不足の魔女

宇野 肇

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2幕: 黒金のカドゥケウス

烏は現世の果てで充足を知る(5)

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「冗談よ。……それで、どうする?」
「どう、とは」
「禁断症状を抑えることは大事なことよ。精神的な安定は自制心には欠かせないものだわ。単純に、イライラしたり、焦燥感に駆られたりというのは精神衛生上よくないしね」
「……いただけるのでしたら、エルの魔力をいただけたら、と思いますが」
 というか、それしかない気がする。外で適当に満たして来いと言われても魔族奴隷が拘束具や主抜きに気軽に外を歩けるわけがない。
「そこは私もかまわないんだけどね、この本の情報が全てではないのよ。ある程度、例えばバジリスクの石化だとか、悪魔の吸血行為とかはまあ大体事実だと認めてもいいんだけど、魔力を食べることが本当に吸血や性行為の代わりになるのかは分からないでしょう?」
「あ……」
「満たされているようでも、衝動というのはあるものだわ。行為を伴ってこそのものであれば、魔力を直接食べたって対して意味はないことになる」
 では、どうすればいいのか? 結局、やはり試してみるしかないのだろうか?
「……でも、まずは食事から……それを試してみる価値はあると思います」
「そうね。経過を見て考えるのがいいでしょうね」
 恐る恐る、彼女の顔色をうかがうようにそう申し出ると、おれの言葉はあっさりと採用された。……もし食事で代用できなければ。まだそれは考えたくなかった。

 エルとの『答え合わせ』の後、腹が減ったと起きてきたリオンにエルが久しぶりに朝食を宙から出して振る舞い、おれの種のこと、リオンの種のことを語った。おれたちよりもエルの推測の方がきっと正しいだろうと思えるのは、おれたちがまだものを知らないからだ。自分の出自も分からない以上は探り探り生きるしかない。きっと、こんな余裕があるのはおれたちくらいだろうとも思う。贅沢な悩みというやつだ。
 それと、久しぶりのエルのご飯はたまらなく美味しかった。なぜかは、ちょっとまだ考えたくない。不思議な空腹感はエルの魔力で収まりを見せた。これが答えのような気がする。


 魔力操作や体術の訓練と、家事と、座学は順調だった。おれは体術はあまり向いてないようで、途中から魔力操作に比重を置いた。座学は人間側の一般常識よりも、魔族――もとい、自分たちの生態について考えることが増えた。自分一人では行き詰まるから、お互いにお思うところを言いあったりする。日記には、体調について必ず書くようになった。
 そうして、日々はつつがなく、また穏やかに過ぎて行くように思われた。
 エルの言ったことを忘れたつもりはなかった。ただ、考えることを避けていただけで。
 もう少しきちんと向き合っていれば、と思うのだけど、それは後悔でしかなかった。
 抗い難い衝動と強烈な快楽に、おれはひたすら無防備で、だから――
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