異世界スロースターター

宇野 肇

文字の大きさ
上 下
81 / 81
四章 清算

閑話: 新しい門出の前に・後

しおりを挟む
 ここ一週間ほどは、どうしても我慢できなくなってしまって自分で自分の身体を慰めることが何度かあった。前じゃなくて、後ろを。
 ギルの熱い眼差しを受けた日は特に酷くて、熱い肌と息づかいを感じて、どんな風に俺を抱くのかと想像してしまって、後孔をいつまでも弄ってしまうのだ。
 自分でそんなことをするなんて今までなかったことだったけれど、一度やってしまうとハードルが下がって、昨日も少し耽っていた。
 ギルをベッドに座らせて、俺から唇を重ねる。何度か吸い付くと、背を叩かれた。俺も座るように示されて、靴を脱いでベッドへ上がる。ギルもそれに合わせて靴を脱いだ。
「ん……」
 ベッドの上で膝をつき、ギルの首に腕を回す。唇をこすりつけて、その柔らかさに酔い痴れていると、優しく背中を撫でられた。
 もう少し、と唇でギルの上唇とした唇を順番に挟んで吸い付くと、ギルからも甘く吸い付かれる。
「ぁ……」
 それだけで官能が揺さぶられて、口から嬌声が漏れていく。俺がうっとりとしているのが伝わったのか、ギルは何度かそれを繰り返してくれた。
 じんじんと痺れるような感覚と共に、腰が抜けるようにして力が抜けていく。俺が縋り付くように何度も腕を組み直すものだから、ギルの方が俺の身体を支えるようにしてしっかりと抱きしめた。それに甘えて舌先でギルの唇を割り開き、そろそろと機嫌を伺うように少しだけ歯列を撫でた。うっすらと目を開ける。ギルの灰色の目が間近にあった。
 もう一度目を閉じて、舌先を小さく動かして『開けて』と乞う。それ以上深く貪るような技術はないけれど、時折ちゅ、ちゅ、とキスを挟みながら、ギルの口内の浅いところでちろちろといつまでも飽きずにそうしていると、ギルの舌が歯の隙間からそろりと出てきて、俺の舌先をひと舐めした。
 それだけで、ぬるりと擦れた感覚に興奮がせり上がる。追い立てるようなそれを踏みつけるようにしながら、舌先同士を絡め合って、淫靡な肉感を味わう。
 ギルの舌先は緩やかに俺の舌先を舐める。押し返されることもなく、息が混ざり、唾液が微かに音を立てる。俺はその全てに身体の奥を刺激されながら、何度も甘いキスを繰り返した。
 体温が上がり、服を脱ぎたくなっても名残惜しくて続けていたものの、流石に唇がじんじんし始めたから、最後にちゅうっと吸い付いて離れることにした。
 ギルが唾液を飲み込んで、喉仏が上下する。それだけのことが妙に色っぽい。濡れた唇が舌で舐められて、ギルから軽く唇を吸い付かれた。
「キス、慣れてるのか」
「え、そ、そうかな」
 だとしたら、それはギルとしてきたからだ。流石にギルのようにはできないけど、それでも今、目の前にいる彼にそう思われたのはくすぐったかった。
「妬ける」
「ふへっ」
 嬉しいような、ギルがそうしたんだよと言いたくなるような。複雑な気持ちを抱えていると、ギルから漏れた言葉に上手く反応できなくて、変な声が出た。
「そんなに熟(こな)れる程、お前に仕込んだ奴がいるってことだろ」
「まあ、そう、かな?」
 間違ってはいない。
 頷くと、ギルは同じ言葉を繰り返した。
「妬けるな」
「も、もういいでしょ。終わったことだし……」
「俺は牽制までされたのにか? それはないだろう」
 む、とギルが眉を寄せる。
 そう言われても……。キスに夢中になっていたせいか、咄嗟に頭が回らない。
「……フィズィか?」
「え?」
「あいつはお前の事情を知ってるんだろう」
「え?! フィズィと俺が? ないない!」
 余韻も吹き飛ぶ内容に頭を振り、手を振り、全身で否定する。
「フィズィじゃない……というか、とにかく違う。多分ギルが思うような人は全員違う」
 回りくどい言い方になったけど、ギルは少し考えた後一度目を閉じて、小さく息をついた。
「野暮だったな」
「う、うん」
「それはどっちの返事だ?」
 くす、と小さくギルが笑う。
「……もう一回、キスしてもいい?」
「勿論。一回で良いのか?」
 ギルに顔を寄せて、少し間隔の落ち着いた唇が重なった。少し空気は散ってしまったような気がしたけど、そろそろとギルの股間に手を伸ばす。そこがしっかりと勃ちあがって、ぱんぱんになっているのを確認するように指を滑らせると、ギルの唇が離れた。
「……急がなくてもいいと言ったはずだ」
「でも……苦しいでしょ? 俺だって……もっとしたい」
 ズボンのベルトを外し、ギルの下腹部の締め付けを寛げていく。ギルは俺の言葉に口をつぐんで、じっと動かずに俺のやることを受け入れた。
 柔らかな下着の生地をぐいぐいと押し上げて、ギルの屹立が顔を出す。下着も引っ張って露わにしたそこは、ぎちぎちに反り上がっていた。
 むわ、と立ち上ってくる熱に、意を決して顔を寄せる。
「っ、ヒューイ?」
 ギルの声は明らかに俺を制止しようとしていたけど、俺は敢えてそのまま唇を寄せると、片手でギルのものを支えながら、浮き上がった血管に舌先を這わせた。
「っ」
 びく、とギルの身体が跳ねる。……フェラチオなんていつぶりだっけ? そもそも殆どしたことがない。
 口の中に迎えるのは自信がなかった。痛い思いをさせたいわけでもないから、代わりに手で扱きながら、裏筋を優しく舌で擽るようにして愛撫する。
 ぴく、ぴくんと手の中でギルの熱が跳ねる。力強いそれが手から放れないように握りながら、たっぷり唾液を落として先っぽを舐める。
「うぁ、ヒューイ、っそれ、」
 切羽詰まったような声が響く。ギルの表情を窺おうと、顔の角度を変えてそっちを見ながら、舌先で辿るようにサオを舐めた。
 瞬間、ギルが硬く目を閉じて、腰を少し突き上げた。
「っ……!!」
 ギルの両手は震えるほど強くシーツを握っていて、俺の頭にぽたぽたと雨が当たるような感覚がある。そのうちに髪から何かが垂れてくるのが見えて、ギルのサオから、びゅく、と溢れた白濁が頬へ飛んだ。
「ぁ、え」
 ……早くないか?
 かろうじて飲み込んだ言葉の代わりに、ギルの吐精を助けるようにしてゆるゆると扱く。咄嗟に手を掴まれて首を横に振られたが、熱の先にある小さな口元からはどろりとした熱いものが何度も溢れてきていた。
「……えっと……い、いっぱい出たね」
 手の中でびくんと跳ねながら吐き出されていくその量が、まるでギルの性衝動の強さを表しているかのようで、俺はぎこちなく、慰めにもならないような言葉を口走る。それにギルが悔しそうな顔をするのを見て、失敗したかも、と思った矢先、
「クソ……っ」
 ギルはそう言うと、ぐったりとベッドに横たわって力を抜いた。腕で目元を隠されて、俺からは見えなくなる。
「悪い……」
「なにが……?」
「お前の顔にかかっただろ」
「? 別に……掛けてもいいけど」
 生活魔法でさっと綺麗になるし、全然気にならない。
 悔しいんじゃなくて気まずいのか、と思って首をかしげてみても、ギルはくしゃくしゃと自分の頭をかいて、再び上半身を起こした。
「今度はお前の番だ」
「へっ、や、俺は……」
 ギルの手がさっさと俺の股間部を寛げていく。露わになったのは、ギルと比べて経験が浅そうな――実際浅いけど――それでもぴんと勃ちあがったもの。そこに陰毛がないのを見て取ったギルは一瞬動きを止めた後、俺を窺うように見た。
「……怖いのか?」
「わ、わからないけど」
 取り敢えずさっとギルが出したものを綺麗にして、服を脱ぐ。その間、ギルの目がじっと俺の肌を見続けているのがやけに恥ずかしくて、乳首が反応してしまった。ギルの目には寒さからくるもののように見えていただろうか。そうであってくれ。
 下着まで全部脱ぎきると、ギルに移ってしまいそうだった主導権は俺に戻った。動かないギルの上半身を押して、ベッドへ寝てもらう。俺はその上に跨がるようにして陣取った。その間、一度吐き出したはずのギルの熱はまだ腫れぼったく膨らんで、俺の内股を掠めるとぐっと大きくなった。
「ギルの、おっきい……」
 俺のとギルのが並ぶように重なり、潰さないように気をつけながらギルの上に被さる。ぬるぬるとした先走りが熱の中心だけでなく下腹部に広がって、擦れ合って気持ちがいい。
 俺の意図を察したギルが、俺の腰を支えるように腕を回す。安心感があるだけじゃなくて、ギルの方からも腰を揺らされて、時折ぐり、とサオ同士が擦れるのがたまらない。何なら乳首まで擦れて、身体の奥がずくん、ずくんと快感に反応して重く響き始める。
「ん、んっ……ぁ……ふ、ぅ……っ」
 夢中になってギルの上で身体をくねらせていると、ギルの息が上がっていくのを感じた。腰つきが、まるで下から突き上げるようなものに変わる。
「ヒューイ、ヒューイっ……」
「んぁ、っ、まっ……待って、ギル、まってっ!」
 どうにか止まってもらって、身体を起こす。身体の奥が疼いて、俺ももう我慢できなかった。
「後ろに……欲しい。挿れてもいい? 準備ならしてきたから」
 腰を揺らして、ギルの熱に俺のものを擦り付けながらそう言えば、ギルが息をのんだのが分かった。
 ……はしたなかっただろうか。今のギルにとっては、俺はさっきギルのアプローチに返事をしたばかりの人間だ。
「本当に……無理じゃないんだな?」
「うん」
 念押しの確認に頷いて、後ろ手でギルの熱を支える。熱くて熱くて……力強いそれを後ろの門へあてて、少しずつ腰を揺らして受け入れていく。
「んっ……」
 指とは違う質量に、身体が震える。俺の身体が強張ったのが分かったのか、ギルの手が優しく俺の太ももを摩った。
「むね……さわってくれる……?」
 もどかしい刺激に耐えかねてそう言うと、ギルはそっと俺の両乳首に手を伸ばして、優しく触れた。ぷっくりと勃っているそこも、くにくにと捏ねられたり、指ですりすりと撫でられると物凄くいい。
 ちりちりとした快感に身体が疼くまま、息を吐いて、ギルの先端でぐっと門を押し開く。強烈に擦れながら中へ入って来たその大きいものに、俺は目の奥がぱちぱちと弾けるような感覚を覚えた。
 ふらついたのか、ギルがさっと腰を抱いて支えてくれる。でも、そうすると胸にあった刺激がなくなって物足りない。
 焦れったい思いをしながらどうにかギルのものを受け入れていくと、良いところへ押し当たって背がしなった。
「~~っ」
 切なくなるほどきゅんきゅんと甘い快感が広がって、息が震える。でも、そこまで来ると手を放しても問題はない。
 俺はギルに支えられながら、腰を揺らして後ろの穴でギルを咥え込んで、自分で自分の乳首を弄ることにした。
 きっとギルの目には淫らに映っているはずだ。それでも、いつかあった日々の上に俺はいる。今のギルは知らなくても、俺の中からなくなったりしない。その証拠を見て欲しいと思った。
「んっ、んぅ、ギル、きもち、いいっ……ね、突いて……?」
 乳首を弄る手が止められない。
 前を弄るより胸を弄って、その上後ろでよがっているなんて。それどころか……もっと奥を突いて欲しいなんて、いやらしい男に違いない。
 でも、それこそを見せつけるようにねだると、俺の腰を掴む手に力が入った。とん、と腰を揺らされ、それだけで良いところへ刺激が届く。
「ふぁあ、ぁあんっ」
 きゅうきゅうと門がギルを締め付ける。気持ちよくて、もっと奥に来て欲しくて、足を大きく開くけど上手くいかない。目一杯気持ちよくなるために身体を動かすけど、思うようにいかず、そのうちに胸から手を放して、ギルの上で休憩する。
「はぁ……っあん……ん、ふぅ、ごめ……」
 その間も、中にあるギルの肉棒が俺の内臓を圧迫して、息をするだけでじん、と快感が滲む。流石にギルの上でしゃがんで、大胆に腰を振るようなことまでは恥ずかしさがあって出来なかった。
「んっ、んっ……はぁ、でも、これだけで、きもちい……」
 もじもじと腰を揺らしていると、そのうちにじわっと気持ちよさが広がる。俺の表情がうっとりとしていたからだろう。ギルは少しだけ腰を揺らして、俺に合わせてくれた。
「あっ、あっ、んっ、あっ、あ、それ、これ、きもち、いい、っ」
 とんとんと優しく、微かな振動だ。でも、一定のリズムでそうされると着実に上り詰める感覚が湧き上がってくる。このままされてると後ろでイく。それが分かって、ギルの腕に手を添えながら、そのままついて欲しくてギルを見た。
 目が合って、ギルが俺のことをじっと見て、……険しい顔に、相手が興奮してるのを感じる。俺はどんな顔をしているのかと急に恥ずかしくなって身をよじると、逃げるなとばかりに突くのが深くなって、俺はギルの胸に手を突いてよがるしかできなかった。
「あっ、あんっ、きもちいいっ、もっと、っ、そのまま、ついて……っ」
 涙声に近い嬌声を上げながら、恥ずかしいのに気持ちよくてたまらなくて、このまま後ろを突かれてイきたいと思う。ベッドの軋みが大きくなるのと共に快感が増えていく。
「あぁんっ、ギルっ、ギル、イく、イっちゃ、も、あっ、そこ、いいっ、もっとぉっ、……っ、あ、イくいくっ、イ、――~~っ!!」
 奥で官能の泉が噴き出すのと同時に、ビクビクと足が戦慄いた。お尻が痙攣して、ぎゅっとギルを締め付ける。身体が弛緩するような、強張るような。自分ではコントロールできない感覚に転がされるようにして、時間が消し飛ぶ。
 くらくらする余韻が落ち着くと、ギルの腹の上に涎を落としているのに気づいた。慌てて口元を拭うけど、ギルはまるでそんなことなどお構いなしに身体を起こした。
「あぁっ、ん」
 腰を抱かれて、深いところへあたって、また喘いでしまう。繋がったまま体勢を変えて俺を押し倒したギルは、俺の胸に吸い付いた。
「んぁあんっ」
 腰が揺れて、背がしなる。気持ちよすぎて、余韻が全然引いて行かない。
「ギル、っ?」
「ヒューイ、俺も欲しい。抱かせてくれ」
 熱をたたえた目で射貫かれる。切羽詰まった声。今すぐにでも腰を打ち付ければ、俺は快楽で何が何だか分からないまま目的を果たせるのに。
「俺も動きたい。好きだ、ヒューイ」
 熱のこもった息を吐きながら、ギルが懇願する。……欲しかった言葉が入っていることに、俺はこれ以上ないまでに満たされていくのを感じた。
「……俺も好き。来て、ギル。動いて……っんゃぁあんっ」
 言うや否や、ギルは奥に優しく押し上げるように腰を揺らした。腹筋がびくびくと痙攣して、気持ちいい以上のことが薄れていく。乳首を吸われ、舌先で弄られて、ギルを受け入れている最奥が連動するように快感に疼いて、あっという間に気持ちが盛り上がっていく。
「はっ……いい、締まる……っ」
「ね、キスっ……しよ、して」
 ねだるのと殆ど同時に口を塞がれた。舌先同士が絡まり合い、どちらともなく甘く吸い付く。その応酬で、頭の中が溶けそうだった。
「はぁっ、かわいい、ヒューイ、好きだ、ヒューイ……っ」
「んぁあっ、ん、んぅ、ふ、ちゅ、んむ、ギル、しゅき、すき、んっ、あ、そこだめ、すぐイっちゃ、ぅ、からぁんっ」
 ぱちゅぱちゅとストロークが大きくなるにつれ、肌がぶつかり、水音が酷くなっていく。首筋に舌を這わされて、ぞくぞくとした感覚にギルを強く締め付けてしまう。
「く、っ」
「だめだったら、ね、ってば……っ」
「イけばいいだろ……好きなだけ、何度でも、っ、ん、」
「あっ、あっ、イ、んんっ、……ふぁ、あっ! あ、あんっ、あ、やぁっイった! いまイったからぁっ」
 がくんと力が抜けても、ギルが腰の動きを緩めることはなかった。中をぐずぐずに溶かされて、おかしくなりそうだ。
「俺も、もうっ……」
「あぁんっ、ん、おくに……っ、中にいっぱい出して……っ」
「! う、くっ……!!!」
 揺さぶられながら心のままにねだると、ギルは一際力強く俺を貫いて、奥深くで動きを止めた。俺の肩口に額をつけて、どうにか身体を支えながらふーっ、ふーっとかみ殺すようにして呼吸を繰り返す。
 未だイった余韻でひくひくと中がうねっているのを感じながら、ギルの熱が俺の中で断続的に跳ねることに妙なうれしさがあって、俺はギルの背を撫でた。ゆっくりと俺に体重を預けてくるのを促すように、ぎゅっと抱きしめる。
 数分くらいそうしていると、ふとギルが俺の肩口で呻いた。
「おまえ……あれは……ずるい……」
 どれのことだろう? と思ったけど、最後のやつかな? とすぐに心当たりに行き着いた。
「だって……あ、でも、外に出すならかけてって言うつもりだったよ」
「はぁ……ったく、誰だお前にそんな言葉を教えた男は……!」
 男、というのがどうして分かるのか、俺には分からない。男を責めるのが好きな女だっていると思うけど。まあ、それは黙っておく。
「内緒。……ね、ギル、好きだよ」
「俺も好きだ」
 頭を持ち上げたギルと目が合う。自然と顔を寄せてキスをした。ちゅ、と唇の柔らかさを堪能するような甘い触れ合いに、微睡みのような心地よさと気持ちよさが湧いて、味わうように繰り返す。
 まだ外は明るい。一旦眠るにしても食事を取るにしても、もう少し互いを求め合う時間はあるはずだ。
 俺の目に何を見たのか、ギルは柔らかく微笑んだ。

******

 結局、食事もそこそこにひたすらお互いの身体を感じていた。手で触れるのは勿論、口で何度も舐めて、しゃぶって……流石にお尻の門を散々舌先で愛撫され、焦らされたのには参ったけど。
 少し眠って、目を開ければギルがいて、名前を呼んでいるうちにキスが始まって、深く繋がる。
 自分でも驚くほど何度も求めて、甘い声を出しながら気持ちよくなっているうちに夜が更け、空が白み始める頃には漸く退去の準備のために理性が回り始めた。ギルは随分と俺を淫らにした男のことを気にしていたけど、俺は口を割らなかった。やましいこともないし、言わないことに罪悪感もない。だから辛くないし、なんならギルが自分に嫉妬しているのを見ると少しくすぐったい気持ちになる。やっとギルを年下だと思えた気がするくらいには、俺の気持ちは軽くなっていた。
「なあ、俺も連れて行ってくれ」
「んー、ジンが良いって言ったら」
「……」
 ベッドの上で横になりながら、ピロートークのような空気で言葉をポツポツと紡ぐ。ギルは考えるような間の後、息をついた。ジンを説得するのは難しいと思ったのだろう。俺とは違う意味での恩人であり、ギルの教育者という立場は強い。
「まあ、ジンとの兼ね合いは別にしても……一緒に住んだりすると歯止めもきかなさそうだから……俺は、しばらくは別というか、このままで良いかなと思ってて」
「……。続けてくれ」
「今日は、その……俺も自分のけじめというか……いろいろと思うところがあって、ギルが急いでないって言ってくれたのを押し切ったんだけど。元々、あんまり性急な方じゃないからさ。ギルとの関係も、ゆっくり築いていきたいんだ」
 それに、今まで状況に振り回されることが多かったけど、俺の性分としてそういう日々は合ってないように思えた。
「定住するかどうかは分からないけど、良い場所があったら家も持ちたいし……」
「そうしたら、俺も移りたい」
「すぐはだめ」
 はっきり伝えると、ギルはどうしてだと言いたげに俺を見た。
「嫌ってわけじゃないけど。それに、ギルが中々来られない場所だったとしても、俺が会いに行くから」
 どこへでも行ける。ギルも、俺も。
「それで、毎回約束しよう。次に会う予定を一緒に考えて、都合をつけてさ。そのうち、タイミングが合えば一緒に依頼をこなしたりもして……」
 さっきよりも少し穏やかになったギルの唇に軽く吸い付く。と、ギルからもお返しとばかりにキスがやってきた。啄むように何度か繰り返して、間近で見つめ合う。
「もっと沢山話そう。俺、もっとギルのことを知りたい」
「……分かった」
 頷いたギルの唇には微かに笑みが浮かんでいて、俺はそこで目を閉じた。触れ合う肌の温かさをもう少し味わっていたい。
 ――大丈夫。次に目を開けたときにも、ギルがそこにいることをもう俺は知っているから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。

やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。 昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと? 前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。 *ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。 *フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。 *男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...