異世界スロースターター

宇野 肇

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四章 清算

開かれた蜜事

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 アルカディアでの一般的な睡眠スタイルが全裸ということはすでに承知しているし慣れてきてはいる。だが、大部屋で、しかもそれだけでは済まないのが分かっているというのは例のないことで。
 シングルベッドに男二人はかなり狭い。それをぴったりを身を寄せ合うことでどうにか収まっている。それはつまり、その分触れ合う部分が多いということで、触れずには居られないということでもあった。

 寝静まった部屋の中は暗いが、『暗視』により俺の視界は良好だ。だがそれも、目を閉じてしまえば意味もない。
 肌を撫でていく手に反応して生じる震えを、そっと吐息に乗せて外へ出す。絡めた足も、体温を分け合うようにくっつく上半身も、身体のどの部分より熱くなりつつある下腹部が跳ねることも、ギルの吐息が、舌が、歯が、俺の耳を静かに犯してくる刺激には敵わない。
 痴漢されてるみたいだ、なんて思い始めたのは割と直ぐで、布団を被って行われている淫行に頭がクラクラした。
 引きつり、声を上げてしまいそうなのを堪える。今のところ堪えるだけならどうにかできるが、俺がじっと耐えている分、ギルは味わうように前戯を深めてくる。
 遮音結界は張った。念のため、同じ範囲で人が入ってきたら感知できるようにもしてみた。解除を行うまでは効果が持続するから、音漏れの心配はない。既に衣擦れならぬ布団擦れの音はしているわけだし。今明かりを灯されて衝立を覗き込まれたら、何をしているのかなんて直ぐにバレてしまう。そうでなくても今晩、俺とギルが致すことなんて皆知っているわけで。
 念のため外部からの音は通るようにしているが、どんなに万全に準備しても、もしかしたら、もしかしたら、という思いが消えない。そのせいなのか、身体はいつもよりも敏感になっている気がした。
「タクミ?」
 甘い吐息とリップノイズで俺の耳を執拗に責めながら、掠れた声で注がれる俺の名前。ぞわあ、と快感が身体中を走り抜けて、声を上げそうなのをどうにか吐息に変えた。
 卑怯だ。耳へのキスを交えながら、そんな風に名前を呼ぶのは。
 最初はヒューイだったのにと悔しく思うのと同時にギルの親指が俺の乳首を捉え、優しくいじり倒す。摘めるほどもないが、引っ張られ、捏ねられるとちりちりとした気持ち良さが腰の方へ抜けていって、じっとしていられなくなる。
 顔を背けると、ずれた分だけ愛撫の位置も変わった。耳の後ろの生え際をぺろりと擽るように舐められ、俺はか細い悲鳴を上げた。
 声というのも憚られるような小さな音だったが、ギルは気を良くしたのかそのまま蛇のようにちょろちょろと舌を這わせ、俺の首筋を辿って鎖骨へ場所を変えた。
 耳もそうだが、首回りに触れられると食べられそうな感覚が迫ってきて、凄く感じてしまう。人に触れられることの少ない場所だからだろうか、そこに顔を埋められると自分でも驚くほどぞくぞくしてしまって身体が跳ねるのだ。
 現に、今も。
「っ、ァ」
 高く、男のものとは思えない声が喉元から抜けていく。限界まで絞ったが、殺すには至らなかった。
 いつしか俺は仰向けに寝ていて、ギルは俺の上にいた。布団の中にこもった熱がギルが動くたびに微かに抜けて、新たに入ってきた空気がほんの僅かに肌を冷やしていく。
 しかしそんなことは些事でしかない。
 ギルの両手に両乳首を嬲られ、次第に余裕がなくなっていく。否、余裕などとうにない。何時だってギルに触れられると、身体が熱くなってその先のことしか考えられなくなる。
「なあ」
 必死に耐えている俺に、ギルが声をかけてきた。返事を求められても、今答えたらあられもない声になるに決まっている。
「ヒューイ?」
 さっさと切り出してくれればいいのに、ギルは俺が言葉を返すのを待っているようだった。
「……いじわる」
 どうにか快感を抑えられるタイミングを見計らってそう零すと、至近距離でギルが笑った。手が、止まる。
「……なあ、お前は……。……抱かれるのは、嫌か?」
 次に漏れ出たギルの声は淡々としていて、普段通りだった。首を横に振る。ギルに限っては別に嫌じゃないし……口が裂けても言える気がしないが、抱かれるのだと思うとどきどきして、それを期待している。
「どうして?」
「昼間、風呂場で……抱く方がいいのかも知れないと思った」
 どこをどうしてそう思ったのか記憶を掘り起こすが、イマイチ思い当たらない。あの時俺はなんて言ったっけ。記憶の糸を手繰り寄せてもその時感じた想いはもう霧散してしまっているようで、なにも思い浮かばなかった。
 だから、多分ギルが気にするほどのことではなかったはずだ。
 火照る身体の所為で上手く考えられないが、息を整えて言葉を紡ぐ。
「俺、別に男を抱く趣味は無いつもりだし……こういうのもなんだけど、ギル相手に上手くできる気がしない。多分、痛くしてしまいそうだし……それに……嫌じゃないっていうか、うん、ええと、……その、終わった後、朝まで抱きしめられてると、安心するんだ。それが凄く……好き、だから」
 どう言うのが俺にとっても恥ずかしくなくて、その上でギルにもちゃんと伝わるだろう。
 考えながら、ギルの目から逃げるように視線を逸らした。誤魔化すようにギルに触れる。下腹部の熱を感じ、ふとギルが一度だけ俺に見せた、たまらなく色気を放った瞬間を思い出した。あれは……ギルが俺の奴隷になった時だ。
「ギルがどうしてそんな風に思ったか分からないけど、ただ……ん、っと、俺だけやらしくなるの、恥ずかしくて……ギルがそうなってるところがちゃんと見たい、とは思う、けど。でも、それだけ。別に抱きたい、とかじゃない」
 セックスに没頭して、脳で考えるよりも肌で感じるのとは違う。俺だって、ギルが俺に激しく興奮して乱れているところを見ていたいのだ。それは優位に立ちたい、と言うほどではなくて、殆どいつも俺の方が先に達して振りきれてしまうから、頭が沸いてない時にじっくりと目に焼き付けたいと思うだけだ。
「……俺も、教えて欲しい。どうして俺が抱く側になりたいと思ってるんじゃないかと、思ったのか」
 俺の思うところは答えた。不満はないとはっきり言った。だから……このままこっちから誘ってしまいたいくらい、先へ行きたい。恥ずかしいのと緊張で一杯だが、このまま熱が収まるのを待つのは逆に、身体の中にいつまでも燻らせることになってしまいそうだから。
 ギルは俺の上で逡巡した後、ぽつりと呟くような声で零した。
「……あの時、俺が抱かれる側になると思わなかったか? 俺にはそう見えた。だから……お前が抱く側であってもおかしくないと、そんな当たり前のことに気づいたかと思った」
 ギルは的確に俺の思考を読んでいた。すごい。ギルが凄いのか俺が分かり易すぎるのかはともかく、なんとも言えない嬉しさのようなものがこみ上げてくる。
「お前が抱かれるばかりなのをどう思っているのか、聞いたことがなかったと思ってな。
 少なくとも今嫌がってないのは分かる。だが、……俺を抱く気にならないだけで他の誰かを引っ掛けるつもりなら、はっきり聞いておきたい」
 ……正直、ギルは深読みをしすぎだと思う。でも、それも俺を想ってのことだと思えば、満更でもないな、なんて。
「……別に他のだれかに声をかけたいなんて思ったこと、ないよ。いつも気持ちよくて……そ、それに抱く云々ならシズだっているわけだしっ。ギルこそ、俺だけで満足できてるの?」
「今更お前以外で足りるかよ。……前にもそう言ったろ」
 口が滑ってしまい慌てて軌道修正してみたものの、結局失言してギルの不興を買ってしまった。声が少し低くなる。まだ喜ばせていただろう前者の方がマシだったかもしれない。
「でも、今はどうかわからないでしょ」
「お前がいいんだ……ヒューイ」
 念のためだよと言おうとした俺に、ギルの低い声が被さった。その声が甘くて思わず聞き入ってしまう。とくんと胸が淡く、甘酸っぱく反応して、まるで愛の告白を受けているような特別感に満たされる。
「不安にさせてるなら、今日は時間を掛けないとな」
「……えっ?」
 うっとりとした隙に続いた言葉を認識しようと我に返って、微睡みにも似た感覚から一気に覚醒する。しかしその間にギルが腰を擦り付けてきて、熱の集まる場所から快感が生まれ出した。
「んぁ……! あ、ギル、ちょっ……ちょっと、まっ……ふぁっ」
 打って変わってあからさまになった動きに取り乱すが、そんなことで待ってくれるギルなら、今俺たちはこんな風な関係にはなっていなかっただろう。
「そんな不安とか別に感じてないからっ ロゼオたちが来た時も全然っ……ぁ、あっ……ジンの時だって……っ、もし二人がするならギルがその、受け手になるのかなとはちょっと考えたけど……んぁ! っ、やっ……でもギルの態度ははっきりしてたしっ、不安になったりなんか……」
 これだけは伝えておかねばと必死で言葉を繰り出す。また余計なことを言った気がするが、ギルから長いキスを与えられて声も言葉も奪われた。
 吸い付かれて舌を入れられ、歯を、舌を、確かめるように舐められる。
「ふっ……ぁ、ん……」
 くちゅ、ちゅぱ、と音が立つ度に腰がくすぐられたときのようにゾワゾワとして、快感の虫がのたくったような感覚から逃げるように背筋が伸びる。それさえも封じられて、最早声を上げるしか快感を逃がす術は残されていなかった。
「んあ、はっ……あ、んん、」
 ぬるぬるした生温い舌。固い歯の鋭さ。互いの息が、唾液が混ざり合い、ギルによって生み出される感覚を追いかけることで意識が埋められて、徐々に、優しく言葉を奪われていく。
 脈打つ下腹部とそこから出てくる快感に、息継ぎも唾液を飲み込むタイミングも支配されたキスが重なって俺から力を奪う。残るのは快感に反応する反射的なものだけだ。
 亀のように布団を背負っていたギルが煩わしそうにそれを脇へ避けた。充満していた熱が放たれ、涼しい空気が肌を撫でる。普通なら身体を冷やすそれも、高まる熱を持て余す俺たちには丁度いい。マギよりも気温の低い王国領の夜は夏といえども少し寒さを感じる程なのに。
「あんっ」
 乳首を弄られ、大きな嬌声が出た。咄嗟に手の甲で口を覆っても遅いのは分かっているが、そうせずにはいられなかった。
 そんな俺の頭をくしゃりと一撫でして、ギルが俺の足を持ち上げた。俺もどうにか力を入れて自分の膝を抱える。ギルは枕元に置いていたジェルを掬い取って、俺の、腫れてぽってりと横たわる芯へ塗りつけた。
 そのまま手のひらも使って扱かれ、あっという間に芋虫みたいな芯がぴんと張り詰める。それに伴って後ろの門が疼き始めて、俺は快感の中にももどかしさを感じ、身をよじることもできない代わりにその場所をひくつかせた。はしたなく見えることは分かっていたが、そうでもしないとどうにかなりそうで。
 ギルからは見えているか分からない。見えていないかもしれない。そもそも、すぐ近くで人が複数人眠っているのだ。それもなんだかどきどきして、緊張が興奮にすり替わっていく。
 にちゅ、と小さく音を立てながら、俺の芯が擦られ、静かに濡れていく。ジェルと先走りが混じって、溢れるような勢いのまま袋を濡らし、門へ落ちていくのを感じる。
「いつもより濡れるな……感度もいい」
「ふあぅっ」
 少し意地の悪そうな声だった。
 言わないで。分かっているから、分からないで。
 そう言うこともできず、先端部のくびれを強く押さえられて震えてしまう。
「どうせ音は漏れてないんだろ? だったら、いつもみたいに好きなように感じていればいい。俺しか見てない。……まあ、見られてるかも知れないと思いながらされるのはお前の自由だ」
「ああっ、ん!」
 濡れそぼり、欲しくてたまらなかった場所にギルの指が埋まる。咥え込むことに慣れた門は滑りに助けられながらも直ぐに一本目を飲み込んだ。
 いつもなら直ぐにゆっくり抜き差ししながら門を広げていくのに、今日は中でもぞもぞと指を動かされる。それが前立腺を探しているのだと気づくのは直ぐだった。
「――あ?!」
 そこに指が当たった瞬間の俺を見て、ギルがにんまりと笑ったのが見えたから。
「んやあっ、あ、そこ、そこだめっ」
 射精瞬間がずっと続くような快感と、門を指がこするもどかしい快感が混じり、嬌声が、甘えた声が抑えられない。
「ん? 良いだろ?」
 低く掠れた声はどこか楽しげで、俺の芯に息を吹きかける。
「ここ、ずっと濡れてるしな」
「あっあっ、だめ、……っしゃべ、な、で」
 くい、くい、と優しく押されているはずなのに、ギルの動作に見合わない強さの快感が無理矢理押し出されていき、痙攣するように下肢に断続的に力が入る。中まで似たような動きをしてしまい、もっと太いのが欲しいという焦れったさと、このまま軽くイってしまいそうな感覚にもうぐちゃぐちゃにされたい衝動が湧き上がる。
「いやぁん……っ」
 振り払いたいほど徐々にせりあがる快感に耐え切れず、けれど確実に高みへ近づくその気持ち良さに身体も心も追い詰められていく。そこにいきなり指が引き抜かれて二本に増え、その僅かに増した太さを捉えた門が、まるで悲鳴をあげるように快感を溢れさせた。
「は、あぁああんっ」
 それが限界で、全身が緊張すると同時にきゅうっと中が収縮する感覚の後、風船を割るようにして快感が爆ぜ、抜けていく。びくん! と身体が跳ね、同時に心地よいお湯のような熱が下腹部から広がり、身体の大部分から力が抜けた。膝を掴んでいられなくなり、手が外れて足が落ちる。その拍子にギルの指が門に擦れて、お尻から切ないほどの快感が染み出した。
「ぁん……」
 嬌声の混じったため息が漏れる。目を細めながらもギルの行動を眺めていると、直ぐに俺の足を脇に抱え、ギル自身の昂ぶりを俺の門へあてがった。
 ぷちゅ、と微かな音を立て、それから静かに、しかし指なんかとは比べるべくもない太さの熱が俺の中へ割って入ってくる。肉壁を押し広げ、滑りに任せてぬるりと入り込んだ巨大なもの。門のテンションはぎりぎりで、その分感度が高くなって、彼の質量に悲鳴のような鋭さのある快感を脳へと寄越してくる。
「ぁ、ぁああああああああっ……!」
 ごりごりと太く膨れ上がった先端が、今し方執拗に指で押さえられていた箇所を擦り上げていく。指では限界があったそれも、もっと太く、しかも長くて硬いもので限界以上に引っかかれ、今度こそ俺の芯からは白く濁ったものが飛び出した。
「あああーっ!」
 背中だけでなく喉までのけぞり、結合部から頭の先まで突き抜けるような快感に支配される。触れられてないはずの胸元がじんじんとして熱い。まるで下腹部と連動しているように脈打ち、微弱ながらも無視できない快感がにじみ出てくる。
 ギルに貫かれた場所はどこともなくヒクついて、少し揺さぶられるだけで一瞬で頭がトぶような快感が奔った。感じきれる快感の容量オーバーで、意識ブレーカーが落ちそうだ。
 否、落ちる。
「あうっ……ギル、だめえっ」
 限界を訴えても、ギルの動きは止まらない。
 激しくはないのだ。まだ。しかし俺は既に中だけでイっていて、感度は既に最高にまで上がっている。だから、激しくないからこそギリギリのところまで快感を拾ってしまう。いっそ最初から飛ばしてくれれば俺もトんでいたものを、俺の状態を知ってか知らずか、もうおかしくしてくれと、あられもないことを乞われるままに叫び出してしまいそうなほどの際どい辺りを攻めてくる。
 もう少し激しくしてくれればおかしくなれるのに。
 もう少し抑えてくれれば取り繕えるのに。
 どちらも許されないまま、俺は更に乳首に吸い付かれて嬌声を上げた。
「あああああんっ」
 痺れるような疼きを発する場所に刺激を与えられ、身体がしなる。浮いたお尻に手が滑りこみ、俺の尻たぶを揉みしだいた。門はおろか、中のギルを感じるほど深くまでを刺激され、またイってしまいそうになる。
「ふああ! あ、ああっん、らめ、っひゃんっおっきいっ……ふゃっ、ああっ」
 律動というよりは、身体全部を揺り動かされているだけだ。それだけなのに気持ちよくてたまらない。気持ちよさに溺れそうだった。
「はっ……ん、っ……いいか……っ?」
 ギルのやや乱れた声が乳首を震わせているのではと思うほど俺の性感を煽ってくる。
「いいっ……いいの、いい……っひ、ぃんっ……いいよぉ……!!!」
 泣き濡れ、顔をくしゃくしゃにして答える。よくないわけがない。いいから、こんなに淫らに乱れてるのに。
 俺の返事に満足したのか、ギルが笑った気配がした。そのまま深い場所を狙うように腰を動かして、貫かれるような快感の走る最奥をつんつんと優しくついてくる。
 ああ、だめ。たまらない。
「っ奥の方が好きか……?」
「すきっ ぜんぶすきぃっ」
 考える余地もない。理性も思考も身体の中もドロドロに溶けていく感覚。腹筋にも力が入らず、ただこみ上げてくるものを精査することもしないで吐き出していく。
「あ、はあっ……く、は……っあ、」
「あっあっあっ……あっ、あんっあ、は、あああんっ」
 ギルの鼻から汗がしたたり落ちてくる。それが予測できない快感となって俺を翻弄し、もう一度高みへ上らせようとする。
 ギルの動きが俺を喜ばせようとするものから、徐々に自分優先のそれに代わる。それでも痛みなんて感じない。十分すぎるほど快感を植え付けられ、俺はもう何をされても快感しか拾えないようなありさまだった。
「あっあっ! ぃく、いくっ」
「いいぜ……っ、ほら、イけっ」
 ギルに触れられ、身体の中で快感が制御できなくなる。身体が強張り、その中で暴れまわっていた快感が大きくうねりを作り出し、まとまり、ぎゅっと縮むように細まり脳天を突き抜ける。
「ひ、ぁ、――っ!!!」
 大きく身体が跳ねた後はその形も決壊するように散り、心地いい熱が下腹部でじんわりと広がった。その間にもギルの律動で、余韻を掻き乱される。
「あ! ん! ああ!」
「はっ、く、ぁ、……っ、はあっ……!!」
 たっぷり三呼吸ほどの差でギルの力が強まり、動きが止まる。ぴくんと脈打つものをダイレクトに感じ、今ギルを受け止めきったのだと実感した。
 射精に伴い小さく呻くギルと、併せていやらしく動く腰にゆっくりと収まっていく性感を刺激される。とは言え、それが再び盛り上がることは無く、暫く抱き合ってキスを終えるとそっとギルが腰を引いた。
 柔らかくなったとは言うものの、ギルのものは平常時でもなかなかの大きさだ。まあ、先端が治まる分完全に萎むと変に門を擦られることがないから、俺としても果ててすぐに抜かれるより柔らかくなってからの方が嬉しくはある。
 息を整えながらさっと後始末を終え、じゃれ合うようにしてお互いの肌に触れる。
 身体の内側から湧き上がる熱がなければ、汗をかくこともない。今にも落ちそうなバランスを保っていた掛布団を広げ、二人で包まった。
「……狭いけど、いいの?」
「好きなんだろ?」
 抱き寄せられ、俺の首の下にギルの左腕が通る。それに合わせて頭の位置を変えると、ギルに抱き込まれるような形になった。
「息苦しくないか?」
「大丈夫……ギルこそ、腕、痺れない?」
「右が使えりゃどうにかなる」
 優しい声になんともむず痒い気持ちになって、ギルにすり寄る。石鹸とギルの匂いをいっぱいに吸い込んで呼吸を合わせると、疲労感も相俟って直に眠りに就いた。





 ――……ギルの匂いがする。暖かい。
「朝から見せつけるねえ」
「羨ましいだろ」
 穏やかな声とともに優しく頭を撫でられ、気分がよくなって口元が綻ぶ。近くにある暖かな温度に頬擦りをすると、くつくつと揺れた。
「可愛いだろ?」
「……やれやれ。ごちそうさま。お邪魔虫は先に出てることにしよう。食事は頼んでおくから後でゆっくり来るといい」
「ああ」
 二つの声に意識が浮上する。一つはジンだったような気がする。ドアが閉まる音の後に目をこじ開けると、ギルの掌に覆われた。
「まだ時間がある。もう少し寝てろ」
「ん……」
 目元が温められ、寝てもいいと言う言葉に身体からするすると力が抜けていく。額と頬に何かが触れたが、それが何か分かったのは目覚めた後。
 朝の姿をばっちりと見られたことも併せて知らされ、一日の始まりから挫けそうになった。
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