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見慣れた景色になるとため息が漏れた。
車から降りて家のドアを開けるとわっと迎えに出てきた家族の姿に、コートやマフラーを外しながら帰宅を告げる。父親まで揃っているところを見るに、シリル様が言っていたように話は既に通っているらしい。
「ルートヴィヒ、おかえりなさい」
「ただいま帰りました」
「兄さん、身体は大丈夫なの?」
「ああ。もう問題ない」
母と妹に言いながら、手の空いているメイドに脱いだ衣類を渡していく。鉄道で三日もしない距離とは言え、身体が強張っているのを感じた。
「ルートヴィヒ! その、電話の内容は……」
「……ああ、本当です」
父が俺の返事にそわそわとしたまま何度も頷いた。
「バーネット家からの手紙を受け取った。返事は……次男殿がよいようにするとあったが……」
「はい。先んじて領地へ向かい、我が家を案内する手筈を整えておくと。これから雪深くなる時期のためご当主様はバーネット領に留まられるそうですが、嫡男のアルバート様が代わりを務められるとのことです」
「そんな話は後でもいい。お前は……」
「あなた」
「ああ、そうだな……ルートヴィヒ、疲れているだろう。温かい紅茶と軽くつまめるものを用意しよう。話は座ってでもできる」
「ありがとうございます」
母を伴って父が談話室へ足を向ける。ついていこうとしたが、ふと動こうとしない、静かな妹が気になった。
「どうした?」
「……私も連れて行ってもらえるのでしょう?」
「ああ。シリル様はそのように言っていたが」
柔らかく広がり、後ろでゆるくまとめられたブルネットの髪を揺らし、妹がはしたなく口角をつり上げる。俺を見上げてくる勝ち気な緑のつり目が、どこか爛々として見えた。
「やっと『シリル様』にお目見えできるのね」
ふつふつとした気持ちを表現するかのように、声は決意に満ちていた。嫌な予感がする。恐らく間違っていない。
「……お淑やかにしろよ」
「するわよ。ええ、しますとも!」
ちっともお淑やかではないが?
ふん、と鼻息荒くやる気をみなぎらせた妹が父達を追いかけて談話室へ滑るように入っていく。
妹はシリル様に対して当たりが強い。俺がシリル様に会って品性方向へ舵を切った余波を受けて口うるさくなったからだ。じゃじゃ馬なので、口うるさく言えば言うほど手がつけられなくなる。それをどうすることもできないから好きにさせなさいと父に宥められたのは……前々回の冬休暇の時だったか。
後で改めて釘を刺したいが、したらしたで逆効果なのだろうと思うとシリル様には合わせたくなかった。先に謝っておくべきだったかも知れない。
談話室のソファに座り、紅茶で身体を温める。チャイを思い出して顔が綻んだのを妹に訝しげに見られたのは仕方がない。結局、俺はシリル様の望むように在りたいのだ。
適当なパティスリーを摘まみつつ、指を組んで忙しなく親指を動かす父が口を開くのを待つ。
「あなた」
「ああ」
見かねた母に穏やかに促されて、父は俺を見た。
「ルートヴィヒ、旅費や日程については後でもかまわんのだ」
「はい」
「どの手紙でも、どの電話でも、私はお前がこの件に関して何を考え、どう思っているのかを知らん。私がまず知っておかねばならんのは、お前の気持ちだと考えているのだが」
随分と優しい言葉が意外だった。
「……帰ってくるまでにシリル様ともそのすりあわせをしました。なにぶん急な話でしたので、合流した後の両家の話し合いで齟齬がでてしまうかもしれませんが……俺は、何を言われてもシリル様の意向に沿います。ですが、家のことを全く考えていないわけでもありません」
「だろうな」
「俺もシリル様も、爵位を賜ることを辞する心づもりです。無論、死んだものとして扱われるのが妥当だと思っております。無論、今まで享受してきた環境を還元するつもりではあります。具体的には、ライアン家嫡男クリシュナ様の手がけられている事業について、シリル様に随伴し与えられた仕事に勤めようかと」
「なるほど」
領地を没収された貴族の領地で、平民から優秀な者を起用して領地を運用させる試み。その一部をクリシュナ様の采配で行っている。シリル様がクリシュナ様に持ちかけた話はこのことだったようだ。そこで人材育成に携われるよう取り計らわれる道があると示された。俺もシリル様も、家の格からすれば落ちる内容だし、中立派としては革新派の懐に飛び込むような真似をするわけだから、逆に爵位はない方がいいとさえ感じる。なんの後ろ盾もない、吹けば飛ぶような身分になるが、死んだことにでもされれば名目上は家に迷惑がかかることもない。
俺の話を聞いた父は鷹揚に頷いた。誰ともなく紅茶を飲み、パティスリーに手を伸ばす。だが、そのせいだろうか、思っていたよりも重苦しい空気にはならなかった。
「兄さんは家を継ぐつもりがないということ?」
「……そうだな。そうなる」
「お互い結婚をして、恋人関係を維持するのではいけないのかしら?」
「そこについては俺の口から言うのは控えます。シリル様から話があるはずです」
「わかった」
現段階でこれ以上話を掘り下げるのは難しいと思ったのだろう。父はソファにもられ、長く息をついた。
「全く、連絡を受けて実際に手紙を受け取って……大変だったんだぞ」
「すみません。俺もその時は意識がなかったので」
「それよ! 兄さん、『シリル様』に怪我をさせられたのでしょう?!」
「違う。滅多なことを言うな」
「だってご本人が電話でそう仰ってたもの!」
「は」
なんだって?
妹は肩を怒らせながらまくし立ててくる。
「兄さんが怪我をして意識を失ったって取り急ぎ連絡があって、目も覚めて身体的な痛み以外大きく怪我もなく頭もはっきりしているって。私に責があるから保健医と共に経過をみて、回復し帰省するその時まで面倒を見て、必ず無事に帰すからって。詳しいことは手紙で送るって言われて、その後きた手紙にも、それはもう事細かに」
「ヴァネッサ」
淑女のしの字もない妹を、母が名前だけで制した。
「事の子細は手紙にきちんと書いてあったから私たちもどういうことがあったのかは知っています。ただ、そこにはあなたの気持ちまでは書いてなかったから、すこしだけ答え合わせをさせて欲しかったのよ。心配したわ」
「すみません」
「ライアン家の方からも手紙があってね。きっとシリル様がクリシュナ様に話をしてくださったからなのでしょうけど、その時のこの人の慌てようったら」
「革新派の重鎮から突然手紙が来たら失神の一度や二度もする」
「あら、意識はあったじゃない?」
「倒れるわけにはいかなかったからな」
どこかぐったりとした様子の父に、それはそれは心労を書けたことが分かる。とは言え、俺も療養の間にシリル様にあれこれととんでもない情報を聞かされて同じ状況になっていた。
「ふふ。バーネット伯爵様のお陰で私たちも思いがけず素敵なお出かけができるのだし、楽しみだわ」
「……お母様、遊びに行くわけではないでしょ?」
「あら。お話以外はそんなようなものよ」
ふふ、と母が笑う。俺は確認するようにこちらを見てくる妹に首を振っておいた。母は肝が据わっているのだ。
女は準備が多いからと、既に旅の支度をし始めていたにもかかわらず遅々として進んでいないことを暴露した母は、その後妹を伴って談話室を出た。父は既に準備を終えているのか、立つ気配がない。
「……本来なら、部屋に軟禁しているところだ」
「そうですね」
俺はこの家の長男だ。普通、爵位や家督は男が継ぐ。そんな立場の人間がある日突然貴族としての責任を放棄すると言い出したら、普通そうする。
「まあしかし、こうも外堀を埋められてしまってはな」
苦笑いをする父に、俺こそ父の心が知りたいと思った。
何も言わなくてもそれが伝わったのか、父は一度俺を見て、パティスリーに手を伸ばし、わざとらしく豪快に食べた。ぱらぱらと食べかすを零しながら、それを紅茶で流し込む。
「バーネット伯爵家やライアン侯爵家だけじゃないぞ。ヴァネッサなんて、「いざとなれば私がこの家を継ぐわ! これからは女の時代ですもの! そうじゃなくても領地なんて持ってないんだから継がなかったところでお父様とお母様さえ生活できるなら私は手に職でもつけるわよ」だそうだ」
「え……」
妹がそんなことを。
「全く、豪快で結構と言えばいいのか、もう少しコナー家を大事にしてくれと言えばいいのか……」
目を瞬かせると、父は柔らかく目を細めた。
「個人的には、ライアン家の試みは非常に興味深いと思っている。話し合いの席であちらがどういう風に話をまとめるつもりなのかは行ってみないと分からないが、結論は急がなくても良いだろう」
「……はい」
「私個人としては、シリル様についてもお前をここまで成長させてくださりありがたいと思っている。昔のお前はなにせやる気がなくて、適当に、それなりに、と向上心の欠片もなかったからな」
「それを言われると何も言えません。今でも、俺がしたいことがあるとするなら、シリル様のお側に居たいと言うことだけですし」
「全く褒められたものではないな」
「はい」
「だが、シリル様のためならなんでもできるのだろう?」
「……そうですね。したいです」
「可能性があって何よりだ」
ぱん、と父が膝を叩く。
「革新派のライアン家のご子息にまで気に入られていると手紙に書いてあったときは驚いたが、お前なりに頑張っているようだな」
「あ、そのことなんですが、父さん」
バンクロフト家に抱き込まれる可能性も一時あったんですよ。
俺がそう言うと、父は綺麗に俺を二度見した後、役者のように口をあんぐりと開けた。
「もっとも非公式ですが。そちらの話は詰められていないので、バーネット家との話し合いが終わってシリル様と足並みを揃えた後、三男のブレア様に確認する予定です」
「お前はいつからそんなに人を誑し込むような男になった? 身体は本当に無事か?」
「心外です」
車から降りて家のドアを開けるとわっと迎えに出てきた家族の姿に、コートやマフラーを外しながら帰宅を告げる。父親まで揃っているところを見るに、シリル様が言っていたように話は既に通っているらしい。
「ルートヴィヒ、おかえりなさい」
「ただいま帰りました」
「兄さん、身体は大丈夫なの?」
「ああ。もう問題ない」
母と妹に言いながら、手の空いているメイドに脱いだ衣類を渡していく。鉄道で三日もしない距離とは言え、身体が強張っているのを感じた。
「ルートヴィヒ! その、電話の内容は……」
「……ああ、本当です」
父が俺の返事にそわそわとしたまま何度も頷いた。
「バーネット家からの手紙を受け取った。返事は……次男殿がよいようにするとあったが……」
「はい。先んじて領地へ向かい、我が家を案内する手筈を整えておくと。これから雪深くなる時期のためご当主様はバーネット領に留まられるそうですが、嫡男のアルバート様が代わりを務められるとのことです」
「そんな話は後でもいい。お前は……」
「あなた」
「ああ、そうだな……ルートヴィヒ、疲れているだろう。温かい紅茶と軽くつまめるものを用意しよう。話は座ってでもできる」
「ありがとうございます」
母を伴って父が談話室へ足を向ける。ついていこうとしたが、ふと動こうとしない、静かな妹が気になった。
「どうした?」
「……私も連れて行ってもらえるのでしょう?」
「ああ。シリル様はそのように言っていたが」
柔らかく広がり、後ろでゆるくまとめられたブルネットの髪を揺らし、妹がはしたなく口角をつり上げる。俺を見上げてくる勝ち気な緑のつり目が、どこか爛々として見えた。
「やっと『シリル様』にお目見えできるのね」
ふつふつとした気持ちを表現するかのように、声は決意に満ちていた。嫌な予感がする。恐らく間違っていない。
「……お淑やかにしろよ」
「するわよ。ええ、しますとも!」
ちっともお淑やかではないが?
ふん、と鼻息荒くやる気をみなぎらせた妹が父達を追いかけて談話室へ滑るように入っていく。
妹はシリル様に対して当たりが強い。俺がシリル様に会って品性方向へ舵を切った余波を受けて口うるさくなったからだ。じゃじゃ馬なので、口うるさく言えば言うほど手がつけられなくなる。それをどうすることもできないから好きにさせなさいと父に宥められたのは……前々回の冬休暇の時だったか。
後で改めて釘を刺したいが、したらしたで逆効果なのだろうと思うとシリル様には合わせたくなかった。先に謝っておくべきだったかも知れない。
談話室のソファに座り、紅茶で身体を温める。チャイを思い出して顔が綻んだのを妹に訝しげに見られたのは仕方がない。結局、俺はシリル様の望むように在りたいのだ。
適当なパティスリーを摘まみつつ、指を組んで忙しなく親指を動かす父が口を開くのを待つ。
「あなた」
「ああ」
見かねた母に穏やかに促されて、父は俺を見た。
「ルートヴィヒ、旅費や日程については後でもかまわんのだ」
「はい」
「どの手紙でも、どの電話でも、私はお前がこの件に関して何を考え、どう思っているのかを知らん。私がまず知っておかねばならんのは、お前の気持ちだと考えているのだが」
随分と優しい言葉が意外だった。
「……帰ってくるまでにシリル様ともそのすりあわせをしました。なにぶん急な話でしたので、合流した後の両家の話し合いで齟齬がでてしまうかもしれませんが……俺は、何を言われてもシリル様の意向に沿います。ですが、家のことを全く考えていないわけでもありません」
「だろうな」
「俺もシリル様も、爵位を賜ることを辞する心づもりです。無論、死んだものとして扱われるのが妥当だと思っております。無論、今まで享受してきた環境を還元するつもりではあります。具体的には、ライアン家嫡男クリシュナ様の手がけられている事業について、シリル様に随伴し与えられた仕事に勤めようかと」
「なるほど」
領地を没収された貴族の領地で、平民から優秀な者を起用して領地を運用させる試み。その一部をクリシュナ様の采配で行っている。シリル様がクリシュナ様に持ちかけた話はこのことだったようだ。そこで人材育成に携われるよう取り計らわれる道があると示された。俺もシリル様も、家の格からすれば落ちる内容だし、中立派としては革新派の懐に飛び込むような真似をするわけだから、逆に爵位はない方がいいとさえ感じる。なんの後ろ盾もない、吹けば飛ぶような身分になるが、死んだことにでもされれば名目上は家に迷惑がかかることもない。
俺の話を聞いた父は鷹揚に頷いた。誰ともなく紅茶を飲み、パティスリーに手を伸ばす。だが、そのせいだろうか、思っていたよりも重苦しい空気にはならなかった。
「兄さんは家を継ぐつもりがないということ?」
「……そうだな。そうなる」
「お互い結婚をして、恋人関係を維持するのではいけないのかしら?」
「そこについては俺の口から言うのは控えます。シリル様から話があるはずです」
「わかった」
現段階でこれ以上話を掘り下げるのは難しいと思ったのだろう。父はソファにもられ、長く息をついた。
「全く、連絡を受けて実際に手紙を受け取って……大変だったんだぞ」
「すみません。俺もその時は意識がなかったので」
「それよ! 兄さん、『シリル様』に怪我をさせられたのでしょう?!」
「違う。滅多なことを言うな」
「だってご本人が電話でそう仰ってたもの!」
「は」
なんだって?
妹は肩を怒らせながらまくし立ててくる。
「兄さんが怪我をして意識を失ったって取り急ぎ連絡があって、目も覚めて身体的な痛み以外大きく怪我もなく頭もはっきりしているって。私に責があるから保健医と共に経過をみて、回復し帰省するその時まで面倒を見て、必ず無事に帰すからって。詳しいことは手紙で送るって言われて、その後きた手紙にも、それはもう事細かに」
「ヴァネッサ」
淑女のしの字もない妹を、母が名前だけで制した。
「事の子細は手紙にきちんと書いてあったから私たちもどういうことがあったのかは知っています。ただ、そこにはあなたの気持ちまでは書いてなかったから、すこしだけ答え合わせをさせて欲しかったのよ。心配したわ」
「すみません」
「ライアン家の方からも手紙があってね。きっとシリル様がクリシュナ様に話をしてくださったからなのでしょうけど、その時のこの人の慌てようったら」
「革新派の重鎮から突然手紙が来たら失神の一度や二度もする」
「あら、意識はあったじゃない?」
「倒れるわけにはいかなかったからな」
どこかぐったりとした様子の父に、それはそれは心労を書けたことが分かる。とは言え、俺も療養の間にシリル様にあれこれととんでもない情報を聞かされて同じ状況になっていた。
「ふふ。バーネット伯爵様のお陰で私たちも思いがけず素敵なお出かけができるのだし、楽しみだわ」
「……お母様、遊びに行くわけではないでしょ?」
「あら。お話以外はそんなようなものよ」
ふふ、と母が笑う。俺は確認するようにこちらを見てくる妹に首を振っておいた。母は肝が据わっているのだ。
女は準備が多いからと、既に旅の支度をし始めていたにもかかわらず遅々として進んでいないことを暴露した母は、その後妹を伴って談話室を出た。父は既に準備を終えているのか、立つ気配がない。
「……本来なら、部屋に軟禁しているところだ」
「そうですね」
俺はこの家の長男だ。普通、爵位や家督は男が継ぐ。そんな立場の人間がある日突然貴族としての責任を放棄すると言い出したら、普通そうする。
「まあしかし、こうも外堀を埋められてしまってはな」
苦笑いをする父に、俺こそ父の心が知りたいと思った。
何も言わなくてもそれが伝わったのか、父は一度俺を見て、パティスリーに手を伸ばし、わざとらしく豪快に食べた。ぱらぱらと食べかすを零しながら、それを紅茶で流し込む。
「バーネット伯爵家やライアン侯爵家だけじゃないぞ。ヴァネッサなんて、「いざとなれば私がこの家を継ぐわ! これからは女の時代ですもの! そうじゃなくても領地なんて持ってないんだから継がなかったところでお父様とお母様さえ生活できるなら私は手に職でもつけるわよ」だそうだ」
「え……」
妹がそんなことを。
「全く、豪快で結構と言えばいいのか、もう少しコナー家を大事にしてくれと言えばいいのか……」
目を瞬かせると、父は柔らかく目を細めた。
「個人的には、ライアン家の試みは非常に興味深いと思っている。話し合いの席であちらがどういう風に話をまとめるつもりなのかは行ってみないと分からないが、結論は急がなくても良いだろう」
「……はい」
「私個人としては、シリル様についてもお前をここまで成長させてくださりありがたいと思っている。昔のお前はなにせやる気がなくて、適当に、それなりに、と向上心の欠片もなかったからな」
「それを言われると何も言えません。今でも、俺がしたいことがあるとするなら、シリル様のお側に居たいと言うことだけですし」
「全く褒められたものではないな」
「はい」
「だが、シリル様のためならなんでもできるのだろう?」
「……そうですね。したいです」
「可能性があって何よりだ」
ぱん、と父が膝を叩く。
「革新派のライアン家のご子息にまで気に入られていると手紙に書いてあったときは驚いたが、お前なりに頑張っているようだな」
「あ、そのことなんですが、父さん」
バンクロフト家に抱き込まれる可能性も一時あったんですよ。
俺がそう言うと、父は綺麗に俺を二度見した後、役者のように口をあんぐりと開けた。
「もっとも非公式ですが。そちらの話は詰められていないので、バーネット家との話し合いが終わってシリル様と足並みを揃えた後、三男のブレア様に確認する予定です」
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