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番外編―本編の補完―
森に捨てられた子供<後編>
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素晴らしい。
私は、心の中で拍手をした。
どんな敵をも威圧する強い視線。そして気迫。まさに王妃は生まれながらの『女王閣下』だ。彼女が男に生まれなくて良かったと、本気でそう思った。
上から人を指図するに相応しい風格を持っている。それこそ、その道を塞ぐ者は弱者さえも捻りつぶすだろう。
戦場では、まず出逢いたくない相手だ。もし敵に回っていたとしたら、身震いするほど恐ろしい存在になるだろう。
「この魔封じの腕輪。どうせお前が関わっているんだろ? 吐け」
「魔封じの腕輪――? さて何のことでしょう」
にこにこと微笑んでいると、彼女は怒りで頬を染めた。
――単純な方だ。
「凡人たる私がそんなものを作れるわけがないじゃないですか。過去数千年、誰1人として成し遂げることの出来なかった事です」
そんなものをつくる技術があったら、王妃をとらえるのに苦労しませんよ、と言って笑う私に、彼女は渋い顔を見せた。
これでは納得してくれないらしい。
かといって、このままうやむやにしていたら、またしばらくしたら同じことを言いにくるに違いない。それは心臓に悪い。
間違えると魔法をぶっ放してくる可能性すらある。もしくは毒薬を私の飲物に混入するか。どちらにせよ私は身の危険を感じた。
「じゃあ、ちょっとだけ……、ネタばらしをしましょうか」
「?」
「精霊の剣……、どこにいったと思います?」
「粉々になったのだろう?」
「あの剣には、その名の通り精霊が宿っていました。その精霊からの伝言ですよ。暴力も、ほどほどにして下さいってね。……よほど、好かれていたんですね」
王妃は私を疑いの眼差しで見ている。
まさか出鱈目な話でもしてるのかと思われているのだろうか。
まぁ、今までの経緯からすれば、数えきれないほど彼女を騙してるので、信用がないのはしかたのないことかもしれない。
「まだわかりませんか? その腕輪。金属でしょう?」
「まさか……」
「ええ。精霊の遺言通りに溶かして腕輪にしました。長年、魂が宿ると不思議な力が宿るのでしょう。だから、その腕輪の能力については故意的ではありません。ただ、これも精霊の意思だと思いませんか?……あれ、どうしました?」
「疑って悪かった」
珍しい。
視線は逸らしているが、ちゃんと謝罪した。
これは偉い。
頭を撫でてあげてもいいぐらいだ。
それよりも、扉の向こうでランスロットが、じっとりとした目で私を見ているのが気になる。何かまたよからぬ嫉妬でもしているのだろうか。本当にどうしようもなく可愛い従弟だ。
「大事にしてあげて下さいね。壊したりしたら、精霊が嘆きますよ」
「あ、当たり前だ!」
彼女は慌てたように部屋から去っていった。きっと精霊と話し合うためだろう。
そして扉の向こうにいたランスロットと鉢合わせした。耳をそばだてると、だいたいこんなことをしゃべっていた。
『壊れた剣の代わりをやっと買えたんだ。こればっかりは恋みたいなものだからな』
『ぼ、僕は! 僕はどんな第一印象でした?』
王妃が新しい剣を得たことに気が付いたのは、まぁいいだろう。おそらく彼女の性格からしたら、髪型や服を褒めるよりも嬉しいはずだ。
しかし、なんで物と張り合っているんだ。
あまりにも情けない会話に、ガックリとくる。口ごもる彼女に返答を求めるランスロットが突き飛ばされて尻もちついてるところが見えたんだが、気のせいだと思いたい。
「お尻が痛い」
……気のせいだったらよかったのに。
そんなことを呟きながら、ランスロットは私のところに来た。元々私に用事があったらしい。
「グルスの街は森が再生したっていう噂です。精霊が宿った木もあるらしいけど、いったい誰が手入れをしているのでしょう?」
ランスロットは王妃のこと以外に関しては勘が鋭い。
精霊は弱い生き物であり、手入れのされていない森には棲むことが出来ない。たいていは護り手がいる。
けれども樹齢数百年の大木でないと精霊は木に宿らないといわれている。
もし噂が本当ならば、それは異例のことである。
私は長年、治水という名目で私財を投じ、特定の地域の森の再生だけ熱心に取り組んでいた。けれどもそれは、精霊たちと地元の者以外には誰も知らないことだ。
数日後、女王閣下が、また私のところに殴り込みにきた。どうやら彼女に回した案件が気に食わなかったらしい。
不満気な顔で私を睨みつけた彼女は、私が眺めている物に気が付いたようだ。
「あれ? 珍しい。宰相が宝石を持っているだなんて」
「……、いい色でしょう?」
「似逢いすぎて、なんかムカつく。……何を変な顔をしている?」
「いや、明日は雨かなぁと思いましてね」
「そうなったら、どれだけ良いことか」
デートの約束をさせられた。
彼女の呟きに、私は顔を少しだけ上げた。
「よろしければ、陛下の仕事を増やしましょうか?」
「ほ、ほんとか? どうしたんだ、今日は!」
「そんな日も、あっていいいじゃないですか」
明日はパトリシアさんの誕生日でしたね。どうせ陛下は嫉妬されているのでしょうと、言った。その後、女王閣下は上機嫌で帰っていった。
彼女が出ていった後に、私がニヤリと笑みを深めていたとは知らずに。
「まさか、私のエリスが精霊の剣の核として囚われていただなんて……、思ってもいませんでしかたらね。感謝してますよ、女王閣下」
私は背すじをのばして足を組み、目を細めながら、緑色の大きなエメラルドを撫でた。
私は、心の中で拍手をした。
どんな敵をも威圧する強い視線。そして気迫。まさに王妃は生まれながらの『女王閣下』だ。彼女が男に生まれなくて良かったと、本気でそう思った。
上から人を指図するに相応しい風格を持っている。それこそ、その道を塞ぐ者は弱者さえも捻りつぶすだろう。
戦場では、まず出逢いたくない相手だ。もし敵に回っていたとしたら、身震いするほど恐ろしい存在になるだろう。
「この魔封じの腕輪。どうせお前が関わっているんだろ? 吐け」
「魔封じの腕輪――? さて何のことでしょう」
にこにこと微笑んでいると、彼女は怒りで頬を染めた。
――単純な方だ。
「凡人たる私がそんなものを作れるわけがないじゃないですか。過去数千年、誰1人として成し遂げることの出来なかった事です」
そんなものをつくる技術があったら、王妃をとらえるのに苦労しませんよ、と言って笑う私に、彼女は渋い顔を見せた。
これでは納得してくれないらしい。
かといって、このままうやむやにしていたら、またしばらくしたら同じことを言いにくるに違いない。それは心臓に悪い。
間違えると魔法をぶっ放してくる可能性すらある。もしくは毒薬を私の飲物に混入するか。どちらにせよ私は身の危険を感じた。
「じゃあ、ちょっとだけ……、ネタばらしをしましょうか」
「?」
「精霊の剣……、どこにいったと思います?」
「粉々になったのだろう?」
「あの剣には、その名の通り精霊が宿っていました。その精霊からの伝言ですよ。暴力も、ほどほどにして下さいってね。……よほど、好かれていたんですね」
王妃は私を疑いの眼差しで見ている。
まさか出鱈目な話でもしてるのかと思われているのだろうか。
まぁ、今までの経緯からすれば、数えきれないほど彼女を騙してるので、信用がないのはしかたのないことかもしれない。
「まだわかりませんか? その腕輪。金属でしょう?」
「まさか……」
「ええ。精霊の遺言通りに溶かして腕輪にしました。長年、魂が宿ると不思議な力が宿るのでしょう。だから、その腕輪の能力については故意的ではありません。ただ、これも精霊の意思だと思いませんか?……あれ、どうしました?」
「疑って悪かった」
珍しい。
視線は逸らしているが、ちゃんと謝罪した。
これは偉い。
頭を撫でてあげてもいいぐらいだ。
それよりも、扉の向こうでランスロットが、じっとりとした目で私を見ているのが気になる。何かまたよからぬ嫉妬でもしているのだろうか。本当にどうしようもなく可愛い従弟だ。
「大事にしてあげて下さいね。壊したりしたら、精霊が嘆きますよ」
「あ、当たり前だ!」
彼女は慌てたように部屋から去っていった。きっと精霊と話し合うためだろう。
そして扉の向こうにいたランスロットと鉢合わせした。耳をそばだてると、だいたいこんなことをしゃべっていた。
『壊れた剣の代わりをやっと買えたんだ。こればっかりは恋みたいなものだからな』
『ぼ、僕は! 僕はどんな第一印象でした?』
王妃が新しい剣を得たことに気が付いたのは、まぁいいだろう。おそらく彼女の性格からしたら、髪型や服を褒めるよりも嬉しいはずだ。
しかし、なんで物と張り合っているんだ。
あまりにも情けない会話に、ガックリとくる。口ごもる彼女に返答を求めるランスロットが突き飛ばされて尻もちついてるところが見えたんだが、気のせいだと思いたい。
「お尻が痛い」
……気のせいだったらよかったのに。
そんなことを呟きながら、ランスロットは私のところに来た。元々私に用事があったらしい。
「グルスの街は森が再生したっていう噂です。精霊が宿った木もあるらしいけど、いったい誰が手入れをしているのでしょう?」
ランスロットは王妃のこと以外に関しては勘が鋭い。
精霊は弱い生き物であり、手入れのされていない森には棲むことが出来ない。たいていは護り手がいる。
けれども樹齢数百年の大木でないと精霊は木に宿らないといわれている。
もし噂が本当ならば、それは異例のことである。
私は長年、治水という名目で私財を投じ、特定の地域の森の再生だけ熱心に取り組んでいた。けれどもそれは、精霊たちと地元の者以外には誰も知らないことだ。
数日後、女王閣下が、また私のところに殴り込みにきた。どうやら彼女に回した案件が気に食わなかったらしい。
不満気な顔で私を睨みつけた彼女は、私が眺めている物に気が付いたようだ。
「あれ? 珍しい。宰相が宝石を持っているだなんて」
「……、いい色でしょう?」
「似逢いすぎて、なんかムカつく。……何を変な顔をしている?」
「いや、明日は雨かなぁと思いましてね」
「そうなったら、どれだけ良いことか」
デートの約束をさせられた。
彼女の呟きに、私は顔を少しだけ上げた。
「よろしければ、陛下の仕事を増やしましょうか?」
「ほ、ほんとか? どうしたんだ、今日は!」
「そんな日も、あっていいいじゃないですか」
明日はパトリシアさんの誕生日でしたね。どうせ陛下は嫉妬されているのでしょうと、言った。その後、女王閣下は上機嫌で帰っていった。
彼女が出ていった後に、私がニヤリと笑みを深めていたとは知らずに。
「まさか、私のエリスが精霊の剣の核として囚われていただなんて……、思ってもいませんでしかたらね。感謝してますよ、女王閣下」
私は背すじをのばして足を組み、目を細めながら、緑色の大きなエメラルドを撫でた。
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