異世界スロースターター

宇野 肇

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四章 清算

セックステラピー

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 着飾るというのは人に見られることを前提とした行為だ。それに力を入れるということは当然、そういった場に出向く意思があるということで――

「練習ってか、慣れは必要だろ? 丁度いい場所があるから行こうぜ」

 そんな風にしてジンに丸め込まれることを、どうして俺は予測できなかったのだろうか。



 王都を一通り見て回り、謁見を翌日に控えた夜。飲み食いし、どこか浮ついた空気の漂う街の中でお酒も入った俺たちは、気分よく宿でそのまま寝るはずだった。心地よい馬車の揺れの中、ジンがふと思いついたように、一度王都自慢の野外円形劇場に行かないかと提案したのだ。
 貴族たちも多く通い詰める割に堅苦しくない、身分差の発生する場所に慣れるにはいい場所だと得意げに言うジンに、ほろ酔いだった俺も乗り気になっていた。そうして皆で支度をして、気づけば円形劇場の一画に小洒落た薄布の天幕が張られ、ふかふかのカーペットやクッションが敷き詰められ、そこに座っていた。この辺りで酔いも引き始めたが、完全に後の祭りである。
「今晩の劇ってのは中身が深いとかないから。わいわいやってる雰囲気の中でゆっくりするもよし、騒ぐのもよし」
「じゃーオレ寝る……究極に眠ィ」
 ジンの説明があってすぐ、ロゼオがブルーノを巻き込んでクッションの海に沈んだ。二人とも俺より遥かに酒に弱いらしく、タオルケットを用意してもらう頃には既にぐっすりと寝入っていた。アドルフは二人の隣に身を丸めているが、寝ているわけではないだろう。ここは結構な賑やかさだ。寝たくても眠れないかもしれない。
「なんでもありだなあ……」
 円形劇場の人の入りは結構なもので、酔っ払いが呂律の回らない言葉をわんわんと喋っている声があちこちから聞こえてくる。劇が始まっても収まるとは思えない。祭りが近いこともあって、節度と言うものからは遠いようだ。
 そもそも、アルカディアではこうした観劇によって心の健康を保つ――治療の一つという発想があるようで、リラクゼーションとして広く受け入れられているのだそうで。確かに去年のマギの夏祭りでも、道端で流浪の旅芸人たちが寸劇のようなものを見せていた。
 静粛に、じっと芸術鑑賞をするというのとは全く趣が異なる。

 それにしても、だ。
 軽く見渡しただけでも、男女問わず非常にきわどい格好をした人の姿が散見される。別に服を与えられていないということではなく、露出度の高い下着のような……いや下着ですらないような姿なのだ。装飾品が服代わりのような有様で。
「……壮観だなー」
 俺の目は死んではいないだろうか。
「皆さん、好みを隠さない格好をさせてるんですねえ」
 俺の左隣に侍るようにしてくっついているシズが、感心したように呟いた。それを受けてみて見ると、確かに、女性は胸を出してしまっている人から水着程度には着ていたり、着込んだ後敢えて着崩したりして露出度を上げたりと様々だ。四つん這いになり、お尻の……つまりプラグを差して、尻尾を垂らしている人もいる。男性もそう。催淫剤でも使われているのか、前を勃起させて、しかしお尻も鈴口も塞がれて、快感をにじませながらも苦しそうに身体をくねらせていたり。
 ……あれで観劇するのか?
「好みねえ……まあ、言われてみれば……」
「ヒューイさまは見えない方がお好みなんですよね?」
「え」
 シズを見遣り、珍しくしたり顔をする姿にワンテンポ遅れて窘める。
「こら」
「だって……あ、じゃあ脱がすのがお好きですか?」
「そんなこと言ってると脱がすよ?」
「どうぞ。僕はヒューイさまのものですから」
 ころころと笑うシズに分の悪さを感じつつ、こういった場所の経験値が一番高いのはシズなのだなと身に染みて感じる。だが、その堂々とした姿は俺の羞恥心を抑えてくれた。恥ずべき姿ではないし、恥ずべきことをしているわけではないのだと言ってくれているようで。

 シズは今現在、金の頭飾りに上半身は何のために着るのかと思う程丈の短いベストを素肌の上から羽織り、ネックレスを何重にも重ね、腰にもいくつか装飾品としての鎖を巻いて、下半身の大部分をドーティという1枚の布を腰に巻きつけて着こなすスタイルで覆い、足首にアンクレットを、そして足先の見えるサンダル風の靴を履いている。顔も薄らと化粧が施されており、目尻に引かれた赤色がよく映えていた。侃々諤々の末、お尻にもシンプルなプラグが差し込まれているが、それはあまり考えたくない。
 ドーティの布地も厚みはなく、布地が重なっていない部分は肌が透けて見えるほどだ。
 どちらかというと重ね着をして露出がほぼない俺とは対極の格好。
「寒くない?」
「大丈夫ですよ。ヒューイさまは暖かくていらっしゃいますから」
 シズがそう言ってそっとくっついてくるのを、腕を回して受け止める。こうした方が広い袖口がシズの身体に被さり、幾らかはマシになるだろう。
「ギルは? 寒くない?」
「ああ」
 右隣に座るギルに目を向ける。ギルもシズと似たような格好だが、所持する武器の類だけがいつも通りだ。あ、勿論ギルのお尻には何も刺さってない。
「じゃ、観劇の後はリーオットに宿まで送ってもらってくれ」
「え?」
「俺はちょっと野暮用」
 ジンの格好もいつもよりワンランク上だ。装備品で言えば彼が身につけているものは冒険者が身に付けるものの中でも高級品には違いないのだが、そうではなくて、普通の衣類が。
 前衛で戦うタイプは怪我をしないことが少ない。そしてその際の怪我は戦闘によるものであるため、衣類も駄目になることが殆どだ。よって、衣類は特殊な効果が付与されたものでない限り動きやすく、安価なものが好まれる。それはジンのような強い冒険者であっても例外ではない。
 だから、如何にも高級そうな衣服に着替えたのは、この観劇のためだと思っていたのだが。
 俺の不思議そうな顔で言いたいことが分かったのだろう。ジンは上機嫌で答えた。
「俺、結婚を約束した人がいるんだ。今日なら会えるって連絡きたからさ。悪いねえ」
 気持ち、ややデレっとした面持ちなのは話す内容のせいだろうか。驚いたが、所謂成功している冒険者であり、他に侯爵クラスの貴族とつながりを持てるくらいの『本業』があるのだから別におかしいことではないかと思い直す。
「王都にいらっしゃるんですか?」
「ああ。今はね」
「そうですか……。すみません、俺たちのことは気にせず、どうぞ」
「まあ俺も言わなかったしな。夜中にこっそり抜け出すよりはちゃんと言って行った方がいいと思って。この劇場、劇に使う魔法以外は受け付けないようになってるから。そこだけ気をつけて」
「はい」
 今までも別れて行動することがなかったわけじゃないから、手を振って歩いて行くジンを見送る。
「意外ですね、婚約者がいらっしゃるなんて。しかもあのお顔……随分入れ込んでらっしゃる」
「まあ、でも言われてみたら居てもおかしくはないよ。ねえ、ギル」
 でもそうするとギルに言い寄っていたのは遊びということになるから、俄然ギルを渡すわけにはいかないというか。それか、スカウトは本当でもセックス云々は冗談だった可能性が高い。
「……ギル?」
 水を向けたのに反応がなくて、もう一度呼びかける。そっと二の腕に触れると、ギルは静かに息を吐いた。
「悪い。……あいつはヘラヘラしてるが、特に仲がいいだとか特定の奴と連んでるところは見なかったからな……いつの間に」
 ギルにしては驚きを隠さない声色に、ジンの底知れなさを思う。
「隠すのが上手ってこと?」
「それもあるが……。相手はあいつのどこが気に入ったんだか」
「あ、そっち」
 ギルが他の誰かを気にするなんてあまりないことだったから少し緊張してしまったものの、着目点が見当違いでほっと力が抜ける。
「でも、ジンって良いところの出かもしれないんでしょ? だったら、政略結婚とかそう言う、本人の意思じゃない可能性もあるし」
「……あんなだらしない顔まで見せておいて、か?」
「あ、ギルもそう思った?」
 俺よりもずっと人の機微に敏いギルやシズがそう言うのだから、嘘ではなかったんだろう。
 政略結婚であっても恋愛感情や愛情が生まれないわけでもないだろうし、本当の所はどうなんだろう。訊くタイミングがあれば訊いてみようかな。
「どんな人なんだろうね」
 ジンの婚約者、か。人当たりは良いものの、特にそう言った『好みのタイプ』の話が上ったことがないし、想像もつかない。
「案外、あいつとは正反対だったりするかもな」
 ギルが俺を見つめながら呟く。
「正反対……」
「世間知らずで人の悪意に疎い奴……あるいは、あいつのいる世界とは全く関係のない世界に生きてる奴」
「ふうん……?」
「あれこれ考える人って、何も考えなくていい人といるとほっとするんでしょうか」
「腹の探り合いも疲れるからな」
 俺の両脇で、物知り顔をして二人が会話を進めていく。……それはいいんだが、どうして二人とも俺を見ながら言うのかな? 馬鹿にされてるわけじゃないなら構わないけど。
「ギルも疲れてた?」
「全員が敵とまでは言わないが、味方だと思えるような奴はいなかったな……お前以外では」
「……そう」
 素直に喜びたいが、寝こけている二人を思うとなんだか手放しで喜び難いものがある。というか、どの段階でそこまで信用してもらえたのか、そこに至った経緯が激しく謎だ。俺がマレビトであると判明して直ぐに犯罪奴隷になることを望まれたわけが、ギルがそうまでして一緒にいたいと思ってくれたのは多分、それよりも前のはずだし。
「……別にお前をナメてるわけじゃないからな?」
「え? ああ、うん。それは分かってる。大丈夫」
 俺の反応がすっきりしないものだったせいか、ギルが俺の顔を覗き込んだ。その目が真っ直ぐ俺を見つめてくる。
 ……正直、ギルにセックスを強要された時はそう思っていたし、ギルもそう思っていたと聞いている。それは俺の素性を怪しんでいたからだから、俺も納得済み。だが、こうして静かでも真っ直ぐに俺を見据えるのは変わらない。心はどうであれ、それが俺へ向けられるのが嬉しいのも。俺を激しく拒絶するわけでもなく、命を助けたからと心酔するわけでもなく、ただじっと、過不足なく『俺』を捉えてくれているように思えたのだ。
「ギルって隊商の頃から分かりやすいくらいヒューイさま一筋って感じだったもんね……あ、始まるようですよ」
 しみじみと呟いたシズの台詞に気恥ずかしくなりつつ、魔法によってライトアップされた舞台へ視線を戻す。ステージ上で深々と頭を垂れた男性が名乗り口上と挨拶を行うのを眺める。半ば予想はできていたが、周囲が静かになる気配はない。だが、声を大きくする魔法でもあるのか、舞台上の役者たちの声は野外にもかかわらずよく響いた。


******


 どうしてこうなったのか。
 ステージ上では何故か酒池肉林が繰り広げられていた。男も女も思い思いに誰かの身体をまさぐり、恥ずかし気もなく嬌声を響かせている。
 そしてステージを囲む観客席からも、あられもない声は上がり始め、それがまた見世物になる。謎の宜しくない連鎖が出来上がっていた。
「……今日の演目って、これ……」
「建国を讃えるものですね。初代の王様はマレビトで、とても性欲の強い方だったようです。当時は人の数も少なく、今ほど土地も拓かれていませんでしたから、国として形が整う以前は特に書面や法での婚姻などはなく、不特定多数とよく励んだそうです。今はそのシーンですね」
「うわあ」
 一応俺も劇を観てはいるのだが、天幕を張って観劇している富裕層目当てにやってくる商人達の相手をしていてほとんど内容が入ってない。劇の最中でもそう言う営業活動はマナー違反でも無いらしく、商人達は奴隷を引き連れて天幕の前で声をかけてくるのだ。ギルもシズも黒目黒貝で男なせいか、ここぞとばかりに同じ色を持つ男の奴隷を売り込まれて断るのに腐心した。シズよりも年下の男の子から、俺よりも年上の男性まで……種族を問わなかったため獣人の姿もあったが、流石にこれ以上奴隷を持つ余裕も、理由もない。
 爵位や領地の有無どころかただの冒険者だからと言って漸く、「ご入用の際は是非当店に」と言わせて下がらせることに成功したのだ。
 そして別ルートで果物の甘い香りのする、少しとろみのある琥珀色の飲み物を貰って口をつけ、気持ちを落ち着けた。その頃には随分経っていて、劇へ意識を戻せばこの光景である。泣きたい。
 酔いの醒めないうちに俺も寝ればよかった。この騒ぎでもピクリともしない二人はある意味尊敬に値する。
「その子どもらが後々、開拓した土地は開拓した者の財産であると定めて、奴隷たちを率いて森や山へ分け入ったことから、王都は特に戦えたり、奴隷を従えたりできる者が身分的にも上であるという気風が強く残っているようですよ」
「……こうやって所構わず始めるところも?」
「そのようです」
 俺の声や表情に滲むものを的確に捉えて、シズが苦笑を漏らした。
 あちこちから性別の分からない甘い声を拾ってしまう。つい気になって目を向ければ、ステージの光源により照らし出される絡み合いがはっきり見えた。
 柔らかな乳房を愛撫され、うっとりとする女性。前後から二つの穴で男を受け入れている女性もいる。団扇代わりの羽根で体中を撫でられ、切なげな顔をしながら身を捩る綺麗な顔立ちの少年。その下腹部には既に熱が装填され、勃ち上がったものには拘束具なのか装飾品なのか図りかねるようなものが見えた。それに息を吹きかけられ、仰け反るその股間の奥に、何かが入れられている。輪っか状のそれに他の人が指を引っ掛けられ、そして、お尻の中から数珠のようなものが引きずり出された。瞬間、悲鳴のような嬌声を上げながら少年の身体が大きく痙攣する。
 絶頂を迎えたのだと傍目にも分かる光景に息をのむ。そうして、俺はいつの間にか見入っていることに気づいて狼狽えた。
 普段、俺もギルを受け入れて、あんな風に乱れているのかと。冷静な時に改めて思い知り、たまらなく恥ずかしいような、興奮するような気持ちに胸が弾む。下腹部が熱を持ち始め、それを紛らわせようと手に持っていたゴブレットから、飲み物の残りを飲み干した。
「ヒューイさま?」
 シズ達と違って俺はトランクスよりもずっとゆるゆるとはいえ下着も穿いているし、今はカンディスという、足元まであるゆったりしたワンピースの衣服をベースに、同じように長い上着を着ているから直ぐにはばれないはずだ。それでもどこか心許なくて胡坐をやめて膝を立てると、シズにそっとゴブレットを引き抜かれた。そのまま、部分的に開けられていた天幕を全て降ろしに行ってしまう。幕の素材は薄布だから完全に見えなくなるということは無いのだが……
「シズ?」
 行動理由が分からず呼びかけると同時に、ギルに抱き寄せられた。
「ギル?」
 何やら以心伝心な二人とは異なり、俺だけが全くこの流れを把握できていない、と言うことだけを理解する。
 そうこうしている内に、ギルの右手が俺の足先から服をめくりながら上へ移動してきた。
「ふっ……ぅ、ちょ、」
 ぞわ、とした感覚が下腹部に集まり、ぴくんと反応してしまう。

 あれ? これはマズイ流れじゃないか?

 そんな風に思ってももう遅く、下着の中まで手がやってきて俺の熱が集まる中心をそっと包んだ。
「あっ……」
 堪え切れなかった声が小さく飛び出す。縋るようにギルを見ると、左腕を肩に回され、優しく口づけられた。
 嫌じゃない。嫌じゃないけど、恥ずかしいし、キスをねだったわけじゃない。
 空を仰ぐように頭を逸らそうとしても肩を掴まれていて大した距離が取れず、ギルの唇が追いかけてくる。俺の芯はギルの手で優しく揉まれていて、キスは唇の柔らかさを堪能するように甘く、穏やかで。
 直ぐに息は乱れて、気持ちよさに感じ入ってしまう。
「お手伝いしますね?」
 耳元でシズの声がした。驚くより先に服の上から乳首を探られて身体が跳ねる。
「んゃっ」
 二人に挟まれて、身動きもままならない。ギルにはキスと手淫を、シズには耳と胸を。抵抗しようにもどこから手を付けていいのか分からないまま、気づけば下着を剥ぎ取られていた。
「やぁ……」
 か細く声を上げれば、どちらともなくくすりと笑う気配が俺の肌をくすぐる。
「ヒューイさま、凄く色っぽいお顔をされていましたよ……」
「はっ……ん!」
 耳の外側を舌先でなぞられ、唇で挟まれながら囁かれ、身体をくねらせる。快感から逃げるように、手懐けるように。それでも下腹部の疼きは増すばかりで、焦れったいとさえ感じてしまう。
 二人分の手と口に触れられ、二人の体温を前後から感じながら徐々に溜まっていく欲望を吐きだし、中で絶頂へ至るあの忘れ得ぬ快感を求め、思考が遠のいていくのを感じた。
「ヒューイさま……僕のも触って下さいませんか……?」
 シズに恭しく手を取られ、導かれるままドーティを外していく。あっさりと布へ戻ったそれを取り払えば、ふっくらと勃ち上がるシズのものが現れた。クッションの上にシズを寝かせて丁寧に皮を使って扱き上げると、直ぐにピンと張りつめる。小さくもうっとり喘ぐシズにキスをすると、誘うように足が開かれた。プラグの持ち手が視界に飛び込んでくる。触れると、きゅっと窄まりが動き、プラグも悩ましく俺を誘った。
 そっとプラグを抜くと、少し抵抗があったもののぬぷぷ、と凹凸のあるそれが、ローションと共に姿を現す。
「ふ、ぁ、ぁあああ……」
 全てを抜き去ると、シズの穴が物欲しそうにヒクついた。
 インベントリからローションを取り出し、たくし上げ、晒された自分の芯へと落とす。
「お前も慣らさないとな」
「あ」
 掌と芯に馴染ませていると、ローションの入れ物をギルに取られた。殆ど反射で生活魔法を使おうとして、出来ないことに気づく。そう言えば使えないんだった。
「でも、ぁ、中、綺麗にできない」
「安心しろ。その為の道具は用意してある」
 振り返ってそう言うと、ギルが不敵に笑ったのが見えた。その手にはどこから出したのか、たった今シズから取り出したような形の――プラグ。
「あ!」
 ローションに浸けたそれを穴へ入れられ、入れやすい形をしているとはいえあっという間のことに刺激だけが門に残る。かちりと音がして、魔力を消費する時の何かが身体から抜けていく感覚があって、ギルは「これでいい」と言ってからそのままそのプラグで俺の穴を弄り始めた。
「あっ……やだっ、んっ、ぁ、っ」
 身体を捻るも、逃げられるわけじゃない。分かっているが、下からシズの手が服の中に潜り込んで胸元を這いまわって、硬くなった乳首を触れるか触れないか位の強さで撫でてくるのだ。二つのちぐはぐに与えられる快感が、普段とは異なる不規則さで襲って来て一気に余裕を削られる。
「あっあっ、あっ、やあっ」
 前はそうでもなかったのに、後ろで悪戯でもするかのようにプラグを抜き差しされ、意識の比重がそっちへ向かう。それを咎めるようにシズが俺の乳首を指で挟んだ。
「ひぁあ!」
「ヒューイさま……こちらは僕で気持ちよくなってください」
 シズの手がローションでぬめる俺の芯へ絡み、もう片方の手が俺の腰へ回り、抑えてくる。
 お尻を弄られながらどうにか、導かれるままにクッションを積み上げて高さを調節し、シズの柔らかな中へと入り込んだ。
「うっ、ぁ……!」
「はあっ……あ、凄い、ヒューイさま……っ」
 きゅっとシズの門に締め付けられるも、キツすぎることもなく俺を扱いてくれる。その先に潜り込めば温かく包まれ、動きたい衝動と、数回動いただけで果てそうな感覚の狭間で身もだえた。
「ん……、よし。ほら、来い、ヒューイ」
「あっ、ん、まっ……っは、ぁああああああ……! っんああ!」
 ギルが後ろから覆いかぶさってきたかと思うと、深々と挿入されて、繋がったままころんと上下が反転する。ギルとシズの息がぴったりだったおかげで二人は難なく成し遂げて見せたが、俺はただただ押し寄せる快感に溺れるしかなかった。
 下からギルに支えられながら突き上げられ、上でシズが中腰になってその動きに合わせて身体をくねらせる。シズの手が中心へ向かい、俺が育てた芯を包み、扱きだす。
「ん、はあ……っ、いいっ」
 三人分の乱れた息遣いと肌が重なる感触、振動、快感、感じられるもの全てに溺れていく。受け止められるだけの激しさに流されるままシズと共に手を動かすと、シズが門を締めて俺を快楽の丘へ引きずり上げる。
「あっあっ、あっ、」
 ぞくぞくする。気持ちいい。感じる。
 外側からも内側からも快感が這い回り、身体が揺さぶられる度に声が漏れた。そこに良いも悪いもない。ただ、果てに向かうだけだ。
 三人分の嬌声が混ざり、一つの生き物のように絡まって、どんどん動きが、息が、一つの終息を目指してタイミングを合わせていく。俺は二人の間で手を動かしながら、多分、一番最初に頂上を捉えた。
「んああっ、あ、いぐ、いっちゃ……でりゅ、ふぁあんっ」
 ギルにごりごりと中を突かれ、尻たぶがぶつかってたぷたぷ揺れる。上からシズに乗られて、前を扱かれながらシズが自分のものを昂ぶらせていくのを目の当たりにする。下腹部への刺激が尋常じゃないくらい強くて、もう訳が分からなかった。
「ヒューイっ……」
「ヒューイさまぁっ」
 ただ二人に名前を呼ばれた瞬間、ふと別々に感じていたはずの快感が一つに収縮し、ぶわりと俺の身体の中へ広がる。その勢いに押し流されるようにして意識が遠のいた。
「ああああああーっ!」





「……」
「起きたか」
 ぱ、と目を開けると、ギルが座っているのが見えた。シズもいる。俺に気づき、声をかけてくる。抱き起され、果実水のゴブレットをそっと口元へ持ってきてもらった。
 咽喉を潤し、まだ繋がっていた場所に違和感が残っていることに気づく。まだ時間は然程経っていなかったようだ。疲労感は無いとは言えないが、すっきりしていて気分は良い。
 耳に届く周囲の声は相変わらず混沌としているが、劇が終わってなくて何よりだ。
「御加減はいかがですか? 魔法が使えないので出来るだけのことはこちらで致しましたけど……」
「ん……大丈夫、ありがと……」
 お尻から感じる疼きは、気持ちの問題なのだろうか、じんわりと温かく充足感に満ちている。シズは既にドーティを巻きなおしていた。俺も乱れた服を整えられ、上着を掛布団代わりに寝かされていたらしい。
 ステージから何やら雄叫びめいた声が聞こえてくるが、もう見る気はしなかった。いやらしいシーンが終わっていて何よりだ。
「……ロゼオ達、起こさなかった?」
 そっとギルに囁くと、ギルは大丈夫だとはっきり頷いた。
「起きてたとしても気取られるような野暮なことはしない」
「それ大丈夫って言わなくない?」
 ほっとしたのも束の間、緩めた頬が引きつる。しかしギルは事も無げに肩を竦めて小さく笑った。
「今更だろ。大体、他の奴らに覗かれてたかもしれないってのに」
「う……」
 内側から外が見えるのと同じように、外から中の様子が見えないわけじゃない。俺たちの他にも薄布の天幕を張っている場所はあるが、俺ははっきり中にいる人たちが何をしているのかが見えたわけだから。
「折角だし寝るか? 劇が終わるまでは出ない方が悪目立ちしなくていい」
 悶々としている俺に対し、ギルと言えばいつも通りだ。それが恨めしくもあり、有難くもあり。
 あまり意識するとクッションの群れに頭を突っ込んで足をばたばたしそうだ。
「……そうする。宿に帰るとシズとは一緒に眠れないしね。おいで、シズ」
 気持ちを切り替えて、シズを手招く。嬉しそうにタオルケットを抱えて潜り込んで来たシズを抱き寄せて、ギルと三人、川の字になるとふと去年のことを思い出した。あの時はこんな風になるなんて全く思ってなかった。そもそも、この世界に来た当初は人自体が怖かったのに。

 来年、俺たちはどう過ごしているんだろう。
 去年よりは前向きな気持ちでいることは自覚している。この王都でギルの過去に区切りがついたら、薄らとでもいいから何か見えてくるだろうか。
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