんだろうと見当をつけた。女でも慣れてなけりゃちゃんと濡らしてやんないとキツイもんな。
「ふぅん。じゃあ、どうする? 仰向け? 四つん這いになる?」
「ロッカが安心できる方でいい」
「……じゃあ、仰向けで」
相手がヤトだし不安はないけど、どんな風になるのか気になるし、ヤトの表情を確認できる方が楽しそうだ。改めて仰向けになって、枕を頭の下に引いてヤトの顔が見えるようにセット。腰紐を解いて寝間着を完全に脱ぎ足を抱えると、今からヤトを受け入れるアナルを晒した。自分からそうしたとはいえ、そこをじっと見つめられた上、ヤトが生唾を飲み込むのが分かってしまうと、きゅ、とそこがひくついてしまう。どうにも欲しがってるみたいで恥ずかしくて、片手でそこを覆った。
「あんまり見ないでよ。ヤトに見られてると、なんかすげえエロいことしてる気分になる」
「……違うのか?」
「違わないけどさ。どきどきするから」
早く、とヤトの手にしているそれを顎でしゃくった。ヤトの動きに合わせて、手を外してまた、膝を抱える。ヤトの空いてる手が俺の尻を支えて、そっと、手が中のものを流し込むように俺の穴近くに触れた。
「……っ、あ、ぁ……」
ぬるり、と何かが滑りこんでくる感覚。ルゥに掃除されるときとよく似たそれ。中で広がるその刺激と暖かさに力なく声が漏れた。にゅるにゅるした感じは忘れようにも毎日味わわされてて、今日だって掃除されたんだ、身体はちゃんと覚えてる。
「どうだ?」
「っ……、だいじょ、ぶ……ヤト、指で、解して……」
綺麗にされてるから大丈夫だと言うと、ヤトは微かに頷いて、俺のそこへ指を沈めた。
「ふっ……う」
ヤトの指だ、と思うと自然と締め付けてしまう。そのまま俺の呼吸に合わせてゆっくり入ってくる指。ある程度埋まると関節を曲げられて、くちゅ、と卑猥な音がした。
「そなたの中は暖かいな」
「そ、う……? っ、はやく、はいり、たい……?」
ヤトの指の動きは探り探りなのに、それに敏感に反応してひくんひくんと穴に力が入る。ヤトもそれは分かっているだろう。俺と目を合わせて、少しだけ笑んだ。
「ああ」
短い答えなのにそれがやけに艶めいて見えて、滑りの良くなり始めたそこがヤトの指を締めつけた。それでもヤトの動きは止まらない。ゆっくり、俺の反応を見ながら指を入れて、出してを繰り返す。円を描くように、とか、入り口を広げるように、とか時々教えながらそれを感じるけど、久しぶりに固形物を受け入れたそこは前ほど短時間では柔らかくならなかった。それなのにヤトは根気強く俺の穴を解してくれて、俺のイイところを覚えようとしてくれた。俺は気持ちよさに身をよじって喘ぎながら、ヤトの太い指を三本受け入れかき回され、響く水音があからさまになった頃にもう大丈夫だと合図を出した。
「……いくぞ?」
「ん」
ヤトのペニスが俺のアナルにあてがわれる。俺からも手を伸ばしてそれを支えて、ヤトが腰をゆっくりと押し進めてくるのを受け止めた。亀頭がじわじわとめりこんで、圧迫感に息を深く吐きだす。
「っは、ぁ、あ……っ」
ぱちぱちと爆ぜるような快感に息もアナルも引き攣らせながら、それでもヤトを奥で感じたくて腰を浮かせる。カリを過ぎれば、後は楽だ。ずる、と入り込んだ亀頭に中が刺激されて、堪える間も無く声が出た。ヤトが少しずつ押したり引いたりしながら、ルゥの用意した潤滑油らしきものを馴染ませようとする。ヤトが腰を引く度に仔猫みたいな声が出て、本当に俺の声なのかと思ってしまう。ヤトを煽りたいのと自分で興奮を大きくしたいからかもしれないけど、それにしても甘えるようなやらしい声だ。それでヤトも反応するもんだから、連鎖が止まらない。
途中何度かキスをしながら、時間をかけてヤトのペニスは俺の中に落ち着いた。抱えていた膝を離して、軽く抱きしめる。
「はっ……これで、全て、はいっ、たぞ……ロッカ、いたく、ない、か?」
衝動を堪えているのか、ヤトは苦しそうだ。俺は平気だけどヤトの方こそ大丈夫かと声を掛けると、ヤトは苦しい中無理矢理に笑みを作った。
「今動くと直ぐ、果てそうだ……まだ、暫くこのままで……」
浅い息が胸の上に落ちてくる。しっかりと俺の腰を掴む手は汗ばんでいて熱い。必死にイクのを我慢している余裕のない表情は可愛くて、胸が跳ねる代わりにヤトを締めつけてしまった。
「っふ! ……ロッカ、力を抜け」
「ヤト、一回イっときなよ。気持ちいいんだろ? 我慢しないでさ。そんなのしなくていいから、イきたいときにイってよ。その方がいい」
「しかしっ」
「そのまま終わってもいいし、まだイけそうだったら続ければいいだろ? 今日で終わりじゃないんだしさ、……だから、ほら」
「あっ、ぐ」
俺から腰を揺らすと、ヤトが切なそうな声を上げた。俺はそのままヤトの耳元でヤトの射精を導くように囁き、煽る。
「きもちイイ? 動いていいよ。すぐイってもいい。俺でイってくれるとこ、見たいよ、ヤト。それで、中にいっぱい出して」
それから耳に口づけてふっと息を吹きかけると、堪え切れなかったのか、ヤトが腰を動かした。
「ロッカ……ロッカっ……あ、ぁ、だめ、だっ、もう、」
「ん、んっ、いいよ、そのまま、動いて、いいからっ、ヤトっ」
がくがくと揺さぶられながら、歯を食いしばって必死に腰を振るヤトを見上げてその律動を感じる。ルゥの用意したモノがいいのか、痛みは無かった。俺の中のイイトコロにもヤトの太いペニスが擦れて、射精とは違う快感が擦れているそこから溢れてくる。
「っあ! く、ふっ……!」
ヤトの声が裏返って、腰がぎゅっと俺に押し付けられた。そのまま、何度もヤトの身体がびくびくと震える。中でも脈打ってるのが良く分かった。イった。やった。そんな感想が漏れて、きっと中で出ているだろうヤトの精液が俺の中で広がってるんだと思うと、不思議と気持ちも心地よさの中を漂うような気がしてきて、ああ俺は今嬉しいんだと自覚した。
射精直後で呆けているヤトは、少ししてゆっくりと俺に覆いかぶさった。
「……すまぬ……まだ、そなたの中に居たい」
「何謝ってんの。好きにしていいって言ったじゃん」
可愛いことを言われてしまった。全体重は乗せられて無いものの、ヤトの身体は重い。それでも、その重みを不快に思うことは無かった。むしろそれも気持ちが良い。
「ヤトさ、さっき俺の中暖かいって言っただろ?」
「ああ」
「……ヤトのも暖かいよ。なんかさ、そこからじわじわーって暖かいのが広がってる感じ。こうしてるだけでもすげえ気持ちいいの」
まだ萎えてないヤトのペニスは硬さこそさっきよりはないかなと思うくらいだけど、それでも十分存在を主張してる。少し力を込めると、擦れて気持ちいい。何もしなくても、このまま抱き合って寝たいなあって感じだ。
呼吸が深くなって、充足感に浸る。ヤトに撫でられて、ヤトを撫でて、唇をくっつけて、笑みをこぼす。それだけなのに、これ以上なくリラックスしてる。気分が良い。腹の中に気持ちいい頃合のお湯があるみたいだ。それが穏やかに広がって、身体を温めてくれてる感じ。
目を閉じてそれを感じていると、急にそれが波立った。込み上げてくる快感にどきどきと胸が鳴って息が上がる。やばい、これはデカイ。直感するも逃げられそうになくて、咄嗟に身体が硬直した。
「っ、」
「ロッカ?」
俺を気遣ってくれる声が降ってくるのにも答えられずに、俺は覆い被さってくるその巨大な波に飲み込まれて、身体が引きつった。
「っ、わり、なん、っか、急に、っあ! う、しろ、だけでイ、きそ、ああっ」
川が氾濫したような勢いなのに、反面、じわじわこみ上げてくる湧き水みたいな感覚もあって、どっちもひたすらに気持ちいい。自分じゃどうにもならないそれに抗うこともままならないまま、俺は一人ヤトの前で乱れた。
「くっ、う、ロッカ、大丈夫なの、か?」
「んんんっ あ、きもち、い、は、ぁあっ! っかしく、なりそ……! あっ、イくっ、い、ああああっ」
びくびくと身体を震わせて、快感が散って行くのを感じる。腰と頬を包んでくれる手には安心するけど、射精感とは違うそれは散らしてもあとからあとから湧き出して、終わりが見えなくて少し不安になった。絶頂のポイントが長い行列を作って待ってるみたいなんだ。一人通り過ぎてもまだもっと後ろにいて、それが次々にやってくるような。聞いたことがある。男も女みたいにアナルで何回もイケるとか。射精しなくても、射精する時よりずっと気持ちいいとか。
「ロッカ、そんな、しめ、つけるな……っ また、っ、く、ぅ」
「いいっ、……イっていいから、っ このまま、動かないで……、っ、ああっ、やっ、んん、あ、また、ああんっ!」
快感を受け流すように背をそらして、二度目の絶頂感が抜けて行く。それでもまだ溢れてくるのが止まらなくて、俺はヤトにしがみついた。
「はっはっ……っ、あ、やと、ヤトっ」
「ロッカ、すごい、中が……っ、うねっている、ぞ……は、ぁっ……いい、のか……?」
「いいっ、すげえいいっ、よすぎ、て、……っ、も、だめ、あ、また、」
二度目が過ぎ去ると、今度は身体が勝手に動いて腰を小刻みに揺らしていた。そうすると気持ちいいからじゃない。痙攣するみたいにして勝手に揺れるんだ。
「俺も動く、ぞ」
「んんっ、いい、よ、あ、ヤトも、もっと、イってっ」
なりふり構っていられなかった。火事は大量の水をかけ続ければなんとか鎮火するかもしれないけど、これはなんていうか、いつ引くかわからない洪水みたいなんだ。防波堤なんかとっくに壊れて、あとは水の流れるまま好き放題蹂躙される。
勝手に溢れ出した快感に加えて、ヤトが俺に合わせてか小さく腰を揺すってくる。それも合わさって、俺は一際大きく喘いだ。
「あああっ、いい、いいっ」
「はっ、はぁっ……ロッカ、ロッカ……!」
「あんっ、止まんね、あっ、また、イっ、く!」
絶頂が来る度に足が勝手に痙攣して、ぶるぶると肉が震える。快感の中でヤトが大きく張りつめて、脈打って震えるのが分かっても、俺の中はずっと気持ちいいまま。ヤトは射精したからか、くたりと俺の肩口に頭を押し付けてきたから、それに抱きついた。
「ヤト、ヤトッ」
「っ、ロッカ、まだ、」
「んんっ、んっ、そうっ……っあ! きもちい、すげえっ」
ざわざわした感覚がいつまでも抜けない。やってきては引いていくっていう海の浜辺で寝ころんでるみたいだった。
「はっ、……ぅ、く、俺の精を、絞りつくす、つもりか、っ?」
「ちがっ、ん! そんな、っあ、あああっ」
耳から入ってくるヤトの声まで気持ちいい。切羽詰まった声が一番高い所まで上がっていくその勢いを強めて、俺を追い立てる。
「ヤト、ん、このまま、だきしめてて、っ」
「ああ……っ、抜かなくていいか?」
「いいっ、きもち、いいからっ」
「そうか……っ、では俺も尽き果てるまで、っふ、……そなたの中に、いよう……っ」
「ひああっ あっ、いいっ、ヤトっ!」
抱き込まれて、ヤトのペニスがまた俺の中で動く。もうだめだ、と思うのにまだまだ気持ちよくて、引いたと思ったらまた押し寄せてきて、何度もヤトの名前を呼んだ。耳元でヤトが俺を呼んでくれるのを感じながら、暖かい、熱い身体に包まれている安心感から、俺は散々乱れて、身体を痙攣させて、叫ぶように喘ぎながらいつの間にか意識を失った。
次に目を開けると、心配そうなヤトの顔が飛び込んできた。頭が動いて、なんだろう、と思ったら、どうやら腕枕をされていたらしい。頭を引き寄せられて、顔が近くなる。
「……あー……俺、失神してた?」
出した声はへろっへろで力無い。ヤトは時間的にはそう長い間じゃないけど、急にくったりとしたから肝が冷えたと表情そのままの声色で教えてくれた。脱いだ寝間着を引っかけた状態で、身体を冷やさないようにしてくれたらしい。
「悪い。後ろで連続絶頂とか初めてで余裕なかった」
「いや……その、そなたの乱れきった姿は扇情的で、俺は……よかった、のだが……そなたは? 辛くなかったか?」
視線を忙しなく移動させながらも酷く心配してくれるヤトに、苦笑するしかない。
「最高に気持ち良かった……って、言わなくても分かってると思うけど。それに、身体も辛くはないよ。気分もどっちかっていうとすっきりしてて気持ちいい」
ありのままを伝えると、俺のイキっぷりがアレだった上に失神したせいかまだ物憂げな感じだったけど、一応は納得してくれた。俺だってまさか自分があんな、竜巻とか台風の中に突っこまれたみたいな快感に襲われて、何回も何回も後ろだけでイった上にあられもない叫び声を上げながら気を失うなんて全く思っちゃいなかったって。
ヤトの手が俺の頭を撫でる。肩、背中と移動して、俺は横を向いてその腕の中に納まった。
「あー……にしても、なんかなあ。悪かった」
「?」
「最後さ、俺一人で気持ち良くなってた感じがさ、引っかかるっていうか」
「いや……俺も……その、快かったぞ? ……そなたの乱れる姿に耐え切れず、結局あれから何度か達したしな……」
「ホント?」
「嘘を言ってどうする」
そりゃそうか。でもあれ……俺の連続絶頂の部分はセックスって感じじゃなかったよなあ……。ヤトが動いててなったならともかくさあ。張形入れたまんまと何が違うよってなるじゃん。まあ、それまではちゃんとしたって言えるセックスだったし。いい、のか? いいんだろうな。ヤトがいいなら。
「腹は膨れた?」
「よさぬか」
「じゃあ俺美味かった?」
「……これから先、そなたしか知らぬというのは恐ろしく贅沢なのだろうな」
こつん、と額がぶつかる。視線が絡んで、唇を合わせながら笑みが零れた。
「王太子に感謝してもいいよ」
「なに?」
「結果的にだけど、発破かけてくれたからさ」
ちょっとくらいは、と付け加えると、ヤトは渋面を作って俺を抱き込んだ。
「名明かしもしたことだ。後日正式に報告をしに父上の所へ挨拶に参るが、アレにはなにも言わんでよいからな」
「はは、ヤトがそう言うんなら、そうする」
「此度のこと、俺は暫く許す気はない」
ずっとじゃないんだ、と茶化す間も無く唇を塞がれる。柔らかく啄まれ、そっと舌でなぞられるまま口を開いて、舌先を触れ合わせた。腰を強く引かれて、ぴったりと密着する。
「ん……」
ぴちゃ、と卑猥な音が響いて、身体の芯に熱が籠りそうになった。それに気付かないふりをして、ヤトの舌に吸い付いて、唇を押し付ける。
「なあ、身体洗いに行かねえ? 後始末もしなきゃなんねえし」
「……中で出したのは不味かったか?」
「んー、それ自体は別にいいんだけど。なんかの拍子にだらーっと出てきたらなんかさ……分かるだろ? あ、別にここで掻きだしてくれてもいいぜ? ヤトので、さ」
最後は囁き程度に、芯の熱を言葉に乗せて吐き出すようにヤトへぶつけてやると、ヤトは面白いくらい顔を赤らめた。まあ場所が変わるだけでやることはあんま変わんねえ気がするけど。自分じゃ見えねえからって尻突き出して誘うつもりだったし。俺の中ではやっぱさっきの連続絶頂はナシだから。あれはセックスの内に入んないから。気持ち良かったけどさ!
「どうする? 俺はどっちでもいいけど……風呂場は声響くから、さっきより興奮するかもよ?」
ヤトに頬ずりをしながら訊ねると、ヤトは大きく息を吐いた。
「……身体とそなたの中を洗うだけ、だ」
『しない』選択肢は無くしたにもかかわらず、窘めるようにそう言われてしまった。ヤトだってまたしたくなってるだろうに。と思ってたら、抱き起された。
「ここは俺の部屋ゆえに真名を出しても問題は無かったが……出るとなると真名は呼ぶなよ?」
「あ、そっか。……でもヤトの通称知らないし、決めてないや」
だって濡れ場で『元王子』って呼ぶのどうよ? ナシだね。ないない。あり得ない。いくら俺でもそれはちょっとなあ。『先生』とか『師匠』とか、『隊長』とかならアリだよ。そういう役職名はいい。本名を隠してる感じがそれはそれで雰囲気があっていい。けど、元、って! 価値無くなるじゃん! ……ルゥみたく『お館様』か? 執事は『主人』だったし『ご主人様』とか。主従プレイか……アリだな。
考えていると、ヤトはそんな俺の思考を見抜いたのか、珍しく悪戯っぽく笑った。
「……元王子、でも、俺は構わぬが?」
「へっ」
「冗談だ。通称は現職の役職名であることが多いな。今の俺であれば……長、団長、頭領……といったところか」
「……両親からはなんて呼ばれてんの」
「そうだな、兄はタロウで俺はジロウだ」
「なにそれ!」
ぜってえ嘘だし!
ぶすくれる俺を抱き上げながらヤトがくすくす笑う。気を削がれた俺は、ヤトの腕の中に納まりながら脱力した。
「……ヤトの部屋の中でしかヤトのこと呼べねえんなら風呂場いっても出来ねえじゃん」
「そうだな、だからそなただけの呼び名を考えてくれればよい」
「直ぐには無理」
「楽しみにしていよう」
だからそれまではお預けだ、と言わんばかりのヤトに、俺が全力で誘ってその気にさせたのは言うまでもないだろう。俺にもプライドってもんがある。連続絶頂なんてそうあるもんじゃないから、散々入れさせて喘がせてイかせて、キスして腰振らせて掻き出させて同じだけ俺も燃え上がってのリベンジ……いや、二回戦を楽しんだ。ヤトってすげえ覚えが早くて、あっという間に俺の良い所ばっかり攻められたけど、まあ、気持ち良かったし文句はない。別に悔しくなんか! ないし!
ちなみに王太子だけど、後日懲りずに俺に手を出そうとしたところをヤトにぶっ叩かれてた。
「まったくあなたという方は性懲りもなく! 白百合に触れるなどまかりなりませぬ!」
「人妻というのもそれはそれで燃えるじゃないですか」
「いやいや! 俺、男だから!」
こんな奴が次代の王とか物の怪の国大丈夫なのかよと呆れ返ったけど、ヤトが頭を痛めるのは取り敢えずよく分かった。こいつにこそ花嫁必要だろ。誰か攫ってこい。
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