異世界スロースターター

宇野 肇

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三章 訪れる人々

小さな同居人(5)

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 ……どう見てもただの猫だよなあ。

 アドルフの前足を横切るように陣取った猫がアドルフに丁寧にグルーミングされて気持ちよさそうにしているのを見ながら、俺は既にシズが準備してくれていた鍋に野菜を入れて煮込み、鍋の状態が完成するのを待っていた。
 ガスコンロはないが、エルフが生活していた名残なのだろうか、鍋を囲めるようにダイニングの床が改造されていたらしいのをギルが見つけたため、今はダイニングのテーブルや椅子を除けて床に敷物をし、その上にさらにふかふかのクッションを座布団にして置いて座っている。煮え立つ鍋から箸を伸ばすのは鍋の醍醐味だ。



 アドルフが自信満々に持って来た猫のおかげで微妙な空気が流れたが、俺は兎に角、アドルフを労うことから始めた。臭いを嗅がせて辿れと言ったのは俺だし、アドルフはその通りにしたわけだから。
 たっぷりとマッサージのようにしてアドルフの身体を撫でた後は、場所をリビングへ移して猫の反応を確かめることにした。装備を目の前に置いてみたり、いろいろ話しかけてみたり。でも、どれも普通の猫の反応で、装備品はちょっと臭いを嗅ぐように顔を近づけてから「で? これがなにか?」と言わんばかりに俺を見上げて来たし、話しかけても当然のようににゃん、としか返ってこない。
 反応を探ろうとあちこち撫で回して、前足の肉球をふにふにしたらそっと引き抜かれ、「やめろ」とばかりに静かに上から押さえつけられた。何度か繰り返したら静かに爪を立てられ、すごすごと退くしかなかった。猫パンチはごめんである。

 人に慣れているようだし、飼い猫か、あるいは地域猫のような人間と距離の近い場所に住んでいた猫なのだろうということは分かったが、それだけだ。
 一先ず学院には装備品を拾ったことと猫を保護し、しばらく面倒を見る旨を連絡しておいた。問題が起こった場合の判断は殆どこちらに任されているから、口を出されることはなかった。

「いつごろまで保護するんですか?」
「取り敢えず毛が生えそろうまでかな。痩せてるし毛並みもぼろぼろだったし、毛がちゃんと生える頃には元気になってると思うし」

 トイレの躾をどうするかは悩ましいところだ。
 そうつぶやくと、シズはいきなり勢いづいて声を上げた。
「そうでした! この子、ちゃんとトイレでしたんですよ」
「えっ」
「急に鳴き出してどうしたのかなと思ってたら、トイレを探してたみたいで。ドアを開けてあげたらするするっと歩いて行って、お行儀良く済ませていました」
「……ますます飼い猫の線が濃厚になってきた」
 まあ、さらったわけでもないし、首輪のようなものも一切ないし、俺たちが住んでいるのは森の中だし、すぐに誰かに糾弾されるようなことにはならない。
 手間がかからないのは喜ばしいが、またぞろ、妙なものを拾ってしまったものだと俺は嘆息した。

 猫が呑気に毛づくろいをしているのを見遣り、猫のことはそれとして、ギルを再び森の中へ送り出した。猪を狩るためである。
 ついて行こうとしたのだがそもそも肉を食いたいと言い出したのは自分だからと押しとどめられた。確かに、ギルは普段から肉を切らせないようにしているが。
「それに、そいつらと一緒にいる方がお前も慌てずに済むだろ」
 くすっと笑いながら言われては縮こまるしかない。インベントリに仕舞えば帰りも速やかだろうと思ってのことだったが、素直に家で待機をすることにした。
 結果、逆について行った方が遅かったのではと思うほどの速さで帰ってきたギルから処理済みの肉を受け取り、今に至る。



「そろそろいいかな」
 土鍋の蓋を開けると湯気があがり、ぐつぐつと煮える音に出迎えられる。俺にとって牡丹鍋、猪鍋と言うと既に鍋用に切り分けられた肉での鍋を指すが、流石にあれ程綺麗に切り分ける技術はなく、結構厚めだ。細かく切り分けられるようにステーキナイフは用意しているが、骨付きのものもある。
 今までの食事を思うとワイルドさがあり、見た目通りかぶりついているギルの食べっぷりは清々しく鍋の見た目に則していると思うが、ちょこちょこと切り分けてから取り皿の溶き卵と味噌出汁に付けて、野菜と一緒に口の中に入れて一生懸命咀嚼するシズの食べ方も悪くはない。どちらも、食べている本人が美味しそうにしているからだろう。
 俺も箸をつけ、噛みごたえのある肉とゴボウの食感を楽しむ。後ろに行儀良く身体を伏せているアドルフにざっくりと切り分け、出来るだけ冷ました肉を口元に持って行ってやると、尻尾を振りながら頬張っていた。進化して黒大狼になったため牙はなかなかに迫力があるが、俺の手を噛まないように咥える様子からは良い意味で野性味は感じられない。
 自分の分は確保しつつ何度かそれを繰り返していると、ふと俺の膝に猫の前足が乗った。
「なあん」
 じっと俺を見上げて来る顔は初めて抱き上げた時よりずっと元気そうで、回復魔法、ポーション、そしてシズの手という回復手段のフルコースの力を感じずにはいられない。
 医者でもないのにここまでのことができるという”現実”に違和感はあるものの、今のところ悪いことでないのは間違いない。
「なううう」
 まじまじと猫を見ながらそんなことを考えていると、また静かに爪を立てられた。これ、地味に痛い。
「はいはい、お前も欲しいのね」
 そっ手を引き、猫の口に合うようにと肉を小さめに切り分け、持っていく。猫は器用に俺の手に前足をかけ、肉を食べた。……やっぱり、人の手から受け取ることに慣れているようだ。
 猫は肉の味が気に入ったのか何度かねだってきたが、暫くするとアドルフの側で寝転んで毛づくろいを始めた。実に気ままで、こちらに気兼ねする様子は微塵もない。

 人馴れしている普通の猫、だよなあ。

 妖精がいる森だからケット・シーの可能性も疑ってみたが、疑ったところで結局事態が変わるわけでもない。こちらから一方的に確認する術もない。まさか攻撃を仕掛けて追いつめるわけにもいかないし。
 俺は猫の気が変わらないうちにと猪鍋から自分のための肉を引き上げ、食事を続けた。



「食った」
 いつもと変わらない声色ながらも満足をにじませたギルが呟く。
「今日はちょっと遅くなったね。鍋はこのまま置いておこう。まだ火の熱も残ってるし」
「かしこまりました。では、他のものは僕が片付けておきますから、ヒューイさまは湯浴みをどうぞ」
「うん。じゃあ先にもらう」
 着替えは脱衣所に置いてあるから、そこから自分の分を出して棚へ置いておく。俺の後ろを当然のようについて来るギルと一緒に風呂場へと足を進めた。
 ギルは名目上俺の身体を洗うためと称して一緒に入ることがある。それがペッティングや夜の誘いの合図になっているのに気付いたのはここ最近のことだ。


 この家の風呂場はタイル張りの床に足つきのバスタブが置かれている。蛇口とシャワーもあるが、バスタブと一体型になっていて、やはりお湯は魔法によって循環しているようだ。
 少々不思議な構造でももはや探るまいと思ってありのままを受け入れているが、風呂桶と椅子は自分で持ち込んだ。バスタブの中で全てを済ませる文化は俺にはない。

 身体を洗うにしては不埒なギルの手に反応しつつ湯船に逃げ込むと、いい温度に保たれたお湯が淵から溢れ出した。部屋の中にポツンと置かれたバスタブは慣れないが、この瞬間はかなり好きだ。
 身体が湯に包まれる安堵感で盛大にため息を漏らすと、後を追ってきたギルが入ってきた。足を伸ばしたいから、という理由でギルを背もたれ代わりに抱きすくめられるのだが、俺はこの方がちょっかいを掛けやすいからではないかと疑っている。
 優しく肌を撫でられつつうなじにキスを受ける。抵抗するつもりはないが、この体勢だと俺からギルに触る機会がないから、ギルの太ももや、俺の胸や腹を撫でて行く手の甲に触れて行く。
「結局装備品ってなんだったんだろう」
「さあな」
 ギルは分からないことに対して無関心だ。不審があれば別だろうが、なければ情報として留めておくだけで、それ以上深追いはしない。彼なりの長生きの秘訣なのだろうか。
「気になるなら一つ一つ手に取って確認すれば良い。ナイフやダガーの型は珍しいもんじゃないから銘もなかったが、袋の類は見てなかったろ」
「うん……」
 ギルがぴりぴりしてないのだから、差し迫った状況にあるわけではないことは分かる。
 特に期限が設けられているわけでもなし、明日、明るいうちに確認しようと決め、夜はギルに身を委ねることにした。
 考えても仕方が無いことを考えてしまう性分は直せそうに無いから、思考が止まりそうにない時はギルに抱いて貰うのが一番だ。心地よくて安心できて、そして……もう、一人の朝に悲しくなることもない。


 そそくさと風呂からあがり、先に入った挨拶もそこそこに部屋へ上がる。シズは片付けも終えて膝の上で猫を可愛がっていて、猫も随分シズに慣れたらしく、部屋に入れるかどうかは好きにしていいと言うととても喜んでいた。俺も世話をしてくれる人がいて非常に助かる。
 俺の部屋のベッドは天蓋付きで、四方から薄布を下ろすことができる。俺は蚊帳代わりに使っているが、頭の上には魔法用のランプがあって、魔力を消費して灯すと、ぼう、と優しくベッドの中を照らし出す。足元側でお香も焚けるようだが、今のところ使う機会はない。
 掛け布団を除けてベッドへ上がり、肌を寄せる。薄い部屋着越しに感じる肌は風呂上がりということを差し引いても心地良い暖かさを持っていることを、俺は知っている。
 キスを繰り返しながら、何度も身体を撫で摩って気持ちを切り替えて行く。
 今日は久しぶりに気持ちばかり先走って疲れた。晴れない疑問にぐだぐだと執着し、なんの成果もなかった。猫を助けられたのは良かったけど、ほっとしたらその分疲労も湧き出てしまって。
 そういった淀みのようなものを、ギルとの行為で流して行く。
 ふとキスの後視線が絡み合い、ギルの目が細められた。
「懐かしいな」
「なにが?」
 ギルの右手が俺の左頬に当てられ、親指で優しく撫でられる。
「去年、あの森にいた頃のお前とこうしたときの顔と同じだ」
「俺が? 今?」
「あの頃より切羽詰まってはいないが」
 あの時はいろんなものが綯い交ぜになっていて、ギルの身体だけを繋げられる行為に傷つきながらもその肌を心地よく思う自分と、アズマを放って淫蕩に耽る自分と、そのことに罪悪感を抱きながらもそうすることで余計に行為にのめり込む自分とで精神的に疲れていた。行為の最中はそんな雑念もなくただ快感に乱れることができたから、嫌だと思いながらもそれに縋ってもいた。
 あの頃は気持ちが無いのに優しくて気持ちいいセックスに傷つきもしたし、慰められてもいた。
「そんなに酷くはないと思うんだけど」
 あの時は自己嫌悪も強かったが、今日は単純に疲れだけだ。それも、ギルに触れていると寝そうなほど癒えて行く。っていうか、このまま穏やかな触れ合いで終われば確実に寝る。
 俺はそれでもいいが、行為の最中に相手に寝られてしまう男の気持ちも分かるのだ。……ギルは俺が寝てても手を出して来るけど。
 確かに疲れているが、だからこそ触れたいのだと示すため、ギルの身体に唇を落とし、そっと股間をまさぐった。服をずりおろし、出てきた大きなものに触る。
 茂みがなくとも普段はこぢんまりした俺のものと違って、ギルは普段から茂みから顔を出していて、大きさも長さも、硬くなったら一体どうなるのかと思わせる。
 まだ柔らかく頭を下げているそれを揉んで育て上げ、舌を這わせていく。俺の頭に優しく置かれたギルの手に時折力がこもるのを感じながら、手と唇でぴくぴくと跳ねるものに俺の気持ちも昂ぶっていった。
「ん、ふ」
 咥え込むと顎が直ぐにだるくなるから、唇や舌を使って、浮き上がった血管や筋を辿りながら、手で皮を動かしていく。ぷるんとした先端を口に含んで傘の部分を唇でしっかり掴み、頭を捻ってそこをいじりながら扱けばギルの口から気持ち良さそうな声が漏れた。苦みが広がる。
「はぁっ……、っく、ヒューイ、もういい、出る」
 両手で俺の頭を包んで、そっと引き抜こうとするギルに逆らって、はち切れんばかりにぷるんとした先端に吸い付く。本当にギリギリだったらしいギルが背を丸め、うめき声とともに手で支えていたものが力強く跳ね、白濁を零した。
 とっさに目をつむると顔に熱いものが飛び散り、届かなかった分が俺の手を伝う。そっと目を開けると、脈打つのと同時に、まだ精液が溢れ出していた。どろりとしていて、濃い。
「っ……だからもう出るって言っただろうが」
 荒い息のギルに窘められる。丁寧に顔を拭われ漸く俺はギルのものから手を離した。
「ったく」
 やれやれと言いたげにため息をつかれたが、多分息を整えるためだ。ギルはあっという間に呼吸を落ち着けると、素早く俺の服を脱がせた。
「もう硬いな。……想像でもしたか?」
 乳首に吸い付かれ、露わになった俺のものにギルの手が被さる。少し足を開いて膝立ちになると、ギルの右手は股座を過ぎて俺の窄まりまで伸びてきた。俺の顔にかかった自らのものを助けにして、中指が潜り込む。
「あ……っ、あ、あっ」
 ふらつく腰を抑えるためにギルの両肩に手を着くと、俺の裏筋を唇で挟み込んでいたギルと目があった。瞬間、ギルを見下ろす言い難い気分の良さと、ギルから俺の感じ入っている顔が丸見えであることに羞恥が湧いた。
「いい顔」
 唇を俺の熱に押し付けたままギルがつぶやき、笑う。その直後、俺の芯はギルの口内へ収められていた。
「ああっ」
 敏感な先を舌で無茶苦茶に嬲られる。強く吸い上げられ、空気を巻き込みながら音を立てて扱き上げられ、後ろも穴を広げるようにぐりぐりと動かされて、俺は涎がギルに落ちてしまわないようにするので精一杯だった。
「ふっあっあ、も、そんな、し、たらっ」
 足の付け根が震え、中の前立腺を抑えられて、漏らすような感覚に惑う。甘い快感に一時的に腰が抜けた風になり、かくかくと腰が揺れる。射精感がせり上がり、芯を通って外に抜けていくような勢いを感じる反面、中で強く弾けるために快感をため込むような感覚がある。その二つが押し合い圧し合い、ギルの匙加減ひとつで前に後ろに揺れ動き、後ろで感じるには前が煩わしく、前で達するには力が入らなくてもどかしい。
「ギル、ぅ、あっあっ、やん、も、イきたい……っ」
「は、どっちでだよ」
 耐えかねてねだると、意地悪で返された。でももう、イくことしか考えられなくて、腰を揺らしながら必死に答えた。
「まえ、まえぇっ」
 瞬間、ギルの頭が激しく動いた。ピストンの中、舌でつつかれたり吸い上げられたり、ねじるように頭を動かされてあっという間に果ててしまう。自分でもギルの指を締め付けているのが分かるほど力が入っていて、ぶるりと身体を振るわせた後、ゆっくりと弛緩した。
「……は……ぁ、ごめ、出しちゃ、」
 うっとりと余韻を感じながらも、吐き出した場所を綺麗に口で舐め取られているのを感じて、どうやらギルが俺が出したものすべてを飲み込んだらしいことに気づく。頭を上げたギルの喉仏が上下に動き、微かに嚥下の音がしたのにきゅんと胸が締め付けられた。てらてらと光る唇を舌で拭う所作さえ色っぽく、目に入るもの、耳にするものからも愛撫されているようだ。
 指がゆっくりと引き抜かれ、いつもより潤滑剤が少ないせいか強く擦れる感覚を耐える。それが終わるとギルが浮き上がるようにして俺に口づけてきた。
 うっすらと苦みを感じるが、それよりも唇の感触がたまらなく気持ちよくて、直ぐに応えた。
「ヒューイ……入れたい……」
 キスの合間、唇を完全に離すことなく囁かれた言葉に、精を吐き出したばかりなのに身体がじわりと熱を持つ。
「ん……入れて……」
 答えると、ベッドに仰向けに寝かされた。俺の身体を支えながらもびくともしないギルの身体に手を滑らせる。首筋に口付けられて、快感が乳首の先まで広がり、痺れるような疼きを発する。息がかかっただけで硬くなったそこを、ギルの口が捉えた。
「あん……」
 甘ったるい自分の声がベッドの中に響く。構われるほどに鋭く反応する乳首に息が乱れた。その傍らで、ギルが枕元の潤滑剤を手に取る。指先にたっぷりとジェルを取り、俺はそれに合わせて足を開いた。
 膝を抱え、ギルを受け入れる場所を晒す。既に一本が入っていたものの、ギルは改めて口元からマッサージをして、手順を踏んだ。
 門が擦られて、たっぷりと慣らされる音にじわじわと意識と身体が昂り合い、強く先を求め始める。それはギルも同じようで、股間の茂みから突き出したものにジェルを馴染ませるのを見ると、かなり硬くなっているようだった。
「……入れるぞ?」
「うん……」
 来て、と小さく呟くと、すでにぐちゃぐちゃになっている場所にギルの熱が当てられた。腰を持って、入れることに集中するギルの口元はうっすらと開いていて、そこから漏れる吐息が俺の芯に優しく降りかかる。
「ん……あ、」
 堪えるような声とともに、ギルが俺を貫く。何度受け入れても感じる凶悪なまでの圧迫感を、静かに息を吐き、できるだけ力を抜いてやり過ごす。
 逞しさの象徴を差し込まれて震える俺に、ギルは俺の手を取って、指を絡めてくれた。潤滑剤で濡れていても気にならない。胸の中がくすぐったくて、嬉しさが満ちる。
 唇を何度も合わせ、俺はその度に繋がった場所をひくつかせた。ギルの形を確かめるように、馴染ませるように、そして、愛撫するように。
 気持ちいいと言葉にするよりもずっと早く、身体がそう伝えてしまう。そのことに恥ずかしさはあるが、それはお互い様だ。俺の中でギルがぴくんと跳ねると、なんとも言えない、愛しさのような気持ちが湧いて来る。もっと気持ち良くなって欲しいと思う。
 きっとギルもそうなのだろう。示し合わせたように互いの腰が動き始め、貪るようでいて奉仕のようなまぐわいに心がきゅんきゅんと声なき声で鳴く。――俺は声も上げているけど。
「んっあ、……あ、ギル、ふぁ、あっ」
 ゆっくりと動くギルに合わせ、快感が生まれるタイミングで頼りない嬌声が溢れていく。これをギルはいい声だと言うが、俺はどっしりとした、甘く、力強い快感は、次第に俺の手に余り、それを示すように涙がこぼれて来て、決して悲しくないのに泣いてしまう。
「あんっ……あんっ、あ、あっ」
 徐々にストロークが早くなり、涙声が酷くなる。ギルは俺の涙を舐め、唇や首筋にキスをしながら、俺の最奥を狙って腰を叩きつけた。
「あぁああっあぅ、あ、はぁ、ああああっ」
 ギルの太ももでつま先立ちになり、腰の位置が上がっていく。尻たぶが浮き、そこにギルの両手が差し込まれた。掴まれ、ぐい、と腰を押し付けられる。俺の膝は顔の横まで押し上げられ、ギルは俺の頭を過ぎて俺に被さった。手はギルに絡め取られ、ギルがのしかかる重みで縫い付けられたように力強く握られていた。
 少し目を動かせば、俺を蹂躙する太いものが抜き差しされているのが見える。その前で、ぶらぶらと揺れる半勃ちの俺のものも。
「ヒューイ ……巧」
 名前を呼ばれ、思わずギルを見上げると、ふとギルが顔を寄せてきた。それに伴って更に身体を折られ、圧迫されるが、ぺろりと唇を舐められれば息苦しさも吹き飛んだ。いや、吹き飛ばした。
 揺さぶられ、呻くような声を上げながらキスに応える俺に、ギルが苦笑する。流石に辛いかと独りごちて、そっと足と腰を降ろしてくれた。深呼吸をすると繋がった場所が疼いて、ギルにすがりつく。
「もう大丈夫……だから……」
「ん」
 皆まで言わぬ内から突き刺され、走る快感に悲鳴染みた声が出た。
「きゃあうっ」
 リズミカルにギルの腰が揺れ、小刻みに浅い場所を、ゆっくりと深い場所を探られ、俺は直ぐに泣いてしまった。
「あ、ああ、やあぅ」
「どっちがいい? どうされるのがいいんだ?」
 意地の悪そうな笑みを乗せてギルが聞いてくる。今度は深い場所を優しく突かれて、俺は背を反らして頭を振った。
「やあっ、それ、そ、や、」
「これか?」
「ああんっ」
 動きは激しさこそないがねっとりとして力強く、そうやって奥を押されて、ギルの手を握り込む。
「あ、らぅ、ふっぁ……め、だめ、あ、いく、いくっ」
 身体をかき回され、快感が容赦無く注がれて、もうそれしか追いかけられない。波のようにやって来る快感に絶頂の前触れを感じてそれを告げれば、ギルの動きは直ぐに早くなった。
「ヒューイ……っ」
「あん! あ、ぎる、いく、いく、い、いくっ、あ、いくうっ」
 短い呼吸と俺を呼ぶ声に煽られながら高みへ昇っていく。
「あ、ぁ、――っ!」
 爆ぜるような感覚のあと押し寄せた快感に、抵抗することなく流される。その間にもギルの動きは激しさを増して、
「あ、っく、っ!」
 ギルにしては大きな声で呻き、俺の中で果てた。
 出し切るため、ギルの腰が緩やかに動く。一つ大きな吐息が落ちてくると同時に、ギルに抱きしめられた。俺からも腕を回せば、ぴったりと身体が密着する。ともすれば再び上がっていきそうな熱を抑え、お互いの肌に唇を寄せる。
 落ち着き、抜く頃には俺たちの息も意識も鎮まっていた。
 二人でベッドに寝転がり、身体を清める。
「……気持ちよかった」
 キスをすると、自然とそんな言葉が口をついて出て行った。ギルに頬を撫でられ、目を閉じる。
「俺もだ。お前の中、柔くて温かくて……入れた時、いつも安心する」
「そう……?」
 ギルが掛け布団を引き上げてくれる。ランプも消してくれたらしく、閉じた瞼の闇が更に濃くなる。
 布団に包まれると二人分の体温がこもり、直ぐに暖かくなった。ギルの手が俺の髪を梳くようにして動き、頬を撫で、柔らかな感触が唇に当たった。それが眠さに拍車を掛ける。
「……おやすみ」
 どうにかそう呟き、意識が心地好い闇に溶けるのを感じながら、同じ言葉が低く、優しい声で返って来るのを聞いた。
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