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第一話
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寒い日だった。
雪がちらちらと舞う、静かで冷えた夜だった。
私は小脇にカバンを抱えて、夜道を一人歩く。
仕事終わりの疲れた体には、雪の一粒すら重く感じてしまう。
私が向かっている友人のアパートは郊外の、それもかなり端の方にある。
電車を乗り継ぎ、やっとここまでやってきた。
仕事終わりという事もあって、すでに時刻は十一時を回っている。
本来であれば人を尋ねるような時間ではないが、私を家に誘った友人は何時でもいいから来てくれと電話口で頭を下げていた。
そこまでされては断るわけにはいかない、ちょうどよく明日は休みだ。少しくらいの無理はしてやろう。
それにしても辺鄙な所に住んでいるなと、私は辺りを見回した。
コンビニエンスストアなども無く、都市部へのアクセスも悪い。
閑静な住宅街といえば聞こえはいいが、街灯が少なく薄暗い街並みは、私の背筋を気温よりも寒くさせた。
駅から三十分ほど歩き、スマートフォンを何度も見ながら辿り着いたアパートを見て、私は驚きを隠せなかった。
友人が住んでいるらしいアパートは、もうほとんど廃墟のようだった。
街灯に照らされた壁は古ぼけツタが生い茂っており、階段は錆びついて足を乗せたらそのまま崩れてしまいそうだ。
建物全体がどことなく陰気な空気に包まれており、私はここへ来た事を少し後悔した。
とはいえ家に帰る事は時間的にできない、私は仕方なくそのアパートへ近づいた。
ギイギイと鳴る階段を昇りきり、私は二階の角部屋へと向かう。
友人の部屋の他には誰も住んでいないのか、それとも寝ているのかは分からないが明かりは一つも点いていない。
私は友人の住んでいるという、201号室の扉を叩く。
この扉も外見に負けず劣らず年季が入っており、殴りつければ簡単に壊れてしまいそうだ。
私が戸を叩いてから少しして、がちゃりと鍵が開いた。
「久しぶりだな」
扉の向こういた友人を見た時の私の顔は、ひどく滑稽だったに違いない。
自分の中にある驚きを、隠そうとしているが隠せていない珍妙な顔だ。
私もそれを分かっていて、どうにか驚きを隠したかったが無理だった。
それほどまでに、友人の変貌は驚くべきものだったのだ。
彼とは、高校生の時に二度ほど同じクラスになった。
勉強も運動も特別目立つような生徒ではなかったが、気が良く周りからは好かれるようなタイプの人間だった。
私との関係はクラスメイトであり、友人だった。
といっても濃い友人ではない、親友と言うには過ごした時間も思い出も足りない、かといってクラスメイトで終わらせるほど薄い関係でもない。
だから便宜上、彼は私の友人という事になっている。
卒業してからは、連絡先の片隅に名前がかろうじて残っているくらいの関係だった。だがそれでも私の中には、明らかとまではいかなくとも学生時代の彼の姿がある程度は残っている。
当時の彼は確か運動部、そうサッカー部か野球部あたりに所属していた気がする。
健康的で、活発な、よくいる学生だった。
だが今はどうだ。
髪はぼさぼさでまとまりがなく、肌は妙に青白く病的だ。
目元にはクマができており、無精ひげも生えている。
着ているグレーのパジャマは、かなり使い込まれているのか肘の所に穴が開き、所々にほつれも見えた。
友人の姿を一言で表すなら、ホームレスか病人、もしくは引きこもりといった所だろうか。
それほどまでに、私の中の友人と目の前の男はかけ離れてしまっていたのだ。
「どうしたんだ? 早く入れよ」
私は促されるまま部屋に入った。
目の前にいる男が、本当に私の知っている友人なのか。
その確信が得られないままに。
雪がちらちらと舞う、静かで冷えた夜だった。
私は小脇にカバンを抱えて、夜道を一人歩く。
仕事終わりの疲れた体には、雪の一粒すら重く感じてしまう。
私が向かっている友人のアパートは郊外の、それもかなり端の方にある。
電車を乗り継ぎ、やっとここまでやってきた。
仕事終わりという事もあって、すでに時刻は十一時を回っている。
本来であれば人を尋ねるような時間ではないが、私を家に誘った友人は何時でもいいから来てくれと電話口で頭を下げていた。
そこまでされては断るわけにはいかない、ちょうどよく明日は休みだ。少しくらいの無理はしてやろう。
それにしても辺鄙な所に住んでいるなと、私は辺りを見回した。
コンビニエンスストアなども無く、都市部へのアクセスも悪い。
閑静な住宅街といえば聞こえはいいが、街灯が少なく薄暗い街並みは、私の背筋を気温よりも寒くさせた。
駅から三十分ほど歩き、スマートフォンを何度も見ながら辿り着いたアパートを見て、私は驚きを隠せなかった。
友人が住んでいるらしいアパートは、もうほとんど廃墟のようだった。
街灯に照らされた壁は古ぼけツタが生い茂っており、階段は錆びついて足を乗せたらそのまま崩れてしまいそうだ。
建物全体がどことなく陰気な空気に包まれており、私はここへ来た事を少し後悔した。
とはいえ家に帰る事は時間的にできない、私は仕方なくそのアパートへ近づいた。
ギイギイと鳴る階段を昇りきり、私は二階の角部屋へと向かう。
友人の部屋の他には誰も住んでいないのか、それとも寝ているのかは分からないが明かりは一つも点いていない。
私は友人の住んでいるという、201号室の扉を叩く。
この扉も外見に負けず劣らず年季が入っており、殴りつければ簡単に壊れてしまいそうだ。
私が戸を叩いてから少しして、がちゃりと鍵が開いた。
「久しぶりだな」
扉の向こういた友人を見た時の私の顔は、ひどく滑稽だったに違いない。
自分の中にある驚きを、隠そうとしているが隠せていない珍妙な顔だ。
私もそれを分かっていて、どうにか驚きを隠したかったが無理だった。
それほどまでに、友人の変貌は驚くべきものだったのだ。
彼とは、高校生の時に二度ほど同じクラスになった。
勉強も運動も特別目立つような生徒ではなかったが、気が良く周りからは好かれるようなタイプの人間だった。
私との関係はクラスメイトであり、友人だった。
といっても濃い友人ではない、親友と言うには過ごした時間も思い出も足りない、かといってクラスメイトで終わらせるほど薄い関係でもない。
だから便宜上、彼は私の友人という事になっている。
卒業してからは、連絡先の片隅に名前がかろうじて残っているくらいの関係だった。だがそれでも私の中には、明らかとまではいかなくとも学生時代の彼の姿がある程度は残っている。
当時の彼は確か運動部、そうサッカー部か野球部あたりに所属していた気がする。
健康的で、活発な、よくいる学生だった。
だが今はどうだ。
髪はぼさぼさでまとまりがなく、肌は妙に青白く病的だ。
目元にはクマができており、無精ひげも生えている。
着ているグレーのパジャマは、かなり使い込まれているのか肘の所に穴が開き、所々にほつれも見えた。
友人の姿を一言で表すなら、ホームレスか病人、もしくは引きこもりといった所だろうか。
それほどまでに、私の中の友人と目の前の男はかけ離れてしまっていたのだ。
「どうしたんだ? 早く入れよ」
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その確信が得られないままに。
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