*モブのなかにいる*

宇野 肇

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売る男、買う男

3.

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 カミュに隅々まで撫でられ、揉まれ、舐められた俺は、いい具合に力が抜けていた。時折気持ちいいかと尋ねてくる声に素直に頷いたり、気持ちいいと返事をする。
「夢みたいだ」
 そう言って俺を見る彼の目はぎらぎらとしていて、なのにどこか優しくて、足を開くようにと言われた時はドキドキした。
 軽く曲げた膝裏を支えるために手のひらを差し込む。現れたそこに、カミュの視線が集中した。意図的ではなく、そこにきゅっと力が篭る。誘ったわけじゃなく、思い出したからだ。
「まっ……、魔法、使うから」
 行為毎に綺麗にしているとは言っても、やはり気になる。今日最後になるはずだった時は既に何時間か前のことだ。
 そっと股間を通り過ぎ、カミュの目の前で中指の腹を穴に押し当て、ふっと息を吹きかけるように吐き出す。直接吹きかけられない時はずっとこうしている。
 俺が指先を綺麗にすると、カミュは一つ俺に口づけを落として、サイドテーブルの引き出しから瓶を手にとった。潤滑剤が入っているのだ。こんな部屋に置くくらいだから、当然、質も見合ったものだろう。
 カミュは一度それを手のひらで受け止め、温めてから俺に塗ってくれた。仄かに花のような匂いが鼻先を掠め、伸びのいいその中身が香油だと知る。
 四つん這いになった方がいいかと尋ねると、顔が見たいからそのままでいいと言われた。これもカミュは他の男とは違っていた。俺の顔はまあ、ゲームのアバター通りだからそこそこ整ってはいるが、決して女のそれではない。穴は具合が良くても、顔や胸と言った視覚的な刺激を求められてるわけじゃないのだ。
「柔らかいね。……そのぶん、ここにぷっくりした硬い筋肉があるのがよく分かる」
 下の穴を指の腹で押されて、優しいそれに中が疼く。中のものが出ないようにと締まるそこを、彼はそうやってじっくりと揉みほぐした。輪っかになっているその輪郭をなぞるようにして。――その動作は掘り起こした記憶の、マスターのそれよりももっとずっと丁寧で、愛おしげで。
 そんな風に感じるのは、カミュが乳首や柔らかくなった小さな俺の性器をも楽しそうに触るからだ。その表情は柔らかくて、隅々まで俺を感じようと言わんばかりのそんな様子は、俺の心の柔らかい場所を暖かく包んでくれるようだった。

 物のように扱われてきたわけでは、決してない。
 でも、こんな風に抱かれたこともまた、なかった。

「入れるよ」
 俺と目を合わせ、俺が微かに顎を引いて頷くのを待ったカミュは、ゆっくり、香油に塗れた右手の指先を一本、俺の中に埋めた。
 いつもは自分でやっていることなのに、カミュがすると凄く胸がきゅっとなる。何人も、何度も男を受け入れてきたけど、こんな風になったのは初めてだった。
 まるで女になったみたいだ。それも、好きな男と初めする少女。
 言うなればそんな感じだろうか。カミュのすることに胸の中で甘い痺れが生まれ、切なくそこを締め付ける。
「ぁ……っ」
 微かな声は高く、頭の上の方から抜けて行くようだった。一本くらいなら簡単に入ってしまうくらいには慣れたのに、内壁をその指が擦って行くだけで妙な気分になる。
 カミュは暫く指をゆっくり抜き差ししたり、根元まで押し込んでから時計回りに捻ってみたり、入れる前に散々揉み解したその筋肉を内側から押し広げるようにぐりぐりと回してみたりとあれこれためしていた。幸いと言うべきか、そこに圧がかかると快感を覚えるようになっていた俺は、それに合わせて声を漏らす。
「……無理して声出さなくていいよ? 気持ちいいかどうかは知りたいけど」
 左手で俺の頬をくすぐりながら、カミュが笑う。笑うのは、咎めるつもりはないという意思表示なのだろう。本当に口の端に笑みを乗せたくらいの控えめな表情は、子どもを窘めているようにも見えた。
 演技と言うほど作っているわけじゃないが、かとじっと黙っているというのも気まずいじゃないか。と思うのだけど。
「気持ちいいのは、本当、だから」
 言うと、カミュは少し目を丸くしてから破顔した。
「そう。……無理して出さなくていいけど、抑えなくてもいいから」
 そうして、俺の穴を弄る指が二本へ変わる。出来るだけ力を抜いて受け入れたそれは、一本よりもずっと太くて、それを締め付ける俺の輪を擦る強さも全然違っていた。はっきりと擦れている、と言えばいいのか、気持ちが良い。
 カミュは二本の指を根元まで差し込むと、そのまま指を曲げて中を確かめはじめた。上向きに曲げられた指は少しずつ位置を変え、何かを探しているようで。
 じっと俺を見つめながら指を動かすカミュに何をしているのかと尋ねようとして、不意にそれは訪れた。
「……っあ……」
 ぴく、とそこではっきりと快感が生まれる。カミュの指先が捉えた場所。そこから生まれた快感はじん、と身体に響いた。単純な摩擦よりもずっと重くて、甘くて、柔らかくて、大きい。腰が抜けそうになる。
「ここ、前立腺だね」
 カミュが小さく呟いて、その辺りを優しく押してくる。快感に息が震えた。切なくて、胸まできゅんきゅんとしてしまう。耐え切れずにひくん、と指を締め付けてしまう。カミュが嬉しそうな顔をするから、止められなかった。
「君は乳首は感じる方?」
 言われ、いきなりカミュの左手が右乳首を掠め、俺はそこに走った快感のままぎゅっと指を締めつけ、声を漏らしてしまった。
「い、今感じた……けど」
 普段は余り触れられない。そもそも対面ですること自体あまりないし、女と比べて揉み心地のない胸だから。特別敏感、というわけではないはずだ。
「小さくて可愛いね。……キスも、ここも、僕が全部教えてあげる」
 俺が戸惑っていると、カミュはそう言って中のいいところを二本の指の腹で優しく撫でながら俺の乳首に吸い付いた。左手は右で、口は左。
 最初はむずむずしていたそこも、次第に痺れのようになって、小さく痛み始める。それでもカミュは手を止めてくれなかった。それどころか、寧ろ強く吸われて、摘まれて。
「いっ……!」
 痛い、と言ったつもりなのに、俺の中を探るカミュの指先の辺りは確かに快感を拾っていて、おかしくなりそうだった。触れられてもいないのに俺の性器は再び硬さと熱を持ち始めて、ぴくん、ぴくんと跳ねていた。
「やっ……も、カミュ……っ」
 しつこい、というよりは、じれったい。嫌じゃないけど、恥ずかしい。
 そんな俺の気持ちが届いたのか、カミュは乳首から離れてくれた。でも、それでも胸の二ヶ所はじんじんして、脈打つようだった。それがもどかしくさえあって、今やっと解放されたというのに、もうどうしていいか分からない。
 カミュは一度ゆっくりと右手を引き抜いて、香油を注ぎ足した。シーツも濡れただろうが、今度は三本入ってきてそんなことを考える余裕は直ぐに砕け散った。
 酷くゆっくりと進められる行為は恥ずかしくて、でも大切に扱われて心地が良くて、そして何より気持ちが良かった。
 もう一度深くまでカミュの指が潜り込み、俺の良い場所を小さく撫で、時折押してくる。俺の口よりも先に涎を垂らし始めた俺の先端をカミュの左手が捉えた。
「あんっ」
 いい子いい子と指の先で亀頭を撫でられ、腰がびくりと跳ねた。いや、引っ込んだというのか。
「かわいい」
 吐息と共に囁かれ、胸が、中がきゅんとなる。カミュは俺の茎に口付けながら俺の涎を舌で拭った。
「やぁっ……っく、あ、ん……!」
 中での快感と、良く知った場所に与えられる、今日知ったばかりの快感に翻弄される。特に中で感じる快感は腰を砕いてくるようで、融けそうで。決して鋭くはないのに強くて、甘いのに切なくて。
「だめ、……っ、だめえ……っ」
 ふ、ふ、と息が上がる。演技なんてする余裕はなかった。気持ちのまま、泣きそうな声が出る。
「大丈夫だよ。痛くないよね?」
 カミュの優しい声に、必死で首を縦に振る。でも直ぐにまただめ、と言う言葉が口を突いて出た。
 自分で快感をコントロールできないのだ。このまま触られてたらろれつが回らない位、いろんな場所がとろとろになる気がする。自分が保てなくなる気がする。でも気持ちが良い。気持ちが良いけど、怖い。
 カミュが俺の腹や胸に唇を落としながら、大丈夫だよとしきりに声をかけてくれている。その左手が俺の右手を取ってくれたから、俺はぎゅっと手のひらに来た熱を握り込んだ。
「んぅ、……あ……はぁう……っ」
 すぅ、と何かが走る。中から生じたようにも思えたし、外から入り込んで来たようにも思えた。熱いような冷たいような感覚。快感が強くなって、たまらず声が出た。
「あーっ……あ、あっ……んゃ、やっ……あああ、あ、」
 中で膨らみ、腰全体に響く快感を背負いかねて声を出すのに、出せば出すほど気持ちが良い。でも、我慢することも出来なかった。
 逃げるように、あるいははっきりと掴むために瞼を閉じる。カミュの優しい声が聞こえるけど、何を言っているか拾えない。気持ちよくてそれしか感じられないのに、カミュの声が響くと安心する。
 腰の快感は大きくなり、はっきりと力強さを増して、急にぐっと収縮した。それに波が引くような感覚が合わさり、逃したくない余り腰が揺れ、下腹と足の付け根が震えた。必死に掻き戻すように追いかけたくて腰を、身体を揺らすと、カミュの指が俺の願いを叶えてくれた。
「ああああっ……っん、はあっ、あ、はん、っあ、だめ、あ、だめえっ、へん、だっ……! ぁ、なに、か、くるっ……あっあっだめ、くる、やっ、やあっ、んゃああああっ!」
 いきなりだった。ふっと、『引く』感覚のあと、急に腰で、カミュがついてくるその場所で快感が弾けて身体一面に広がって、掛け抜けて行った。
 あっという間で、何かを取り繕うとか、やり過ごすなんて考える暇さえなかった。
 身体いっぱいに広がった快感は、俺に心地の良さを残してじわじわと広がり、そのまま身体の外へ抜けて行くようだった。カミュの指がそうっと抜かれて、未だぞくぞくする感覚を耐えて目を開くと、柔らかな唇が降ってきた。
「かわいい」
「……俺、……へんじゃ、なかった?」
 びくびく、と少しの刺激で腹や足の付け根が引き攣るように跳ねてしまう。快感の中に突き落とされて、自分がどんな風だったかはっきり思い出せなかった。ただぎゅっとカミュの手を握りしめていた気はする。
「もしかして、こういう風になるのは初めて?」
 はっきりと聞き取れた声に頷くと、カミュはぎゅっと俺を抱き込んだ。
「嬉しいな」
 密着したことで、カミュの股にあるものの存在をはっきりと感じる。服越しにさえ分かるのだ。辛くないかな、とそっとそこを撫でると、カミュは小さく吐息のように声を漏らした。止められはしなかったが、カミュの手が俺のモノに触れて、そこで初めて、俺はさっきので出してなかったことを知った。……あんなに、気持ち良かったのに。
「ねえアルク……入れても、いい?」
 耳に唇を寄せ、その熱ささえも感じ取れるほどの位置でカミュの声が間近に響く。わざわざ聞かなくてもいいのに、と思ったけど、俺はカミュの股間にそっと手を置いて、入れて、と囁いた。自分でも驚くほど甘えるような声が出て、でもそれに何か思うより先に、カミュに口の中を荒らされていた。
「んっ、んぅっ……ふ、ぁ、は」
 鼻息荒く口づけられて、二の腕の辺りが粟立った。嫌だからじゃなくて、興奮して。
 でもカミュが俺に身体を擦り付けてくる分、上手く自分のチノパンを脱げずにいるのを見て笑ってしまった。
「手伝う」
「ありがとう」
 ボタンを外すのも面倒くさいとばかりに荒々しく脱ぎ捨てる様は俺を脱がした時とは一転して男臭く、俺は反対にきちんと、丁寧にベルトを外し、ボタンをはずし、ファスナーを下げた。そこでカミュが下着ごと脱ぎさる。現れた性器は立派なものだったが、それよりなにより、俺と同じくつるつるな状態に驚いた。剃ってるわけじゃなさそうだったから。
「……カミュ、それ」
「後でね」
 後っていつだろう。思ったものの、追いすがるほどこだわりたいものでもなく、俺は口を噤んだ。
 カミュは適当に脱いだ服を蹴散らしてベッドの端に避けると、俺に覆い被さってもう一度唇をぶつけてきた。それを受け止めはするものの応えられるほど巧くはないから、口の端からどちらともつかない唾液が垂れていく。カミュはそれも全部飲みこんで、また俺の乳首に触れた。痛みにも似た快感が走り、軽く身体が竦む。
「あっ! っ、ま、またそこ……?」
「触れば触るほど感度が良くなるからね。……触ってほしかったでしょ?」
 図星を刺され、言葉に詰まった。カミュはふふと笑って、でもそれ以上は何も言わずに先を急いだ。黙って俺の肌に舌を這わせて、下へ向かう。言葉で弄られなかったことは正直安堵したが、今までが酷くゆっくりだった分、その性急さが目に付いた。そして、その息の熱さと擦り付けられるモノに胸が逸った。
 余裕がないのだ。
 思い至り、身体が瞬間的に熱くなる。咄嗟に脳裏をよぎったのは、さっきちらりと見たカミュの大きさと、それが俺の中に入ったらということだった。指でさえ届く快感の原泉。それを、あの太さで容赦なく擦られ、押されてしまったら――……俺はどうなるんだろう。
 ぞくりと、逃げるように背中を這いあがって頭から抜けていったのは期待だったようにも思えた。
 カミュが足を開いた俺の股の間へ身体を収める。目の前で、カミュの反り立った象徴に香油がかかり、密やかな音を立てた。上反りになっているそれが長く見えるのは、遮るものがないからか。それでも結構な数見てきた中でも長い方には入るはずだ。
「怖い?」
 どんな顔をしていたんだろう。カミュは俺を気遣うようにそう声を掛けてきた。訊ねられて、改めてカミュの硬そうなものを目に入れつつ考える。
 怖いんだろうか。いや、カミュの大きさだとか、カミュが怖いわけじゃない。彼から与えられる快感の大きさが測れなくて、それが怖い。どんな風に自分が乱れてしまうのか分からない。そんな博打みたいなことをしたくないんだ。賭けたくない。
「また、変になるから……」
 どう伝えたものかとそれだけを呟くと、カミュは俺の腰を両手で掴んだ。
 力は強くない。覆いかぶさるようにして上半身を突き出してきた彼は唇を突き出して、優しく俺のそれを食んだ。
「そうなってる君が見たいって、言ったよね」
「……いいの?」
「いいよ。っていうか、ごめんね。もう我慢できない」
 低く素早く紡がれた言葉の意味を咀嚼するより早く、その声が含むものに身体が反応していた。そして、カミュの熱い先端が散々弄られた穴へと添えられる。来たるべき感覚に息を飲み、直視することは叶わないものの、他の肌よりも赤く沈んだ色の行方を顎を引いて見守った。
「いくよ」
 押し殺したような声に目線だけを上げて目を合わせ、直ぐに頷く。俺が目を戻すよりも先に、カミュは入ってきた。
「ん、はぁっ……」
 全然違う。
 いままでやられてきたのと同じことをされているはずなのに、感覚がまるでおかしい。擦れて、火花のように飛び散る小さな快感に穴はひくひくとして、上手く飲みこめない。カミュを締め付けてしまう。
 なんとかしたくて大きく息をしようと思うのに、犬みたいに早く、浅くなってしまって上手く行かない。咽喉が引き攣って焦ってしまう。
「んっ……もう少し、力、抜けそう……?」
「ごめっ、あ、……っはぁ……っ、ぁ、あっ……! ああっ!」
 角度を探りながら入ってきたカミュは、熱くて、硬くて、大きかった。一番大きな先端が、俺の中を割って入ってくるのが分かる。そしてそれだけなのに、今までになく快感が強い。
 その上で恐らくさっき指でしこたま嬲られた場所を掠めたようで、俺はふやけたような声を出してしまった。力のない、蕩けきった声。
 本当に自分で出しているのかと思ってしまうほど快楽に落ちたそれは、カミュを煽るには十分だったらしい。
 尻を持ち上げられ、何度か角度を変えながら中を探られる。さっき指で嫌でもどこが感じるのか教えられたせいで、つい快感を拾おうと体が動いた。
「あああっ!」
 ずん、とカミュの太いのが俺のいいところを容赦無く突いてくると同時に、射精感に見舞われた。その快感は種類こそ同じだったものの、指のそれよりもはるかに巨大で、俺の理性を砕くには十分だった。
「はは……アルクのこっち、溢れちゃったね。気持ちよかった?」
「やぁんっ……」
 先走りと言うには確かな量の白濁色を吐き出したそこをくりくりと撫でられて、動かせない腰の代わりにキュッと、後ろを締めてしまった。それも、カミュに動かれるとどうしようもなく弛緩する。
 腰がなくなる。
 そう思ってしまうほど、俺の中を溶かすような快感が響く。指よりずっと長いものがゆっくりと抜き差しされて、入ってくる時も出て行く時もそこを押して行き、あるいは掠めて行く。その度に力が抜けるほどの快感が走って、胸の奥の方まで響いてくるそれが切なくて、泣いてるみたいな喘ぎ声が漏れた。
 声が止まらない。気持ち良くて腰に力が入らなくて、動けない。カミュに太ももの後ろを掴まれているのもあるけど、それでも動かせるはずの膝下はカミュに揺らされるままぶらぶらとして、まともに動かせるのは頭と腕ぐらいだった。それも気持ち良さのあまり動かしたくなくて、結局きちんと動かせている場所といえば目だけだ。
 突き立てられている場所、笑みを引いたカミュの表情が目に入る。少し開いた口からは荒い息が漏れ始めていて、自分が犯されていること、欲情されていることを意識させられた。それに、快感も相俟ってなんとも言えない気持ちになる。……嬉しい、のだろうか。
 俺が胸の疼きと快感にぐずぐずと中を崩されている間にも、徐々に、カミュの腰の動きが早くなった。
 ゆっくりと動かされた分意識してしまっていた体内に侵入する熱。早くなってもどこを擦られているのか、どこを擦られたら気持ちがいいのか分かってしまう。
 俺はもう、突き立てられるその強さのせいで揺れるタイミングに合わせて、体内で強まる快感を表現するように声を出すしかできなかった。
「あっあっあっああっん、ぁ、かみゅ、ひぅ、んっんっんく、ふっ、うぁっ、はっはっはっ、っあ」
「きもちいい……っ?」
「きもちいいっ、きもちいいいっ」
 口を閉じるなんてできそうにない。だらしなく開けたままの口からは息と、嬌声と、飲み込むのもままならない唾液がこぼれて行く。もうそんなことに構ってられなかった。カミュから与えられる快感はとっくに俺の許容量を越えていて、受け止めきれずに零しているのだから。
 逃げ方も分からず愚直なまでに受け止めて、はみ出した分で溺れそうだ。
「アルクの中、すごくいいよ……っ、暖かくて柔らかくて、でもぎゅって締め付けてくる」
 カミュは一度律動のスピードを落としたものの、全部入った状態で尚もねっとりと腰を押し付けてきた。それだけなのに奥まった場所で、熱い先端が生み出す快感に震えてしまう。
「ふぁあああんっ」
「っは……ほんとかわいい……」
 カミュが俺の足を肩に担ぐ。そして改めて腰をしっかりと固定した。ぼやけた思考の中でも、これから何が来るか分かる。
「……いくよ?」
 それが合図だった。
 がつがつと腰を打ち付けられて、掘られる、という形容が似合うほど中を突かれた。あまりにも過ぎる快感にいやだ、なんて言葉を漏らしたような気がするが、ここまで来てカミュが止まるはずもなく、俺も本当に中断して欲しいわけもなく、俺は尻の奥、カミュはその逞しい象徴で快感の中で果てを求めた。
「んやっああ! も、もあ、おか、おかし、ひっぃあっ」
「なに? 『もっと犯して』?」
「ちが、やああああっ!」
 それまでの優しさが嘘のように思えるほど、カミュは激しかった。はじめは正常位だったはずなのに、途中から片足だけ持ち上げられてそのまま測位になってたり、そこからうつ伏せにされて、上から突き立てられたり。体勢を変えても前立腺はしっかりと狙われて、あの手この手で気持ち良くされた後は対面座位になった。抱っこされて思わず足をついて体重を支えようとしたけど、その前に膝裏を手に引っ掛けられてしまい、全体重をそこに掛けてしまった。
「――っ、ぁ、ふか、いぃ、」
 はくはくと口を開けて、ばかになった呂律でなんとか言葉を紡ぐ。
「気持ちいいでしょ?」
「はぁんっ」
 カミュは冒険者として成功したということは聞いていたが、それを成し得るだけの筋力があるようだった。見た目にはさほど露骨ではないのに、俺を抱えて平然としているのはすごい。おかげで俺はされるがままで、ふにゃふにゃにされていた。
「らめ、おく……あた、て、」
「当てたい」
「ひんっ……」
 カミュは俺の腰を抱きかかえて、ぐりぐりと腰を押し付けてきたが、不意に俺のものに手を伸ばすと、そのまま扱き出した。
「んやっ! なに、あ、やあっ、らめ、すぐイ、ちゃうっ」
「いいよほらイって」
 口走るといっていいほどの早さで返され、俺はもともとギンギンになってたのもあって、奥でカミュを感じながら、あっさりと追い詰められた。
「あ、ふゃん、いく、いくっう! っあ!」
 ぞくぞくとしたものが背中を駆け上がって行く。俺は震えながらイったが、カミュは急に俺を押し倒して腰を引くと、そのまま右手で自分のものを支えて、俺の腹に吐精した。
「っ……は……危なかった」
 どこか安堵したような声に、なんとも言えない気分になった。
 快か不快かなら、後者。でも、憤りのようにも思えるし、寂しさもある。とにかく、さっきまでの熱いくらいの暖かさと心地よさが一気に冷えたのだけは確かだった。
「いやだ……」
「アルク?」
「中で出していいから、もう一回」
 男娼としてのプライドとか、そういうんじゃないけど。どこで出すとか考えられない位、カミュにも夢中になって欲しかった。それは俺にか快楽にか判断しかねたけど、次のカミュの言葉ではっきりした。
「アルク、お金のことなら僕はそういうつもりじゃ……」
 金のことを言われるの、嫌だ。
 もちろん生活のためにやっていることだから対価は払ってもらわなければならない。俺に対してどういうことを求めるのかは客次第だし、中だしは外で出すより少し高い。それは俺に限った話ではないから、外で出す客も多いといえば多い。
 カミュのやってることは何一つ客としておかしいことではないのに、俺は妙に不服だった。……中で出されたいなんて。そんなスキモノみたいなこと、考えたことなかったのに。
「そうじゃない。そうじゃなくて……どうせならもっと、俺のこと全部感じて。カミュも気持ち良くなってよ。俺を好きだって言うんなら今までの相手全部忘れるくらい、……た、種付け、して」
 自分でも何を口走っているのかと思いつつ、浮かんだ言葉を止められなかった。
 恥ずかしくてカミュの顔なんて見れなかった。
 きっとカミュのせいだ。俺のこと好きだなんて言って、優しく抱いたりなんかするから。いつのまにか夢を見ているのは俺の方だったのだ。
 いろんな羞恥から身体が熱くなって、やっぱり前言撤回と開いた口は、カミュによって塞がれた。力強く抱きしめられ、唇を押し付けられる。その舌が俺の唇を舐め、口内を荒らす。ぞくぞくした。
 俺が不出来なせいで殆ど一方的だった口づけが終わる頃には、あっさりと引いたはずの余韻は、カミュのキスだけでまた溢れ出していた。
 おとがいを掴まれ、目線を無理やりに合わせられる。睨むような目なのに、キスのせいで濡れた唇が色っぽくて、寒気にも似た感覚が止まらない。
「……もう絶対、他の男にそういうこと言わせない」
 カミュはそういうと、直ぐに俺にもう一度口付けて、俺の足を割開いた。俺は大人しくそれに従ったが、いつの間にやら復活していたらしい熱に香油を足すカミュを目で追いながら、一つだけ、彼の勘違いを正した。
「こんなこと、普段言わないっての……」
「なにそれ。嬉しくて優しくできないよ?」
 カミュの返事には微かに笑みが乗っていて、それは口元も同じだった。そして、その発言通り、焦らすこともなく欲情の証を俺へ突っ込んだ。
「ああんっ」
 体感としてぐずぐずになっていたそこは、喜んでその猛りを受け入れた。そこから、カミュの熱で身体が熱くなって行く。
「もう一回……ドライで、後ろだけでイくまで擦ってあげる」
 舌なめずりをしたカミュは完全に発情した雄になっていて、俺は奇妙な満足感とこれからくるだろう快感への期待に、ふるりと背中が震えた。
 セックスでこんな風に感じる日が来るなんて思わなかった。
 感覚も気持ちも、身体も。全部、カミュに塗り替えられている。俺という存在が作り変えられているような気がする。

 俺、明日から今までと同じようにやっていけるのかな。

 過ぎった微かな不安さえ、カミュのもたらす温もりの前に溶けて、ほどけて行った。
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