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二章 Walk, and Reach.
幸せホーム計画(4)
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快感の余韻。波に揺られるような気持ち良さと、一仕事終えたような感覚、それから、特有の気怠さ。
ベタつきを払い夢路を歩こうとする身体を、ギルの優しい後戯が引き止めていた。
肌の上をギルの手が穏やかに滑って行く。ヒューイ、と甘く囁かれながら耳たぶを食まれて、俺は寝ぼけたような声を出してギルの口から顔を離した。いい感じに終われそうなのに、好きにさせてたらまた始まりそうだし。
「ギル」
「ん」
「巧」
「ん?」
「俺の、ほんとの名前」
これはトップシークレット、機密情報だから絶対内緒で。
そう付け加えつつも、ギルには俺の意図するところがわかったらしい。
「タクミ」
ヒューイ、と口にする時と同じように甘い声でそれを紡ぎ出す。
指を絡めて手を繋ぎ合わせ、ギルの親指が俺の親指の背を撫でる。何度も軽く啄むようなキスを繰り返していると、ギルがおもむろに身体を寄せて来た。そのまま、下へとずれて行く。
「ん……」
乳首をかすめるようにしながら唇がヘソの方へ下りてゆき、さり気なく腰をひねって逃げると、ギルは手を放した。
「風呂、入るか」
「……? う、うん? 今から?」
「絶対最初に入るとか言ってたろ」
そうだけど。
ウィズワルドは俺の好みをばっちり把握していて、広く立派な浴槽のある、旅館情緒溢れる風呂場を設えてくれたのだ。所謂檜風呂である。
俺はその風呂を非常に楽しみにしていた。もはや清潔さを保つとかはついでで、風呂に入ることで心身共に解され、癒されるのが目的だ。公衆浴場は尻込みしてしまうから、個人向けの風呂場は本当に、本当にありがたい存在なのだ。
「でも、遠くない? 一旦一階に降りないといけないし……ウィズワルドがまだ寝てるかもしれないし」
アドルフも起こしたくは無い。
決して風呂に入りたくないわけじゃ無いということをぐだぐだ言ってると、ギルはさっさと部屋着として調達した半パンを履くと、俺に自分のシャツを巻きつけ、ひょいと抱え上げた。――横抱きで。
「っわ、あ」
「じっとしとけよ。あと気配も消せ」
何が悲しくてホームの中で気配なんぞ消さなくてはいけないのだろうか。
そう思いつつも、風呂場まで移動する気満々のギルは既に歩き始めていて、俺は黙って『隠密』のスキルを発動させた。
ギルは流石と言うべきか、静かに扉を開閉すると、殆ど音を立てることもなく滑るように階下へ降り立った。俺へ配慮してくれているのか、滑らかな移動は尻や腰に響くこともなく、ただぎゅっとしがみついているのが気恥ずかしいくらいで、負担なんて全くなかった。
一応歴戦の冒険者であるところのウィズワルドがまだソファで眠っているのを一瞥し、ギルはこそこそすることもなく――気配を消している時点でこそこそしているのだが――アドルフがそっと前足に顎を乗せたまま目を開けたのを軽く制しただけで、俺たちは無事に風呂場の手前にある脱衣所にたどり着くことができた。ホーム内の移動だし敵意があるわけでもないからウィズワルドを起こさずに済んだのだろうが、それにしても能力の無駄遣いここに極まれりである。
そうっと降ろされ、床に足を着ける。
一応、ホーム内はそれほど声が通るようにはなっていない。工房や鍛治場などを併設できるよう、各部屋ごとに防音が施されているのだ。周辺住民の迷惑にもなるし。だから脱衣所の扉を閉めた時は詰めていた息が声とともに一気に出て行った。
いわゆる彼シャツなる状態で下半身出しっ放しで、いくらギルの方が体躯が良いとは言っても、横抱きにされれば角度によっては陰部が丸見えになるのだ。百歩譲って前はかくれるとしても、つい先ほどまでギルの欲望を受け止めていたはしたない部分はモロ出しになるわけで。
前を晒すより後ろが見える方が恥ずかしいなんて俺も来るところまで来たな!
半ば自棄になりながら包まるだけだったギルのシャツを籠へ入れ、同じくラフなハーフパンツを脱ぐだけだったギルと一緒に風呂場へ足を踏み入れた。
ウィズワルドによると、このホームの風呂場の湯はやはり循環していて、24時間いつでも沸かしたてが楽しめるそうだ。温泉の掛け流し風スタイルになっているが実際に温泉の効能はなく、スイッチ一つで循環を止めて排水することもできる。もし薬湯が良いのであれば好きな成分を混ぜていいとのことだから、ここで色々試させてもらうことにして自分のホームを持った時に応用しようと思っていた。
既に清めた身体だが掛け湯をして湯船に身体を沈める。ギルも直ぐに入って来て、まだ身体の重い俺を支えるようにして、人間背もたれを買って出てくれた。
はあ、ともふう、ともつかない息が漏れ、自然と呼吸が深くなる。最高に気持ちいいのは、少しだけ身体が冷えていたせいなのかもしれない。
至高の心地良さに目を閉じると、ギルがじゃれつくように俺のうなじに唇を押し付けて来た。首を傾け、されるがままになる。シートベルトよろしく腹に回されていた両手は、後戯の延長のように優しい動作で俺の身体を這い回った。
「……」
それにしても。
行為の後ながらそこそこ動けるせいだろうか。なんか乳首がむず痒い。揺れる水面が肌を撫でて、それがくすぐったいような、甘く、愛撫のような快感を生み出して、俺の体内へ浸透してくる。
まずいな、と思いつつも行動を起こさないでいると、ギルが俺の耳元で口を開いた。
「眠いか?」
「んー……うん。気持ちいいし、もう良い時間だし」
「……なら、俺が起こしてやる」
ん? と声に出すか出さないかのタイミングで、ギルの右手がお湯の中で穏やかに揺れる俺の柔らかで柔い場所で遊び始めた。
大人しく、気分良く湯船に浸かり切ったそこを掌中に収め、ごくごく軽く握って優しく、優しく根元から先の方へと撫でる。時折先端付近を親指の腹でくりくりされて、正直極まりないそこがにわかにみなぎり始めた。
ギルの左手が股座に潜り込んで、俺の左足の内腿をくすぐるように触って来るのも良くなかった。ただでさえ緩み切っているのに、湯船の中ということもあって簡単に足が開いて行く。痙攣するように足が小さく引きつってもそれは一瞬に過ぎず、閉じようと緊張しても直ぐに解け、更に外側へと押しやられ、股がどんどん開いて行く。右足は器用に絡め取られていて動けず、俺はギルの腕の中で再び悶えることになった。
「ん、んん」
折角良い感じに寝れそうだったのに、どこがどうしてこうなったんだ?
疑問が浮かぶが、やはり一回じゃ終わらないよな、という諦めが頭を占める。
俺だって嫌じゃないから、こうしてされるがままになっているわけで。
「――タクミ」
「ひ、ぁ」
だから、不意打ちのように名前を呼ばれて、俺の熱は一気に膨れ上がってしまった。
「タクミ?」
笑みを含んだ優しく低い声と、それを紡ぎ出す唇が耳に触れる。ギルが立てた右膝のおかげで肘置きのようになった太ももへ手をやれば、左足までギルの足にすくい取られて、俺はいよいよ観音開きのように足を開かされた。
「や、……っ、ふ、もう終わりじゃ、」
優しい愛撫は気持ちいいばかりで、終わって欲しいとは思えない。それでもそういえば急に話題転換されたなと思い直し、俺は疑問を口にした。
「『タクミ』で仕切り直せ、ってことだろ?」
「ちが、っあん……」
「お前、可愛すぎるんだよ。一回程度じゃ足りない……」
普段は淡々としている声に感情が乗り、ぞくぞくっと腰のあたりで何かがのたくったような感覚に背がしなる。息も絶え絶えに湯船の中は汚すから嫌だしのぼせると告げると、ギルは俺の足を固定していたのをやめて、腰砕けになった俺を風呂用の椅子に座らせた。浴槽の淵にしなだれかかり、呼吸を整える。俺の股間は既にギルの手によって立派に育ち、放つ時を待っていた。
もう自分で触ってしまいたいと思っていると、ギルが液体石鹸を俺にぶっかけた。
「ひゃんっ……!」
冷たいその感覚に、一瞬股間さえも縮みあがりそうになる。
冷静さを取り戻した俺はしっかり目を開けてギルを睨みつけようとしたが、その前に石鹸でぬるぬるの手であちこち触られて、身も蓋もない声が出た。
「あ、ああ……っん……んん、ぁん……」
ぬめりのせいで力強く触れられても痛みは無い。それどころかローションを思い出し、俺の身体は期待に舞い上がった。
ひくん、と窄まりが男を、ギルを求め始める。
椅子に腰掛けていてギルからは見えないはずなのに、ギルはそっと俺の尻の割れ目に指を添わせ、門まで滑り込ませた。
「はああっ! あ、やぁ、」
ぎこちなく腰が揺れ、逃げるように、でもギルが動きやすいようにお尻が持ち上がる。
軽く泡立つ石鹸に助けられてあっさりと俺の中へ潜り込んだ指に、俺はたまらず嬌声をあげた。
「ああんっ、ぁ、あっ、あ、ああああ、」
あっという間に指が増える。一本が二本に、二本が三本に、三本が四本に。
下品なまでに音を立てるそこと快感、そして既に一回終えているということが、理性にしがみつくという選択肢をあっさりと放棄させた。
「ギル、ギルっ……れて、い、れてぇ……!」
既にびくびくとたくさんの指を咥え込んでいる上、前もたっぷりといじられているのに、一度奥で覚えた快感がこっちにも来いと疼いて仕方が無い。
「……言ったな? なら立ってそこに手ついて、ケツ上げてみろ」
ドスのきいたような声に身体が反応する。抑え込まれて求められ、犯されることを思って。
染み付いた感覚から肌が粟立つ。言われた通りに椅子から立ち上がって、今までしなだれかかっていた浴槽の淵に手をつき、ギルへ、飢えにも似た欲望への入り口を差し出した。肘を曲げ、浴槽から溢れるお湯を耳に付けながらギルを振り返ると、ギルは舌なめずりをして俺と目を合わせた。視線が絡み合い、俺の穴にギルの熱の先端が押し当てられ、そのまま滑り込んでくる。
「っ、あぁああああああああぁぁ……っ」
泣き声に近い音が口から勢い良く溢れ出す。気持ち良くて、奥まったところがヒクヒクした。
そこめがけてギルが何度も突いてくる。俺はただただ悦び喘ぎながら、気持ち良くしてくれるギルを締め付けた。
「あんっあんっ、あっ、あっあっ、ああんっ」
激しい律動に腰が痛む。でも、それよりもずっと快感の方が強くて、俺はそのまま激しさに飲まれて一気に絶頂へ飛び上がった。
「あぁあああああ……!」
湯船に頭を突っ込みそうになりながら、もう口からよだれが垂れて行くのもそのままにして、ギルに腰を持たれてかろうじて立っていられるような状態で、俺は股関節も穴もお尻も背中も、いたるところを戦慄かせてイった。
「っ、ぁ、あっ」
痙攣する俺の身体に、違うリズムが響く。俺の中でギルが果て、急速に高まったエネルギーが霧散していく。
少しして落ち着いたらしいギルが、柔らかくなった状態でずるりと出て行った。それから直ぐに、いたわるように俺の腹に手を回して支えながら背中へ唇を寄せてくる。つつ、と舌が背筋を這い上がり、俺は絶命寸前の魚よろしく背を反らした。ぺたんと椅子へ座り込むと、少し腰が痛む。しかしそれを訴えたりするよりも先に、ギルが後ろから、放って置かれたままだった俺の芯を手にかけた。
「あ、ん」
力の入らない身体では全てを受け入れるしか無い。触れられていなかったのに俺の前はだらしなくよだれを垂れ流していて、それを確かめるように小さな鈴口をいじめられて切なく声が出た。
ギルにもたれ、落ち着いた吐息を耳に感じながら喉を震わせる俺の首筋に、ギルが舌を這わせる。少し身体をずらすと顔が近づき、上半身を少しギルの方へひねってそのまま唇を尖らせ、キスをした。
「ん、んっ、んっ」
ギルの肌に触れている部分が石鹸で滑り、触れ合うことでどんどん石鹸が伸びていく。ギルの手淫は激しくなり、ぴたぴた、びちゃびちゃと音が出始めた。
すがるものが欲しくて、俺を支えるギルの手に自分の腕を絡める。唇を触れ合わせたまま、俺は快感の丘から飛び出した。
「ふぁ……!」
下腹部の内側に走る断続的な快感に、反射的に股の間へ目がいった。ギルに握りこまれたものの先端から、そこそこの勢いで白濁色のものが飛んでいく。
俺がもう出ないからと泣きついた後も、ギルは恥ずかしくなる位優しく俺の出涸らしを搾り取った。白いのは勿論、ひたすら先端をこねくり回され、漏らすような感覚を伴う透明のびしゃびしゃの汁まで出させられて、俺は恥ずかしいのと凄まじい倦怠感とで暫くの間膝を抱えて頭をそこへくっつけ、ちょっと泣いてしまった。
ギルは俺を虐めるのも慰めるのも好きらしくて、終始言葉少なにもからかうような謝罪を繰り返しつつ、桶に湯を満たして俺の身体に掛け、掌で摩って石鹸と汚れを落としてくれた。最後にはたっぷりといろんな場所にキスをくれ、俺が顔を上げて唇へのキスを終えると、それが仲直りの合図みたいになった。
まだ少しぼんやりする思考のせいか、ギルがなにくれとなく世話を焼いてくれる。大きなバスタオルの上から俺の水気を払う手は乱暴なところの一つもない。
「一人でできるけど」
「主人に尽くすのが奴隷だろ?」
無抵抗ながらも口先だけでそう言うと、同じく口先だけの殊勝な言葉が返ってきた。なんだか可笑しくて失笑すれば、ギルに両頬を掬い上げるようにして包まれ、額同士がぶつかった。鼻先を擦り付けあって、頬を寄せ合って、まるで動物めいたコミュニケーションに心が満ちていく。
軽いキスが終わると、自然と身体が離れた。俺はシャツを、ギルは半パンを身につける。軽く脱衣所全体に目を向けると、棚の中にボトルが数本置かれているのが見えた。石鹸はともかく、アルカディアにはシャンプーやトリートメントといった類のものはない。その分油関係は充実しているので、脱衣所にあるということを考えてもまあ油だろう。勿論身体に付けても問題ないよう作られているもの。
インドのテラピーには様々な油によるアーユルヴェーダとかいう施術があるという。アルカディアでもマッサージには香りや肌に良い油をぬるらしいし、それでなくとも石鹸で落ちすぎた油分を補完するためにか、はたまた保湿のためなのか、風呂上がりに油を塗るのも一般的らしい。現に宿にも置いてあったし。
俺の中であまり習慣づいていないのは、風呂上がりにたっぷり致す流れになることが少なくなく、触り合いだけでもギルが情け容赦なく香油を使うせいだ。おかげでそういうものを見ると不健全なことばかりが頭をよぎるからギルには本当に責任を取ってもらいたい。
まあそれはそれとして、今は思い切り事後なわけで。
たまには普通の、本来の使い方をするのもいいだろう。
そう思いつつ棚の方へ足を向け、ラベルを確認する。
「これ……髪用……」
手にとって蓋を開ける。柑橘系の良い香りが鼻腔をくすぐった。
幾つかそうやって中身を確認するも、お目当てのものは見当たらなかった。
「迷ってるのか?」
「あ」
一通りかいでみてギルに合うのはどれかと考えていると、ギルもボトルを手に取り中を確認し始めた。
「お前はこれだな」
素早く匂いを比べたギルは、水色のボトルを渡してきた。ジャスミンカモミールと書かれたラベルのものだ。ほっとするような柔らかな匂いがするもの。
「じゃあ、ギルはこっち」
普段のギルの匂いは、山椒みたいなピリッとした感じのものだ。だから、俺はシダーウッドと書かれたラベルのボトルを突きつけた。良い匂いは良い匂いなのだが、なんかこう、「木!」感溢れる甘みの少ない香りがする。
元々明日は休みのつもりでいたから、この位のことは構わないだろう。
ギルが嫌がらないことを良いことに、俺は未だ取れない倦怠感に抗いながら、ギルの髪に香油を染み込ませた。
翌日目が覚めると、気分は晴れやかだった。ちょっと腰が痛いが、辛いほどじゃない。後でシズに手を当ててもらって癒してもらおう。
そう思いつつ、寝返りを打ってギルの方へ向き直る。
レース越しとは言え、朝日が入り込んで部屋の中は明るいものだ。シーツの白が眩しく、けれど熱いほどではない日の光にカーテンを閉めに行く気にはなれなかった。
ギルの褐色の肌と黒の髪が綺麗に光っているのに魅入る。石鹸の良い匂いがした。
ゆっくりと深呼吸をして香りを楽しんでいると、ギルが静かに目を開けた。
「おはよ」
「……ん」
寝起きのようなのに声はしっかりとしていて、瞼もぱっちり開いている。横向きに寝ている俺にギルが被さってきて、優しくその手が動くのに目を閉じた。直ぐにキスがやってきて、そのあと頭をわしわしと撫でられる。
「起きるか」
「んー……あ、あー、お腹減った……シズ、起きてるかな」
幼い頃からずっと奴隷だったというシズの朝はとても早い。昨日の酒は上手く出て行っただろうかと思いながら身を起こすと、ノックの音が響いた。
「はーい」
「シズです。お水をお持ちしました。入ってもいいですか?」
「どうぞー」
噂をすればなんとやら。少しずつ言葉遣いを改めたシズの物腰は、言葉の通りに落ち着き始めている。良い傾向だ。
部屋に入ってきたシズに礼を言って、水で喉を潤し、手当てを頼む。何も含ませることなく「かしこまりました」と笑みを浮かべるシズをありがたく思いながら、手早く着替えるギルを眺めた。
「そういえば、下にお客さまがいらしてます」
「ウィズワルドの?」
「はい。でも、ヒューイさまにお会いしたいとのことで」
「へ? 俺?」
「はい。随分朝早くにいらっしゃいました。どうも鍵をお持ちのようで、僕が朝の支度をしていたら、急に」
心当たりがなく首を傾げたが、このホームの鍵を持っている人物といえば非常に限られている。俺とウィズワルドには空白の時間があるとはいえ、俺の存在を知っていてウィズワルドの知り合いで、鍵を持っているとなると心当たりはゲイルしかいない。でも、ゲイルはマルスィリアに居るはず。なにか火急の用でもできたのだろうか?
「ん、じゃあ降りる」
シズの『癒し手』により軽くなった腰を確認して、服を身につける。ギルは既に武器の装着まで済ませていたが、俺は武器らしい武器は持たなくても良いので着替えるだけだ。
欠伸をしながら着替えを済ませ、髪を軽く手櫛で整え、シズの持ってきた暖かい濡れタオルで顔を拭く。それでついでにギルの顔も拭いて、三人で階段を降りた。
階段を降りて直ぐは廊下になっているから、恐らく客がいるのだろうリビングの方へ移動する。シズが扉を開けて俺が部屋の中へ入ると、客だという見慣れないその人物はソファにどっかと座ったまま首だけをひねってこちらを見、
「よ! 久しぶりだなあ、タク!」
……懐かしくて涙が出そうなほど変わらない態度で片手を上げた。
ベタつきを払い夢路を歩こうとする身体を、ギルの優しい後戯が引き止めていた。
肌の上をギルの手が穏やかに滑って行く。ヒューイ、と甘く囁かれながら耳たぶを食まれて、俺は寝ぼけたような声を出してギルの口から顔を離した。いい感じに終われそうなのに、好きにさせてたらまた始まりそうだし。
「ギル」
「ん」
「巧」
「ん?」
「俺の、ほんとの名前」
これはトップシークレット、機密情報だから絶対内緒で。
そう付け加えつつも、ギルには俺の意図するところがわかったらしい。
「タクミ」
ヒューイ、と口にする時と同じように甘い声でそれを紡ぎ出す。
指を絡めて手を繋ぎ合わせ、ギルの親指が俺の親指の背を撫でる。何度も軽く啄むようなキスを繰り返していると、ギルがおもむろに身体を寄せて来た。そのまま、下へとずれて行く。
「ん……」
乳首をかすめるようにしながら唇がヘソの方へ下りてゆき、さり気なく腰をひねって逃げると、ギルは手を放した。
「風呂、入るか」
「……? う、うん? 今から?」
「絶対最初に入るとか言ってたろ」
そうだけど。
ウィズワルドは俺の好みをばっちり把握していて、広く立派な浴槽のある、旅館情緒溢れる風呂場を設えてくれたのだ。所謂檜風呂である。
俺はその風呂を非常に楽しみにしていた。もはや清潔さを保つとかはついでで、風呂に入ることで心身共に解され、癒されるのが目的だ。公衆浴場は尻込みしてしまうから、個人向けの風呂場は本当に、本当にありがたい存在なのだ。
「でも、遠くない? 一旦一階に降りないといけないし……ウィズワルドがまだ寝てるかもしれないし」
アドルフも起こしたくは無い。
決して風呂に入りたくないわけじゃ無いということをぐだぐだ言ってると、ギルはさっさと部屋着として調達した半パンを履くと、俺に自分のシャツを巻きつけ、ひょいと抱え上げた。――横抱きで。
「っわ、あ」
「じっとしとけよ。あと気配も消せ」
何が悲しくてホームの中で気配なんぞ消さなくてはいけないのだろうか。
そう思いつつも、風呂場まで移動する気満々のギルは既に歩き始めていて、俺は黙って『隠密』のスキルを発動させた。
ギルは流石と言うべきか、静かに扉を開閉すると、殆ど音を立てることもなく滑るように階下へ降り立った。俺へ配慮してくれているのか、滑らかな移動は尻や腰に響くこともなく、ただぎゅっとしがみついているのが気恥ずかしいくらいで、負担なんて全くなかった。
一応歴戦の冒険者であるところのウィズワルドがまだソファで眠っているのを一瞥し、ギルはこそこそすることもなく――気配を消している時点でこそこそしているのだが――アドルフがそっと前足に顎を乗せたまま目を開けたのを軽く制しただけで、俺たちは無事に風呂場の手前にある脱衣所にたどり着くことができた。ホーム内の移動だし敵意があるわけでもないからウィズワルドを起こさずに済んだのだろうが、それにしても能力の無駄遣いここに極まれりである。
そうっと降ろされ、床に足を着ける。
一応、ホーム内はそれほど声が通るようにはなっていない。工房や鍛治場などを併設できるよう、各部屋ごとに防音が施されているのだ。周辺住民の迷惑にもなるし。だから脱衣所の扉を閉めた時は詰めていた息が声とともに一気に出て行った。
いわゆる彼シャツなる状態で下半身出しっ放しで、いくらギルの方が体躯が良いとは言っても、横抱きにされれば角度によっては陰部が丸見えになるのだ。百歩譲って前はかくれるとしても、つい先ほどまでギルの欲望を受け止めていたはしたない部分はモロ出しになるわけで。
前を晒すより後ろが見える方が恥ずかしいなんて俺も来るところまで来たな!
半ば自棄になりながら包まるだけだったギルのシャツを籠へ入れ、同じくラフなハーフパンツを脱ぐだけだったギルと一緒に風呂場へ足を踏み入れた。
ウィズワルドによると、このホームの風呂場の湯はやはり循環していて、24時間いつでも沸かしたてが楽しめるそうだ。温泉の掛け流し風スタイルになっているが実際に温泉の効能はなく、スイッチ一つで循環を止めて排水することもできる。もし薬湯が良いのであれば好きな成分を混ぜていいとのことだから、ここで色々試させてもらうことにして自分のホームを持った時に応用しようと思っていた。
既に清めた身体だが掛け湯をして湯船に身体を沈める。ギルも直ぐに入って来て、まだ身体の重い俺を支えるようにして、人間背もたれを買って出てくれた。
はあ、ともふう、ともつかない息が漏れ、自然と呼吸が深くなる。最高に気持ちいいのは、少しだけ身体が冷えていたせいなのかもしれない。
至高の心地良さに目を閉じると、ギルがじゃれつくように俺のうなじに唇を押し付けて来た。首を傾け、されるがままになる。シートベルトよろしく腹に回されていた両手は、後戯の延長のように優しい動作で俺の身体を這い回った。
「……」
それにしても。
行為の後ながらそこそこ動けるせいだろうか。なんか乳首がむず痒い。揺れる水面が肌を撫でて、それがくすぐったいような、甘く、愛撫のような快感を生み出して、俺の体内へ浸透してくる。
まずいな、と思いつつも行動を起こさないでいると、ギルが俺の耳元で口を開いた。
「眠いか?」
「んー……うん。気持ちいいし、もう良い時間だし」
「……なら、俺が起こしてやる」
ん? と声に出すか出さないかのタイミングで、ギルの右手がお湯の中で穏やかに揺れる俺の柔らかで柔い場所で遊び始めた。
大人しく、気分良く湯船に浸かり切ったそこを掌中に収め、ごくごく軽く握って優しく、優しく根元から先の方へと撫でる。時折先端付近を親指の腹でくりくりされて、正直極まりないそこがにわかにみなぎり始めた。
ギルの左手が股座に潜り込んで、俺の左足の内腿をくすぐるように触って来るのも良くなかった。ただでさえ緩み切っているのに、湯船の中ということもあって簡単に足が開いて行く。痙攣するように足が小さく引きつってもそれは一瞬に過ぎず、閉じようと緊張しても直ぐに解け、更に外側へと押しやられ、股がどんどん開いて行く。右足は器用に絡め取られていて動けず、俺はギルの腕の中で再び悶えることになった。
「ん、んん」
折角良い感じに寝れそうだったのに、どこがどうしてこうなったんだ?
疑問が浮かぶが、やはり一回じゃ終わらないよな、という諦めが頭を占める。
俺だって嫌じゃないから、こうしてされるがままになっているわけで。
「――タクミ」
「ひ、ぁ」
だから、不意打ちのように名前を呼ばれて、俺の熱は一気に膨れ上がってしまった。
「タクミ?」
笑みを含んだ優しく低い声と、それを紡ぎ出す唇が耳に触れる。ギルが立てた右膝のおかげで肘置きのようになった太ももへ手をやれば、左足までギルの足にすくい取られて、俺はいよいよ観音開きのように足を開かされた。
「や、……っ、ふ、もう終わりじゃ、」
優しい愛撫は気持ちいいばかりで、終わって欲しいとは思えない。それでもそういえば急に話題転換されたなと思い直し、俺は疑問を口にした。
「『タクミ』で仕切り直せ、ってことだろ?」
「ちが、っあん……」
「お前、可愛すぎるんだよ。一回程度じゃ足りない……」
普段は淡々としている声に感情が乗り、ぞくぞくっと腰のあたりで何かがのたくったような感覚に背がしなる。息も絶え絶えに湯船の中は汚すから嫌だしのぼせると告げると、ギルは俺の足を固定していたのをやめて、腰砕けになった俺を風呂用の椅子に座らせた。浴槽の淵にしなだれかかり、呼吸を整える。俺の股間は既にギルの手によって立派に育ち、放つ時を待っていた。
もう自分で触ってしまいたいと思っていると、ギルが液体石鹸を俺にぶっかけた。
「ひゃんっ……!」
冷たいその感覚に、一瞬股間さえも縮みあがりそうになる。
冷静さを取り戻した俺はしっかり目を開けてギルを睨みつけようとしたが、その前に石鹸でぬるぬるの手であちこち触られて、身も蓋もない声が出た。
「あ、ああ……っん……んん、ぁん……」
ぬめりのせいで力強く触れられても痛みは無い。それどころかローションを思い出し、俺の身体は期待に舞い上がった。
ひくん、と窄まりが男を、ギルを求め始める。
椅子に腰掛けていてギルからは見えないはずなのに、ギルはそっと俺の尻の割れ目に指を添わせ、門まで滑り込ませた。
「はああっ! あ、やぁ、」
ぎこちなく腰が揺れ、逃げるように、でもギルが動きやすいようにお尻が持ち上がる。
軽く泡立つ石鹸に助けられてあっさりと俺の中へ潜り込んだ指に、俺はたまらず嬌声をあげた。
「ああんっ、ぁ、あっ、あ、ああああ、」
あっという間に指が増える。一本が二本に、二本が三本に、三本が四本に。
下品なまでに音を立てるそこと快感、そして既に一回終えているということが、理性にしがみつくという選択肢をあっさりと放棄させた。
「ギル、ギルっ……れて、い、れてぇ……!」
既にびくびくとたくさんの指を咥え込んでいる上、前もたっぷりといじられているのに、一度奥で覚えた快感がこっちにも来いと疼いて仕方が無い。
「……言ったな? なら立ってそこに手ついて、ケツ上げてみろ」
ドスのきいたような声に身体が反応する。抑え込まれて求められ、犯されることを思って。
染み付いた感覚から肌が粟立つ。言われた通りに椅子から立ち上がって、今までしなだれかかっていた浴槽の淵に手をつき、ギルへ、飢えにも似た欲望への入り口を差し出した。肘を曲げ、浴槽から溢れるお湯を耳に付けながらギルを振り返ると、ギルは舌なめずりをして俺と目を合わせた。視線が絡み合い、俺の穴にギルの熱の先端が押し当てられ、そのまま滑り込んでくる。
「っ、あぁああああああああぁぁ……っ」
泣き声に近い音が口から勢い良く溢れ出す。気持ち良くて、奥まったところがヒクヒクした。
そこめがけてギルが何度も突いてくる。俺はただただ悦び喘ぎながら、気持ち良くしてくれるギルを締め付けた。
「あんっあんっ、あっ、あっあっ、ああんっ」
激しい律動に腰が痛む。でも、それよりもずっと快感の方が強くて、俺はそのまま激しさに飲まれて一気に絶頂へ飛び上がった。
「あぁあああああ……!」
湯船に頭を突っ込みそうになりながら、もう口からよだれが垂れて行くのもそのままにして、ギルに腰を持たれてかろうじて立っていられるような状態で、俺は股関節も穴もお尻も背中も、いたるところを戦慄かせてイった。
「っ、ぁ、あっ」
痙攣する俺の身体に、違うリズムが響く。俺の中でギルが果て、急速に高まったエネルギーが霧散していく。
少しして落ち着いたらしいギルが、柔らかくなった状態でずるりと出て行った。それから直ぐに、いたわるように俺の腹に手を回して支えながら背中へ唇を寄せてくる。つつ、と舌が背筋を這い上がり、俺は絶命寸前の魚よろしく背を反らした。ぺたんと椅子へ座り込むと、少し腰が痛む。しかしそれを訴えたりするよりも先に、ギルが後ろから、放って置かれたままだった俺の芯を手にかけた。
「あ、ん」
力の入らない身体では全てを受け入れるしか無い。触れられていなかったのに俺の前はだらしなくよだれを垂れ流していて、それを確かめるように小さな鈴口をいじめられて切なく声が出た。
ギルにもたれ、落ち着いた吐息を耳に感じながら喉を震わせる俺の首筋に、ギルが舌を這わせる。少し身体をずらすと顔が近づき、上半身を少しギルの方へひねってそのまま唇を尖らせ、キスをした。
「ん、んっ、んっ」
ギルの肌に触れている部分が石鹸で滑り、触れ合うことでどんどん石鹸が伸びていく。ギルの手淫は激しくなり、ぴたぴた、びちゃびちゃと音が出始めた。
すがるものが欲しくて、俺を支えるギルの手に自分の腕を絡める。唇を触れ合わせたまま、俺は快感の丘から飛び出した。
「ふぁ……!」
下腹部の内側に走る断続的な快感に、反射的に股の間へ目がいった。ギルに握りこまれたものの先端から、そこそこの勢いで白濁色のものが飛んでいく。
俺がもう出ないからと泣きついた後も、ギルは恥ずかしくなる位優しく俺の出涸らしを搾り取った。白いのは勿論、ひたすら先端をこねくり回され、漏らすような感覚を伴う透明のびしゃびしゃの汁まで出させられて、俺は恥ずかしいのと凄まじい倦怠感とで暫くの間膝を抱えて頭をそこへくっつけ、ちょっと泣いてしまった。
ギルは俺を虐めるのも慰めるのも好きらしくて、終始言葉少なにもからかうような謝罪を繰り返しつつ、桶に湯を満たして俺の身体に掛け、掌で摩って石鹸と汚れを落としてくれた。最後にはたっぷりといろんな場所にキスをくれ、俺が顔を上げて唇へのキスを終えると、それが仲直りの合図みたいになった。
まだ少しぼんやりする思考のせいか、ギルがなにくれとなく世話を焼いてくれる。大きなバスタオルの上から俺の水気を払う手は乱暴なところの一つもない。
「一人でできるけど」
「主人に尽くすのが奴隷だろ?」
無抵抗ながらも口先だけでそう言うと、同じく口先だけの殊勝な言葉が返ってきた。なんだか可笑しくて失笑すれば、ギルに両頬を掬い上げるようにして包まれ、額同士がぶつかった。鼻先を擦り付けあって、頬を寄せ合って、まるで動物めいたコミュニケーションに心が満ちていく。
軽いキスが終わると、自然と身体が離れた。俺はシャツを、ギルは半パンを身につける。軽く脱衣所全体に目を向けると、棚の中にボトルが数本置かれているのが見えた。石鹸はともかく、アルカディアにはシャンプーやトリートメントといった類のものはない。その分油関係は充実しているので、脱衣所にあるということを考えてもまあ油だろう。勿論身体に付けても問題ないよう作られているもの。
インドのテラピーには様々な油によるアーユルヴェーダとかいう施術があるという。アルカディアでもマッサージには香りや肌に良い油をぬるらしいし、それでなくとも石鹸で落ちすぎた油分を補完するためにか、はたまた保湿のためなのか、風呂上がりに油を塗るのも一般的らしい。現に宿にも置いてあったし。
俺の中であまり習慣づいていないのは、風呂上がりにたっぷり致す流れになることが少なくなく、触り合いだけでもギルが情け容赦なく香油を使うせいだ。おかげでそういうものを見ると不健全なことばかりが頭をよぎるからギルには本当に責任を取ってもらいたい。
まあそれはそれとして、今は思い切り事後なわけで。
たまには普通の、本来の使い方をするのもいいだろう。
そう思いつつ棚の方へ足を向け、ラベルを確認する。
「これ……髪用……」
手にとって蓋を開ける。柑橘系の良い香りが鼻腔をくすぐった。
幾つかそうやって中身を確認するも、お目当てのものは見当たらなかった。
「迷ってるのか?」
「あ」
一通りかいでみてギルに合うのはどれかと考えていると、ギルもボトルを手に取り中を確認し始めた。
「お前はこれだな」
素早く匂いを比べたギルは、水色のボトルを渡してきた。ジャスミンカモミールと書かれたラベルのものだ。ほっとするような柔らかな匂いがするもの。
「じゃあ、ギルはこっち」
普段のギルの匂いは、山椒みたいなピリッとした感じのものだ。だから、俺はシダーウッドと書かれたラベルのボトルを突きつけた。良い匂いは良い匂いなのだが、なんかこう、「木!」感溢れる甘みの少ない香りがする。
元々明日は休みのつもりでいたから、この位のことは構わないだろう。
ギルが嫌がらないことを良いことに、俺は未だ取れない倦怠感に抗いながら、ギルの髪に香油を染み込ませた。
翌日目が覚めると、気分は晴れやかだった。ちょっと腰が痛いが、辛いほどじゃない。後でシズに手を当ててもらって癒してもらおう。
そう思いつつ、寝返りを打ってギルの方へ向き直る。
レース越しとは言え、朝日が入り込んで部屋の中は明るいものだ。シーツの白が眩しく、けれど熱いほどではない日の光にカーテンを閉めに行く気にはなれなかった。
ギルの褐色の肌と黒の髪が綺麗に光っているのに魅入る。石鹸の良い匂いがした。
ゆっくりと深呼吸をして香りを楽しんでいると、ギルが静かに目を開けた。
「おはよ」
「……ん」
寝起きのようなのに声はしっかりとしていて、瞼もぱっちり開いている。横向きに寝ている俺にギルが被さってきて、優しくその手が動くのに目を閉じた。直ぐにキスがやってきて、そのあと頭をわしわしと撫でられる。
「起きるか」
「んー……あ、あー、お腹減った……シズ、起きてるかな」
幼い頃からずっと奴隷だったというシズの朝はとても早い。昨日の酒は上手く出て行っただろうかと思いながら身を起こすと、ノックの音が響いた。
「はーい」
「シズです。お水をお持ちしました。入ってもいいですか?」
「どうぞー」
噂をすればなんとやら。少しずつ言葉遣いを改めたシズの物腰は、言葉の通りに落ち着き始めている。良い傾向だ。
部屋に入ってきたシズに礼を言って、水で喉を潤し、手当てを頼む。何も含ませることなく「かしこまりました」と笑みを浮かべるシズをありがたく思いながら、手早く着替えるギルを眺めた。
「そういえば、下にお客さまがいらしてます」
「ウィズワルドの?」
「はい。でも、ヒューイさまにお会いしたいとのことで」
「へ? 俺?」
「はい。随分朝早くにいらっしゃいました。どうも鍵をお持ちのようで、僕が朝の支度をしていたら、急に」
心当たりがなく首を傾げたが、このホームの鍵を持っている人物といえば非常に限られている。俺とウィズワルドには空白の時間があるとはいえ、俺の存在を知っていてウィズワルドの知り合いで、鍵を持っているとなると心当たりはゲイルしかいない。でも、ゲイルはマルスィリアに居るはず。なにか火急の用でもできたのだろうか?
「ん、じゃあ降りる」
シズの『癒し手』により軽くなった腰を確認して、服を身につける。ギルは既に武器の装着まで済ませていたが、俺は武器らしい武器は持たなくても良いので着替えるだけだ。
欠伸をしながら着替えを済ませ、髪を軽く手櫛で整え、シズの持ってきた暖かい濡れタオルで顔を拭く。それでついでにギルの顔も拭いて、三人で階段を降りた。
階段を降りて直ぐは廊下になっているから、恐らく客がいるのだろうリビングの方へ移動する。シズが扉を開けて俺が部屋の中へ入ると、客だという見慣れないその人物はソファにどっかと座ったまま首だけをひねってこちらを見、
「よ! 久しぶりだなあ、タク!」
……懐かしくて涙が出そうなほど変わらない態度で片手を上げた。
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