ガドリング・フィールド

猫パンチ三世

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第一章 猫を拾った日

九話 サードスプリット

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 ジーニャの店を後にし、三人は事務所に戻るため帰路についた。大通りをなるべく避け、人通りの少ない道を選んで歩く。

「ジーニャさん、すっごく素敵な人だったね」

 リウは目を輝かせながら、ジーニャとの出来事を語る。優しく美しい彼女に心奪われたのか、鬱陶しいほど饒舌なリウは恋する乙女のように見えた。

「綺麗で……優しくてさ」

「んなわけねえだろ。見ろ、俺の頭をガンガン殴りやがって……そのうちほんとに死んじまうぜ」

 自分の頭を指差しながらリウの意見を否定するバグウェット、殴られた事実だけを見れば気の毒に思えなくも無いが、残念な事に殴られる原因は全て彼にあった。前を歩く二人はその事を知っているため、その言葉にあえて反応しなかった。

「じゃあ後は事務所に戻ってケースを持ったら、そのまま目的地まで案内しますね」

「うん、お願い」

 二人に無視され、若干やさぐれ気味にバグウェットは顔を歪めた。そこからは特に話すでもなく、先ほどの殺人的な甘さのドリンクについて語り合う二人を静かに見ていた。



「くそっ! やってらんねえよ!」

 路地裏でたむろする三人の男たちの一人が、落ちていた缶を蹴とばす。
 憐れにも蹴とばされた缶は、壁に当たり乾いた音を立てる。彼らはアタッシュケースを探している、ローグの部下たちだった。
 部下たちは彼から『金払いのいい仕事を受けた、楽な物探しだ』と聞いた時はたまには楽に金を稼ぐのも悪くない、そう軽く考えていた。
 だが実際は何の特徴も無いアタッシュケースを、この恐ろしく広い街で探すなどという無茶苦茶な依頼だった。

「確かにな、さすがに無理があるぜ」

「さっき連絡入れたら絶対見つけろってローグのやつ大騒ぎしてやがった、ったくムカつく野郎だ」

 彼らは口々にローグに対する不満を吐き出す、朝から捜索に駆り出され彼らの疲労はピークに達していた。三人は今の仕事の事だけでは無く、普段から感じている不満を口々に言い合う。
 ローグの態度が気に入らない、ローグの息が臭い等そのほとんどがローグに対する文句だった。本人がいないのをいい事に、三人は大笑いしながら悪口を言い合った。この事から分かるようにローグの人望は無いに等しい、他のメンバーにローグに対する不満を言ってくれと言えば、全員が言い淀む事なく不満を語ってくれるだろう。

「この仕事が終わったら俺たちで新しく組織を作ろうぜ、もうあいつの下でやってらんねえよ」

「そりゃいいな」

「ならさっさとこんなクソみたいな仕事、終わらせちまおうぜ」

 三人は仕方無く立ち上がりノロノロと歩き出した、不満を吐き出したおかげで足に少し力は戻ったがそれで今の現状を打破できるわけでは無い。
 大通りの方は一通り探したため、三人はそのまま路地裏を探すことにした。だがこんな所にあるわけが無いと諦めている三人は、自分たち以外のグループが早く見付けてくれる事に期待していた。

「うおっ!?」

 男の一人が力無く手に持っていたレーダーが震えた、急いで画面を確認すると三人の前方にある建物に反応がある。男たちは大喜びで走り出し、建物の前まで来た。

「ここだ、間違いねえ」

「どうする? 人もいないみたいだしドアをぶち壊して入っちまうか?」

「待て待て、とりあえず見つけたら必ず連絡を入れろと言ってたぞ」

 鼻息を荒くしながら一人がローグに電話をかける、三人は小さくガッツポーズをしながら仕事の成功を喜び合う。
 謎の万能感と確かな達成感に包まれながら、三人はローグの指示を待った。



 タクシーは事務所に続く路地を少し過ぎた場所で止まり、バグウェットが料金を払うとロックの外れたドアを開けシギたちが車外へ出る。
 
『マタノゴ利用オ待チシテオリマス』

 無機質な機械音が流れた後、無人のタクシーは走り去った。
 本当は徒歩で帰って来るはずだったのだが、シギとリウの二人がどうしてもタクシーで帰りたいと騒ぐので、バグウェットは乗りたくもないタクシーに乗る羽目になってしまった。

 リウは好奇心から、シギは疲労からタクシーに乗ってみたいと言った。
 乗っている間バグウェットは、タクシーに爆弾が仕掛けられていてもおかしくないと肩を震わせていた。今この瞬間にでも車体ごと吹き飛ばされるのではないかという不安が心に居座る、一方のシギは一日の疲れから軽く眠っておりリウに至っては初めて乗ったタクシーにはしゃいでいた。

 彼女は車に乗った事が無いわけでは無い、だが街中で乗った車の窓から見る景色は今まで見た事が無いほど様々な色が見えた。
 フリッシュ・トラベルタに来るときに乗せてもらった車からは見えなかった景色、行き交う人々や街の明かり、それらが次から次へと流れる様は鮮やかにリウの心をざわつかせたのだった。

「さ、事務所に戻りましょう。バグウェットも早く行きますよ」

 いまだ心を少しざわつかせたままのリウと疲れ切った顔をしたバグウェットに声をかけ、シギは先頭を歩き出した。リウがそのすぐ後を追い、バグウェットもおぼつかない足でどうにか歩き出した。

「疲れた……シギ……悪いが酒をしまってコーヒーでも淹れてくれ」

「すいません、お断りします」

 事務所に着いた時、時刻は十九時をまわっていた。
 三人は事務所に入るなり思い思いの場所でだらけ出す、バグウェットは自分のデスク、残りの二人はソファーに体を投げ出した。全員が動かなければならない事を知っているが、どうにも気分が乗らない。
 
「……だらけてる場合じゃなーい!」

 ソファーに横になっていたリウは、自らを奮い立たせるように跳ね起きた。こんな事をしている場合ではない、彼女には愛する父親から頼まれた仕事がある。
 それを終えるためには、今すぐにでも二人にメモの場所まで案内してもらわなければならない、ソファーでこのまま寝てしまいたいという誘惑があったとしてもだ。

「案内してよ、仕事でしょ!」

 椅子の上でだらけ切っていたバグウェットの胸倉を掴み、勢いよく前後に振る。こうでもしなければ彼が動かない事を、彼女は感覚的に理解していた。

「やめ……おい……やめ……」

 頭を勢いよく振られているため、言葉もまともに喋れない。それがふざけているように見えたのか、彼女の腕に力が入り勢いはさらに増した。
 
「やめろってんだろ! 俺はロックシンガーか!?」

「わけわかんないこと言わないでよ!!」

 あまりに強く揺さぶられ、少し気分が悪くなったバグウェットは若干キレ気味だった。頭を揺さぶられた事に加え、疲労からか彼のセリフにはキレが無い。
 そしてリウもまたロックシンガーといった言葉の意味をよく理解しておらず、とりあえず悪口として受け取ったため二人の雰囲気はまたしても悪くなった

 本来であればシギが呆れ顔で仲裁に入るところだが、今の彼に二人の間に割って入るだけの気力は無い。ただ時間の流れが解決してくれる事を願い、彼は静かに目を閉じようとしていた。

 そんな混沌とした空気を切り裂くように呼び鈴が鳴る、その場にいた誰もがドアの方を見た。空気が一瞬にして張り詰める、こんな時間にこの事務所を訪れる者は少ない、だがリウ以外の二人は分かっていた。
 厄介な客が来たと。

 バグウェットの視線を受け取り小さく頷くと、シギはゆっくりと扉の方へ向かう。
 リウが何が何だか分からず立ち尽くしていると、バグウェットにちょうど机に隠れるような体勢にさせられた。
 しゃがんだまま机の脇から顔を少し出してリウは様子を伺う、バグウェットはコートの内側に手を入れいつでも銃が抜ける状態で来訪者を待ち受けていた。

 シギの手がドアノブにかかり、バグウェットと目を合わせお互いに頷きあってから思い切りドアを開けた。
 バグウェットは銃を入り口に向けて構え、攻撃に備えた。いきなり銃弾を撃ち込まれるかはたまた手榴弾でも投げ込まれるかと身構えたが、その予想はどちらも外れた。

「夜分に申し訳ない、ここに女の子は来ていないだろうか?」

 両手を上げた恰幅のいい男がそこにいた、見るからに高そうな紺色のスーツを着ており、鼻の下のちょび髭は無駄に丁寧に整えられている。
 整髪料で固めた黒髪は光沢を放っており、それと同じくらい磨かれた革の靴も輝きを放っていた。

「その質問の前にまず名乗られるのが常識かと、どちら様でしょうか?」

 淡々と話すシギ、バグウェットも銃を下ろす様子は無い。男が自身の名を名乗ろうとした時、リウが机の陰から飛び出した。

「パパ!?」

 その声はひときわ大きく部屋に響いた。




「どうぞ」

「ああすまないね、どうぞお構いなく」

 シギがコーヒーを男の前に置く、棚の奥からどうにか引っ張り出した来客用のカップは新品のようだった。
 人数分のコーヒーを用意しシギはソファーに座る、隣のバグウェットは見かけはいつもと変わらない様子でコーヒーを飲みながら、目の前に座るリウと彼女がパパと呼ぶ男を見ていた。

「彼がシギ君、そっちがバグウェット、今日一日お世話になったの」

 なぜ自分だけ呼び捨てなのかをリウに問い詰めたい所だったが、バグウェットはそれよりも先に言わなければならない事があった。

「さっきは悪かったな、物騒な場所なもんで」

「お気になさらず、そういった心構えでなくては何かと大変でしょうから」

 バグウェットの謝罪を男は素直に受け取る、人の良さそうな笑顔を作る男は余裕ある態度を崩さなかった。

「申し遅れました、私こういう者でして……名刺は紙タイプでよろしいでしょうか?」

「ああ」

 男は胸ポケットから名刺を取り出し、バグウェットの前に差し出す。この時代で紙の名刺を使う人間は少ない、本来ならばデジタルタイプの名刺を使う所だったが男はバグウェットが腕に情報端末を着けていないのを見て、紙の名刺が良いかと尋ねたのだ。

 バグウェットは渡された名刺を受け取り、目を通す。

「ヒェルト孤児院院長ラインズ・トルポットねぇ……なるほどそれでか」

「娘が大変お世話になったようで、本当にありがとうございます」

「いやほんとに手のかかる娘さんで……」

 リウの事を少し愚痴ってやろうと言葉を続けようとしたが、彼女に見た事も無いような形相で睨まれたためバグウェットは口をつぐんだ。

「しかしよくここにいるって分かったな、この街の広さじゃ人探しだって楽じゃなかっただろう?」

 フリッシュ・トラベルタの人口は五千万人を超える、その中から一人の人間を探すのは並大抵の事ではない。
 ましてやこんな路地裏にある事務所にいれば尚の事だろう。

「私の友人がこの辺りに住んでまして、似たような少女を見たと連絡をくれたんです」

 ラインズは運が良かったと語る、もし彼がいなければリウの事を見つける事は出来なかったらしい。

「今ちょうどメモの場所に連れて行こうかと思っていたんだが」

「本当はメモの場所で合流する予定だったのですが、立て込んでいた仕事に区切りが付いたものですから。こうして迎えに来たというわけです」

 シギは何も言わずバグウェットの隣でコーヒーを飲む、彼は目の前にいる男からどことなく懐かしい空気を感じていた。
 いかにもな良い人だなと、少し冷ややかな目でラインズを見る。

「しっかしあんたも酷い親父だな、こんなガキにグランヘーロから一人でおつかいに来させるとはよ」

 嫌味っぽい言葉を吐きながらバグウェットは足を組む、彼は言葉だけではなく動きですら嫌味っぽく見せていた。

「……返す言葉もありません、全ては私が至らないばかりにこの子に負担をかけてしまって……」

 弱弱しくラインズはうなだれ、悔しさを滲ませる。それを慰めるようにリウが肩に手を置いた。
 そしてバグウェットを鋭く睨みつける。

「パパは私たちを支える為に仕事で忙しいの! そんな風に言わないでよ!」

 それは今日一番の怒りが込められた言葉だった、余りにも剥き出しの敵意にバグウェットは少し驚いたがその飄々とした態度を崩す事は無く、その口から謝罪の言葉が出る事も無かった。
 それが気に入らず、彼女は更に怒りをぶつけようとしたがラインズはそれをやめさせた。

「やめなさい、バグウェットさんの言う事はもっともだ。娘がとんだご無礼を……申し訳ない」

「別にいいさ、慣れたからな」

 不服そうに座る彼女の頭を撫でながら、ラインズは優しく微笑む。その笑顔を見せられては不満を内に秘めつつも、リウは何も言えなくなってしまった。

「では申し訳ないが、私達はそろそろ失礼させていただきます。区切りが付いたとはいえ、まだ少し仕事が残っていますので」

 立ち上がったラインズは、足元にあったアタッシュケースを手に取る。それが彼にとってどれだけ大事なのか、それは心配そうにケースを様々な角度から見る様子で分かった。
 彼はリウと同時に事務所を出るつもりだったが、彼女の先に行って待っててほしいとの頼みを受け入れ、大通りに車を止めてある事を伝えると二人に頭を下げ事務所を出て行った。

「道案内はいらねえみたいだな」

「うん」

 リウは今日の礼を言おうと残った、確かに色々あったが彼らに世話になったのは間違いない。もう会えなくなる訳では無いが、それでも今くらいは素直に礼を言おうと彼女は考えていた。
 感謝の言葉を伝えようと、彼女が口を開きかけた瞬間だった。

「悪い事は言わねえ、あいつとはここで別れろ」

「……え?」

 唐突にバグウェットから放たれた言葉にリウの体は固まった。

「何……言ってるの?」

 リウは自分でも驚くほど弱弱しい声を出した事に気付く、喉が渇いて声が出なくなってきている。それほどまでに想像し得なかった言葉だった。

「よく考えてもみろ、いくら仕事が忙しかったからって自分の娘をこんな街に一人で送り出すはずがねえ。この街のやばさを知らねえはずがねえのにだ、知り合いがいるってんなら尚更な」

「だからそれは忙しくて……!」

「それだけじゃねえんだよ、お前の服装が変わってるのに何も言わねえ。怪我してないかとか、お前を気遣う言葉の一つもかけねえ」

「それは……」

 確かにラインズはリウに労いの言葉も、体を気遣う言葉の一つもかけなかった。口では負担をかけたと言いながら、彼女に温かい言葉の一つもかけなかったのだ。

「極めつけはあの野郎、ここに来てからずっとケースばっかり気にしてよ。お前の事なんかろくに見てねえじゃねえか」

「やめて!」

 勢いよく捲し立てるバグウェットを黙らせた彼女の一言は、形容しがたい程に悲痛なものだった。たった三文字の言葉に、怒りや悲しみ、悔しさといった多くの感情が込められている。

「なんでそんな風に言うのよ……パパは……パパはいつだって私の! 私たちの事を思ってくれてるの! そんな風に言わないで!」

 目を潤ませながらリウは抗議する、彼女はバグウェットの言葉をどうにか撤回させたかった。だがそんな彼女を見て、彼の口から出たのはやはり謝罪の言葉などではなく、大きなため息だった。

「それはお前視点の話だろ? 生まれた時からずーっとあいつといて、世の中の事をまともに知らないお前の意見だろうが」

 リウの目からは涙が流れ肩は怒りで震え出した、過去にここまでの怒りを誰かに抱いた事など無い。腹の奥底から熱い何かか噴きあがってくるような怒り、彼女は爪が手の平に食い込んで血が流れ出す寸前まで拳を握りしめていた。

「俺の見た所あいつはろくな奴じゃねえ。このまま一緒に行けば、まず間違いなく酷い目にあうだろうな」

「いい加減に……!」

 あまりの言いようにリウは我慢の限界が来た、今すぐにでも顔を叩いてやろうと詰め寄った時だった。
 バグウェットは軽く左手で机を叩く。机の上にあったカップがぶつかりあい、ちいさく音が鳴った。

「だったら思い出して見ろよ、お前ら孤児院で良い生活できてたのか? 美味いもん食って、好きな服着てあったけえ風呂に入れたのかよ! ああ? どうなんだ!? お前のパパはずいぶんと良い生活してるみてぇだがな!」

 声を荒げたバグウェットにリウは怯えてしまった、そして刹那によぎる院での生活。きょうだいたちと過ごした日々、水をたくさん飲んで空腹を紛らわし、寒さに耐えるためにみんなで寄り添い合った事。
 それを苦しいと感じつつも生きてきた、それが当たり前だと思って生きてきた。だが今日一日を通して彼女は今までの生活を疑い始めてしまっていた。それに気付かないよう、心の奥にその疑問を隠していた。

 もっと美味しい物が食べれるのではないか?
 もっと綺麗な服を着れるのではないか? 
 もっと良い生活を送れるのではないか?

 栄養不足で細くなった弟の腕をさする事も、お腹が減ったと泣く妹を慰める事も必要無くなるのではないか? そんな疑問を抱きながらも彼女はそれを深く考えようとはしなかった、考えたくなかった。

 自分たちの当たり前が、自分たちの今までが壊されてしまうような気がしたからだ。

「うるさい! 私たちの事を何も知らない癖に! あんたなんかに分かるわけないじゃない、パパみたいに優しいわけでもない、たくさんの子供を救ってるわけでも無い、ただビクビク適当に生きてるだけの癖に!」

 大粒の涙を流しながら彼女は事務所を飛び出していった、また大きくため息を吐いたバグウェットはソファーに寄りかかり天井を見上げる。
 するとシギがライターを差し出す、バグウェットは口に煙草を咥え天井を見上げたまま煙草を吸いだした。

「相変わらずですねバグウェット、言い方なんていくらでもあるでしょうに」

「るせえ、他に何て言えばいいんだよ」

 煙を勢いよく天井に向かって吐き出す、煙は宙を少し彷徨い消えていった。一気に人が減った事務所は、静かさと少しばかりの虚無感に包まれている。
 シギは特に何を言うでもなく、コーヒーの残りを口に運んでいた。

「お前なら何て言った?」

「さあ? 何て言ったかは分かりませんけど、バグウェットよりは上手くやるでしょうね」

「……言うじゃねえかクソガキ」

 お互いに小さく笑う、いつもならこのまま軽く食事をしてシャワーを浴び、それぞれやりたい事をしてから眠るはずだ。

「まあ良いんじゃないですか? 道案内の手間も省けたし、元々正式な依頼人でも無かったんですから」

「そうだな、うるせえガキがいなくなって清々したぜ」

 くっくと笑い、ソファーから体を起こしバグウェットはコーヒーを飲む。
 シギの淹れた甘ったるいコーヒーが、嫌に彼の喉を刺激した。

「そう言えば煙草のストック切れかけてましたよ、買ってきた方がいいんじゃないですか?」

「……ああそういやそうだったな、じゃ今から買ってくるわ。なんかいるか?」

「じゃあ何か甘いの買ってきてください、準備してますから」

 バグウェットは煙草のストックを補充するため、出かけることにした。
 外に出るとそこにはいつもと変わらない路地裏の光景がある、バグウェットは大通りに出るとタクシーを拾い、煙草を買いに向かった。
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