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本編
営業日:法人営業、新規契約
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現在の聖騎士は大きく二つの組に分かれている。
一つは白騎士と呼ばれる、従来通り広く知られた聖教会の顔である騎士たちで構成されるもの。長い間、それこそ勇者の存命した頃からずっと魔族の殲滅を掲げ、そして見事にそれを果たした集団だ。厳しい規律を守り、人類の模範たれと在る高潔な存在。悪を打ち払う聖なる剣。……もっとも、その功績のおかげで殆ど全ての魔族を殺し尽くした今は、そんな英雄じみたことはできなくなったが。
もう一つは黒騎士と呼ばれる、魔族の研究を行い、我々人類の生活をより豊かにしていこうという、いわば魔族と迎合する集団だ。迎合と言っても仲良くしようというわけじゃない。いわばビジネスライクに、取引を行い、彼らの生態を調べ、時にはサンプルを採集させてもらい、有用であれば命を狩らぬよう取り計らう代わりに『協力』を要請するというのが主な任務だ。その性質上、白騎士からは軽んじられているし、実質雇われの傭兵みたいなものであることは否めない。利点らしい利点といえば、聖教会の教徒でありながら規律を破れるということに尽きる。非常に特殊な立場なのだ。
魔族が非協力的だった場合の対処は黒騎士に一任されているが、まあ、敵対された場合は速やかに抹殺する、というのが通例となっている。対魔族への攻撃方法は数あれど、未だに聖教会で作り出される聖水は効果が保障されているため、対処は困難ではないことも大きい。白騎士は勿論、黒騎士も聖水を携帯することができ、今では聖教会の教えを広める宣教師へ変わりつつある白騎士よりも、黒騎士の方が聖水を行使する機会が多いという有様だ。力を失った魔族にとって、脅威なのはもはや白騎士よりも黒騎士なのかもしれない。殆ど俺たちに強請られ、集られているようなものだから。
俺は、黒騎士に属する人間だ。先の戦争で親を失い、聖教会管轄の孤児院で育った。戦争孤児には似合いの職業だと思っている。
魔族が聖教会発祥の地より駆逐されたことで、教会は魔族を追いかけるようにしてその行動範囲を広げ続けてきた。そして、血眼になって魔族を血祭りに上げてきた甲斐あって、魔族が激減したことで自らの立場が危うくなったことに気付いたのだ。直接人類に害為す存在が絶えれば、聖騎士もまたその役目を終える。彼らが掲げるその理念さえも、平和になったこの時代には不要と、消えていくということを。
勇者が魔王を払ってもう何百年と経つが、世界は平和なものだ。平和故に人同士の諍いが絶えないくらいだ。まだ魔族に対抗すべく手に手を取り合えていた頃の方が良かったのではと思える。なんとまあ救いのないことかと思うが、生き物というのは増えれば増えた分だけ、争わずにはいられないものなのだろう。
それはそれとして。
であるから、聖教会は禁書扱いになっていた魔族の詳細について記された本を紐解き、彼らと接する役割を騎士たちに与えた。それが黒騎士で、白騎士は黒騎士を下に見ているが、公にされていないだけで黒騎士も聖教会公認の集団だ。聖教会は表向きは魔族は悪であるとしながら、同時に、彼らを知りつくし、利用しようと考えたのだ。
果たして白騎士は聖教会の志の布教のため、黒騎士は今や辺境へ逃れたと思しき魔族へ接触する為に、どんな世界の片隅であろうが派遣されている。いや、片隅だからこそ探し求めているというべきか。
俺が派遣されたのは島国だった。海を隔てている所為か独特の文化を形成してきたこの国に来て数年経つが、驚かされるところが多い。聖教会では禁忌とされていることが広く受け入れられているのだ。司祭様から命を受けて国からやってきた俺には刺激的にもほどがあった。
黒とはいえ一応聖騎士である以上、俺も聖教会色に染まっている。元々その教えで育ち、その上で黒騎士として、魔族に関わるために時に規律を破らねばならない心構えや訓練を受けたのだから当然だ。それでもここへ来た当初は困惑以上に、理解の許容を越えたことに対して嫌悪を抱いたものだった。
けれど、それは月日が経つごとに徐々に薄れてきた。彼らは彼らで受け継いできたものを大事にしているだけなのだ。聖教会が広がりを見せたことでこの国も徐々に変わりつつあるが、彼らは別に俺達よりも下等なわけでも野蛮なわけでもない。いや、そう思う部分はあるが、なんというか、そこに彼らの良さがあるのだと、俺に教えてくれた人がいたのだ。
その人はこの国で長らく研究をしているという男性だった。俺よりずっと歳の行ったその男はフェルディナンドと名乗り、歳の割には若い姿をしていたが、この国の魔族についてずっと調べていたとあって様々なことを知っていた。彼の調査結果は膨大な量となっており、本と言う形で残されていたその書物の価値がどれほど高いかなど、俺でなくとも分かることだった。
方々手を尽くして全く魔族と接触できないことに気落ちしていた俺は、彼の知識に随分と助けられた。黒騎士は成果を上げなければ叩き出される儚い身分なのである。
この国へ来たばかりでまだ何の収穫もなく、また風土にも慣れていなかった俺がその男に協力を求めたのは当然の流れだった。
彼にはとても世話になった。どういう行動を取れば角が立つのか、住んでいないと分かりにくい独特の価値観や宗教観。その流れがどこから来ているのかということなど、彼に教えてもらった。まあ、俺に手を貸していいか調べると言って身体をくまなく触られたのはなんというか、ある種恐怖だったが。彼は俺に『下手に出る』ことを教えるとかなんとか言っていたが、あれは多分同性愛者だろう。そうでなければ男の肉体というものに、何か芸術的価値を見出しているかなにかだ。俺とは相容れない。残念に思えばいいのか安堵すればいいのか微妙なところだが、損得勘定をすればかなりのプラスであることは間違いなく、俺は彼の不埒な手を耐えた。それで大分忍耐強くなったのは思わぬ収穫だったなどと言えるようになった今、俺もなかなか成長したのではないだろうか。白騎士であればきっととうに逃げ出していたに違いない。俺は自分を誇りたい。
思わぬ『修行』にも耐え抜き彼に合格だと言われた後は、どこそこへ向かえばどんな魔族がいる、という情報を教えてもらえた……まではよかったのだが、彼が知る魔族と言うものは、魔族側の意志によって接触できるか否かが決まってしまうものらしい。つまりどんなに切望しようが魔族たちに気に入られなければ、その場所へ向かっても空振りに終わるというのだ。それまで手がかりこそ数多あれど実際に魔族に出会うことが無かった理由が分かり、俺は落胆した。
しかも悪いことには、フェルディナンドによれば、ひっそりと暮らす魔族のほぼすべてが聖教会、特に実際に力を行使する聖騎士を嫌い、恐怖し、あるいは怯えているというのだ。魔族は人の欲を見透かすことが出来るらしく、特に昔に比べ弱体化した今は己と敵対する者に対しては敏感なのだという。つまり、騎士である以上接触はほぼ不可能。俺は立ち行かなくなったことに焦りを覚えた。
そんな俺に、フェルディナンドは一つ、良いことを教えてくれた。とある魔族なら、あるいは会うことが出来るかもしれないと言うのだ。その魔族と言うのは淫魔の一人で、特に弱いから怯えも一層大きいが、人を唆そうともしないし、こちらに敵意が無く、武器の類を持たず、欲に素直であれば受け入れてくれる可能性が高いのだと。
俺はそれに賭けた。すでに年単位で収穫がなく、教会の支援を打ち切られて久しかったからだ。他の国へ行った黒騎士たちは上手い具合に接触できているらしく、俺は焦っていた。
そうして言われた通りの場所へ赴き、山へ入る前にと麓の村で情報収集をしたところ、件の淫魔はどうも『カミ』――この国には八百万の神がいるという考えがあり、時として人の魂も神となることがあるらしいのだが、聖教会の言う勇者と聖女に加護をあたえたという我らが唯一の神や聖霊とは根本から異なる存在である――として崇められていた。
一応フェルディナンドから『風変わり』であることは知らされていたものの、まさか魔族が人助けをしているとは露ほどにも思っておらず、しかし今までよりもずっと手応えのあるその情報に俺は舞い上がった。
しかもその村には淫魔から貰い受けたというサクマの実なるものが成る木があり、俺はそれを見させてもらったのだが、それはとんでもない代物だったのだ。
エリクサーの元になる生命の実。古い書物に勇者たちを癒したものとして記された、伝説の実、そのものだったからだ。それが、何の変哲もない民家の裏手に、たわわに実っていたからだ。一つ食わせてもらったが、既に長い付き合いになる重い疲労感がなくなり、その効果は真実だったのだと身を持って知った。
詳しい話を聞くと、その木はその家の前の代の男兄弟二人がサクマさま――件の淫魔から種を貰い、それを育てたものだったそうだ。実はそれを受け継いだ者しか収穫出来ない特別なものだという。盗んだ先から腐り落ちるんだそうだ。枝を持ち去っても同じこと。そこからは何も育たないのだという。だから厳重な管理など必要ないのだと、その家の今の主はそう言っていた。
それにしても、何気無く家の裏手に生えているだけの木が伝説のそれだとは誰も思うまい。俺は三つほど譲って貰い厳重に保管したが、まさか淫魔がそんなものを持っているとは!
これはかなりいい案件になるに違いない。俺も是非助けてもらおうじゃないかと、白昼堂々、勇み足で件の山へと分け入ったのは当然の流れだった。
「なるほどねえ。聖教会も一枚岩じゃなくなったんだ。ありがとね、ここにいるとそういう話殆ど聞かないから助かっちゃった」
――と、いうようなことを、俺は淫魔とそのしもべである二匹の魔獣を前に、洗いざらい白状させられていた。
目印は満開の桜の木ということでそれを目指していたのだが、それが見えたと思うと同時に、目の前に立ちはだかった二匹の巨大な魔獣を前に、俺は情けない話、腰が抜けかけた。
散々魔族を追いやって殺してきた挙句の時代に生きる俺たちは、殆ど実践経験がないのだ。そもそも寿命らしい寿命のない魔族と関わりを持とうとし、実際に組織として動いている時点で俺たちの技量など知れている。そのくせどこか魔族を見下して勝気でいた。そのことを嫌でも思い知らされた。
淫魔は二匹の魔獣に比べてちんまりとしたものだったが、そもそもがただの動物だったという二匹を、大の男でも見上げるほどの魔獣に育て上げたのだから上下関係は明白。言葉一つで俺を殺すこともできる相手に交渉というのもおこがましく、俺は大人しく事情を話し、協力を要請、というよりはご助力いただけませんでしょうかと腰を低くしなければならなかった。
ここまで大きな魔獣を二匹も従えるほどだ、外見からは全く勝てる気しかしないが、淫魔の力はかなり強大に違いない。上手く行けば昇格か、もしくはそこまで行かなくとも多額の報酬がでるだろうが、しくじれば死ぬし、それでなくとも淫魔の機嫌を損ねればどうなるか。あるいは騎士を辞め、後ろ指をさされ続ける人生が待っているだろう。
萎縮する俺に、少年の姿をした淫魔は無邪気に話しかけてきた。
「僕としても殺されないで済むならそれがいいや。でも僕、淫魔としては欠陥あるよ? それでもいいの?」
「……? それは、貴方が人の……その、性行為が必要ないということか?」
「や、それはヒトで言う食事だから、ものすごく必要なんだけどさ。僕、女にはなれないから」
愛らしい少年の姿で、淫魔はなにやら看過できないことをあっさりと言ってのけた。そのまま、普通の淫魔であれば人間に混ざり、身体を売って生計を立てているなどというその暮らしぶりについてを語り始めた其の間、俺は黙って瞬き、その言葉の意味を噛み砕き、そして淫魔の話が一段落すると、もう一度尋ね直した。
「……失礼。それで肝心の貴方はどうやってその、今まで命を繋いでこられたのだ?」
「あー敬語とかいいよ、別に。僕も使ってないし。……うーんとね、フェルの紹介なんだったらもう知ってるんだと思ってたんだけど……男同士のセックスの仕方って知ってるかな? そのままそれで男の人の精を『食べる』んだけど」
もちろん普通に飲んでもいいんだけどね、と言った淫魔の言葉はどうにか頭に入った。入ったが、俺は動くことができなかった。
魔族に協力してもらうにあたり、協力的な者に対してはそこそこの便宜を図ることになっている。今回のように淫魔を相手にする場合は姦通するわけだが、黒騎士はその役目のために、聖教会の教えに背くような行為も一応は許されている。いや、厳密には許されていないが、騎士を名乗ることや、聖教会の教徒であることを許されているというわけだ。黒騎士として動くためにその訓練もした。具体的に言ってしまえば賭博、飲酒、自慰の経験がある。それぞれ、恐ろしくなるほどの金額の遣り取りや、量、時間で、それらは『度を越えた』範囲に及ぶものだ。
しかし。しかしだ。どんなに状況が許そうと、この国で男同士が交わることが許容されていようと、俺が、俺自身が男と姦通することになるなんて誰が思う?
淫魔の喜ぶものは男の精だ。だから黒騎士は今まではそれを対価としてサンプルを頂いてきたという。淫魔は人の言葉を解すし、相手の好みの姿に化けられるため、密かに黒騎士の間では人気が高い。俺も経験こそないがもしそうなったら……などと想像したことくらいはある。しかし目の前の淫魔は女にはなれないという。
俺は盛大に迷った。心の内を見透かす魔族を前にしながら、だ。
「……あの? 僕、無理やりは嫌だから、別に見逃してもらえるならそれでいいけど……」
「いや、それではこちらも困る。飽くまで双方、扱うものは対等でなければ禍根を残すことにも繋がりかねない。どちらかに借りができるようなことは避けたい」
それは本音だ。まさかこんな強力な魔族が人間に害を為さないまま隠れ、生きているとは思ってなかった。今はあどけない少年の姿をしているが、これの気を害せばどうなるか、従える二匹の魔獣よりもっと恐ろしいものを目覚めさせてしまう気がする。
俺がしくじれば大変なことになる、と、予想以上の大物を前に、俺は武器一つ持たない状況で焦った。持っていたところで太刀打ちできるかも微妙なところだが。
「でも……聖騎士さまはこの国のヒトじゃないし、元々僕たちは対立してたわけでしょ? 僕に誑かされたとか言いふらされると困っちゃうし……あ、もちろん気持ち良いいのは約束できるけど……それに、僕が淫魔ってことも、隠してはいないし嘘も付いてはいないけど、ここのヒトたち知らないからね。黙ってて欲しいって言うお願いもしたいから、それでいいんじゃないかな。その分、サンプルとやらはできる限り提出するから」
言われ、俺はひとまず採集したいサンプルのリストを取り出した。
「淫魔からは髪、爪、……血液と皮膚に、それから……精液、を、採集したい。特に精液は男の機能不全不能の改善に使えるから貢献度はかなり高くなる」
「精液って、つまり僕の出すものだよね? 淫魔には子種はないんだけど、そのことは知ってる?」
「フェルディナンド殿に聞いた」
「そっか」
なら話は早いと、淫魔は採集方法を訊ねてきた。俺は道具を出して使い方を説明すると、早速淫魔は髪と爪、そして口内から皮膚を手渡してくれた。こんなにあっさりでいいのかと思うほどだった。
血は痛いのは嫌なんだけどと困ったように言われ、無理は言わなかった。が、注射器を見せて、これが専用の道具であるというと、恐る恐るながら腕を出してくれた。丁寧に血管を探し、二の腕を締めて採血を行う。針を刺す時、刺さっている間は泣きそうな顔をしていて、少年の姿ということもあって俺も随分気が咎めたが、終わるとすぐに舐めていた。魔族の領域……己の『巣』の中なので治癒は早いのだと言われたが、確かにものの数分で傷は塞がっていて驚かされた。やはり勝てる気がしない。
「あとは精液だけど……えっと、目の前でやった方がいいの?」
「あ、ああ。一応立ち会うことにはなっている」
「見られるのはいいんだけど……もし騎士のお兄さんがその気になったら、精液、貰ってもいい? それはダメ?」
可愛らしく頬を染める姿に反し、口にしている内容はとんでもない。だがまあ、飲ませるくらいはと思えたのはフェルディナンドの手を耐えていたおかげなのだろうか。
俺の返答は予想以上だったらしく、淫魔は顔を綻ばせた。内容が内容でなければ微笑ましいのだが。
口淫や手淫であればまだ、というのは、その、つまるところこの淫魔が少女もかくやというほど美しく、性器の露出さえなければ男とは思えないということも大きい。ただ、精液採集に関しては本当にそこから出たものだということは確認しなければならないというのが悩ましいところだ。
「ん……じゃあシロとセンリは出て」
淫魔は嫌そうに唸る二匹を宥めすかし、部屋から出した。立派な座敷は二匹が庭へ出て行くと途端に広く感じられ、俺は無意識に詰めていた息を吐いた。
「ごめんね、緊張したでしょう。あの子たち僕よりずっと立派になっちゃって。拾った時は可愛かったのになあ」
淫魔はころころと笑いながら、俺が採集用の容器を手渡すと、それを受け取った。対魔族の体液用にと作られたそれは、該当するものが容器の内側に触れている状態で封をすると、そのものの時を止めるというものだ。いわば封印術の応用である。採血の注射器にも同じギミックが仕込まれている。
淫魔の体液には催淫効果があることは分かっているため、血液と同じくらいは欲しいと伝えると、淫魔は少し困った風に笑った。
「……一人で淡々とそれだけの精を出すっていうのも興が削がれるなあ。やっぱり二匹に手伝ってもらってもいい?」
「それは……むう、仕方が無いな」
手伝えと言われるよりはまあいいかと頷くと、淫魔はのんびりと二匹を呼び戻した。時間差もなく部屋に飛び込んできた二匹はおそらく、すぐそこで有事に備えて潜んでいたのだろう。迂闊なことを言わなくてよかったと心底思った。
「あのね、結構な量が要るみたいだから、手伝ってもらおうと思って」
淫魔の言葉に応えるように、二匹の体が煙に包まれる。それが掃けたと思うと、そこには二人の男が立っていた。
「は……?」
理解が追いつかず、まじまじとその二人を眺める。一人は普通……と言っていいのだろうか、快活そうな男で、一人は陰気そうな長髪をそっと、うなじでまとめただけの線の細い男だった。それぞれは俺を見やると、先ほどの魔獣だと名乗った。
「……?! 申し訳ない、少し……驚いている」
「あはは、まあそうなっちゃうよね。人に化けるし言葉も話せるし。二人は僕と違って、変化できるのはこの姿だけだけど」
淫魔はと言えば平然として、二人の男を手招いた。
「よろしくね」
「あいわかった。これに満ちるまででいいんだな」
「へー、十回くらいか? ああでも、後ろこすってればすぐっぽいな」
「そうだね、あんまり前こすっても痛いしね……」
淫魔はなにかを思い出したのか虚ろな目をしたが、すぐに気を取り直すとおもむろに俺の前で着物を脱ぎ始めた。なんの前触れもなかったためどきりとしたが、確かにそこには男のものがぶら下がっていて、淫魔は俺に向かって足を開いて見せた。
「じゃあやってみるね」
とそんなことを言いながら、精液用の容器を片手に、乳首を触り出す。
途端、纏う空気が変わった。そっと乳首を指先でこね回し、その淡く色づく小さく穏やかな丘陵が硬く、その姿を現す。
「んぅ……」
俺の視線が気になるのか、淫魔の頬もまた桃色へ変わっていた。恥じらうように顔を僅かに背け、目を伏せている。睫毛は頼りなく震え、見兼ねたのか、センリと呼ばれていた方の魔獣がその唇に口付けた。
「んん、……あっ……」
淫魔は必死に舌を絡め、丁寧なセンリの口づけに応える。それは姿のせいだろうか、享楽的とは程遠く健気に思え、嫌悪は湧かなかった。
そんな様子に、シロという魔獣も手を出した。淫魔のいじっていた胸の実を横取りすると、もう一方のそれまでを手玉に取り、殊更に優しく、慈しむように弄り始めた。俺に見えるようにという配慮なのか、シロは淫魔を後ろから抱きしめるような形で寄り添い、その耳にそっと唇を近づけ、唇で挟むようにしてその耳介を食んでいた。
「ふぁ……あん……っ」
淫魔は空いた右手を股間へ伸ばした。薄く柔らかそうな茂みの中から目的のものをそっと掴み取り、その細くなめらかな指先で緩やかに性器を撫でる。魔獣に助けられてか、それは直ぐに腫れ上がり、少女のような顔をしているのが嘘のように思えるほど雄々しいものへと形を変えた。そして淫魔は硬くなったその先端へと容器を取り付ける。その直前、これでいいのかと伺うように淫魔が俺の方を向いた。俺はぞわりと股間が騒いだが、素知らぬ振りをして一つ頷きを返した。気持ちはわかるが、悦楽に浸ったその顔のまま見つめてくるのはやめて欲しい。うっかりとしそうだった。麗しいとはいえ少年に対してそうなる自分が、まだ信じられなかった。
「ん、……んん、……はぁ……あ、あっ……」
センリからはひたすら愛撫と口づけを、シロからは胸と耳を責められながら、淫魔は性器の細い口の中に容器の口の先端をそっと差し込んだ。注射器ほどのものなのだが、針と違い、先端部以外は管のように柔らかくなっているものだ。それを差し込み、その管自体を抜き差ししながら外も擦り、淫魔は素直に快感を追いかけていた。徐々に魔獣の手が早まり、激しいものへと変わっていく。淫魔の声はそれにつれて高くなり、少女と変わらない喘ぎ声が漏れ始めた。
センリとシロがそれぞれ淫魔の足を開かせたままで固定し、内腿を撫でる。淫魔を挟むようにして左右それぞれを受け持ち、その刺激に助けられながら、終わりを求めて淫魔の手が性器を必死にしごいていた。
「あ、……あっ! イく、イくぅ……!」
そして、大の男に挟まれた淫魔の小柄な体躯が何かを踏ん張るように強張り、その腹筋がわなないた。宣言通り、容器の中へじわじわと白いものが垂れて行く。満ちるにはまだ遠く、それでも淫魔は出した心地の良さにうっとりと顔を緩めた。
「はぁ……ん……こんな感じで、いいんだよね?」
胸の実を構い続ける二本の手を取って、足を開かされた格好のまま淫魔が俺に尋ねてきた。そうだ、と答えると、嬉しそうにはにかみ、頑張る、と健気に言う。それに構わず淫魔を持ち上げたのは魔獣たちで、淫魔の下から手を伸ばして、その肛門に指を入れた。
「っ」
「あんっ」
流石にぎょっとして大丈夫かと声を掛けると、淫魔は必死に頭を縦に振って見せた。
「心配すんなって。俺たちがゴシュジンサマを傷つけるような真似するわけねえ」
「その通りだ。貴殿はそこでそのまま目で楽しまれればよい」
楽しんでいるという事実はないわけだが、否定するのも空気が台無しになるため文句は飲み込む。
肛門に指を入れるなど辛くないのだろうかと思ったが、淫魔というものは肛門さえ精を受ける口に過ぎないのだと本人の口から言われた。そのあと直ぐに指でかき回されるそこから、卑猥な水音が響き始めた。
「ああん……っ、いい、入り口、きもちいいっ……」
蕩けそうな声は最早女そのもののようだ。淫魔は半端な姿勢にもかかわらず腰をくねらせて悶えていた。その割りに、触られてないからなのか、性器の方は一度吐き出したことで芯を失い、頼りない。
女にも等しい声にちくちくと性欲を刺激され、それに耐えていると、淫魔はいやらしく腰を動かして魔獣を見た。センリの方だ。
「もうっ……れてぇ……おっきいの……欲しいっ、奥まで、無茶苦茶にして……!」
どんな淫売かと思うようなことを口にして、センリのものをねだる。センリはと言えばにんまりと笑い、それに応えようとしていた。淫魔を四つん這いにさせ、頭を俺に向けた状態で、肥大した性器を少年の淫魔の、先ほどまで指を入れていた肛門へとあてがう。その先が入ったからなのか淫魔は悲鳴を上げたが、それが痛みからではなく、強い快感からのものであることはすぐに分かった。膝立ちになってセンリに両腕を引かれ、俺に胸を突き出すような体勢になった淫魔の顔は泣きそうで、口からはよだれと嬌声を垂れ流していた。
「あああああんっ……」
センリに腕を引かれ、肛門に性器を突き立てられ、淫魔が声を上げる。それは鳴くというのに相応しく、センリがゆっくりと腰を動かすと、淫魔の性器についた容器に精液が溜まり始めていた。しとしとと流れて、少しずつながらも確実に満ちてゆくそれ。性器はぴんと伸びているわけでもないのに、肛門でそんなに感じているらいしいのが不思議だった。
淫魔は男に化けている。つまり身体はヒトと同じようなものだろう。人間の男もそのようになるのか、という疑問がよぎった。だからと言って、自分で確認する気は起こらないが。
淫魔はセンリが深くその中に入る度に鳴いた。可愛らしい、と言えばいいのだろうか。少女のような姿をしながら、男の身体で、肛門で快感を得ながら、前からは精液を垂れ流していた。その光景は興奮を超えてどこか遠く、俺は股間に集まる熱を自覚しながらもどこか興奮しきれないでいた。現実味がないからかもしれない。夢を見ているようだった。
「あ、あああん……やぁあああん……も、イきたいいぃ……ひぃ、いいいいん……」
「そうは言ってもな。此度は我が主人の乳が欲しいという話だろう? まだ満杯には遠いぞ」
「だったら後半俺が替わるぜ。暇だし」
ゆるいストロークに悲鳴を上げながら、淫魔は果てたがっているようだった。センリの動きは、言うなれば淫魔の体内を性器でマッサージをするような緩やかさなのだ。シロは容器の先が淫魔の性器から抜けないようにと手で支えていたが、暇だという言葉の通り退屈しているのだろう、淫魔の性器を扱きあげ、強制的に精液を吐かせた。
「やああああああんっ!」
ただでさえのけぞっていた背に力が篭り、淫魔は喉まで反らして痙攣した。それに引きずられたのか、センリが淫魔の手を引きながら呻き声を上げ、腰を淫魔の尻に打ち付けるようにして数度動かし、止まった。終わったらしい。
「くそ……もう少し焦れる楽しみを覚えた方がいいぞ、シロ」
「俺はセンリと違って即物的なんですー」
力なく倒れ伏しそうな淫魔を抱き留めながら、シロが軽口を叩く。センリは男特有の倦怠感があるのか、淫魔の中からゆっくりと性器を抜いた。
「やんっ……」
ずるりとモノが抜ける際に、甘えたような声が漏れる。代わりというようにシロがその愛らしい桃尻を撫でると、淫魔はぷるぷると震えた。顔は俺へ向いたままだから、それが気持ちいいのだということもよくわかった。
「じゃ、今度はあんたの肩、借りるぜ」
「は?」
不意にシロに水を向けられ、完全に部外者のつもりで居た俺は虚を突かれた。
「でもシロ、この人は」
「大丈夫だって。あんたはなーんにもしなくていいから。だって精液出てるか見なきゃなんねーんだろ? だったら後ろから入れるしかねえし、うつ伏せになっても見えなくなるんだからあんたの肩借りるのが一番いいだろ」
それはその通りだ。俺は納得したが、淫魔に本当にそれでいいのかと心細そうな顔で見つめられ言葉に詰まった。いや、詰まったのは胸だ。しかも、股間のものが疼いたことによる。
「……問題はないな。本当に俺はなにもしなくていいんだな?」
「ははは、話が早くて助かるわ」
淫魔はどこか頼りなげにしたものの、シロに担がれて俺の前に来ると、おずおずと俺の肩に手を乗せた。……だから、そういう可愛らしい行動はしないで欲しい。さっきから徐々に、散らせないほどに熱が集中しているのだ。
「えっと……じゃあ、失礼します」
ふと近づいた淫魔から良い香の匂いがし、まだ見ぬ妻となる女性が恥じらいながら俺の上に乗ってくるという夢想さえしそうだった。血が滾っているようだ。俺までもが緊張していた。
「んっ……ああっ」
俺の本当に目の前で、淫魔の顔が快感に歪む。すぐに視線をずらせばシロが意地の悪そうな顔をして俺を見ていたが、俺は平静を装ってそっと、淫魔の股間の容器を注視していた。抜ける気配はなく、しっかりと中へ入っているようだ。俺が支えなくても大丈夫そうだった。
そうして目線を淫魔から逸らせども、声や吐息からは逃れられない。
「はっ……ぁああああんっ……ああんっ、いい、いいよお……」
「ゴシュジンサマこっちも気持ちいいの? まだ浅いところしかこすってないけど」
「そっちもいいの……あん……そこ、前にクるの……」
幼い口調だ。シロもまたセンリほどではないがゆっくりと腰を動かし、淫魔の性器からうまく精液を出させていた。搾り取るだけが出す方法ではないのだと妙に感心する。
よく考えれば、これはいい機会なのではないだろうか。今後淫魔と接触し精液を採集することがないわけではないだろう。その際にスムーズに事を運べるようにしておいた方がいいのでは。
そんなことを考えながら、身悶える淫魔の様子を観察する。
「ああんっ……はあ、はあ……あぅ、あぅうん……」
それにしても手持ち無沙汰というか、非常に居心地が悪い。もの言わぬ台にでもなったかのようだ。
ここに確かにいるのに、いないものとして扱われているようなある種の心細さを覚え、俺はそっと胸の内からハンカチを取り出して、涎を零さないようにと俺に気を使っているらしい淫魔の口元を拭ってやった。
「ふぁ? ……あ」
淫魔は何事かと俺を見上げたが、俺が何をしているのかを知ると、嬉しそうに笑った。
「っ」
喜色溢れるその顔に、本当に俺の性器が立ち上がった気がした。実際は服に遮られているが、窮屈さを感じる。キツい。
自分で自分の首を絞めてしまったことに気づいたのとほとんど同時に、シロの動きが急に早まった。
「っあああああん! あんっ、あっあっあっ、あう、あ、やんっ、しろ、しろっ、やっ、あ、いっちゃうっ、いっちゃうううっ」
淫魔は俺に向けていた笑顔を歪めて俺にしがみつき、叫びながら下肢を震えさせた。しがみつく力は強かったが、それも終わりを迎えると弛緩し、淫魔が床に落ちそうになったのを、先ほどシロがそうしたように、俺が抱きとめた。
「ん……、はぁ。俺終わりな、最後、あんたのそれで締めてくれよ」
シロは俺の股間が盛り上がっているのに気付いていたのか、そんなことを言う。流石に抜かなければ立ち行かなくなった以上口淫の覚悟はしていたが、交わるほどのそれは持てなかった。とはいえ、確かにシロの言うように、容器の中の精液はあと少し規定量に届かない。それに、やはり対価は渡す必要がある。今回のことは黒騎士をやって行く以上は避けられない話でもある。男を抱くことではなく、規律に反することをすることが、だ。
俺がどう返事をしたものか迷っていると、俺の腕の中で快感に死にそうに震えていた淫魔が息を吹き返した。
「シロ、もういいから……そんな風に誘わないの」
「いいじゃん。なんだったら俺とセンリも精液とか毛くらいやるからよ。俺らのゴシュジンさまに突っこんで流し入れるってのが対価でいいし。誠意見せろよ」
「こら、シロ」
淫魔に窘められつつ、シロは淫魔にキスをすると、俺達の採集は後にするとして、今は二人でごゆっくりと俺を挑発するように笑い、面白くなさそうに二人を見やっていたセンリと共に部屋を後にした。
残された俺は、仕方なく淫魔を見下ろす。小さな淫魔は俺をじっと見上げて、不意に笑みを見せた。
「さっきは口拭いてくれてありがとう。嬉しかった」
「いや……」
善意でやったことでもない。俺がそう言う前に、淫魔はそっと俺の股間の膨らみを撫でた。
「お礼じゃないけど……、口で、飲んでもいい? 騎士さまのを口でしながら、最後、僕のもあとちょっとだけ出すね」
上目使いに見られ、ふとまた手が置かれたところが脈打つ。俺は一つ頷くと、ベルトを外して、そこを露出させた。
「わあ……すごい、おっきい」
感嘆する淫魔の表情は明るい。俺はそのまま、背を伸ばした俺の性器を淫魔が咥えこむのを見下ろしていた。
あむ、と言いながら、淫魔は俺の性器の頭を舌で撫で、手でその胴体を擦った。袋を優しく扱い、筋を下から上へと揉み上げる。その手淫と口淫は、今まで自慰に留めていた生活との決別を予感させた。
快感に翻弄され、抵抗する気も起きない程甘く腰が疼き、力が抜けそうになる。
「くっ……は……ぁっ……」
「きもひいい?」
「うあっ……そこ、で……しゃべ、るな」
淫魔が俺のを舐めながら自らのものも弄っているのを見ると、その背徳さに背筋に寒気が駆け上がった。中身が淫魔だと分かってはいても、目に飛び込んでくるのは幼い少年が俺の性器に奉仕する姿だ。確かに姦通こそしていないが、清らかなその姿を『俺が』汚していることがたまらなかった。
「んっ……んぅ、ふっ……ふぁ」
淫魔は懸命に俺の性器を咥えながら、我慢できなかったのか、左手を尻の方へ伸ばした。そして、肛門に指を入れたのだろう。そのままそこで指が動き、淫魔のくぐもった嬌声が俺の性器を刺激した。
性的倒錯にあまりある光景だ。そこにいるのが俺だということに、理性が千切れそうになる。
俺は息を詰め、声を殺しながら近づいてきた果てを感じていたが、性器を咥えながら俺を見上げてくるその眼にどきりとしてしまい、思うよりずっと早くに達してしまっていた。
「あっ……く、!」
「んっ」
腹が震え、強張った股間から快感が走る。それを何度か繰り返し、淫魔にされるがまま精を取られると、俺はようやく深呼吸を繰り返して力を抜いた。
淫魔が丁寧に俺の性器を舐めとり、最後の一滴まで逃すまいとするのを半ば放心しながら眺める。その後顔を上げた淫魔は目を細めて愛らしく笑った。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「……罪悪感がすさまじいな。その姿は幼すぎやしないか」
「そう? でも、もっと年が行くとどう見ても男だからね。それはそれで嫌でしょ?」
言われ、それもそうかと思う。そもそもそうだったなら俺の股間が反応することもなかったかもしれないが。
ままならないなと言いながら、淫魔はまだ達していなかったのか俺の目の前でふるりと震えて射精してみせた。
「……あれ? まだちょっと足りない?」
「……そのようだな。出尽くしたか?」
「まさか! ヒトと一緒にしないでよね」
淫魔は頬を膨らませて、まだもうちょっと出さないといけないのか、と少し渋った様子だった。
「……無理はしなくていい」
「いいよ。これって約束で契約でしょ。そういうの、こっちだってちゃんとしときたいし。ほら、弱いとは言え僕も悪魔だしね」
淫魔はプライドも高いらしい。納得すると同時に、しかし聞き間違いかと思う単語がさらりと漏れ、俺は眉を潜めた。
「弱い……? 貴方ほどの魔族が弱いのであれば他の魔族はどれほどの力を持っているんだ?」
「今の魔族でそんな強いのっていないと思うよ? そもそも魔族って魔王さまもいないし仲間の支援もないのに特攻するほど忠誠心とかないし。フェルも、皆ほそぼそと暮らしてるって言ってたから間違いないよ。僕が弱いっていうのはさ、女に化けられないから。それに化けられる男の年齢も限られてるしね……。淫魔としては致命的でしょ? 騎士さまの国なら育つ前に死んでただろうし」
「産まれた当初はそうかもしれないが、しかし今の貴方は違うだろう。あんな魔獣を二匹も従えるなど」
「そうかなあ。だって元々はあの子たちもただの犬と猫だしねえ。実感ないよ」
自覚がないのか? 淫魔はのらりくらりと話しながらも性器を弄り続け、話を終わらそうとするかのように目を伏せた。あるいは、そんなことなど興味がないのかもしれない。少なくとも、今は。
淫魔の頬は桃のように色づき、小さな唇はしっとりと柔らかそうで、無防備に開かれている。それを眺めていても嫌悪は湧いて来ず、俺は意外と触れられるような気がした。
「俺でよければ手伝おうか」
そして、気づけばそんなことを申し出ていた。そう仕向けられたのかもしれないが、避けられないことでもあることは確かなのだ。黒騎士として生計を立てていくなら早いうちに慣れておくべきことでもある。
淫魔は俺の言葉に俺以上に驚いたようだった。伏せていた目をぱちりと開け、俺を見上げてくる。
「でも……」
「いいんだ。別にあとから騙されたなどと触れ回るつもりはない。これは俺の任務で、仕事だ。それとも俺では貴方を満足させられないか?」
そうであればいい、と思うのと、それでは困る、という思いがせめぎ合う。だが、淫魔はとんでもない、と即座に首を振り、そして更に肌を赤く染めながらはにかんだ。
「その、騎士さまの……おっきくて、さっきからずっとそれを入れられて、中、いっぱい突かれたいって思ってたから……嬉しくて」
熱の篭った吐息を受け、俺の性器もまた熱を持った。淫魔を相手取る時は毎回こんな風なことを言われるのだろうか。黒騎士とはこのような悪魔の囁きに耐え抜き清くあれという、逆に堕落せぬようにと言う規律を一層守り励むものであるのだろうか?
ぐるぐると渦巻く欲望を下腹部に感じながら、それを押さえつけるようにして一度深く呼吸をする。その間に淫魔は脱ぎ捨てた着物を座っていた座布団の上に広げ……おそらくは簡易の寝床なのだろう。その準備をしていた。
それからそっと俺の股間に手を伸ばし、柔らかくなったそれを再び立ち上がらせようと手淫をしてくる。やはりその姿は淫靡で、官能的で、美しく儚げなゆえに、尚一層俺の罪悪感と背徳を引き出させた。もはや彼から与えられる快感がそれらを呼ぶのか、それらが快感と興奮を呼ぶのか分からなかった。
程なくして俺のものは肥大し、普段とは比べられないほど硬く、立ち上がった。
「えっと……じゃあ、さっきシロたちにしてもらったみたいに、僕の中、こすってもらってもいい?」
顔を赤らめ俺の顔と性器を仕切りに見比べて、淫魔は丁度座布団が腰のあたりに来るように仰向けに寝そべった。足を広げ、その慎ましいものに容器を繋げたまま、先程まで蹂躙されていた肛門が俺の前に晒された。
抑えようとしたのは興奮か、それとも緊張をか。俺はもう一度深呼吸をすると、その開かれた足の前に膝をついた。赤く、血管の浮き出た禍々しいそれを、白くなめらかな双丘に隠れるようにして口を開けている小さなそこへとあてがう。先端が包まれ、先に出されたらしい魔獣のものに手伝われるような形で、俺はその中へ身を沈めた。
「ああああっ……!」
俺の肉の剣が淫魔の肉を割き、淫魔はそれを喜んだ。その細い腰を包むように持って固定する俺の腕に手を寄せて、もっと奥へと引き込むように腰をうねらせる。それだけではなく、腹が呼吸と力みと痙攣で大きく動く。平坦な胸についた乳首はしっかりと実となり、食われるのを待っているようだった。淫魔は泣きそうにも、心細そうにも思える表情で俺をじっと見上げて、その全てを俺に曝け出している。――官能的だった。とても。
「……っ」
すぐに達してしまわぬようにと気を張りながら狭い輪のような入り口を抜けると、どこか優しくも思える暖かなものに包まれる。味わうわけではないが、ゆっくりと奥までたどり着くと、淫魔のそこはさらに奥へ引き込もうと俺の性器にしがみついた。
「くぅ……っ!」
「んぁあっ……っ、ふ、ぁ……んっ、あ、そこで、一度腰を引いて……っ」
言われるがまま腰を引き抜く。しかし、俺の動きとは逆へと締まる淫魔の中。そこで生まれる刺激に声が漏れた。
なんとか全てを引き抜くと、掻き出してしまったのか、淫魔の肛門から魔獣の精液と思しき白い汁が垂れていた。蹂躙された証だ。目眩がした。俺の目の前で二度、そして俺で三度目。その前にはもはや数え切れないほど穢されただろうそこは、そんなことは微塵も感じさせないほど慎ましく、しかし男を誘うようにわずかに口を開けている。
ぎゅっと、性器へと熱が装填されていく。
「ん……全部は抜かなくてもいいよ。今度は僕がそこ、っていうから……そこをこすってくれたら、精液が出るからね……ずっと射精してるみたいに気持ちいいの」
だから、来て?
愛らしい姿と愛らしい声で誘われ、俺は一つ頷いてそれに応えた。同じ男の身体であるのに、知らぬことがまだまだある。
息を止めながら再びその中へ押し入る。少しして、淫魔が俺の腕に添えていた手に力を込めた。
「そこっ……それ、今のっ……あっ、ああんっ、そう、それえっ……!」
感覚でしかないが、おそらくは淫魔の睾丸、性器の付け根の内のあたり。そこを俺の先が行き来するのがいいようだった。
実際、淫魔の腹に横たわる容器へは少しずつ流れ出ているようで、俺はそれを見ながら、そして魔獣たちの動きを思い出しながら腰を動かした。
「ひっ、あああああ……っ、はっ、あぅ……あっ……んん、は、あああああああ、ん……」
正直、それは辛いことだった。淫魔の声がたまらなく腰まで響いてくるというのもそうだが、どうすれば快感が生まれるかを分かっていながら、それを自制するというのは難しいことだった。じわりと汗が滲むのは、興奮で身体が熱くなっているというわけではない。
あの魔獣らはこんな焦れる快感さえ楽しげに、あるいはものともせずにいたのかと思うと純粋に尊敬さえしそうだ。相手が主であるからか、それを良くさせようという奉仕の精神が成せることなのか。それとも俺が人間だから、こんなにも心乱されるだけなのか。分からなかった。
そんなことを考えながら荒れる欲望を手懐けようとしていると、不意に淫魔の手が俺の額に伸びてきた。何をするのかと腰を止めたが、淫魔は指先で俺の額の汗を拭っただけだった。
「……ダメ、今はちゃんと……僕のことだけ考えてて……。こういう時に他のこと考えるのは、マナー違反だよ」
考えるにしても相手にそれを覚られてはいけないと諭され、俺はわずかに頷いた。
「気を……悪くさせてしまったなら、謝る……。だが、そうでもしないと……我を、忘れそうなんだ……」
嫌悪がないのも怖い。そう言うと、淫魔は俺の下でくすくす笑った。
「光栄な言葉だね。ありがとう」
機嫌良く笑い、俺の汗を、その指先で丁寧に拭っていく。
「騎士さまたちはそういう教えの中で育ってきたから怖いかもしれないけど、でも、突き詰めれば今こうしているのって、手を握ったり抱きしめたりする『触れ合い』なんだよ。そのこと自体は、怖がることではないでしょ? ヒトは本質的に、なにか生き物の温もりを求めるものだと思うんだ。だから僕にとっては、なにもおかしいことなんてないんだけど。……まあ、騎士さまが怖いっていうのも分からなくはないよ。僕にはよくわからないけど、好きな人とするセックスは何よりも気持ちがいいって聞くよ。好きっていう気持ちが、快感を最大限に引き出すみたい。だから、そんな人と一つになれる喜びを知ったら、こんな風に快感だけを求めることに溺れることもないよ」
笑みを含みながらの言葉は、俺にもよく分からなかった。ただ、目の前の悪魔が悪魔らしかぬことを言っているのはよくわかった。
あるいはそれも狙ってのことかもしれなかったが、考えたところで行き着く先まで読めるわけでもない。
「……悪魔も、誰かを愛するのか」
快感に思考の殆どを占められながら、俺の下で同じように快感を味わう淫魔へ問いかける。淫魔は微睡むような心地よさそうな顔をして応えた。
「僕は誰にも恋はしないよ。でも、あらゆる雄は僕にとって大事な食糧だ。それをありがたく思うくらいの情はあるし、それらを愛でることも自然なことだよ」
俺は曖昧に頷いて、また腰を動かした。淫魔の言葉を咀嚼するのは、なにかよくわからないものが俺の中から現れそうで怖かった。
にもかかわらず、他者の熱によって生まれる快感は確かに自分で手淫するよりも心地よく、そこに心が伴えば、もっと良くなれるという淫魔の言葉が妙に頭の中にこびりついた。
「んっ……あ、はぁんっ……あ、騎士さまの、おっきくて……いっぱいこすれて、きもちい……」
淫魔は俺が腰を動かすと同時に、再び行為に集中した。容器にはそろそろ規定量が溜まる。そのことを告げると、その細い手を俺の腰に伸ばして、淫魔は俺を甘えるように見上げた。
「……じゃあ、奥まで来て? 僕のこと好きにしていいから、いっぱい動いて、中で出して……騎士さまの精液……たくさん注いで、僕に食べさせて……」
俺に向けて囁かれたそれに、俺は心臓を掴まれたようだった。頭の中は淫魔のことしかなくなり、言われるがまま奥へ入りこむ。
「はぅんっ」
俺を受け入れ、そこが生み出す快感に震える姿はいじらしいようにも見え、俺はそのまま奥を突つくように、細かく腰を動かした。
「あ、あう、だめ、それだめえ……っいい、いいの、きもちい、あっ、あっ!」
途端、淫魔の声が泣き出しそうなものになる。肛門はその言葉の通りに俺を締め上げ、俺の精液が欲しいというかのように、俺が吐き出すのを手伝っていた。
「あんっ、やん、だめ、あ、いきそ、いっちゃう」
俺に揺さぶられながら、淫魔は膝を胸へ引き寄せた。露わになる恥部。今更だが、目から受けるその刺激にまた、熱が上がった。
淫魔の足を肩に担ぐようにして、容器には注意を払いつつも中を突き続けると、淫魔のそこが震え始めた。中はうねるように動き、俺も急速に連れて行かれる。
「あ、あ、いく、いく、あ、ああ、あああああ、あ、っあ!」
腰の動きは止めず、淫魔の声がまるで俺が達する合図のように思われ、その時へ向けて欲望がせり上がってくる。
「いく、いくっ……あ、いっ、――!」
淫魔の足が小刻みに痙攣し、中が更に締まった。
「っう……!!」
搾り取られるように我慢のコルクを持って行かれ、俺は淫魔の中で達した。快感が性器の内側で迸り、淫魔の中へと出て行く。俺の腰は自然と揺れ、精液を全て吐き出そうとしていた。
これは、確かに気持ちがいい。堕落への一歩はこの快感なのだと思うと、俺はこれを忘れてはいけないように思った。……いや、忘れようにも忘れられないだろう。そのことを噛み締め、再び飛び出て行った自制心というコルクを心の穴へはめ直した。
しばらくの間、お互い、快感が過ぎるのを待ち、息を整える。俺はゆっくりと淫魔のなかから性器を出し、息を吐いた。
「湯浴みする?」
「ああ、すまないが世話になる」
まだ身体は火照っているのだろう。白い肌を桃色に染めた淫魔は俺の返事に気を良くし、嬉しそうに笑った。世話好きというのも珍しいことだ。曰く、暇に飽いているそうだが、人間に爪弾きにされるのは困るし何がきっかけで殺されるかわからないから出歩くのは怖いなどという理由で引きこもっていることを告げられ、俺はなんとも言えない気持ちになった。淫魔自体に力がなくとも、存分に力の有り余ってる風な魔獣を二匹も連れて何を言うのか。
しかし淫魔はそんな自分の考え方を改めるつもりなどない様子だった。すぐさまその興味は容器の中に満ちた己の精液へと移る。
「それで、これをどうするの?」
「少し貸せ」
俺は淫魔の腰を引き寄せ、管を性器に入れたまま、容器から管が伸びているその部分をクリップで止めた。そして、そこへ重なるように札を貼り、特殊な繊維で編まれた紐で縛る。
「これでいい。管は抜いていいぞ」
「はーい」
従順な様子で、そっと淫魔の性器から管が出てくる。何とも言えない光景だが、淫魔の乱れた姿ほどではなかった。二度も吐き出した後だし、俺も特有の倦怠感を除けば余裕があったのもある。
容器を回収し、礼を言う。すると淫魔は首を横に振って笑った。
「お互い様だよ」
淫魔の案内で湯浴みで身体を清めた俺は、彼の助力を得て人の姿をしていない本来の姿のシロとセンリからあれこれとサンプルを採集することに成功した。一気に三件も集められたのはこの上ない収穫で、俺は心の中で拳を高く振り上げた。
俺の気も僅かながら緩み、ここへ来た当初よりは幾分か和やかな空気になり、改めて彼らからもてなしを受けることになった。出された料理はどれも美味かったが、シロやセンリが狩ってきたというイノシシの肉は特に歯ごたえがあって赤味噌やゴボウ、キノコと良く合った。ここのところ切り詰めた生活をしていた俺にとっては随分な食事だった。
食事が終わる頃には既に夜の帳が降りていて、世話になれる心当たりもない俺は一晩、泊まらせて貰うことになった。……礼としてまた絞られたが、採集の時よりはまだ自分を律することのできた俺に対し、淫魔は少し拗ねたように頬を膨らませた。美味しいけれど、淫魔としては完敗だと言って。
翌朝、俺は早々に淫魔の住まいを後にすることにした。なにかあれば再び黒騎士が派遣されるだろうことを告げるとシロやセンリは嫌そうな顔をしたが、淫魔が嫌がる素振りがなかったので何か言ってくることはなかった。シロの背にしがみつくようにして乗せられた状態で麓まで送られ、礼を述べる。
「……ゴシュジンサマになにかあったら、お前ら絶対に許さないからな」
ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らしたシロはそう言って俺に含ませると、すぐに山を駆け戻ってしまった。俺は視界から消え失せた巨大な魔獣を見送るようにその場に立ち尽くしていたが、山を出ると俺はようやく力を抜いた。
疲れた。猛烈に疲れた。気疲れだ。
淫魔は終始気楽そうにしていたが、力関係としてあそこで一番弱かったのは俺だ。シロもセンリも人の姿をとるようにしていたようだが、それでも魔獣としての姿を知っているだけに気は抜けず、俺は死地から脱したような気分だった。これが娑婆の空気は美味いってやつか。
やっとだと思いながら山を後にする。ここから一番近い聖教会の支部は五日ほどかかる場所にある。俺は麓の村で支度を整え直すと、すぐにそこを後にした。ずっといると、淫魔の言葉が頭の中を巡り、自分が変わってしまいそうで怖かった。
その後俺は今回の手柄を報告して引き継ぎをし、島国の別の場所を巡ることになった。
……までは良かったのだが、代わりに派遣された奴がヘマをして村人に叩き出されたらしく、俺があの淫魔の専属となってしまい、その後長い間村人の信用を得るのに苦心する羽目になる。やはり黒騎士だからこそ規律は守るべきものだと心底思った。
一つは白騎士と呼ばれる、従来通り広く知られた聖教会の顔である騎士たちで構成されるもの。長い間、それこそ勇者の存命した頃からずっと魔族の殲滅を掲げ、そして見事にそれを果たした集団だ。厳しい規律を守り、人類の模範たれと在る高潔な存在。悪を打ち払う聖なる剣。……もっとも、その功績のおかげで殆ど全ての魔族を殺し尽くした今は、そんな英雄じみたことはできなくなったが。
もう一つは黒騎士と呼ばれる、魔族の研究を行い、我々人類の生活をより豊かにしていこうという、いわば魔族と迎合する集団だ。迎合と言っても仲良くしようというわけじゃない。いわばビジネスライクに、取引を行い、彼らの生態を調べ、時にはサンプルを採集させてもらい、有用であれば命を狩らぬよう取り計らう代わりに『協力』を要請するというのが主な任務だ。その性質上、白騎士からは軽んじられているし、実質雇われの傭兵みたいなものであることは否めない。利点らしい利点といえば、聖教会の教徒でありながら規律を破れるということに尽きる。非常に特殊な立場なのだ。
魔族が非協力的だった場合の対処は黒騎士に一任されているが、まあ、敵対された場合は速やかに抹殺する、というのが通例となっている。対魔族への攻撃方法は数あれど、未だに聖教会で作り出される聖水は効果が保障されているため、対処は困難ではないことも大きい。白騎士は勿論、黒騎士も聖水を携帯することができ、今では聖教会の教えを広める宣教師へ変わりつつある白騎士よりも、黒騎士の方が聖水を行使する機会が多いという有様だ。力を失った魔族にとって、脅威なのはもはや白騎士よりも黒騎士なのかもしれない。殆ど俺たちに強請られ、集られているようなものだから。
俺は、黒騎士に属する人間だ。先の戦争で親を失い、聖教会管轄の孤児院で育った。戦争孤児には似合いの職業だと思っている。
魔族が聖教会発祥の地より駆逐されたことで、教会は魔族を追いかけるようにしてその行動範囲を広げ続けてきた。そして、血眼になって魔族を血祭りに上げてきた甲斐あって、魔族が激減したことで自らの立場が危うくなったことに気付いたのだ。直接人類に害為す存在が絶えれば、聖騎士もまたその役目を終える。彼らが掲げるその理念さえも、平和になったこの時代には不要と、消えていくということを。
勇者が魔王を払ってもう何百年と経つが、世界は平和なものだ。平和故に人同士の諍いが絶えないくらいだ。まだ魔族に対抗すべく手に手を取り合えていた頃の方が良かったのではと思える。なんとまあ救いのないことかと思うが、生き物というのは増えれば増えた分だけ、争わずにはいられないものなのだろう。
それはそれとして。
であるから、聖教会は禁書扱いになっていた魔族の詳細について記された本を紐解き、彼らと接する役割を騎士たちに与えた。それが黒騎士で、白騎士は黒騎士を下に見ているが、公にされていないだけで黒騎士も聖教会公認の集団だ。聖教会は表向きは魔族は悪であるとしながら、同時に、彼らを知りつくし、利用しようと考えたのだ。
果たして白騎士は聖教会の志の布教のため、黒騎士は今や辺境へ逃れたと思しき魔族へ接触する為に、どんな世界の片隅であろうが派遣されている。いや、片隅だからこそ探し求めているというべきか。
俺が派遣されたのは島国だった。海を隔てている所為か独特の文化を形成してきたこの国に来て数年経つが、驚かされるところが多い。聖教会では禁忌とされていることが広く受け入れられているのだ。司祭様から命を受けて国からやってきた俺には刺激的にもほどがあった。
黒とはいえ一応聖騎士である以上、俺も聖教会色に染まっている。元々その教えで育ち、その上で黒騎士として、魔族に関わるために時に規律を破らねばならない心構えや訓練を受けたのだから当然だ。それでもここへ来た当初は困惑以上に、理解の許容を越えたことに対して嫌悪を抱いたものだった。
けれど、それは月日が経つごとに徐々に薄れてきた。彼らは彼らで受け継いできたものを大事にしているだけなのだ。聖教会が広がりを見せたことでこの国も徐々に変わりつつあるが、彼らは別に俺達よりも下等なわけでも野蛮なわけでもない。いや、そう思う部分はあるが、なんというか、そこに彼らの良さがあるのだと、俺に教えてくれた人がいたのだ。
その人はこの国で長らく研究をしているという男性だった。俺よりずっと歳の行ったその男はフェルディナンドと名乗り、歳の割には若い姿をしていたが、この国の魔族についてずっと調べていたとあって様々なことを知っていた。彼の調査結果は膨大な量となっており、本と言う形で残されていたその書物の価値がどれほど高いかなど、俺でなくとも分かることだった。
方々手を尽くして全く魔族と接触できないことに気落ちしていた俺は、彼の知識に随分と助けられた。黒騎士は成果を上げなければ叩き出される儚い身分なのである。
この国へ来たばかりでまだ何の収穫もなく、また風土にも慣れていなかった俺がその男に協力を求めたのは当然の流れだった。
彼にはとても世話になった。どういう行動を取れば角が立つのか、住んでいないと分かりにくい独特の価値観や宗教観。その流れがどこから来ているのかということなど、彼に教えてもらった。まあ、俺に手を貸していいか調べると言って身体をくまなく触られたのはなんというか、ある種恐怖だったが。彼は俺に『下手に出る』ことを教えるとかなんとか言っていたが、あれは多分同性愛者だろう。そうでなければ男の肉体というものに、何か芸術的価値を見出しているかなにかだ。俺とは相容れない。残念に思えばいいのか安堵すればいいのか微妙なところだが、損得勘定をすればかなりのプラスであることは間違いなく、俺は彼の不埒な手を耐えた。それで大分忍耐強くなったのは思わぬ収穫だったなどと言えるようになった今、俺もなかなか成長したのではないだろうか。白騎士であればきっととうに逃げ出していたに違いない。俺は自分を誇りたい。
思わぬ『修行』にも耐え抜き彼に合格だと言われた後は、どこそこへ向かえばどんな魔族がいる、という情報を教えてもらえた……まではよかったのだが、彼が知る魔族と言うものは、魔族側の意志によって接触できるか否かが決まってしまうものらしい。つまりどんなに切望しようが魔族たちに気に入られなければ、その場所へ向かっても空振りに終わるというのだ。それまで手がかりこそ数多あれど実際に魔族に出会うことが無かった理由が分かり、俺は落胆した。
しかも悪いことには、フェルディナンドによれば、ひっそりと暮らす魔族のほぼすべてが聖教会、特に実際に力を行使する聖騎士を嫌い、恐怖し、あるいは怯えているというのだ。魔族は人の欲を見透かすことが出来るらしく、特に昔に比べ弱体化した今は己と敵対する者に対しては敏感なのだという。つまり、騎士である以上接触はほぼ不可能。俺は立ち行かなくなったことに焦りを覚えた。
そんな俺に、フェルディナンドは一つ、良いことを教えてくれた。とある魔族なら、あるいは会うことが出来るかもしれないと言うのだ。その魔族と言うのは淫魔の一人で、特に弱いから怯えも一層大きいが、人を唆そうともしないし、こちらに敵意が無く、武器の類を持たず、欲に素直であれば受け入れてくれる可能性が高いのだと。
俺はそれに賭けた。すでに年単位で収穫がなく、教会の支援を打ち切られて久しかったからだ。他の国へ行った黒騎士たちは上手い具合に接触できているらしく、俺は焦っていた。
そうして言われた通りの場所へ赴き、山へ入る前にと麓の村で情報収集をしたところ、件の淫魔はどうも『カミ』――この国には八百万の神がいるという考えがあり、時として人の魂も神となることがあるらしいのだが、聖教会の言う勇者と聖女に加護をあたえたという我らが唯一の神や聖霊とは根本から異なる存在である――として崇められていた。
一応フェルディナンドから『風変わり』であることは知らされていたものの、まさか魔族が人助けをしているとは露ほどにも思っておらず、しかし今までよりもずっと手応えのあるその情報に俺は舞い上がった。
しかもその村には淫魔から貰い受けたというサクマの実なるものが成る木があり、俺はそれを見させてもらったのだが、それはとんでもない代物だったのだ。
エリクサーの元になる生命の実。古い書物に勇者たちを癒したものとして記された、伝説の実、そのものだったからだ。それが、何の変哲もない民家の裏手に、たわわに実っていたからだ。一つ食わせてもらったが、既に長い付き合いになる重い疲労感がなくなり、その効果は真実だったのだと身を持って知った。
詳しい話を聞くと、その木はその家の前の代の男兄弟二人がサクマさま――件の淫魔から種を貰い、それを育てたものだったそうだ。実はそれを受け継いだ者しか収穫出来ない特別なものだという。盗んだ先から腐り落ちるんだそうだ。枝を持ち去っても同じこと。そこからは何も育たないのだという。だから厳重な管理など必要ないのだと、その家の今の主はそう言っていた。
それにしても、何気無く家の裏手に生えているだけの木が伝説のそれだとは誰も思うまい。俺は三つほど譲って貰い厳重に保管したが、まさか淫魔がそんなものを持っているとは!
これはかなりいい案件になるに違いない。俺も是非助けてもらおうじゃないかと、白昼堂々、勇み足で件の山へと分け入ったのは当然の流れだった。
「なるほどねえ。聖教会も一枚岩じゃなくなったんだ。ありがとね、ここにいるとそういう話殆ど聞かないから助かっちゃった」
――と、いうようなことを、俺は淫魔とそのしもべである二匹の魔獣を前に、洗いざらい白状させられていた。
目印は満開の桜の木ということでそれを目指していたのだが、それが見えたと思うと同時に、目の前に立ちはだかった二匹の巨大な魔獣を前に、俺は情けない話、腰が抜けかけた。
散々魔族を追いやって殺してきた挙句の時代に生きる俺たちは、殆ど実践経験がないのだ。そもそも寿命らしい寿命のない魔族と関わりを持とうとし、実際に組織として動いている時点で俺たちの技量など知れている。そのくせどこか魔族を見下して勝気でいた。そのことを嫌でも思い知らされた。
淫魔は二匹の魔獣に比べてちんまりとしたものだったが、そもそもがただの動物だったという二匹を、大の男でも見上げるほどの魔獣に育て上げたのだから上下関係は明白。言葉一つで俺を殺すこともできる相手に交渉というのもおこがましく、俺は大人しく事情を話し、協力を要請、というよりはご助力いただけませんでしょうかと腰を低くしなければならなかった。
ここまで大きな魔獣を二匹も従えるほどだ、外見からは全く勝てる気しかしないが、淫魔の力はかなり強大に違いない。上手く行けば昇格か、もしくはそこまで行かなくとも多額の報酬がでるだろうが、しくじれば死ぬし、それでなくとも淫魔の機嫌を損ねればどうなるか。あるいは騎士を辞め、後ろ指をさされ続ける人生が待っているだろう。
萎縮する俺に、少年の姿をした淫魔は無邪気に話しかけてきた。
「僕としても殺されないで済むならそれがいいや。でも僕、淫魔としては欠陥あるよ? それでもいいの?」
「……? それは、貴方が人の……その、性行為が必要ないということか?」
「や、それはヒトで言う食事だから、ものすごく必要なんだけどさ。僕、女にはなれないから」
愛らしい少年の姿で、淫魔はなにやら看過できないことをあっさりと言ってのけた。そのまま、普通の淫魔であれば人間に混ざり、身体を売って生計を立てているなどというその暮らしぶりについてを語り始めた其の間、俺は黙って瞬き、その言葉の意味を噛み砕き、そして淫魔の話が一段落すると、もう一度尋ね直した。
「……失礼。それで肝心の貴方はどうやってその、今まで命を繋いでこられたのだ?」
「あー敬語とかいいよ、別に。僕も使ってないし。……うーんとね、フェルの紹介なんだったらもう知ってるんだと思ってたんだけど……男同士のセックスの仕方って知ってるかな? そのままそれで男の人の精を『食べる』んだけど」
もちろん普通に飲んでもいいんだけどね、と言った淫魔の言葉はどうにか頭に入った。入ったが、俺は動くことができなかった。
魔族に協力してもらうにあたり、協力的な者に対してはそこそこの便宜を図ることになっている。今回のように淫魔を相手にする場合は姦通するわけだが、黒騎士はその役目のために、聖教会の教えに背くような行為も一応は許されている。いや、厳密には許されていないが、騎士を名乗ることや、聖教会の教徒であることを許されているというわけだ。黒騎士として動くためにその訓練もした。具体的に言ってしまえば賭博、飲酒、自慰の経験がある。それぞれ、恐ろしくなるほどの金額の遣り取りや、量、時間で、それらは『度を越えた』範囲に及ぶものだ。
しかし。しかしだ。どんなに状況が許そうと、この国で男同士が交わることが許容されていようと、俺が、俺自身が男と姦通することになるなんて誰が思う?
淫魔の喜ぶものは男の精だ。だから黒騎士は今まではそれを対価としてサンプルを頂いてきたという。淫魔は人の言葉を解すし、相手の好みの姿に化けられるため、密かに黒騎士の間では人気が高い。俺も経験こそないがもしそうなったら……などと想像したことくらいはある。しかし目の前の淫魔は女にはなれないという。
俺は盛大に迷った。心の内を見透かす魔族を前にしながら、だ。
「……あの? 僕、無理やりは嫌だから、別に見逃してもらえるならそれでいいけど……」
「いや、それではこちらも困る。飽くまで双方、扱うものは対等でなければ禍根を残すことにも繋がりかねない。どちらかに借りができるようなことは避けたい」
それは本音だ。まさかこんな強力な魔族が人間に害を為さないまま隠れ、生きているとは思ってなかった。今はあどけない少年の姿をしているが、これの気を害せばどうなるか、従える二匹の魔獣よりもっと恐ろしいものを目覚めさせてしまう気がする。
俺がしくじれば大変なことになる、と、予想以上の大物を前に、俺は武器一つ持たない状況で焦った。持っていたところで太刀打ちできるかも微妙なところだが。
「でも……聖騎士さまはこの国のヒトじゃないし、元々僕たちは対立してたわけでしょ? 僕に誑かされたとか言いふらされると困っちゃうし……あ、もちろん気持ち良いいのは約束できるけど……それに、僕が淫魔ってことも、隠してはいないし嘘も付いてはいないけど、ここのヒトたち知らないからね。黙ってて欲しいって言うお願いもしたいから、それでいいんじゃないかな。その分、サンプルとやらはできる限り提出するから」
言われ、俺はひとまず採集したいサンプルのリストを取り出した。
「淫魔からは髪、爪、……血液と皮膚に、それから……精液、を、採集したい。特に精液は男の機能不全不能の改善に使えるから貢献度はかなり高くなる」
「精液って、つまり僕の出すものだよね? 淫魔には子種はないんだけど、そのことは知ってる?」
「フェルディナンド殿に聞いた」
「そっか」
なら話は早いと、淫魔は採集方法を訊ねてきた。俺は道具を出して使い方を説明すると、早速淫魔は髪と爪、そして口内から皮膚を手渡してくれた。こんなにあっさりでいいのかと思うほどだった。
血は痛いのは嫌なんだけどと困ったように言われ、無理は言わなかった。が、注射器を見せて、これが専用の道具であるというと、恐る恐るながら腕を出してくれた。丁寧に血管を探し、二の腕を締めて採血を行う。針を刺す時、刺さっている間は泣きそうな顔をしていて、少年の姿ということもあって俺も随分気が咎めたが、終わるとすぐに舐めていた。魔族の領域……己の『巣』の中なので治癒は早いのだと言われたが、確かにものの数分で傷は塞がっていて驚かされた。やはり勝てる気がしない。
「あとは精液だけど……えっと、目の前でやった方がいいの?」
「あ、ああ。一応立ち会うことにはなっている」
「見られるのはいいんだけど……もし騎士のお兄さんがその気になったら、精液、貰ってもいい? それはダメ?」
可愛らしく頬を染める姿に反し、口にしている内容はとんでもない。だがまあ、飲ませるくらいはと思えたのはフェルディナンドの手を耐えていたおかげなのだろうか。
俺の返答は予想以上だったらしく、淫魔は顔を綻ばせた。内容が内容でなければ微笑ましいのだが。
口淫や手淫であればまだ、というのは、その、つまるところこの淫魔が少女もかくやというほど美しく、性器の露出さえなければ男とは思えないということも大きい。ただ、精液採集に関しては本当にそこから出たものだということは確認しなければならないというのが悩ましいところだ。
「ん……じゃあシロとセンリは出て」
淫魔は嫌そうに唸る二匹を宥めすかし、部屋から出した。立派な座敷は二匹が庭へ出て行くと途端に広く感じられ、俺は無意識に詰めていた息を吐いた。
「ごめんね、緊張したでしょう。あの子たち僕よりずっと立派になっちゃって。拾った時は可愛かったのになあ」
淫魔はころころと笑いながら、俺が採集用の容器を手渡すと、それを受け取った。対魔族の体液用にと作られたそれは、該当するものが容器の内側に触れている状態で封をすると、そのものの時を止めるというものだ。いわば封印術の応用である。採血の注射器にも同じギミックが仕込まれている。
淫魔の体液には催淫効果があることは分かっているため、血液と同じくらいは欲しいと伝えると、淫魔は少し困った風に笑った。
「……一人で淡々とそれだけの精を出すっていうのも興が削がれるなあ。やっぱり二匹に手伝ってもらってもいい?」
「それは……むう、仕方が無いな」
手伝えと言われるよりはまあいいかと頷くと、淫魔はのんびりと二匹を呼び戻した。時間差もなく部屋に飛び込んできた二匹はおそらく、すぐそこで有事に備えて潜んでいたのだろう。迂闊なことを言わなくてよかったと心底思った。
「あのね、結構な量が要るみたいだから、手伝ってもらおうと思って」
淫魔の言葉に応えるように、二匹の体が煙に包まれる。それが掃けたと思うと、そこには二人の男が立っていた。
「は……?」
理解が追いつかず、まじまじとその二人を眺める。一人は普通……と言っていいのだろうか、快活そうな男で、一人は陰気そうな長髪をそっと、うなじでまとめただけの線の細い男だった。それぞれは俺を見やると、先ほどの魔獣だと名乗った。
「……?! 申し訳ない、少し……驚いている」
「あはは、まあそうなっちゃうよね。人に化けるし言葉も話せるし。二人は僕と違って、変化できるのはこの姿だけだけど」
淫魔はと言えば平然として、二人の男を手招いた。
「よろしくね」
「あいわかった。これに満ちるまででいいんだな」
「へー、十回くらいか? ああでも、後ろこすってればすぐっぽいな」
「そうだね、あんまり前こすっても痛いしね……」
淫魔はなにかを思い出したのか虚ろな目をしたが、すぐに気を取り直すとおもむろに俺の前で着物を脱ぎ始めた。なんの前触れもなかったためどきりとしたが、確かにそこには男のものがぶら下がっていて、淫魔は俺に向かって足を開いて見せた。
「じゃあやってみるね」
とそんなことを言いながら、精液用の容器を片手に、乳首を触り出す。
途端、纏う空気が変わった。そっと乳首を指先でこね回し、その淡く色づく小さく穏やかな丘陵が硬く、その姿を現す。
「んぅ……」
俺の視線が気になるのか、淫魔の頬もまた桃色へ変わっていた。恥じらうように顔を僅かに背け、目を伏せている。睫毛は頼りなく震え、見兼ねたのか、センリと呼ばれていた方の魔獣がその唇に口付けた。
「んん、……あっ……」
淫魔は必死に舌を絡め、丁寧なセンリの口づけに応える。それは姿のせいだろうか、享楽的とは程遠く健気に思え、嫌悪は湧かなかった。
そんな様子に、シロという魔獣も手を出した。淫魔のいじっていた胸の実を横取りすると、もう一方のそれまでを手玉に取り、殊更に優しく、慈しむように弄り始めた。俺に見えるようにという配慮なのか、シロは淫魔を後ろから抱きしめるような形で寄り添い、その耳にそっと唇を近づけ、唇で挟むようにしてその耳介を食んでいた。
「ふぁ……あん……っ」
淫魔は空いた右手を股間へ伸ばした。薄く柔らかそうな茂みの中から目的のものをそっと掴み取り、その細くなめらかな指先で緩やかに性器を撫でる。魔獣に助けられてか、それは直ぐに腫れ上がり、少女のような顔をしているのが嘘のように思えるほど雄々しいものへと形を変えた。そして淫魔は硬くなったその先端へと容器を取り付ける。その直前、これでいいのかと伺うように淫魔が俺の方を向いた。俺はぞわりと股間が騒いだが、素知らぬ振りをして一つ頷きを返した。気持ちはわかるが、悦楽に浸ったその顔のまま見つめてくるのはやめて欲しい。うっかりとしそうだった。麗しいとはいえ少年に対してそうなる自分が、まだ信じられなかった。
「ん、……んん、……はぁ……あ、あっ……」
センリからはひたすら愛撫と口づけを、シロからは胸と耳を責められながら、淫魔は性器の細い口の中に容器の口の先端をそっと差し込んだ。注射器ほどのものなのだが、針と違い、先端部以外は管のように柔らかくなっているものだ。それを差し込み、その管自体を抜き差ししながら外も擦り、淫魔は素直に快感を追いかけていた。徐々に魔獣の手が早まり、激しいものへと変わっていく。淫魔の声はそれにつれて高くなり、少女と変わらない喘ぎ声が漏れ始めた。
センリとシロがそれぞれ淫魔の足を開かせたままで固定し、内腿を撫でる。淫魔を挟むようにして左右それぞれを受け持ち、その刺激に助けられながら、終わりを求めて淫魔の手が性器を必死にしごいていた。
「あ、……あっ! イく、イくぅ……!」
そして、大の男に挟まれた淫魔の小柄な体躯が何かを踏ん張るように強張り、その腹筋がわなないた。宣言通り、容器の中へじわじわと白いものが垂れて行く。満ちるにはまだ遠く、それでも淫魔は出した心地の良さにうっとりと顔を緩めた。
「はぁ……ん……こんな感じで、いいんだよね?」
胸の実を構い続ける二本の手を取って、足を開かされた格好のまま淫魔が俺に尋ねてきた。そうだ、と答えると、嬉しそうにはにかみ、頑張る、と健気に言う。それに構わず淫魔を持ち上げたのは魔獣たちで、淫魔の下から手を伸ばして、その肛門に指を入れた。
「っ」
「あんっ」
流石にぎょっとして大丈夫かと声を掛けると、淫魔は必死に頭を縦に振って見せた。
「心配すんなって。俺たちがゴシュジンサマを傷つけるような真似するわけねえ」
「その通りだ。貴殿はそこでそのまま目で楽しまれればよい」
楽しんでいるという事実はないわけだが、否定するのも空気が台無しになるため文句は飲み込む。
肛門に指を入れるなど辛くないのだろうかと思ったが、淫魔というものは肛門さえ精を受ける口に過ぎないのだと本人の口から言われた。そのあと直ぐに指でかき回されるそこから、卑猥な水音が響き始めた。
「ああん……っ、いい、入り口、きもちいいっ……」
蕩けそうな声は最早女そのもののようだ。淫魔は半端な姿勢にもかかわらず腰をくねらせて悶えていた。その割りに、触られてないからなのか、性器の方は一度吐き出したことで芯を失い、頼りない。
女にも等しい声にちくちくと性欲を刺激され、それに耐えていると、淫魔はいやらしく腰を動かして魔獣を見た。センリの方だ。
「もうっ……れてぇ……おっきいの……欲しいっ、奥まで、無茶苦茶にして……!」
どんな淫売かと思うようなことを口にして、センリのものをねだる。センリはと言えばにんまりと笑い、それに応えようとしていた。淫魔を四つん這いにさせ、頭を俺に向けた状態で、肥大した性器を少年の淫魔の、先ほどまで指を入れていた肛門へとあてがう。その先が入ったからなのか淫魔は悲鳴を上げたが、それが痛みからではなく、強い快感からのものであることはすぐに分かった。膝立ちになってセンリに両腕を引かれ、俺に胸を突き出すような体勢になった淫魔の顔は泣きそうで、口からはよだれと嬌声を垂れ流していた。
「あああああんっ……」
センリに腕を引かれ、肛門に性器を突き立てられ、淫魔が声を上げる。それは鳴くというのに相応しく、センリがゆっくりと腰を動かすと、淫魔の性器についた容器に精液が溜まり始めていた。しとしとと流れて、少しずつながらも確実に満ちてゆくそれ。性器はぴんと伸びているわけでもないのに、肛門でそんなに感じているらいしいのが不思議だった。
淫魔は男に化けている。つまり身体はヒトと同じようなものだろう。人間の男もそのようになるのか、という疑問がよぎった。だからと言って、自分で確認する気は起こらないが。
淫魔はセンリが深くその中に入る度に鳴いた。可愛らしい、と言えばいいのだろうか。少女のような姿をしながら、男の身体で、肛門で快感を得ながら、前からは精液を垂れ流していた。その光景は興奮を超えてどこか遠く、俺は股間に集まる熱を自覚しながらもどこか興奮しきれないでいた。現実味がないからかもしれない。夢を見ているようだった。
「あ、あああん……やぁあああん……も、イきたいいぃ……ひぃ、いいいいん……」
「そうは言ってもな。此度は我が主人の乳が欲しいという話だろう? まだ満杯には遠いぞ」
「だったら後半俺が替わるぜ。暇だし」
ゆるいストロークに悲鳴を上げながら、淫魔は果てたがっているようだった。センリの動きは、言うなれば淫魔の体内を性器でマッサージをするような緩やかさなのだ。シロは容器の先が淫魔の性器から抜けないようにと手で支えていたが、暇だという言葉の通り退屈しているのだろう、淫魔の性器を扱きあげ、強制的に精液を吐かせた。
「やああああああんっ!」
ただでさえのけぞっていた背に力が篭り、淫魔は喉まで反らして痙攣した。それに引きずられたのか、センリが淫魔の手を引きながら呻き声を上げ、腰を淫魔の尻に打ち付けるようにして数度動かし、止まった。終わったらしい。
「くそ……もう少し焦れる楽しみを覚えた方がいいぞ、シロ」
「俺はセンリと違って即物的なんですー」
力なく倒れ伏しそうな淫魔を抱き留めながら、シロが軽口を叩く。センリは男特有の倦怠感があるのか、淫魔の中からゆっくりと性器を抜いた。
「やんっ……」
ずるりとモノが抜ける際に、甘えたような声が漏れる。代わりというようにシロがその愛らしい桃尻を撫でると、淫魔はぷるぷると震えた。顔は俺へ向いたままだから、それが気持ちいいのだということもよくわかった。
「じゃ、今度はあんたの肩、借りるぜ」
「は?」
不意にシロに水を向けられ、完全に部外者のつもりで居た俺は虚を突かれた。
「でもシロ、この人は」
「大丈夫だって。あんたはなーんにもしなくていいから。だって精液出てるか見なきゃなんねーんだろ? だったら後ろから入れるしかねえし、うつ伏せになっても見えなくなるんだからあんたの肩借りるのが一番いいだろ」
それはその通りだ。俺は納得したが、淫魔に本当にそれでいいのかと心細そうな顔で見つめられ言葉に詰まった。いや、詰まったのは胸だ。しかも、股間のものが疼いたことによる。
「……問題はないな。本当に俺はなにもしなくていいんだな?」
「ははは、話が早くて助かるわ」
淫魔はどこか頼りなげにしたものの、シロに担がれて俺の前に来ると、おずおずと俺の肩に手を乗せた。……だから、そういう可愛らしい行動はしないで欲しい。さっきから徐々に、散らせないほどに熱が集中しているのだ。
「えっと……じゃあ、失礼します」
ふと近づいた淫魔から良い香の匂いがし、まだ見ぬ妻となる女性が恥じらいながら俺の上に乗ってくるという夢想さえしそうだった。血が滾っているようだ。俺までもが緊張していた。
「んっ……ああっ」
俺の本当に目の前で、淫魔の顔が快感に歪む。すぐに視線をずらせばシロが意地の悪そうな顔をして俺を見ていたが、俺は平静を装ってそっと、淫魔の股間の容器を注視していた。抜ける気配はなく、しっかりと中へ入っているようだ。俺が支えなくても大丈夫そうだった。
そうして目線を淫魔から逸らせども、声や吐息からは逃れられない。
「はっ……ぁああああんっ……ああんっ、いい、いいよお……」
「ゴシュジンサマこっちも気持ちいいの? まだ浅いところしかこすってないけど」
「そっちもいいの……あん……そこ、前にクるの……」
幼い口調だ。シロもまたセンリほどではないがゆっくりと腰を動かし、淫魔の性器からうまく精液を出させていた。搾り取るだけが出す方法ではないのだと妙に感心する。
よく考えれば、これはいい機会なのではないだろうか。今後淫魔と接触し精液を採集することがないわけではないだろう。その際にスムーズに事を運べるようにしておいた方がいいのでは。
そんなことを考えながら、身悶える淫魔の様子を観察する。
「ああんっ……はあ、はあ……あぅ、あぅうん……」
それにしても手持ち無沙汰というか、非常に居心地が悪い。もの言わぬ台にでもなったかのようだ。
ここに確かにいるのに、いないものとして扱われているようなある種の心細さを覚え、俺はそっと胸の内からハンカチを取り出して、涎を零さないようにと俺に気を使っているらしい淫魔の口元を拭ってやった。
「ふぁ? ……あ」
淫魔は何事かと俺を見上げたが、俺が何をしているのかを知ると、嬉しそうに笑った。
「っ」
喜色溢れるその顔に、本当に俺の性器が立ち上がった気がした。実際は服に遮られているが、窮屈さを感じる。キツい。
自分で自分の首を絞めてしまったことに気づいたのとほとんど同時に、シロの動きが急に早まった。
「っあああああん! あんっ、あっあっあっ、あう、あ、やんっ、しろ、しろっ、やっ、あ、いっちゃうっ、いっちゃうううっ」
淫魔は俺に向けていた笑顔を歪めて俺にしがみつき、叫びながら下肢を震えさせた。しがみつく力は強かったが、それも終わりを迎えると弛緩し、淫魔が床に落ちそうになったのを、先ほどシロがそうしたように、俺が抱きとめた。
「ん……、はぁ。俺終わりな、最後、あんたのそれで締めてくれよ」
シロは俺の股間が盛り上がっているのに気付いていたのか、そんなことを言う。流石に抜かなければ立ち行かなくなった以上口淫の覚悟はしていたが、交わるほどのそれは持てなかった。とはいえ、確かにシロの言うように、容器の中の精液はあと少し規定量に届かない。それに、やはり対価は渡す必要がある。今回のことは黒騎士をやって行く以上は避けられない話でもある。男を抱くことではなく、規律に反することをすることが、だ。
俺がどう返事をしたものか迷っていると、俺の腕の中で快感に死にそうに震えていた淫魔が息を吹き返した。
「シロ、もういいから……そんな風に誘わないの」
「いいじゃん。なんだったら俺とセンリも精液とか毛くらいやるからよ。俺らのゴシュジンさまに突っこんで流し入れるってのが対価でいいし。誠意見せろよ」
「こら、シロ」
淫魔に窘められつつ、シロは淫魔にキスをすると、俺達の採集は後にするとして、今は二人でごゆっくりと俺を挑発するように笑い、面白くなさそうに二人を見やっていたセンリと共に部屋を後にした。
残された俺は、仕方なく淫魔を見下ろす。小さな淫魔は俺をじっと見上げて、不意に笑みを見せた。
「さっきは口拭いてくれてありがとう。嬉しかった」
「いや……」
善意でやったことでもない。俺がそう言う前に、淫魔はそっと俺の股間の膨らみを撫でた。
「お礼じゃないけど……、口で、飲んでもいい? 騎士さまのを口でしながら、最後、僕のもあとちょっとだけ出すね」
上目使いに見られ、ふとまた手が置かれたところが脈打つ。俺は一つ頷くと、ベルトを外して、そこを露出させた。
「わあ……すごい、おっきい」
感嘆する淫魔の表情は明るい。俺はそのまま、背を伸ばした俺の性器を淫魔が咥えこむのを見下ろしていた。
あむ、と言いながら、淫魔は俺の性器の頭を舌で撫で、手でその胴体を擦った。袋を優しく扱い、筋を下から上へと揉み上げる。その手淫と口淫は、今まで自慰に留めていた生活との決別を予感させた。
快感に翻弄され、抵抗する気も起きない程甘く腰が疼き、力が抜けそうになる。
「くっ……は……ぁっ……」
「きもひいい?」
「うあっ……そこ、で……しゃべ、るな」
淫魔が俺のを舐めながら自らのものも弄っているのを見ると、その背徳さに背筋に寒気が駆け上がった。中身が淫魔だと分かってはいても、目に飛び込んでくるのは幼い少年が俺の性器に奉仕する姿だ。確かに姦通こそしていないが、清らかなその姿を『俺が』汚していることがたまらなかった。
「んっ……んぅ、ふっ……ふぁ」
淫魔は懸命に俺の性器を咥えながら、我慢できなかったのか、左手を尻の方へ伸ばした。そして、肛門に指を入れたのだろう。そのままそこで指が動き、淫魔のくぐもった嬌声が俺の性器を刺激した。
性的倒錯にあまりある光景だ。そこにいるのが俺だということに、理性が千切れそうになる。
俺は息を詰め、声を殺しながら近づいてきた果てを感じていたが、性器を咥えながら俺を見上げてくるその眼にどきりとしてしまい、思うよりずっと早くに達してしまっていた。
「あっ……く、!」
「んっ」
腹が震え、強張った股間から快感が走る。それを何度か繰り返し、淫魔にされるがまま精を取られると、俺はようやく深呼吸を繰り返して力を抜いた。
淫魔が丁寧に俺の性器を舐めとり、最後の一滴まで逃すまいとするのを半ば放心しながら眺める。その後顔を上げた淫魔は目を細めて愛らしく笑った。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「……罪悪感がすさまじいな。その姿は幼すぎやしないか」
「そう? でも、もっと年が行くとどう見ても男だからね。それはそれで嫌でしょ?」
言われ、それもそうかと思う。そもそもそうだったなら俺の股間が反応することもなかったかもしれないが。
ままならないなと言いながら、淫魔はまだ達していなかったのか俺の目の前でふるりと震えて射精してみせた。
「……あれ? まだちょっと足りない?」
「……そのようだな。出尽くしたか?」
「まさか! ヒトと一緒にしないでよね」
淫魔は頬を膨らませて、まだもうちょっと出さないといけないのか、と少し渋った様子だった。
「……無理はしなくていい」
「いいよ。これって約束で契約でしょ。そういうの、こっちだってちゃんとしときたいし。ほら、弱いとは言え僕も悪魔だしね」
淫魔はプライドも高いらしい。納得すると同時に、しかし聞き間違いかと思う単語がさらりと漏れ、俺は眉を潜めた。
「弱い……? 貴方ほどの魔族が弱いのであれば他の魔族はどれほどの力を持っているんだ?」
「今の魔族でそんな強いのっていないと思うよ? そもそも魔族って魔王さまもいないし仲間の支援もないのに特攻するほど忠誠心とかないし。フェルも、皆ほそぼそと暮らしてるって言ってたから間違いないよ。僕が弱いっていうのはさ、女に化けられないから。それに化けられる男の年齢も限られてるしね……。淫魔としては致命的でしょ? 騎士さまの国なら育つ前に死んでただろうし」
「産まれた当初はそうかもしれないが、しかし今の貴方は違うだろう。あんな魔獣を二匹も従えるなど」
「そうかなあ。だって元々はあの子たちもただの犬と猫だしねえ。実感ないよ」
自覚がないのか? 淫魔はのらりくらりと話しながらも性器を弄り続け、話を終わらそうとするかのように目を伏せた。あるいは、そんなことなど興味がないのかもしれない。少なくとも、今は。
淫魔の頬は桃のように色づき、小さな唇はしっとりと柔らかそうで、無防備に開かれている。それを眺めていても嫌悪は湧いて来ず、俺は意外と触れられるような気がした。
「俺でよければ手伝おうか」
そして、気づけばそんなことを申し出ていた。そう仕向けられたのかもしれないが、避けられないことでもあることは確かなのだ。黒騎士として生計を立てていくなら早いうちに慣れておくべきことでもある。
淫魔は俺の言葉に俺以上に驚いたようだった。伏せていた目をぱちりと開け、俺を見上げてくる。
「でも……」
「いいんだ。別にあとから騙されたなどと触れ回るつもりはない。これは俺の任務で、仕事だ。それとも俺では貴方を満足させられないか?」
そうであればいい、と思うのと、それでは困る、という思いがせめぎ合う。だが、淫魔はとんでもない、と即座に首を振り、そして更に肌を赤く染めながらはにかんだ。
「その、騎士さまの……おっきくて、さっきからずっとそれを入れられて、中、いっぱい突かれたいって思ってたから……嬉しくて」
熱の篭った吐息を受け、俺の性器もまた熱を持った。淫魔を相手取る時は毎回こんな風なことを言われるのだろうか。黒騎士とはこのような悪魔の囁きに耐え抜き清くあれという、逆に堕落せぬようにと言う規律を一層守り励むものであるのだろうか?
ぐるぐると渦巻く欲望を下腹部に感じながら、それを押さえつけるようにして一度深く呼吸をする。その間に淫魔は脱ぎ捨てた着物を座っていた座布団の上に広げ……おそらくは簡易の寝床なのだろう。その準備をしていた。
それからそっと俺の股間に手を伸ばし、柔らかくなったそれを再び立ち上がらせようと手淫をしてくる。やはりその姿は淫靡で、官能的で、美しく儚げなゆえに、尚一層俺の罪悪感と背徳を引き出させた。もはや彼から与えられる快感がそれらを呼ぶのか、それらが快感と興奮を呼ぶのか分からなかった。
程なくして俺のものは肥大し、普段とは比べられないほど硬く、立ち上がった。
「えっと……じゃあ、さっきシロたちにしてもらったみたいに、僕の中、こすってもらってもいい?」
顔を赤らめ俺の顔と性器を仕切りに見比べて、淫魔は丁度座布団が腰のあたりに来るように仰向けに寝そべった。足を広げ、その慎ましいものに容器を繋げたまま、先程まで蹂躙されていた肛門が俺の前に晒された。
抑えようとしたのは興奮か、それとも緊張をか。俺はもう一度深呼吸をすると、その開かれた足の前に膝をついた。赤く、血管の浮き出た禍々しいそれを、白くなめらかな双丘に隠れるようにして口を開けている小さなそこへとあてがう。先端が包まれ、先に出されたらしい魔獣のものに手伝われるような形で、俺はその中へ身を沈めた。
「ああああっ……!」
俺の肉の剣が淫魔の肉を割き、淫魔はそれを喜んだ。その細い腰を包むように持って固定する俺の腕に手を寄せて、もっと奥へと引き込むように腰をうねらせる。それだけではなく、腹が呼吸と力みと痙攣で大きく動く。平坦な胸についた乳首はしっかりと実となり、食われるのを待っているようだった。淫魔は泣きそうにも、心細そうにも思える表情で俺をじっと見上げて、その全てを俺に曝け出している。――官能的だった。とても。
「……っ」
すぐに達してしまわぬようにと気を張りながら狭い輪のような入り口を抜けると、どこか優しくも思える暖かなものに包まれる。味わうわけではないが、ゆっくりと奥までたどり着くと、淫魔のそこはさらに奥へ引き込もうと俺の性器にしがみついた。
「くぅ……っ!」
「んぁあっ……っ、ふ、ぁ……んっ、あ、そこで、一度腰を引いて……っ」
言われるがまま腰を引き抜く。しかし、俺の動きとは逆へと締まる淫魔の中。そこで生まれる刺激に声が漏れた。
なんとか全てを引き抜くと、掻き出してしまったのか、淫魔の肛門から魔獣の精液と思しき白い汁が垂れていた。蹂躙された証だ。目眩がした。俺の目の前で二度、そして俺で三度目。その前にはもはや数え切れないほど穢されただろうそこは、そんなことは微塵も感じさせないほど慎ましく、しかし男を誘うようにわずかに口を開けている。
ぎゅっと、性器へと熱が装填されていく。
「ん……全部は抜かなくてもいいよ。今度は僕がそこ、っていうから……そこをこすってくれたら、精液が出るからね……ずっと射精してるみたいに気持ちいいの」
だから、来て?
愛らしい姿と愛らしい声で誘われ、俺は一つ頷いてそれに応えた。同じ男の身体であるのに、知らぬことがまだまだある。
息を止めながら再びその中へ押し入る。少しして、淫魔が俺の腕に添えていた手に力を込めた。
「そこっ……それ、今のっ……あっ、ああんっ、そう、それえっ……!」
感覚でしかないが、おそらくは淫魔の睾丸、性器の付け根の内のあたり。そこを俺の先が行き来するのがいいようだった。
実際、淫魔の腹に横たわる容器へは少しずつ流れ出ているようで、俺はそれを見ながら、そして魔獣たちの動きを思い出しながら腰を動かした。
「ひっ、あああああ……っ、はっ、あぅ……あっ……んん、は、あああああああ、ん……」
正直、それは辛いことだった。淫魔の声がたまらなく腰まで響いてくるというのもそうだが、どうすれば快感が生まれるかを分かっていながら、それを自制するというのは難しいことだった。じわりと汗が滲むのは、興奮で身体が熱くなっているというわけではない。
あの魔獣らはこんな焦れる快感さえ楽しげに、あるいはものともせずにいたのかと思うと純粋に尊敬さえしそうだ。相手が主であるからか、それを良くさせようという奉仕の精神が成せることなのか。それとも俺が人間だから、こんなにも心乱されるだけなのか。分からなかった。
そんなことを考えながら荒れる欲望を手懐けようとしていると、不意に淫魔の手が俺の額に伸びてきた。何をするのかと腰を止めたが、淫魔は指先で俺の額の汗を拭っただけだった。
「……ダメ、今はちゃんと……僕のことだけ考えてて……。こういう時に他のこと考えるのは、マナー違反だよ」
考えるにしても相手にそれを覚られてはいけないと諭され、俺はわずかに頷いた。
「気を……悪くさせてしまったなら、謝る……。だが、そうでもしないと……我を、忘れそうなんだ……」
嫌悪がないのも怖い。そう言うと、淫魔は俺の下でくすくす笑った。
「光栄な言葉だね。ありがとう」
機嫌良く笑い、俺の汗を、その指先で丁寧に拭っていく。
「騎士さまたちはそういう教えの中で育ってきたから怖いかもしれないけど、でも、突き詰めれば今こうしているのって、手を握ったり抱きしめたりする『触れ合い』なんだよ。そのこと自体は、怖がることではないでしょ? ヒトは本質的に、なにか生き物の温もりを求めるものだと思うんだ。だから僕にとっては、なにもおかしいことなんてないんだけど。……まあ、騎士さまが怖いっていうのも分からなくはないよ。僕にはよくわからないけど、好きな人とするセックスは何よりも気持ちがいいって聞くよ。好きっていう気持ちが、快感を最大限に引き出すみたい。だから、そんな人と一つになれる喜びを知ったら、こんな風に快感だけを求めることに溺れることもないよ」
笑みを含みながらの言葉は、俺にもよく分からなかった。ただ、目の前の悪魔が悪魔らしかぬことを言っているのはよくわかった。
あるいはそれも狙ってのことかもしれなかったが、考えたところで行き着く先まで読めるわけでもない。
「……悪魔も、誰かを愛するのか」
快感に思考の殆どを占められながら、俺の下で同じように快感を味わう淫魔へ問いかける。淫魔は微睡むような心地よさそうな顔をして応えた。
「僕は誰にも恋はしないよ。でも、あらゆる雄は僕にとって大事な食糧だ。それをありがたく思うくらいの情はあるし、それらを愛でることも自然なことだよ」
俺は曖昧に頷いて、また腰を動かした。淫魔の言葉を咀嚼するのは、なにかよくわからないものが俺の中から現れそうで怖かった。
にもかかわらず、他者の熱によって生まれる快感は確かに自分で手淫するよりも心地よく、そこに心が伴えば、もっと良くなれるという淫魔の言葉が妙に頭の中にこびりついた。
「んっ……あ、はぁんっ……あ、騎士さまの、おっきくて……いっぱいこすれて、きもちい……」
淫魔は俺が腰を動かすと同時に、再び行為に集中した。容器にはそろそろ規定量が溜まる。そのことを告げると、その細い手を俺の腰に伸ばして、淫魔は俺を甘えるように見上げた。
「……じゃあ、奥まで来て? 僕のこと好きにしていいから、いっぱい動いて、中で出して……騎士さまの精液……たくさん注いで、僕に食べさせて……」
俺に向けて囁かれたそれに、俺は心臓を掴まれたようだった。頭の中は淫魔のことしかなくなり、言われるがまま奥へ入りこむ。
「はぅんっ」
俺を受け入れ、そこが生み出す快感に震える姿はいじらしいようにも見え、俺はそのまま奥を突つくように、細かく腰を動かした。
「あ、あう、だめ、それだめえ……っいい、いいの、きもちい、あっ、あっ!」
途端、淫魔の声が泣き出しそうなものになる。肛門はその言葉の通りに俺を締め上げ、俺の精液が欲しいというかのように、俺が吐き出すのを手伝っていた。
「あんっ、やん、だめ、あ、いきそ、いっちゃう」
俺に揺さぶられながら、淫魔は膝を胸へ引き寄せた。露わになる恥部。今更だが、目から受けるその刺激にまた、熱が上がった。
淫魔の足を肩に担ぐようにして、容器には注意を払いつつも中を突き続けると、淫魔のそこが震え始めた。中はうねるように動き、俺も急速に連れて行かれる。
「あ、あ、いく、いく、あ、ああ、あああああ、あ、っあ!」
腰の動きは止めず、淫魔の声がまるで俺が達する合図のように思われ、その時へ向けて欲望がせり上がってくる。
「いく、いくっ……あ、いっ、――!」
淫魔の足が小刻みに痙攣し、中が更に締まった。
「っう……!!」
搾り取られるように我慢のコルクを持って行かれ、俺は淫魔の中で達した。快感が性器の内側で迸り、淫魔の中へと出て行く。俺の腰は自然と揺れ、精液を全て吐き出そうとしていた。
これは、確かに気持ちがいい。堕落への一歩はこの快感なのだと思うと、俺はこれを忘れてはいけないように思った。……いや、忘れようにも忘れられないだろう。そのことを噛み締め、再び飛び出て行った自制心というコルクを心の穴へはめ直した。
しばらくの間、お互い、快感が過ぎるのを待ち、息を整える。俺はゆっくりと淫魔のなかから性器を出し、息を吐いた。
「湯浴みする?」
「ああ、すまないが世話になる」
まだ身体は火照っているのだろう。白い肌を桃色に染めた淫魔は俺の返事に気を良くし、嬉しそうに笑った。世話好きというのも珍しいことだ。曰く、暇に飽いているそうだが、人間に爪弾きにされるのは困るし何がきっかけで殺されるかわからないから出歩くのは怖いなどという理由で引きこもっていることを告げられ、俺はなんとも言えない気持ちになった。淫魔自体に力がなくとも、存分に力の有り余ってる風な魔獣を二匹も連れて何を言うのか。
しかし淫魔はそんな自分の考え方を改めるつもりなどない様子だった。すぐさまその興味は容器の中に満ちた己の精液へと移る。
「それで、これをどうするの?」
「少し貸せ」
俺は淫魔の腰を引き寄せ、管を性器に入れたまま、容器から管が伸びているその部分をクリップで止めた。そして、そこへ重なるように札を貼り、特殊な繊維で編まれた紐で縛る。
「これでいい。管は抜いていいぞ」
「はーい」
従順な様子で、そっと淫魔の性器から管が出てくる。何とも言えない光景だが、淫魔の乱れた姿ほどではなかった。二度も吐き出した後だし、俺も特有の倦怠感を除けば余裕があったのもある。
容器を回収し、礼を言う。すると淫魔は首を横に振って笑った。
「お互い様だよ」
淫魔の案内で湯浴みで身体を清めた俺は、彼の助力を得て人の姿をしていない本来の姿のシロとセンリからあれこれとサンプルを採集することに成功した。一気に三件も集められたのはこの上ない収穫で、俺は心の中で拳を高く振り上げた。
俺の気も僅かながら緩み、ここへ来た当初よりは幾分か和やかな空気になり、改めて彼らからもてなしを受けることになった。出された料理はどれも美味かったが、シロやセンリが狩ってきたというイノシシの肉は特に歯ごたえがあって赤味噌やゴボウ、キノコと良く合った。ここのところ切り詰めた生活をしていた俺にとっては随分な食事だった。
食事が終わる頃には既に夜の帳が降りていて、世話になれる心当たりもない俺は一晩、泊まらせて貰うことになった。……礼としてまた絞られたが、採集の時よりはまだ自分を律することのできた俺に対し、淫魔は少し拗ねたように頬を膨らませた。美味しいけれど、淫魔としては完敗だと言って。
翌朝、俺は早々に淫魔の住まいを後にすることにした。なにかあれば再び黒騎士が派遣されるだろうことを告げるとシロやセンリは嫌そうな顔をしたが、淫魔が嫌がる素振りがなかったので何か言ってくることはなかった。シロの背にしがみつくようにして乗せられた状態で麓まで送られ、礼を述べる。
「……ゴシュジンサマになにかあったら、お前ら絶対に許さないからな」
ふん、と面白くなさそうに鼻を鳴らしたシロはそう言って俺に含ませると、すぐに山を駆け戻ってしまった。俺は視界から消え失せた巨大な魔獣を見送るようにその場に立ち尽くしていたが、山を出ると俺はようやく力を抜いた。
疲れた。猛烈に疲れた。気疲れだ。
淫魔は終始気楽そうにしていたが、力関係としてあそこで一番弱かったのは俺だ。シロもセンリも人の姿をとるようにしていたようだが、それでも魔獣としての姿を知っているだけに気は抜けず、俺は死地から脱したような気分だった。これが娑婆の空気は美味いってやつか。
やっとだと思いながら山を後にする。ここから一番近い聖教会の支部は五日ほどかかる場所にある。俺は麓の村で支度を整え直すと、すぐにそこを後にした。ずっといると、淫魔の言葉が頭の中を巡り、自分が変わってしまいそうで怖かった。
その後俺は今回の手柄を報告して引き継ぎをし、島国の別の場所を巡ることになった。
……までは良かったのだが、代わりに派遣された奴がヘマをして村人に叩き出されたらしく、俺があの淫魔の専属となってしまい、その後長い間村人の信用を得るのに苦心する羽目になる。やはり黒騎士だからこそ規律は守るべきものだと心底思った。
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