異世界スロースターター

宇野 肇

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三章 訪れる人々

閑話: 学び舎にて

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 新学期が始まった。俺は職員と言っても授業や講義には殆ど関係がないから、慌しくすることもなく平和に過ごせている。むしろ校舎を歩く気分は学院生に近い。森での演習なら立ち会いやサポートとして指導側に回るため気も引き締まるが、基本的に校舎にいる時は学院生に混じって教員の話を聞きに行く時だから仕方ない。
 シズは特に楽しそうにしていて、顔見知りも何人かできたようで毎日がとても充実しているようだ。知的好奇心はもとより、自立心、向上心があって何よりだと思う。

 学院生と教員が集まりだし賑やかになった校舎において、予想外だったのは獣人の反応だろうか。
 どうやらマオは猫の獣人の中ではなかなか力のある人物だったらしく、俺たちにかけてくれた臭い付けの魔法もあって獣人の生徒に良く声をかけて貰える。彼らは生まれた時から人の街で暮らしていたわけではないからまず生活や常識の違いで遅れを取りがちだし、距離を置かれることもある。獣人に対し悪感情がないと分かっている俺たちに対しては声をかけやすいのだろう。だが、そんな彼らは身体能力においては非常に優れていて、訓練がしたいと言って良く森に来たり、ギルに相手をして欲しいと言ってしばしば学院内にある運動場で身体を動かしているのを見かける。他の学院生も、彼らに稽古をつけて貰うことが多いようだ。
 ギルは知識に関してはモンスターや薬草の図鑑などを読む程度で、学院が基本的に魔法を主軸に研究している学術施設ということもあって相性が悪いかと思っていたのだが、上手く獣人をはじめとする学院生と手合わせを行っているのが良い運動になっているようで非常に喜ばしい。モンスターと対人戦はやはり勝手が違うらしく、どことなく生き生きとしているように見えるのは俺の色眼鏡なのだろうか。
 ギルも殺さずに負かすというのは新鮮だと俺に零してくれたから、退屈しているわけではないようだ。
 俺はと言えば、元いた世界では長い間生徒・学生として過ごしていたわけで、興味深い分野の数々に興奮こそすれ、戸惑うことはほぼなかった。毎日、とても楽しい。

 講義は初歩的なものから覗いているのだが、ミュリエルからの個人授業も含めて新たにわかったことが幾つかある。
 俺は魔法使いで、ミュリエルやアルカディアの人々の多く、特に人間は魔術師である、ということ。
 彼女曰く、原理を理解し操るのが魔術で、原理がわからないが結果が出るものを魔法と呼んでいるのだそうだ。
 飽くまで学術的な世界における分類であり、一般的に魔術も魔法も目に見える結果は同じなのだそうだが、分類として別物である以上やっぱり異なるもののようだ。
 魔術は魔力による術式――魔法陣や、単に式とも呼ばれる――を用い、そうやって理屈だてて発動するため非常に細やかな制御が必要だが、その分魔力さえあればあらゆることが可能という性質を持つのに対し、魔法は獣人たちの使う変化や臭い付けのような独自のもので、効果が限定されている上に発動に至る原理があまりにも術者によって異なるため系統立てて分析することさえ難しいものの総称ということだ。魔法使いたちのそばには必ずマレビトの影が付きまとうため、魔法の数々の記録はあるものの、どうすれば習得できるのかは全く謎のままなんだそうだ。
 そりゃあ任意の身振り手振り、あるいはキーワードで発動するんだし、プレイヤーとしてはスキルというのはそういうものだと思っているわけだから理屈や原理なんて知るはずもない。
 ゆえに、魔法はどちらかというとギフト的な能力として見られているようだ。

 そんな魔法と魔術だが、発動には等しく魔力が必要である。
 俺たちプレイヤーは、この魔力のことを単に行動するための体力、HPヒットポイントに対する、特殊行動のために必要な力、MPマジックポイントと呼ぶことが多い。その特殊行動とは多くがスキル発動の際に必要であるからSPスキルポイントとするのが良いのだろうが、なんせその名称はスキル取得に必要なポイントのことを指すため、『Arkadia』では使われることはなかった。
 ミュリエルによれば、この魔力というのは『よくわかっていない力』のことを言うようだ。つまり、説明しがたい現象を引き起こす力の総称で、魔法や魔術のみならず、スキルやギフトのような特殊な技能を行使する際に必要な力全てをカバーしているある種曖昧で便利な言葉。
 スキルは勿論、ギフトも魔力消費による疲弊があるようで、行き過ぎると死亡するため、生きるためのエネルギーを消費しているのではないか、という説もあるのだとか。
 この魔力、人によって使える最大量が異なる。プレイヤーは自分でステータスを弄るから勿論そうだが、ギルのような特殊な例がなくても、生活魔法を連発することさえ難しい人というのは少なくないのだそうだ。
 この学院は魔法や魔術の研究が盛んだが、魔力やそれが自然に及ぼす影響、モンスターの生態や発生のメカニズムまで、ありとあらゆる勉学の場であるから魔力が少なくても入学することはできる。学院生や教員の中にも殆ど魔術が使えないという人は結構な数居て、そういう人たちは専ら座学やフィールドワークを中心にカリキュラムを組むようだ。実践できないからそこは仕方ない。
 そして、魔力を持っていても、魔力の回復量は俺やシズの様に短時間ではなかなか回復しないものらしい。多くは十分な食事や睡眠を必要とする。つまり生活魔法を一日に何十回も連発できることや、旅の最中であっても一定の魔力回復を見込めるというのは冒険者としても非常に重宝される資質となるわけだ。そういう意味では、俺は……いや、俺の今の身体と能力は、自分で思う以上に優れているのだろう。実感が伴わないから、なんとも言い難いのだが。
 まあ魔術を習得するにあたってこの能力を活用しないわけはなく、音や魔術による除き見を遮るといった小回りの利く魔術について優先的に練習して熟練度を上げている。俺は器用さ(DEX)を高めに設定しているから難しくはないが、いまいち魔力の動きというものがよく分からず、範囲指定や強度設定の面でかなりざっくりとしたものになっているのは否めない。シズは逆に桁違いに強い力こそ発揮できていないものの、『癒し手』のギフトのせいか精密なコントロールができるようで、お互い無いものねだりをしつつバランスを取っている最中だ。



 さて、そうして学院の職員としての生活は良い滑り出しを果たした。



 の、だが――……二か月経つ頃には、学院には様々な人種、身分、文化、宗教を持つ人々が集まるがゆえに様々な形の『配慮』の数々があって、そしてその数の分だけそういった各地の風習や慣習が混ざり合い、独自の伝統を作り出していることをしみじみと感じることとなった。

 その『配慮』の一つは、広い庭の中に隠れるように点在する東屋の一種。きちんと施錠できる小さな小屋は、獣人のために設置されたものだ。
 獣人には所謂発情期というものが存在する。中には我慢すれば乗り切れる、というケースもあるようだが、その期間は性欲が溜まりやすく勉強に身が入らないため、解消の場としてそう言った専用の小屋が用意されているというわけだ。
 恋人がいる者は恋人と。
 いない者は誰かしらを誘い、篭る。
 多くは獣人同士で使用されるが、まあ全寮制の学校だ。他の種族、特に学院生の大半を占める人間の利用も多い。……らしい。中には所謂乱行パーティ状態になることもあるようだが、学院側としては特に規制はしていないのだという。
 アルカディアの気風として、年上が年下を愛で、手取り足取り教えることは普通であり、性にまつわることも同じで、著しく風紀を乱し、問題を起こさなければ学院側が取り締まるということはない。というのがその理由。

 そんな閉じられているはずなのに限りなく開かれた世界で、しかもセックス用の空間が設けられていて、入らないという方がおかしいのかもしれない。それでも、職員とは言え普段は森の中にいる俺にとっては、そんな局地的な常識など身についているはずもなく。
 慕ってくれる獣人の学院生からのボディタッチがやや際どさを帯び始め、かといってギルという決まった相手がすでにいるのだと話すきっかけもなくて少しばかり困った俺は、貞操を守るため、そしてギルが学院生たちと衝突することがないよう、早々に現状を相談することにした。
 結果、学院内で睦み合っているところをそれとなく目撃されたり、匂わせるのが一番だろう、という結論に達した。

 獣人たちは鼻が利く。そして、本気でもないのに特定の相手がいる人には手を出さない。彼らの中では既に決まった相手に手を出すのは命がけであることが殆どで、安易に手を出して殺されても文句は言えないんだそうだ。
 つまり、俺とギルが想い合っているところを見せ付ける……とまでは行かなくとも相手に確信させる程度には示し、その裏付けのために、敢えて行為の残滓を残しておく、というわけだ。はっきりと言ってしまうと、セックスの後、今まで生活魔法で精液をはじめとする匂いや汚れを清めていたのを控えるってこと。

 今まできっちりしていた分、敢えてそんな痕跡を残して周囲に勘付かせるなんて露出狂めいているようで恥ずかしいが、言葉以上に明白に牽制できるのだし背に腹は代えられない。よく知らない相手に行きずりの行為を求められるのも、ギルにねちねち責められて、苦しいほどの快感で泣き咽ぶのも嫌だ。
 それに、実のところ少し興奮してもいた。
 俺だって多少なりとも、その小屋には興味があったのだ。ラブホみたいな場所なのかなって。

 でも、その小屋の中は俺が思っていたものよりもずっと『配慮』の数々で溢れかえっていたのだった。



 身体を痛めないようにとそこそこの硬さと柔らかさを兼ね備えた素材で作られたソファやベッドは勿論、体格差や身長差、もっと言えば様々な体位に適応できるよう考えて作られた台座や段差、至る所につけられた手すりの数々。
 小さい子どもからすればアスレチック然とした場所に見えなくもないが、用途を知っている良い大人からすればまさにセックスのための空間。
 触り心地の良い素材で揃えられたその空間に唖然としたのは少しだけで、後はギルに押し倒されて、身をよじってギルの胸を押し返すだけの建前に過ぎない抵抗は、直ぐに彼の熱い身体に縋り付くものへ変わった。
「いっ……ぁ、ギル、ん、っ、服、汚れ、る」
 優しくも意地悪く俺を追い詰める愛撫を受け止めながら、俺はそれだけは言わねばと抗議した。
 小屋に入って暫く経つと思うのだが、シャツのボタンを全て外され、それでもローブごと俺の身体に引っかかったままだ。靴は辛うじて脱いだが、下半身は靴下を除いて全て剥かれた後で。
「どうしても気になるなら後で服だけ魔法を使えばいい」
 ギルの身体に負担がない高さの台座に膝をつき、大きく足を開きながら更にもう少し高い位置で上半身を預けていた俺は、引く気のない言葉に自分で脱ぐ余裕もないため諦めるしかなく、そのまま後ろからギルの愛撫を受け止めることになった。
 既にさんざんあちこち触れられ、舐められ、キスをされている。キスマークを付けることも予め示し合わせていたから気にしないが、内ももの際どい場所に強く吸いつかれて否応なしに門が反応し、ギルの指を締め付ける。既に育て上げられた熱は容易に理性を押し流し、身体の中を弄ってくる複数の指に焦ったささえ感じてしまう。
 手すりに捕まりながらギルの不埒な手と唇に身もだえていると、指が引き抜かれ、代わりに何か感じたことのないものを窄まりにあてがわれた。
「……? なに……っぁああああああああ!」
 にゅく、と穴の中へ入れられたものはギルの熱よりはずっと柔らかいものの、イボのようなものがついているらしく、その突起で俺の中のいろんな場所を容赦なくこすり上げた。既にローションをかけていたのか、ぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てて押し込まれる。
「やああああぅ……はぁっ、ふ、……っ、ぁ、あっ? なに、なにこれ、」
 大きさはそこまでじゃない。俺はあっさりとそのよくわからないものを飲み込んでしまったが、窄まりに感じる感触から、丁度全てを飲み込んでしまうことの無いよう作られた形状であることを感じた。なんていえばいいんだろう。シルエットとしてはツルハシやイカリのそれと似ている。……はず、だ。
 そんなものを銜えさせられ、戸惑う俺の手をギルの手が優しく包み込んだ。その所作が何も怖がることなどないのだと報せてくれる。きゅっと胸が疼いて、それと連動するように窄まりに力を入れると、ふるりと中のものが震えだした。
「っ、なに、なにっあ、ああ、やだ、これ、やっ」
 前立腺周辺にぴたりと当たっているそれが、下腹部に得も言われぬ快感と熱をもたらし始める。思わず足を閉じると、ギルの手が俺の太ももをくすぐるように撫で上げ、尻たぶをねっとりと揉んで、それから、抱き込むように腕をまわしてきたかと思うと、震える俺の屹立を愛撫した。
「っあ!」
 身体が跳ね、身を守る様に背を丸める。そうすると中が締まって、入っているものを圧迫するのがよく分かった。
 お尻の中が震えている。大きな栓をされているようだ。その栓の先まで振動は伝わり、中だけでなく、門まできっちりと刺激してくる。
 バイブだ。アダルトグッズだ。
 こんな場所にあるのだから、そういった目的のための道具なのは間違いない。
 小さく震えるそれは、俺から力を奪う。決して強くない快感は抗いがたく、俺はギルの腕の中で身体を痙攣させるしかなかった。
 初めての道具だ。疲れを知るはずもない振動がもたらす快感は温かさを伴って泉のように下腹部の内側からあふれ出る。そしてギルの手によって前から与えられる気持ちよさもまた、若干の鋭さを含みながらも俺の中の源泉へ混ざっていく。
「ふぁ、ぁ……っあ、あっ」
 いやらしく甘えた声が漏れていく。ギルの左手がつつ、と俺の脇腹と肋骨を辿り、乳首を掠めた。
「ひゃあんっ!」
 びく、とお尻を突き出すようにして腰が揺れる。きゅうっと中が締まり、振動が強くなった気さえして、更に腰が妖しく動いた。きっと客観的に見たら、だれかを誘っているような蠱惑的な動きをしていたはずだ。
 背中にギルの熱い吐息が落ちてきて、同じように温度の籠った声でヒューイ、と低く、酷く性感を煽ってくるような声が肌を伝い、耳から中へ入ってくる。
 それにびくんと腰をしならせると、ギルの手がお尻を撫でまわして、俺の門を塞いでいるものへ伸びた。
「なぁ……ここからどうされたい?」
 ぐり、と円を描くように動かされ、声が漏れる。手は直ぐに離れて俺の身体を這い回ったが、気持ち良いのは変わらない。
「ん、ギル……っふぁ……これ、抜いて……」
 じりじりと責められ、理性が薄れて行く。快感をとことん追いかけて、達してしまいたいという欲求と、そのために中をぐちゃぐちゃにされたいという思いがせり上がってくる。
「それで?」
「ぁ、あっ……それ、で……んっ ギルの、入れて……ほし、いっ」
 ギルの声に導かれるように口から言葉がこぼれて行く。
「中、ついて……いっぱい、して」
 ふ、ふ、と浅い呼吸を繰り返しながらもそう言うと、ギルは俺の腰を支えるようにして抱きかかえ、門に引っかかっているいやらしい道具の先端に手をかけた。
「ふぁ、ぁ、ああああああああっ」
 ゆっくり俺の様子を見ながら引き抜こうとしているのを感じる。……でも、形のせいか排泄感が凄い。
 門を擦り、くぐって行く感触と、適度な柔らかさ。その二つが原因だろう。
 確かに健全な排便は気持ち良い。けど、こんな時にそんな感覚は求めてない……!
「まっ……まって、ギル、まっ――……!!!」
 排泄しているようで嫌だと待ったをかける俺を振り切って、ギルは頭の見え始めていただろうそれを、ぐいっと引き抜いた。
「やあぁああー!!」
 強烈な刺激。意識と感覚が混濁し、まるで本当に排泄しているように思える。なのに凄まじい快感と、それをギルに見られていることに羞恥が湧いてきた。
 殆どはローションのはずだが、お尻の割れ目だけでなく太ももにまで伝うぬるりとした感触が腸液のように思えて仕方が無い。
 排泄……汚いところを全てを見られたような錯覚に、それに快感を覚えて悶える姿まで見られているという事実。そのことがない交ぜになって、始めて組み敷かれて暴かれた時のような心許ない不安、そして不思議な開放感にも似た感覚が胸に広がった。
 こんな俺を見てギルはどう思うか――。
 恥ずかしさと微かな恐怖に身を縮めていると、ギルの左手が俺の尻たぶを掻き分け、たった今はしたないところを見せた場所に、彼の熱く猛る太い昂りがあてがわれた。感度の高い俺の窄まりは与えられた刺激から快感を引き出すかのようにきゅっとそれを咥えこもうと締まる。
「まっ、よごれちゃ、」
 きっとどろどろになっているそこがどうしても綺麗だと思えなくて身をよじるより早く、ギルは俺のゆるゆるになったそこに熱の芯を差し込んだ。
「っ――!!」
 あまりの快感に喉が引きつり、声未満の小さな音が漏れ出て行く。腰を掴まれ、仰け反り、快感を披露場所を擦られて身体が痙攣するように跳ねる。
「はあっ……すげ、いい……」
 快感を得ていると分かる声色でギルが絞り出すように声を漏らす。
「だめ、だめっ……あ、きたな、ぃ、ひうっ!」
「汚くなんかねえって……ん……ちゃんと準備したろ?」
 情欲を滲ませながらも子どもに優しく言い聞かせるような声に、あっという間に忌避感が薄れて行く。
 そうだっけ。
 そうだった気がする、ような。
「お前が清めて、俺は舐めたし、指も入れた」
 ……そうだった。
「そんなに訳がわからなくなるくらい良かったか?」
 からかうような声に子どもになったような気持ちで頷くと、優しく頭を撫でられた。それから、可愛い、と囁かれる。それも全部後ろからだ。顔が見えない。
「顔……見たい、よ」
「ん、後でな」
 ギルの腰が動き出す。俺の腰を掴んで、立ったままのギルがリズムよく腰を打ち付けてくる。
「あんっんっ、っ、やぁんっ あんっぁあんっ」
 ぐずぐずになった窄まり。抵抗する力もなく穿たれ、快感を放たれて、それを必死に受け止める。
 気持ちいい。ひたすらに気持ちいい。
 お尻の筋肉がぴくぴくする。中は擦られる度に快感がふわっと溢れ出て、奥まった場所がひくついているような気がする。
 一定の速さで動かされ、いつも快感を覚える場所がぎゅっと熱く、冷たくなっていく。力を込めた指先が白くなるように、痺れにも似た快感を伴って下腹部に絶頂へのスパイラルが現れる。
「あ、ギル、ギル、いきそ、いく、いくっ……いいっ、あ、いくいく、いくっ……!」
 喉が引きつり、高みへ上るのを示すように声が細く、高くなっていく。
 身体を少しでも動かせば折角形になった絶頂への道が絶えてしまう気がして、俺は石化したように固まりながら、痙攣し始める中と、まるで引き込まれるように奥へ入ってくるギルの芯を感じていた。
「いいぜ……そのままっ……」
「イっ、――っ!!!!」
 収縮の後、爆ぜる。いや、噴火するように、鯨が潮を噴くように、飽和した快感が許容量を超えて溢れだした。
 言葉もなく震えながら、暴れるように下腹部から発されるエネルギーに頭まで貫かれる。涙があふれ、鋭く抜けていったその余波に振り回され、四肢が勝手に動いた。それを、ギルに抑え込まれる。両腕で腰を拘束され、快感をこらえる呻き声が背中に当たって、深く、深くギルが割入ってくる。途切れない絶頂の余波に翻弄されている俺には、その感触がたまらなく気持ちよくて。それを振り切るように腰が機械めいた動きでかくかくと前後に揺れた。
「ああうっ! やらあ……っ ぎる、いってる、もういってる……!!!」
「はッ……こっちはまだなんだよ……っ」
「やあああああうっ」
 まるで止めを刺すように深く穿たれたまま揺さぶられ、思わず腰に回された腕に爪を立てる。快感が強すぎて身体に力が入らず、ひっかくというにはあまりにも貧弱な動作だった。それに反応してか、ギルが呻いた。
「あっ ……んん、っ、くぅ……っ」
 切羽詰まった、けれど限りなく噛み殺された低い嬌声に下腹部がきゅんとする。途切れない快感に口を閉じることもできず、飲み下せなかった唾液が滴った。その、唾液が顎を伝う感触さえぴりぴりとした快感に変わる。ゾクゾクして、肌が粟立つのが止まらない。
 気持ちいい。
「んああっ」
 唐突にギルが抜け出て、身体を引っくり返される。いや、自分じゃまともに動けなくなっている俺の身体はころんと横に転がされて、今まで上半身を預けていた台座が乱暴に退けられた。
 仰向けになった俺の視界には昂ぶりを放ちたい一心の、酷く鋭い表情のギルがいて。
 三つ呼吸をした後、直ぐにまたギルの熱い芯に貫かれていた。
「やああん! やあっ、ひああああっ」
「ふっ……ァ、っ」
 奥の奥まで入り込まれて、余りの刺激に眩暈がした。
 頭はくらくらして、目はちかちかして。遠くで動物が憐れみを誘うように鳴いている声がする、と思ったら、自分の声で。
「んっ……はあっ……大丈夫、か?」
 凄く近くでギルの声がして、その吐息と、籠る熱に身体が跳ねる。涙と涎の跡を舌で拭われて、その度にギルの先端が収まる場所がきゅんとして、甘えるような声が溢れた。
「だぃじょぶ、じゃ、ないっ っ、ひんっ……! も、らめ、やああ……っ」
 荒い息をして、きっともうイきたいはずなのに、ギルは優しく身体をゆすってくる。鎖骨に、首筋に、乳輪の直ぐ側に、腋に、二の腕の内側に。キスマークが施され、俺の肌に赤い跡が残されていく。
「痛いか?」
 余裕のない声に気遣われて、俺は必死に首を振った。
「ちが、いい、いいの……よすぎて、ずっと、っ、ず、とイってる、みたい、っあ、んん、……ん、……ふぁ……」
 慰めるようでいて、これでもかと俺を愛撫する舌先に堪りかねて身をよじると、ギルはたっぷりと俺の唇を味わって、
「……可愛い」
 唇も離れない内からそう呟くと、腰をくねらせて律動を始めた。
「ふゃんっ やっんん! あっあ、あっあっ、ああっ……!」
 未だに溢れ続ける快感の泉を掻き乱され、既に快感の中に溶けた理性では言葉を繋ぐことさえできなくて。
「……っ出す……ヒューイっ、出るっ」
「ああんっあんっあっ、あああー……!!」
 指を絡めてしっかりと重なった掌にどうしようもない安堵と喜びを感じながら、俺は再び絶頂へ向かって濁流の様に勢い付いた快感のエネルギーに飲み込まれた。





 ふっと一瞬にして意識が浮上した俺は、そのまま瞼を開けた。見慣れぬ天上が目に飛び込んできて、疑問を覚える。
「……ぅ……?」
 むくりと頭を持ち上げると、気怠い身体に気づいた。……そうだ、したんだ。
 咄嗟に上半身を起こそうとして、身体に走る電気刺激のような快感に腑抜けた声を上げて再び倒れ込む。
「無理すんな。今日は魔法での後始末もシズの手も借りずにこのままだ」
 股間周辺を寛げただけだったギルは既に身なりを整えていた。俺はと言えばシャツこそボタンを留めてくれていたようだが下半身は丸出しで、冷えないようにだろうか、ギルの体躯に合わせたサイズのローブを掛布団の様にして被っていた。
「ローブ、ありがとう」
 あったかいそれに頬が緩むのを感じつつ、ギルに支えられながらゆっくり起き上がる。どうやら意識を飛ばしている間にベッドへ運んでくれていたらしい。肌も拭いてくれたみたいで、気になるところはない。
 下着とスラックスを身に着け、服にあからさますぎる汚れがないことをチェックして立ち上がる。
「んっ」
 ふとした拍子にお尻の門と奥にきゅんと快感が走り、腰から崩れそうになった。ギルに腰を抱えられるが、それが更に奥へ響いてきて、俺はもがくこともままならないまま、そんな状態でエスコートされた。
「ぎ、ギル、こんな風に外に出たら……っ、その、バレバレなんじゃ」
「それが狙いだろ?」
「そうだけど」
 主にこれ、俺だけがひたすら恥ずかしくないか?
 ようやくそんなことに思い至り、急にどぎまぎとして落ち着かなくなってくる。
「ほら、小屋の掃除は頼んだ」
「あ、う、うん」
 乞われるがまま部屋の空気だのなんだのを清める。その間にもじゅくじゅくと疼く窄まりに、前の反応なんて考える余裕もない。
 歩き難いことは無いが、歩くとひたすら中に響く。歩く振動が下から突かれているみたいで、既に学院生の行き交う校舎の回廊で、余韻というにはあまりにも薄れる気配のない淫靡さを感じていることに頭がおかしくなりそうだった。
「大丈夫か? そのまま倒れそうだな」
「っ、いいっ いいから……大丈夫だってば」
「そうか? ……本当に?」
「……分かってるくせに」
 よたつく俺を見かねたという態で俺の身体を支えようとしつつ、その実俺の身体がどうなっているのか分かった上で甘ったるく俺にちょっかいをかけてくるギルをどうにか突っぱねる。それでも変に力んでしまうからか、誰にも見られるはずの無い場所が密かに、けれどはしたなく反応してしまうわけで。
 こんな場所でいやらしい声を出すわけにはいかないと息をのんだ隙にギルに抱き寄せられ、あっという間に距離を詰められた。
「見せつけないと意味ないだろ」
「……そうだけど!」
 キスこそ自重しているものの、こんなにべたべたしてたら控える意味なんてないんじゃないだろうか。
 こんな風に自分の身体を持て余すなんてことは久しぶりで、どうか実りのある結果に繋がってほしいと切に思う。単に淫蕩に耽る有り様や快感に従順な淫らな身体であることを知られるだけで終わってしまうなんて冗談じゃない。
 いつまで、と決めてなかったのは痛いが、十日に一度くらいの頻度でこそこそと愛し合えば成果は出るはずだ。今日はちょっと飛ばしてしまっただけで、別に毎回無茶苦茶に激しいセックスをする必要はない。
「ま、それでもあまり一人になるなよ。できるだけ俺を連れていけ」
「……ん、気を付ける」
 それでもきっと毎回ギルに流されるんだろうなあ、と薄々思いつつ、俺はギルに寄りかかりながらぶり返す快感に耐え、講義に参加しているはずのシズと合流するべく談話室へ向かった。
 ……流石に毎回こんな風になるのは避けたい、かな。
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